【シアター通信】オーストラリア・バレエ団 「眠れる森の美女」

旬のシアター情報が満載 ♦ シアター通信

バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団 「眠れる森の美女」

取材・文=岸夕夏

洗礼式で美質を授ける妖精たち
洗礼式で美質を授ける妖精たち

<あらすじ>

ある王国で、長年子どものいなかった国王夫妻に姫君が誕生した。洗礼式に招かれた妖精はそれぞれ美質を授けたが、式に招かれなかったことを恨んだ古代の知恵の精カラボスは、「姫は16歳の誕生日に糸つむぎの針に刺されて死ぬ」と呪いをかける。まだ贈り物をしていないリラの精が「呪いは消せないけれども、姫は死ぬのではなく100年の眠りに就く、そして姫を心から愛する王子のキスによって目覚める」と宣言する。オーロラ姫は16歳の誕生日の祝宴で、その予言どおり眠りに就く。
 100年後。物思いに沈むデジレ王子は森でリラの精に導かれ、オーロラ姫の幻を見る。オーロラ姫の美しさに心を奪われた王子は城に分け入り、カラボスを倒して姫に口づけし、眠りから目覚めさせる。オーロラ姫とデジレ王子の結婚式が華やかに行われる。


古典の伝統とテーマの持つ普遍性を踏襲したクラシックバレエの醍醐味

代表的な古典バレエの1つである「眠れる森の美女」は、チャイコフスキーのバレエ組曲にマリウス・プティパが振り付けて、1890年にロシアで初演された。オーストラリア・バレエ団のデイヴィッド・マカリスター芸術監督が就任して14年、本作は振り付けも手がけた同氏の初めての制作版で、プティパの元振付から大胆な手は加えられていない。

幕が開き観客はきらびやかな世界に一瞬で引き込まれていった。深いえんじ色と繊細な金のレースのコスチューム、王とクイーンのワイン・レッドのビロードのマント、姫の誕生を祝う妖精たちの色とりどりのコスチューム、出演者全員が銀色のかつらをかぶり、舞台セットはバロック時代の背景だ。妖精たちが優雅さ、美声、寛大さなどをそれぞれオーロラ姫に授けた後、招かれなかった妖精カラボスが登場し祝祭ムードが一転する。「眠れる森の美女」は善と悪をモチーフにしていると言われている。リラの精の善とカラボスの悪。ネズミの頭部だけのぬいぐるみをかぶった手下を引き連れ、豪華な黒羽の衣装のカラボスの存在は強烈で、リラの精の威厳と優しさに明確に対峙する。激しい短調のオーケストラの調べに乗って呪いをかけたカラボスが去った後、リラの精は凛として「姫は死ぬのでなく眠りに就く」と一同を諭した。

濃淡のある薔薇色のプリーツが幾層にも折れ合ったチュールのスカートと若緑色のトップのコスチュームをまとった群舞は、16歳の祝宴にふさわしい華やぎと若さを舞台一杯に漂わせていた。舞台が始まって40分以上という長い時間が経過してようやく主役が登場する。筆者が観た日(2015年11月)のオーロラ姫の配役はプリンシパルのアンバー・スコットだった。淡いサーモン・ピンクの衣装とティアラを着けたスコットのオーロラ姫は観客の期待に応えて、気品のある存在感で初々しく、王子が恋に落ちる魅力に十分あふれていた。ただこの物語の16歳という設定では、10代のはちきれんばかりの若さやお転婆な表情がもう少し欲しかったと思うのは筆者の欲張りかもしれない。スコットは踊りの技術面だけでなく、演技でも傑出したバレリーナであるだけについ期待が大きくなってしまう。

「眠れる森の美女」の中の最も華やかな見せ場は、1幕の「ローズ・アダージョ」と呼ばれる、片足で立ったままバランスを取り続ける極めて高度な技術を要する場面だ。スコットは美しい流れを終始損なわず至難の技を典雅にこなし、客席からはたくさんのブラボーが沸いた。カラボスに仕組まれた糸紬の針を刺したオーロラが倒れ、リラの精が現れると、背景が朝もやに包まれたような薄群青色から紺青色に徐々に変わり、全てが100年の眠りに就き王国はいばらの森に包まれていった。

2幕で登場する憂愁漂うデジレ王子の同夜の配役はプリンシパルのタイ・キングウォール。デジレ王子は森で狩りに興じるよりおとぎ話を読むのを好み、何かを切望していた。キングウォールはチェロのアダージオの調べにのって王子のメランコリックな心奥をソロで見事に表現した。そして王子はリラの精の導きによってオーロラ姫の幻に魅せられ、探していたものを確信した。マカリスター版本作ではリラの精はオーロラ姫とデジレ王子2人の名付け親となっている。2人が100年の時を隔てて結ばれる運命を偶然ではなく、必然としてマカリスター監督は物語の骨格にした。

本作で特筆すべきは贅をつくした衣装だろう。衣装を担当したガブリエラ・タイレソバ(Gabriela Tylesova)は舞台芸術の衣装で国内外で高い評価を受けているデザイナーだ。オーガンジーやスワロフスキーのクリスタルをふんだんに使った衣装は息をのむほどに美しい。3幕の結婚式のシーンで、全幕中でたった1つのパ・ド・ドゥと、アンバランスな姿勢が2人のパートナーシップを際立たせる舞が初めて披露される。舞台セットはフランスの太陽王ルイ16世スタイル。巨大なシャンデリアや鏡をはじめ美術作品を見ているような壮大なセットとともにダンサーたちが作り上げる総合芸術の極みとも言える本作は、古典バレエの醍醐味を十分に堪能できる作品だ。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る