【シアター通信】オーストラリアン・バレエ団 “ザ・ドリーム” – 真夏の夜の夢

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリアン・バレエ団“ザ・ドリーム”−−真夏の夜の夢

取材・文=岸夕夏 写真=Kate Longley(写真上、下)、Daniel Boud(写真中央)

夢は天才である――。黒澤明によるこの言葉は、オーストラリアン・バレエ団のデイビッド・マカリスター芸術監督によって、本作パンフレットの冒頭に掲げられた。

同バレエ団が今年2番目にシドニーで公演する作品は、イギリスのロイヤル・バレエ団を世界有数のバレエ団に築き上げた有名芸術監督、フレデリック・アシュトン振り付けによる「ザ・ドリーム」。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」を題材に1幕仕立てにした作品だ。今回はこれに加え、同監督によるショート作品「モノトーンズⅡ」と「シンフォニック・バリエーションズ」を加えた3部作という豪華構成。まさにシェイクスピアとアシュトンという2人の天才による夢のコラボレーションが実現した形となった。

第1幕 モノトーンズll

紺瑠璃色の背景の舞台に、肌に密着した真っ白なコスチュームを着装した3人のバレエ・ダンサーが浮かび上がる。頭に純白のヘルメットらしきものを被ったダンサーたちが舞台上を舞う光景は、あたかも何者かがどこかの惑星に迷い込んでしまったよう。「モノトーンズⅡ」は、人類初の宇宙旅行にインスパイアされた作品で、アシュトンが制作、1965年に発表された。抽象バレエなので物語はない。男性2人と女性1人のダンサーは終始舞台から離れることなく、切れ目のない流線型の弧を描いている。無機質で、宇宙人にも見まごうダンサーたちは、この演目を楽々とこなしているように見えるのだが、その全身ラインの美しさ、動きの厳密さや安定感などを見ていると、ダンサーに求められる技術の難易度はかなりのものであると察することができる。音楽は、日本のテレビ・コマーシャルなどにもよく使われるエリック・サティのピアノ曲「3つのジムノペディ」で、クロード・ドビュッシーとローラン・マニュエによるオーケストラ編。ゆっくりとした独特の愁いを帯びた旋律がパフォーマンスに溶け合い、さらなる異次元へと観るものを誘ってくれる。

タイターニア役を演じる近藤亜香さん

 

第2幕 シンフォニック・バリエーションズ

アシュトンは第2次世界大戦中、英国空軍の任務についていたが、その間ずっと振り付けを考えていたというのがこの「シンフォニック・バリエーションズ」。終戦翌年となる1946年、復興の最中で初演したところ大ヒットとなり、現在でも、数多いアシュトン作品の中で最高作品の1つとされる。

左から順に、チェン・グオ氏、ケビン・ジャクソン氏、ナターシャ・クッシュ氏

 

本作では舞台は「モノトーンズⅡ」から一転、明るいマスタード・カラーの背景幕に幾何学的な曲線と直線が描かれる。こちらも物語のない抽象バレエで、舞台上には6人のダンサーのみ。男女ともに、シンプルな白いコスチュームに身を包み、その動きは優雅でしなやか、無限大の空間を感じさせる。音楽はセザール・フランクでピアノとオーケストラのための交響的変奏曲。

ところで、抽象バレエというと、アシュトンが活躍したロイヤル・バレエ団の常任振付家、ウェイン・マグレガーが2006年に発表した「クロマ」があまりにも有名だ。本作は身体能力を見せ付け観客を圧倒させる作りで、絶賛の嵐を巻き起こした。「シンフォニック・バリエーションズ」のような、あくまでも静穏で優美な見せ方で、内面からじわじわと光沢を放つものとは全く別物のようで、ひと口に抽象バレエといっても、60年ほどの間でここまでの変化をたどるとなると、隔世の感がある。

第3幕 ザ・ドリームーー真夏の夜の夢

アシュトンの詩的な叙情とユーモアのセンスは同作品でいかんなく発揮され、観客はしばしば笑いの渦に巻きこまれた。特筆すべきは、ボトム役によるトウシューズでのつま先立ちでの振り付け。通常男性ダンサーは、つま先立ちで踊ることはないのだが、頭部に大きなロバのぬいぐるみを被ったボトムによるこの踊りは可愛らしくもあり、観客の笑いを誘う。ほかにも、空を高く舞う躍動感のあるジャンプは、パックの踊りから十分堪能できる。

タイターニア役を演じる近藤亜香さん

 

筆者が観た当日のキャストのタイターニアは、今号でインタビューも掲載されている新たなプリンシパル・ダンサー、近藤亜香(あこ)さんだった。近藤さんの踊りは音楽と一体となっていて、コミカルなマイムも素晴らしい。彼女の持つ高度な技術を確信できただけに、亜香さんによる「モノトーンズⅡ」も観てみたかったなどと思ってしまった。


<あらすじ>
妖精の王であるオベロンと女王タイターニア。オベロンがタイターニア付きのインド人の小姓を欲しいと言っているのだが、女王は頑なに譲らないため口論になってしまう。そんな妻タイターニアを懲らしめようと、オベロン王は、いたずら好きな妖精パックに命じ、「惚れ薬」の花を摘んで来させる。パックにこの媚薬を振りかけられたタイターニアは、同じく魔法によって自身の頭をロバにされてしまった、ボトムというさえない青年に恋をしてしまうのだった――。

 

※本公演は6月4~13日までメルボルンで、7月8~9日までアデレードで上演される。

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