【シアター通信】オーストラリアン・バレエ団“ジゼル”

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリアン・バレエ団“ジゼル”

取材・文=岸夕夏 写真=Jeff Busby

主演を務めたアンバースコットとタイ・キングウオール

<あらすじ>
第1幕

舞台は、村のワイン収穫祭。村人たちはダンスを楽しんでいる。主人公のジゼルは心臓が弱いが踊りが大好きな純真な村娘だ。彼女の無垢な美しさに魅了されたプレイ・ボーイ貴族のアルブレヒトは、身分を隠して村の青年に変装して言い寄り、2人は恋仲になる。しかし実はアルブレヒトには婚約者がいて、そのバチルド姫が父の公爵と一緒に狩の途中で村に立ち寄る――。一方、ジゼルに思いを寄せていた村の森番、ヒラリオンはこの2人の恋仲を知って嫉妬にかられ、村人や公爵一行の前でアルブレヒトの正体を暴いてしまう。事情を知り絶望したジゼルは錯乱し、心臓の負担を顧みずに踊り狂った結果、母親の腕の中で息絶えてしまう。

第2幕

第1幕の華やかなシーンからは一転、舞台は森の奥深くにある墓場へと移る。ジゼルは死んで精霊ウィリ(編注:結婚の前夜に不実な男の裏切りで命を絶った処女たちの精霊)となった。ここでは夜になるとウィリの女王ミルタがウィリたちを集め、森に迷い込んできた人間を死ぬまで踊らせるのだが、この晩ジゼルの墓の前には、悲しみにくれ佇むヒラリオンの姿が……。ヒラリオンはミルタに踊らされ死に追いやられる。

そのころ、同じくジゼルを失った悲しみと悔恨にくれるアルブレヒトも、ジゼルの墓に現れていた。女王ミルタはジゼルを墓から呼び出し、アルブレヒトと一緒に踊るように命じる。死してもなおアルブレヒトを愛しているジゼルは、アルブレヒトの命を救ってくれるようミルタに哀願した上で彼とともに踊り、彼との最後のひと時を過ごす。やがて夜明けの鐘が鳴り、朝の訪れとともに魔力の切れたミルタやウィリたちは墓に戻っていく。ジゼルもまた、朝の光の中でアルブレヒトに別れを告げ、墓へと消えてゆく。

時代を超えてなお人々を魅了する、愛と裏切り、喪失、償いの物語

オーストラリアン・バレエ団の2015年最初の演目は“ジゼル”だった。ロマンチック・バレエの不朽の名作としてあまりに有名な本作のオリジナル版が制作されたのは、1841年。170年余り経った現在でもなお、世界中で高い頻度で上映される人気作である。

今回オーストラリアン・バレエ団が上演した“ジゼル”は、原作マリウス・プティパの振り付けを基に、同バレエ団のマイナ・ギルグッド前芸術監督が1986年に制作したもの。世界公演でも絶賛を博した。シドニーでは96年以来の上演となった。

第1幕の収穫祭のシーンでは、豊穣を祝う楽しく幸せに満ちた雰囲気の中、衣装や舞台背景全体が秋色のグラデーションを織り成し、そこに柔らかな日差しのような照明が注がれ黄金色の陰影を映し出している。アルブレヒトとジゼルが踊るパ・ド・ドゥ(編注:2人踊りの意)では、ジゼルが時折苦しそうな様子を見せ、第1幕のクライマックスを暗示させる。この暗示の通り、最後は恋人の裏切りを知ったジゼルの精神が破綻する、有名な狂気のシーンで幕を閉じる。この間、柔らな日差しに包まれていた空もいつの間にか濃いグレーへと変貌を遂げており、木の影も徐々に濃さを増している。オーケストラの短調のクライマックスとともにジゼルが死を迎えるころには、舞台上の景色はすべて暗く悲しい色彩で染まる。

衝撃的だった第1幕のラストに続く2幕の幕開けは、夜の森。ここはウィリたちが支配する死の世界だ。冷たい月光を表現する青白い照明に浮かび上がる、真っ白なチュチュを着たウィリたちの舞いは、実に幽玄。この青白い鬼火のようなウィリたちが作り出す幻想の世界には、思わず筆者も引き込まれてしまった。その後に続くジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドゥは本作一番の見どころ。裏切られ、死してもなお愛する悲しみを無上の美しさで表現するジゼルの踊りを、チェロの独奏とそこへ時折入るソロ・バイオリンの美しい旋律が引き立てる。

筆者が観た日のジゼル役は、プリンシパル・ダンサーのアンバー・スコットが演じた。アンバー・スコットは往年の映画女優のような古典的な美しさを持つダンサーで、1幕の純真な村娘と2幕の死者ウィリの両方を見事に演じきった。無事に夜を越え、彼女がミルタの手からアルブレヒトを救ったことを告げる夜明けの鐘の音に安堵する演技は、特に秀逸。その表情から、それまで悲しみの色に包まれていた彼女の世界が一変したことが瞬時に伝わり、同時に観客はこの鐘の音とともに夢からうつつの世界へと戻された。

さて、本紙6月号のインタビューでも掲載されたが、日本人ダンサーの近藤亜香さんが、本公演(編注:ただし本リポートとは別の公演日、配役は日により異なる)で主役を務めた後、最高位であるプリンシパルに昇格した。同インタビューへは筆者も同席する機会を得たが、この時会った近藤さんの印象は「無限大の可能性を秘めた真っ白なキャンバス」。“ジゼル”の村娘と精霊、“マノン”の魔性の女、“白鳥の湖”の白鳥と黒鳥と、これからも彼女が演じるであろう役柄はたくさん挙げられるが、その中でどのように観客を魅了し、どのようなダンサーに成長していくのかを想像するととてもわくわくする。

オーストラリアン・バレエ団の“ジゼル”公演は7月2~6日までアデレードでも上演される。

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