ついに公開、『ゴースト・イン・ザ・シェル』をレビュー

「少佐」役のスカーレット・ヨハンソン。派手なアクション、繊細な心情の描写など大女優の貫禄でキャラクター像を創り上げた

「少佐」役のスカーレット・ヨハンソン。派手なアクション、繊細な心情の描写など大女優の貫禄でキャラクター像を創り上げた

取材・文・写真 植松久隆/Taka Uematsu
写真提供:Paramount Picures

 豪州国内で3月30日に公開された映画『Ghost In the Shell』。制作・配給会社であるパラマウント・ピクチャーズの計らいで、その話題作をブリスベンで行われたスペシャル・プレビュー(29日)で豪州公開に1日だけ先駆けて体験してきた。

 ここでは映画のあらすじなど、ネタバレに繋がる内容は極力触れない。全編に散りばめられた細かいディテールに関して語り始めたら切りがない。主演がなぜ白人のスカーレット・ヨハンソンなのか、舞台設定が近未来の日本のなのにロケ地がなぜ香港なのか……。そんな些事はこの際、脇に置く。というより、この映画を観ていると、そんな些末なことはどうでも良くなる。

 ハッキリ言おう。ルパート・サンダースとそのブレイン達は、ハリウッド版『攻殻機動隊』たる『Ghost In the Shell』の世界観を「これでもか!」とばかりに見せ続ける圧巻のフィルムを創り上げた。

「ハリウッドに撮ってもらって良かった」──偽らざる印象だ。よほど、うがった見方をしない限りは、原作、アニメのコアのファンの多くもそう感じると信じたい。
 今回のプレビューには、邦人の姿もあったので話を聞いた。「『攻殻機動隊』を全然知らなかった」というデイビス祥子さんは、「今まで、映画を見てどんなに気に入っても原作を読もうとか思ったことなんてなかったけど、今回だけは別。こういう世界観を30年近い前に想定していた原作を読んでみたくなった。映画も次回作があるなら絶対に観に行きます!」と興奮気味に語ってくれた。彼女の例でも分かるように、『攻殻』の予備知識が無くても充分に楽しめる今作は”攻殻ワールド”の新たな信奉者を確実に増やすだろう。

 怒涛の本編が終わり、エンドロールが流れ始めた時の満場の観衆のリアクションは、総じてポジティブ。入れ替わり立ち代りで訪れる息を呑むシーンの連続がようやく終わってほっと一息を付きつつ余韻を楽しむ多くの人々の姿があった。筆者の後ろに座っていた男性は終わった瞬間に「Wow」と呟き、長く息を吐いた。振り返ると恍惚感に似た表情を浮かべるコアな「攻殻ファン」と思しき青年だった。

 上映後のロビーに溢れかえった人々は、盛んにポスターやPOPディスプレイなどの「少佐」と記念撮影。映画の出来が悪ければ、こんな行動に出るオーディエンスはまずいない。そう考えれば、彼らのアクションは作品の出来に満足しての行動だと考えて差し支えあるまい。

 これから観る方々へのアドバイス。とにかく「原作、アニメの再現度ばかり気にして、構えて観ることなかれ」。純粋に楽しもうという姿勢で映画館のチェアに腰をうずめ、足を組み、3Dグラスを掛ければ、おのずと引き込まれる。そして、閉演後には『Ghost In the Shell』の「少佐」役は、スカレーット・ヨハンソンの他にはいないと気付くはず。あのアクション、存在感、複雑な心象を表現する演技、様々な要素を鑑みて、他にこの役の務められる女優を思い付かない。

 それにしても、30年近くも前に、このように深遠なコンセプトで原作『攻殻機動隊』を世に問うた士郎正宗の先見性には、今更ながら驚かされる。現在となっては、劇中の諸々はテクノロジーの進歩次第では実現可能に思えるものもあるが、30年前には現実的には実用化すら想像が付かない想像の世界の産物だったことは想像に難くない。そんな日本発の先見性溢れる原作が、ハリウッドの一線級のスペシャリストによって技術の粋を集めて遂に映像化された。それだけでもこの映画の持つ意味は大きい。

 とはいえ、原作/アニメの壮大な世界観を107分に凝縮する作業過程は、決して楽なものではなかった。撮影に関わった俳優・泉原豊が声入れや編集などギリギリまで作業が進んでいたと証言するように、妥協を許さないスタッフはワールド・プレミア直前まで全力を傾注して完パケを仕上げた。
 その結果として、ともすると難解な『攻殻』ワールド特有の思索的なアプローチを残しつつ、予備知識無しでも楽しめるエンターテイメントに昇華させた『Ghost In the Shell』。この作品はハリウッド実写化の歴史にもしっかりと書き込まれるべき畢竟の大作と評価されるべきだ。
 あの壮大な世界観をたった1作で描き切れるはずがない。映像の魔術師ルパード・サンダースが、自らの叡智とセンスを存分に発揮できる『Ghost In the Shell』という素材をそう簡単に手放すわけがない。『Ghost In the Shell』は新たな世界的『攻殻機動隊』ブームの幕開けとなる作品になるであろうと感じている。
 ぜひとも、この映画、大画面、3Dでお楽しみあれ。豪州在住の方には難しいが、少佐の心のヒダが少しずつ開かれていく心象風景を確実に捉える意味では、やはり字幕版の方が理解の助けになる(もちろん、英語力の高低が影響するのは言うまでもない)。日本では、アニメ版の声優による吹き替え版も選べると聞くので、問題はないだろう。
 さぁ、読者の皆さん『Ghost In the Shell』の世界に「侵入〈マインドハック〉開始」だ。

『Ghost In the Shell/ゴースト・イン・ザ・シェル』
日本の原作漫画/アニメ『攻殻機動隊』のハリウッド実写化映画として、2017年3月30日全豪公開、4月7日日本公開。主演スカーレット・ヨハンソン、監督ルパート・サンダース。豪州ベースの俳優・泉原豊もサイト―役でハリウッド本格進出を果たしている。

ハリウッドの最先端のCG技術で独特の世界観が表現されている

ハリウッドの最先端のCG技術で独特の世界観が表現されている

撮影現場で、主演スカーレット・ヨハンソンの演技を演出するルパード・サンダース監督。

撮影現場で、主演スカーレット・ヨハンソンの演技を演出するルパード・サンダース監督。

ブリスベンの試写会上で、上映後に観客が盛んに記念撮影をしていたディスプレイ。

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