編集部イチ押し! 3月の新作映画をチェック

辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじとともに注目の新作を紹介 ! レイティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。

あん
AN
ドラマ/M 3月17日公開予定 満足度★★★★

隊長が観た!

「ジュリ〜〜!」と、沢田研二のポスターの前で悶絶する樹木希林、というか悠木千帆。70年代のドラマ『寺内貫太郎一家』の有名なシーンだが、当時30代だった彼女は見事な老け役を演じ、どちらかと言うとシリアスな役よりコメディー系のイメージの強い女優さんだった。その後も、ドラマで共演した、当時アイドルだった郷ひろみとのデュエット曲『林檎殺人事件』では歌手としても活躍。旦那さんがロックン・ローラーの内田裕也だが、樹木希林も、当時の芸名・悠木千帆をオークションで売ってしまったり、プロデューサーの暴露話を番組の打ち上げで話してしまったり、彼女も内田以上にロックな存在だ。今や大女優の1人だが、このような彼女の生き方は映画以上に面白い。そして、その彼女の主演作が、ついにオーストラリアでも公開。第68回カンヌ国際映画祭に出品され、スタンディング・オベーションが10分以上も続いた河瀬直美監督作品『あん』。

桜が満開のある日、1人の老女がどら焼き屋「どら春」を訪ねてくる。雇われ店長の千太郎に、求人募集の張り紙を指差し働きたいと話す徳江。一度は断ったが、彼女が持参したあんを食べ、そのおいしさに驚き、結局あん作りをお願いすることになる。その徳江のあんが評判になり、店は大繁盛する。そんな中、徳江は常連客の女子中学生ワカナと親しくなる。しかし、あるうわさが広まって、店の客足はぱったりと遠のいてしまう……。

まず驚いたのが、ドラマというよりドキュメンタリーでも見ているような自然な空気感。撮影はスタートもなく、いつしかカメラが回っている状態だったそうで、さらにそれぞれ役に成り切るため、店長の千太郎役の永瀬正敏はどら焼きの技術を習得したり、撮影中は全て役名で呼ばれていたそう。女性監督の河瀬直美は完璧主義で、スタッフはもとより、俳優たちもかなり大変だったようだ。デビュー作の『萌の朱雀』で、すでにカンヌ国際映画祭カメラ・ドールを史上最年少の27歳で受賞し、2007年、第60回カンヌ国際映画祭で『殯(もがり)の森』がグランプリを受賞し、世界が注目する監督の1人である。


原作は、ミュージシャン、詩人など多彩な活躍をしているドリアン助川の同名小説で、テーマ的には世間からまだ偏見が残るハンセン病。もちろんそれも大切なテーマであるが、自分はそれよりも、父親のいない母子家庭のワカナ、独り身の千太郎、そして社会から断絶された徳江、この3人が娘であり、父であり、母であるかのように、疑似家族のようになっていく展開にグッときた。四季の移り変わりや、自然の音とともに、少しずつ寄り添い合ってゆく3人。淡々としているが、心にしっとりとそれぞれの気持ちが届いてくる。その中でも、やはり樹木希林の演技はすごかった。大豆に顔を近付け、大豆の声を聞いている徳江、最後に千太郎とワカナが彼女を訪ねた時の、もうすっかり気力の抜けた表情や目の弱々しい光。年老いてゆく自分の母親の姿にも重なり、やはり泣けた。他にも、『寺内貫太郎一家』から樹木希林と交友のある浅田美代子がいい味を出しているし、家政婦・市原悦子もこれまた絶品。また、食べ物がモチーフになっているが、粒あんはもちろん、どら焼きの皮を焼いているアップで、裏返した時にパフッと皮が膨らむ瞬間なんか、もう絶対、帰りにどら焼き屋に寄って作りたてのどら焼きを食べようと思ってしまうほどだ(無理だけど)。最後に、ワカナを演じる内田伽羅は、樹木希林の娘、内田也哉子と本木雅弘の子どもということで、本当の孫。樹木希林がこの役のオーディションを薦めたが、撮影中は、役柄上1人アパートで暮らして、樹木希林とは撮影以外では一緒になることは少なかったそう。


リズン
RISEN
ドラマ/M 公開中 満足度★★★★

『リズン』は、聖書にも描かれている、キリスト復活の勇壮な物語。この映画では、キリストの復活が、信者ではない者の目を通して語られる。強大な権力を持つローマ軍の司令官であるクラビアスと補佐官のルシアスは、十字架へのはりつけの後の数週間にキリストに何が起きたのか、その謎を探る任務を負う。埋葬した場所にあるはずのキリストの遺体がどこかに消えてしまったのだ。救世主の復活のうわさが間違いであることを証明し、このうわさによって起ころうとしているエルサレムでの暴動を阻止するために遺体を探し回る2人。宗教を素材とした映画ながら、サスペンス・タッチなストーリー展開を味わえる。監督はケビン・レイノルズ。出演は、ジョセフ・ファインズ、トム・フェルトン、ピーター・ファース、ほか。


トランボ
Trumbo
ドラマ/M 公開中 満足度★★★

ハリウッドの偉大な脚本家ダルトン・トランボの物語。1947年に、反アメリカ活動調査委員会の指導の下、映画界のブラックリストに載せられた人物だ。冷戦のピークにあったアメリカで行われた共産主義者の洗い出し、すなわち“赤狩り”の中で、言論の自由への強い信念を持ち、共産主義者と疑わしい友人の名前を挙げろという命令を拒否したトランボは中傷を受けることになる。映画界から追放され、反共コラムニストのヘダ・フーパーとの戦いに引きずり込まれる。たぐいまれなる創造的才能を持つトランボは、追放の間もペンネームを使い脚本を書いた。その中には、『ローマの休日』もあった。また、別の名前で2つのアカデミー賞を受賞した。監督はジェイ・ローチ。出演はブライアン・クランストン、ヘレン・ミレンほか。


サウルの息子
SON OF SAUL
ドラマ/M 2月25日公開予定 満足度★★★★

1944年10月、アウシュビッツ・ビルケナウ収容所。ユダヤ人であるサウル・アウスレンダーは、「ソンダーコマンド」のメンバーである。ソンダーコマンドとは、収容所のユダヤ人捕虜の中から選ばれた者たちのことで、強制的にナチスの大量殺害の手伝いをさせられている。火葬場の1つで働いている時に、サウルは1人の少年の遺体を見つける。それは彼の息子だった。ソンダーコマンドが反乱を計画する状況の中、サウルは非常に困難な作業に着手することを決意する。火の中からその子の遺体を救い出し、会葬の祈りを唱えるために聖職者を探し、きちんと埋葬しようというのだ。監督はラズロ・ネメス。2015年カンヌ映画祭グランプリ、2016年ゴールデン・グローブ賞外国語部門最優秀映画賞受賞。


ゴッズ・オブ・エジプト
Gods of Egypt
アクション・アドベンチャー/CTC 2月25日公開予定 満足度★★★

古代エジプト神話に着想を得た作品。無慈悲な闇の神セト(ジェラルド・バトラー)はエジプトの王座を奪い、かつては平和で繁栄に満ちていた帝国を混沌と混乱に陥らせていた。人類が生き残れるかどうかの崖っぷちにある時、普通の人間に過ぎないベック(ブレントン・スウェイツ)は、世界を救い真実の愛を取り戻す困難な旅路に就く。セトに立ち向かうためには、強い力を持つ神ホルス(ニコライ・コスター・ワルドウ)の協力が不可欠だ。ベックとホルスはセトとの戦いの中でさまざまな世界を訪れることになる。2人は、最後の対決で勝利を得るために、勇気と犠牲の精神が試される多くの試練を乗り越えなければならない。監督は、『ダークシティ』『アイ,ロボット』などを手掛けたアレックス・プロヤス。


★編集部員の気になるDVD★

Bicentennial Man
アンドリューNDR114
ドラマ、米国、131分、形式:DVD

人間とは素晴らしいものだと感じさせてくれた、1999年公開のアメリカ映画『アンドリューNDR114』。人間になりたいと願うロボットの悲哀を通して、人間の心と命について問いかけるヒューマン・ドラマだ。

舞台は近未来。家事用ロボットとしてマーティン家に購入されたアンドロイドのアンドリューは、ある日次女のリトル・ミスのために木彫りのおもちゃを作る。まるで人間が作ったかのようなその素晴らしい繊細さに驚いた主人は、彼に物を作らせ本を与え、人間について色々教え始めることに。だが、それが彼の運命を大きく変えることになるのだった。

長い時間、人間への憧れを胸に生き続けたアンドリューは、技術者ルパートと出会い人間の容姿と感情を手に入れる。そして、愛する恋人ポーシャ(リトル・ミスの孫)の死が迫り来るのを知った時、己の肉体を経年劣化して機能停止するよう改造し、老衰死を受け入れてまで自らの人間性を主張する……。

200年にわたってロボットが人間の心を育んでいく過程をつづる心温まる作品。全身ロボット・スーツを被りながらその持ち味を醸し出す、今は亡きロビン・ウィリアムズの演技が最大の見所だ。大切な人たちが次々に人生を終えていく姿は、死ぬことのできない彼の目にはどのように写ってきたのか。この作品を通じて“死ねることの素晴らしさ”を知った私は、改めて自分自身を愛して生きていくきっかけを授かったような気がした。(TS)

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