柳井啓子在ブリスベン日本国総領事着任インタビュー

着任インタビュー

在ブリスベン日本国総領事
柳井啓子氏

6月19日の着任から3週間が過ぎたばかりの柳井啓子総領事を、在ブリスベン日本国総領事館に訪ねた。取材当日は七夕の日ながら雨が断続的に降り続けるあいにくの空模様だったが、表敬訪問などで多忙な中、総領事に着任インタビューの時間を割いてもらうことが出来たのだ。1時間近くを要したインタビューは、総領事自身の抱負からQLD州の邦人社会と総領事館との関係性にわたるなど、非常に密度の濃いものとなった。そのインタビューの内容を、ブリスベン在住の本誌特約記者・植松久隆がお届けする。(取材・文=本誌特約記者/植松久隆、写真提供=在ブリスベン総領事館)



キャリア初となるオーストラリア赴任

ガラス張りの総領事室の窓はどんよりとした曇り空を映し出していたが、出迎えてくれた柳井啓子総領事の笑顔は輝いていた。

19年前の1998年、坂東真理子氏(現・昭和女子大学理事長)が本邦初の女性総領事として赴任して以来「女性総領事」に縁が深いブリスベン総領事館。柳井総領事は、2013年着任の柳沢陽子氏(現・エストニア大使)に続いて3人目の女性総領事となる。

「いつも自然体を心掛け、女性だからといって肩に力を入れることもなく、その時々の自分が出来る事にベストを尽くしてきた結果、今ここにいます」と自らのキャリアを語る柳井総領事。インタビューでは、在外公館のトップとしてどんな質問にも真摯に淀みなく答える様子に頼もしさを感じると同時に、その気さくな人柄と快活な笑い声が非常に印象に残った。

長い外交官としてのキャリアで、オーストラリア赴任は初の経験で、更にはブリスベンだけでなく総領事館の管轄地域であるQLD州自体に訪れるのも初めてだという。3週間が過ぎてのブリスベンの街の印象、前任地のシカゴとの違いを聞くところからインタビューを始めた。

「今まで、出張でキャンベラやシドニーには数回ずつ行ったことがありますが、ブリスベン、いやQLD州自体、本当に初めて。ブリスベン行きが決まって、同僚から次の任地を聞かれ『ブリスベンです』と答えると、皆さんの反応は『いいね、本当に仕事?』というような感じで、それに『もちろん、仕事ですよ!』みたいな(笑)。ブリスベンは直行便もあり、日本からはすごく身近に感じます。とてもきれいな所というイメージもあり、個人的にも非常に楽しみにして来ました。今オーストラリアは冬ですが、前任地のシカゴの初夏のような気候で、とても過ごしやすいですね」

街や風景の印象と対になるのは、人や文化の印象。その最たるものは言葉、そう、他国で英語を学んだ人びとを一様に驚かせ、時に悩ませるオージー・イングリッシュ。しかし、総領事はその洗礼をまだ受けていないという。

「実は、オージー・イングリッシュ、それを一番恐れて来たんです。今、ちょうど表敬でいろいろな所を訪れているところですが、どの人の英語も非常に聞き取りやすくて、どちらかというとアメリカ南部の強いアクセントなんかと比べても、よほど分かりやすいくらい。ただ、今後、地方を訪れる際や、一般の方々との日常会話でオージー・イングリッシュに接したら、分からないこともあるかも知れないですけどね」

初めて赴任したオーストラリアだが、総領事の外交官としてのキャリアを振り返る時、そこにはちょっとした縁が隠されている。「実は、外務省に入省後、最初に手掛けた仕事は『オーストラリア・グループ』と称されるオーストラリアがイニシアチブを執る生物化学兵器の不拡散に関する国際的な取り組みでした。だから、外務省員として最初に会った他国の外交官はオージーの方が多かったんです。そのオーストラリアに、総領事として赴任することになったのは何かの縁かも知れません」

任期中に目指す方向性

既にQLD州総督、州首相、ブリスベン市長といった政界の枢要(すうよう)への表敬を終え、総領事はこれから本格的なタスクの取り掛かりに腕を撫す。

「任期は特に決まっていませんが、ここは人気ポストかもしれないので、早く追い出されるかもしれませんね(笑)。だからこそ、まずは、やるべきことをきちんと達成していきたいんです」

「やるべきこと」とは、例えばどのようなものか。更に具体的な抱負を尋ねた。

昨今の不透明な世界情勢などもあって、総領事がその第一に挙げたのが「安全」だ。

「何よりも在留邦人の方々の安心と安全の確保が最優先です。いつどこで何が起きるか分からない時勢なので、キャンベラの大使館や他の総領事館との密接な連携で緊急時対応などに、全館員によるきちんとした体制で州治安当局と協力し、万全を期していきます」と頼もしい。

当然ながら、経済面での日豪両国の関係性を高めていくことも重要だ。

「経済関係の強化は非常に重要。従来の鉱業や農業に加えて、QLD州政府も力を入れ日本が高い知見を持つイノベーション・先端技術の分野、更にはここ数年で立ち上がるインフラ整備の大プロジェクトなどで、しっかりと日系企業との官民協力体制を取り、州政府や各都市とつなぐところで積極的にお役に立てればと考えています」

日豪両国ではさまざまなレベルでの交流が行われている。その中で経済と同様に重要なのが文化交流。QLD州は特に草の根レベルでの交流が州各地で活発に行われている。その辺の事情の「予習」も万全のようだ。

「ブリスベン市が神戸市と姉妹都市関係にあるように、各地でさまざまな姉妹都市関係が育まれています。実は、前任地のシカゴから赴任する前に日本に立ち寄った際、幾つかの(QLD州に姉妹都市を持つ)自治体を回って話を聞いてきました」

そんな総領事だからこそ、文化交流と相互理解に大きな意味を持つ「日本語教育」にも強い思いがある。「前任者のころから、QLD州での日本語教育を高等教育まで継続的に学習出来るよう州政府に働き掛け、既にワーキング・グループが立ち上がっています。そのフォローアップと更なる働き掛けをしていきます。初等教育でのイマージョン教育もとても注目されていますし、中等教育以降のイマージョンの更なる実施などの動きがもっと拡大するようにとの要望を州教育省サイドにもきちんと伝えていきます」

外部に開かれた関係作り

シドニー、メルボルンというオーストラリアの二大都市、更には観光地として名高い同州のゴールドコーストやケアンズに知名度で劣るブリスベン。そのブリスベンの知名度向上のための秘策はあるのか――。ブリスベンで暮らす永住者として思い切って聞いてみた。

「少なくとも、前任地のアメリカで『次はどこに行くの』って聞かれた時にブリスベンと答えると、日本人でなくても「え?」ってなることは少なくなかったです。『グレート・バリア・リーフのある州の……』って説明して『あーっ』ってなる感じで、意外に知られてないとの実感はありました」と総領事も日本や第三国でのブリスベンの知名度向上の必要性を否定しない。

その知名度不足の解消には「やはり、ツーリズムでの働きかけが重要だと思う」と考えを示した上で、「具体的な妙案は、本当に長くこちらで暮らしているような方々にお知恵を借りていければ良いですね」と積極的に現地の日系社会の意見に耳を傾けたいとの姿勢を見せた。

今回のインタビューでの大きな収穫は、在留邦人との積極的なコミュニケーションを取っていきたいという意思表示が総領事自身の口から何度もはっきりと語られたこと。

「総領事館としては、本当に敷居を低くし垣根無しで、どんどん在留邦人の方々とコミュニケーションを取っていきたいと思います。皆さんと定期的に集まり情報交換をする場を作るなど、そういう小さな積み重ねを日常的に続けていければ良いと思います」

前任地のシカゴでも、現地邦人社会の横のつながりが醸成される場を提供してきた経験を持つ総領事には、既に幾つかのアイデアがある。

「例えば、当領事館の多目的ホールもどんどん活用してもらいたいです。総領事公邸もいろいろなイベントに開放して、もっと活用されることがあっていいはずです。ぜひ、活用に向けたアイデアや要望を皆さんからどんどん挙げて頂ければと思います」

柳井総領事が宰領していくブリスベン総領事館は、今まで以上に開かれたものとなるのは間違い無い。まさに“オール・ジャパン”で、QLD州での日本、そして日系の存在感を高められるか――その変革の進捗を注視し、きっちり切り取って伝えることは同地に暮らす日系メディアの立場として重要なタスクとなりそうだ。

笑顔の総領事に見送られ、エレベーターで降りたロビーから総領事館の入ったビルを出ると、降り続いていた雨は上がっていた。何かが変わるのかな、そんな予感がした。


柳井啓子(やないけいこ)
東京都出身。在シンガポール日本国大使館専門調査員を経て、90年外務省入省。主に軍縮・兵器不拡散の多国間交渉の分野での業務に携わった後、在ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部一等書記官を務めた。以降は、総合外交政策局軍縮不拡散・科学部で上席専門官、企画官などを歴任。13年、在シカゴ総領事館の首席領事に。17年6月、在ブリスベン日本国総領事に着任。

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