AUSメディア・ウォッチ「オーストラリアは人が多すぎる?」

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第28回:オーストラリアは人が多すぎる?

人口密度が1平方キロメートル当たり3人の国で、こんなことが議論になっている。

オーストラリアは人口が増えすぎたのではないか。移民を受け入れすぎではないか。ちょうど良い人口はどのくらいだろう。ビザや国籍、移民政策の議論で必ず出てくる問いだ。

昨年、ビザと国籍に関する変更が発表されたことは記憶に新しい。通称「457ビザ」と呼ばれる就労ビザが廃止され、代わりに今年3月から「テンポラリー・スキル・ショーテージ・ビザ」が導入されることになった。新制度では就労ビザから永住権取得への門が狭まる。また国籍取得要件も厳格化された。

その詳細については昨年6月のコラムに書いたのでここでは触れないが、今回注目したいのはこのような移民政策の背景にある人口の議論だ。

移民による人口増加

人口が社会や生活に及ぼす影響は大きい。日本が良い例だ。日本の総人口は2050年には1億人を割る9,515万人となり、65歳以上の高齢者が40パーセントを占めると推定されている(日本総務省)。年金制度の崩壊、労働力不足、市場の縮小などが問題になることは目に見えている。

一方、オーストラリアは逆の問題を抱える。人口が急増する中、インフラ整備が追いつかず、都市は渋滞し、住宅価格が高騰している。元々水資源が少ない国での水不足も懸念されている。経済協力開発機構(OECD)によると、2012~14年のオーストラリアの人口増加率は41カ国中第3位の高さだ。その理由は2つ。1つは安定した出生率に支えられた自然増加。そして、もう1つが移民。過去5年間、移民による人口増加は年間約20万人だ(ザ・カンバセーション、17年7月4日)。

大きな空、広がる大地、そこにゆったりと住む人びと。そんなイメージのオーストラリアで、人口過多の議論が熱い
大きな空、広がる大地、そこにゆったりと住む人びと。そんなイメージのオーストラリアで、人口過多の議論が熱い

そんなオーストラリアでは、59パーセントの人が移民の受け入れ数が多すぎると感じている(エッセンシャル・リサーチ、16年)。

声を大にしてそれを訴えるのが、家電店で知られるビジネスマンのディック・スミス氏だ。オーストラリアン紙(電子版:同年11月6日)に寄稿したスミス氏は、移民受け入れ数を年間7万人に減らすべきだと主張する。国として明確な人口政策を持つべきだというスミス氏。「各家庭にでさえ人口政策はある。子どもを20人産むことができても、そうはしないでしょう」

経済成長とウェルビーイング

ではオーストラリアに最適な人口はどのくらいなのだろう。それに答えた記事がある。タイトルは「なぜ人口1,500万人がオーストラリアにとって合理的か」。3人の学者がザ・カンバセーション(同年7月11日)に寄稿した。

現在の人口2,450万人(2017年)に対し、1,500万人の方が合理的だとする根拠は「ウェルビーイング(幸せや健康)」にある。人口増加は経済成長をもたらす。しかし、国内総生産(GDP)で測られる経済成長が本当に人を幸せにするのだろうか。

そこで、ウェルビーイングという要素を含めた「真の進歩指標」(GPI)で見てみると、オーストラリアのそれは1974年をピークに、現在では60年代初め以来最低の水準にまで下がっている。GDPは過去26年間不況知らずの好調さを示しているにもかかわらずだ。人が幸せにならないのであれば、一体何のための経済成長だろう。そう考える著者らが出したのが、GPIピーク時の人口1,500万人が最適だという結論だ。

しかし、この記事を直接批判する人もいる。シドニー・モーニング・ヘラルド紙の経済記者、ジェシカ・アーバイン氏だ。

同紙(電子版:同年7月17日)でアーバイン氏は、「全ての社会問題の原因が人口増加にあるというのは言い過ぎだ」と主張。オーストラリアは「急速に高齢化が進む社会」だとしたうえで、若い移民がその財政を支え、また求められる技術も提供しているという。「移民が仕事を奪う」という見方も否定。オーストラリア国立大学の研究で、移民労働者が雇用や賃金に悪い影響を及ぼすという証拠が見つからなかったことを指摘している。オーストラリアは、国内で不足する技術を持つ移民を中心に受け入れているからだ。「人口増加については、その弊害を緩和するためにきちんと計画する必要はある。しかしこのような問題は、逆(人口減少)の問題よりもずっとましだ」

白黒つけがたい人口議論

ドナルド・トランプ米大統領の誕生やEU離脱に象徴される移民排斥の動きが世界で見られる中、ニュージーランドでの動きが興味深い。

昨年10月、同国で37歳の女性首相が誕生した。ジャシンダ・アーダーン新首相は、トランプ氏や欧州の保守派の首脳とは異なり、左寄りとされる労働党の党首だ。移民政策には寛容な立場なのではと思うが、移民受け入れ数の削減を掲げて選出された。削減を主張するのは、人口を増やす前にインフラを整える必要があるからだ。

単純に右派か左派か、白か黒かでは片付けられない人口の問題。国全体を左右する大きな課題でもある。その議論は今年、どう展開されていくのだろう。


オーストラリア・メディア・ウォッチ

クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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