ユーモア絵本『ウォンバットのシチュー』

オーストラリアの子どもの本
オーストラリアの子どもの本 第7回
ユーモア絵本『ウォンバットのシチュー』
オーストラリアに暮らしていてすばらしいことの1つは、世界中の食べ物が集まっていることです。私の住んでいるメルボルンは「南半球の美食の都」と言われています(誰が言った ? 私です)。英国風料理はもとより、中国の飲茶、トルコのシシケバブ、ベトナムのフォー(麺類)、イタリアのパスタやオリーブ、香料が効いたタイ料理、スリランカの野菜カレーなど、どれもオーストラリアの大らかな田舎風味が加わってやや大味であることはさておき、食材の新鮮さも加わって、私はオーストラリアの健康的な食べ物が大好きです。


また、時折日本から来た友人が「オーストラリア的な食べ物が食べたい ! 」と言えば、オーストラリアの豪快かつ、素朴なバーベキューを食べてもらうこともあります。ラム、ビーフ、ソーセージ、シーフードなど定番の食材に加え、カンガルーの肉を焼くこともあります。カンガルーを食べるのはちょっとかわいそうですが、肉は鉄分をたっぷり含んだ赤身で、脂肪分はほとんどありません。何よりブッシュの自然で育ったカンガルーの肉ですから、健康に害のある薬物や添加物は入っていないオーガニック・ミートです。値段も安く、私はカンガルーの肉が大好きです(特に、レアのステーキ !)。
でも、皆さんは、ウォンバットのシチューなんて食べたことありませんよね ? さすがに私も食べたことがありません。第一、ウォンバットのような愛嬌のある動物を食べるなんて、そんなかわいそうなこと、したくありません ! (カンガルーは食べるくせに ! )。
『ウォンバットのシチュー』(“Wombat Stew”、マーシア・K・ヴォーン作、パメラ・ロフツ絵、Scholastic、1984/2007)は、ウォンバットを捕まえて食べようとしたディンゴの、とても愉快なお話です。
それはこんなお話です。ある日、少し間抜けなディンゴが太ったウォンバットを捕まえます。ディンゴは、さっそくウォンバットをシチューにして食べようとしますが、そこへカモノハシが来て、シチューにするなら泥を入れると、シチューが濃くなっておいしくなると言います。それからエミューが現れて、羽を2、3本入れると、噛みごたえが増すと言います。次に、トカゲがやって来て、ハエを入れると、さくさくしておいしくなると言います。今度は、エキドゥナ(ハリモグラ)がやって来て、ミミズやナメクジを入れると、ムニュムニュしてもっと美味しくなると言います。ついでコアラがやって来て、ユーカリの木の実を入れると、カリカリしてさらにおいしくなると言います。
いよいよ最後にディンゴがウォンバットをシチューに入れようとすると、みんな口をそろえて、「味見をしてから入れないとだめ ! 」と言います。そこでディンゴは、いろいろなものが入ったシチューを味見します。一口食べただけでディンゴは、「お前たち、だましたな。これじゃあ、まるで毒シチューだ !」と叫んで、逃げ出します。みんなのおかげで、ウォンバットは命拾いをしたという話(動物は慈しみましょう !)。
『ウォンバットのシチュー』は、出版以来25年以上も読み継がれているオーストラリアの古典絵本です。作者のマーシア・A・ヴォーンは、元は小学校の図書館で働く図書館員でした。小学生にいろいろな本を読み聞かせているうちに、この愉快な物語を考えついたと語っています。
オーストラリアの子どもの本
パメラ・ロフツは、『コアラのルーちゃん』(“Koara Lou”、メム・フォックス作、Voyager Books、1994)などのイラストなどを描いている売れっ子画家です。ロフツによるオーストラリアの動物たちは、あくまで賑やかです。その上、滑稽に戯画化され、性格や特徴を上手に表現しています。私の日本的な感覚からすると、ロフツの画風は誇張がやや強すぎるのではないかと思うくらいですが、オーストラリアのユーモアの感覚からすると、これくらいがちょうどいいのかもしれません。
この本は、ぜひ声を出して子どもたちと一緒に読んでみてください。みんなきっと腹を抱えてゲラゲラ笑うこと請け合いです ! ウォンバットのシチューだけではなく、エミューのスープ、カモノハシのパイ、クッカバラのケーキとか、いろいろおかしな食べ物を子どもたちと一緒に考えてみるのも一興かも。末尾にはウォンバット・シチューの歌の楽譜も付いていますから歌ってみてください。
こんな風に、愉快な絵本は1度読んで終わりなのでなく、何度読まれても飽きがこないものです。『ウォンバットのシチュー』は、そんな珠玉の作品だと思います。
『ウォンバットのシチュー』(Wombat Stew, by Marcia K. Vaughan/ Pamela Lofts、Scholastic、1984/2007)


渡辺鉄太プロフィル
著述業。息子との森歩きエッセイ「もりのなか」を日豪プレスに2005年から06年まで連載。著書に異文化での子育てについて書いた「緑の森のバイリンガル」(三修社)、絵本「もりのびょういん」(加藤チャコ・画、福音館書店)、翻訳書に童話「ベンジー」シリーズ(アリス館)など。メルボルンこども文庫主宰。モナシュ大学客員研究員、博士(言語学)。妻は美術家で絵本作家の加藤チャコ(web: www.chacokato.com/)。96年からメルボルン在住。

 

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