【特別インタビュー】将棋女流棋士・北尾まどかさん

特別インタビュー

将棋を知らない人たちにその魅力を伝えたい

将棋女流棋士
北尾まどかさん

将棋女流棋士・北尾まどかさん

北尾まどかさんは将棋の女流棋士を務めながら、自身の会社を経営し日本国内だけではなく、さまざまな国や地域を訪れ、将棋の普及と発展のために日々尽力している。そんな北尾さんに将棋を始めてからプロを目指すようになったきっかけ、将棋教室の運営やイベントの開催、将棋本の会社を設立するに至った経緯から、自らルールを考案した将棋入門者向けの「どうぶつしょうぎ」のことまで幅広く話を伺った。(聞き手=高坂信也)

将棋をもっと楽しく、親しみやすく、世界へ

どうぶつしょうぎの誕生

――将棋を始めたきっかけを教えてください。

5~6歳のころ、父に教わったのがきっかけです。チェスやオセロ、五目並べなどボード・ゲーム類が家にたくさんあり、将棋はそのうちの1つとして遊んでいた程度でした。当時は将棋のルールは複雑だと感じていて、好きになるほどではありませんでした。

高校に入ってからボード・ゲームが学校中で流行ったのですが、ある時、将棋で負けてしまったんです。負けて悔しかったというのもありますが、それ以上に自分なりに考えた手よりも良い手を指されたことに驚き、もっと詳しく調べてみると面白いのではないかと興味を持ちました。そしてその日、父に挑戦してみたのですが、あっさりと負けてしまいました。悔しくてまた挑戦して……ということを繰り返しているうちにどんどん好きになってのめり込んでいきました。

それから1年後、高校在学中にプロを目指して女流育成会(プロ棋士養成機関)に入りました。

――将棋を本格的に始められて1年後にプロになるというのは、非常に強い決意があってこそですね。

一生、将棋を指し続けることができれば幸せだなと思っていました。1つの趣味としてではなく、それだけをやっていたいと思うほど好きでしたね。また、将棋が放送されているテレビを見た時に「女流棋士」という職業を知り、挑戦してみたいという気持ちになりました。

――現在の活動について教えてください。

女流棋士としては、現在7タイトルある女流棋士の公式戦に出ています。予選はトーナメント形式のため、負ければ終わりで、勝てば勝つほど対局数は増えていきます。対局以外では、「ねこまど」という会社を経営したり、「囲碁・将棋チャンネル」のような専門のテレビ番組に出演などもしています。

これは私の場合ですが、棋士は基本的に自由な職業で、対局以外はいろいろなことができます。例えば、研究会と言って他の棋士たちと練習対局をしたり、将棋のイベント出演や、将棋教室で教えたりするなど活動内容は人それぞれです。

――会社設立の経緯は何だったのでしょうか。

将棋というすばらしいゲームをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いをずっと持っていました。会社を始める前、フリーランスとして将棋のイベントの企画・運営に携わっていた時期があるのですが、1人で活動することの大変さを知ると共に、組織の力やさまざまな人が関わるからこそ大きなイベントなどを開催でき普及活動を進めていけるのだと痛感しました。その後いろいろと調べ、将棋教室の運営やイベントの企画・運営、将棋本の翻訳やフリーペーパーの出版などを行う「株式会社ねこまど」を2010年に立ち上げました。

会社設立当初から、「将棋をもっと楽しく、親しみやすく、世界へ」というスローガンを掲げています。私が将棋を始めたころは女性で将棋を指す人はとても少なく、もっと多くの女性に将棋の楽しさを知ってもらえたら、競技人口が増えるのではないかと思いました。また、子どもたちに将棋を伝えることで、更に世代を超えて受け継がれていくと考えました。

――どうぶつしょうぎは、どのように考案されたのですか。

会社設立以前の2008年に「どうぶつしょうぎ」のルールを開発したのですが、元々は子ども向け教材の1つでした。

私が子どものころにちょうどファミコン(ファミリー・コンピューター)が登場し、その後テレビ・ゲームが主流になっていき、このままだと将棋は廃れてしまうと思いました。子どもにしっかりと伝えられるような、特に現代に合った早く決着が着いたり、勝敗が分かりやすいものが必要だと考えていたことが、どうぶつしょうぎのアイデアにつながっていきました。

子ども用の教材として開発・制作された「どうぶつしょうぎ」だが、現在では大人や海外の人たちにも広く受け入れられ、大会まで行われている
子ども用の教材として開発・制作された「どうぶつしょうぎ」だが、現在では大人や海外の人たちにも広く受け入れられ、大会まで行われている

囲碁の場合、通常の19路盤の他にそれよりも小さい13路盤や9路盤が使用されています。将棋でも盤を小さくした簡易なゲームを作ることができれば、子どもたちにも教えやすいと思い、いろいろとルールを練り上げていきました。さまざまなサイズを考えましたが、3×4マスが一番ピッタリときました。

ルール考案中、駒のデザインには記号のようなものを考えていました。同時期に元女流棋士の藤田麻衣子さんが、本将棋の駒8種類全てを動物のイラストにした物を作られました。可愛くて分かりやすくなったのですが、ルールは将棋そのままなので対局時間が長く、子どもにとっては難解だという悩みを彼女は持っていました。そこで、私が作ったルールと藤田さんの動物のイラストを組み合わせる形で、現在の「どうぶつしょうぎ」が出来上がりました。

販売目的ではなかったのですが、周囲の後押しもあってウェブサイトで自主制作した物を販売し始めると、新聞やテレビなどで取り上げられ、好評で制作が追い付かなくなりました。その後、幻冬舎エデュケーション(現在は小学館より出版)が出版してくれることになり、更に人気が出ました。

このことを通して思ったのが、将棋をやってみたいと考えている人が実は多かったのではないかということです。特に将棋はルールが難しく、自分では教えられないので子どもにさせたくてもできないと思っていたお母さんは多かったと思います。どうぶつしょうぎの登場によって、「これなら私にもできる」「子どもと一緒に遊べる」と思い、買ってくれた人たちが多いのではないでしょうか。

また、どうぶつしょうぎが完成したことによって女性と子どもに将棋を届けるということを達成できました。その後、描かれているものが漢字ではなく動物のイラストなので、海外でも将棋の魅力を伝えられるのではないかと思い付きました。それから、海外への普及活動を自主的に開始しました。

世界中どこでも通用するメソッドを作りたい

――海外での将棋の広がり具合について、どのような印象をお持ちですか。

4月1日に、シドニー中心部にあるジャパンファウンデーションでワークショップを開催し講師を務めた
4月1日に、シドニー中心部にあるジャパンファウンデーションでワークショップを開催し講師を務めた
ワークショップでは、シドニー将棋クラブのメンバーら6人を相手に多面指しを展開
ワークショップでは、シドニー将棋クラブのメンバーら6人を相手に多面指しを展開

2010年ごろから約10年間、将棋の海外普及活動を続ける中、今回のオーストラリアを含めて26カ国・地域を訪れました。10年前と比べて、だいぶ将棋が普及してきたなという気がします。特にインターネットによって、世界中の人が将棋について調べられるような環境が整ったことは大きな要因だと思います。

そうした中、日本の次に将棋の競技人口が多いのが中国です。特に上海では20年以上前から学校教育に将棋が取り入れられ、選択授業で将棋ができます。そこでは将棋専門の先生がいて、専用の“将棋室”もあります。

次に多いのが、東欧のベラルーシ。頭脳スポーツが盛んな国です。そこで大人から子どもまで集まれて、いつでも将棋ができる場所として、将棋クラブを創設された人がいます。将棋を仕事にしている人がいるというのは、普及がものすごく進んでいる状態です。現にベラルーシでは国内大会が頻繁に行われ、ヨーロッパ内で将棋レベルが一番高い国です。

近年だと、台湾で『りゅうおうのおしごと!』というライトノベルがアニメ放映され、競技人口が増えています。若い世代が将棋に興味を持ち、ボード・ゲーム・カフェなどで将棋教室が開催されるなど広がりを見せています。

――今後の目標について教えてください。

女流棋士としてまだまだ頑張りたいです。もっと勝ちたいですし、もっと自分の将棋を高めたいという気持ちがあります。

会社経営者として今後は、プロ棋士でなくとも将棋を教えるなど、将棋に携わることが“仕事として”成り立つような環境や仕組みを作っていきたいです。そういった人たちが将棋だけで生活できるようになることが大事だと考えているので、私の会社ではそうした人たちをどんどん増やして、将棋をより普及させていきたいです。そのために仲間を増やして、会社を大きくしていきたいですね。

また、ライフワークとしてこれから取り組みたいことは教材作りです。将棋の段・級には明確な基準となる指標がありません。自分の段階を把握して、次のレベルを目指す時のモチベーションとして系統立てられたシステムが必要だと思うので、そうしたメソッドを作りたいです。これからも海外での普及活動に邁進しつつ、試行錯誤しながら、日本だけでなく世界中どこでも通用するような教材を作りたいです。

きたおまどか◎女流棋士(将棋)。17歳でプロ棋士養成機関である女流育成会に入会し、2000年、女流2級でプロ・デビュー。13年、女流二段に昇段。将棋入門用の「どうぶつしょうぎ」のルールを考案し、09年発売以来、世界各地でローカライズされ、現在では100万部を突破する。10年に「株式会社ねこまど」を設立し、代表を務める。教育機関での授業、原稿執筆、講演など幅広く活動し、日本国内にとどまらず、世界各地で将棋を通じた国際交流を行う

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