オーストラリアでの日本食の変遷を辿る

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の八:初の南半球での年末

明けましておめでとうございます。恒例のシドニー花火大会も終わり2018年の開幕です。46年前、私にとって初めて南半球で新年を迎えた1972年も、暑かったのを覚えています。その暑さのせいで、お正月の時期だという実感が薄く、ただカレンダーの日付けだけが変わったような気分でした。人生の半分以上、オーストラリアでこの時期を過ごしているのですが、不思議とこの違和感は消えることがありません。皆さんは、いかがでしょうか。

日本国外でのクリスマス・正月を、北半球で過ごしたことはあったので、それぞれに違う文化を楽しめたのですが、南半球での夏のクリスマス・正月の経験は、時空を超えた世界で生きているような感覚で違和感を覚えました。

私の実家の店は、12月に入ると師走の言葉通り、1年で最も忙しかったです。夜が明ける前に起き、市場で買い出し。肌を刺す寒さでしたが、市場では寒さの中、かるこ(市場で魚を運ぶ人たち)たちの威勢の良い姿が見られました。セリ場で高々に聞こえる掛け声も吐く息が白く見えるほどでしたが、その中で年末から新年にかけて、忘年会やお節用の食材、寒ブリ、新巻き、めでたい鯛、伊勢エビなどがにぎわいに花を咲かせ、この時期を彩ってくれていました。連日忘年会などで忙しくなり、年末になるとお節料理を徹夜で仕込み、夜中までかかって配達したこともありました。

日本の師走は、年末の大掃除やお節料理の準備が風物詩でした。私の母も大掃除などで忙しくしていました。家族総出で手伝いました。今でも懐かしく思い出すのが、母が大量の白菜を漬け込む姿です。日本の冬は過酷なところもあるのだけど、寒いこの時期に漬け込む白菜のなんとおいしかったこと。

シドニーに着いてしばらくして、仕事を始めてはいましたが、午後8時には店が閉まるのが一般的でしたし、クリスマスから1月中旬まで休みでしたので、静かなホリデーが続きました。この夏のシドニーでは日本の慌ただしさを忘れ、日本でのことが遠いことのように思われました。

クリスマス・イブには、今以上にクリスマスは宗教的でファミリー・イベントだったので、各家庭でイブのディナーを祝う人たちが多かったのです。シドニーに着いて間もなくで、家族がいない私たちのような人には少し感傷的な季節でもあったのかもしれません。

日本の家族に連絡を取るにも、当時は国際電話が30分で当時のお金で200ドルぐらいだったでしょうか。幸いにも、ある企業の方からテレックスを借りて、日本へ無事を知らせることができました。年配の方には懐かしいと思いますが、テレックスをご存知でしょうか? ファックスやEメールの前身で文字による通信方法でした。

当時のテレックスはかなり大型のもので、打つにはそれなりの知識がいるので、人に打ってもらいました。人に頼んでいるので、送る文章が家族に対するものなのに変に他人行儀で気取った文章になりました。受け入れ側の日本から、自宅へと連絡を取ってもらい、その返事を待つという手の掛かる方法でした。

キングス・クロスの噴水の近くのキングス・クロス・チャーチでは、当時の牧師とボランティアの人たちが、ミサと無料の炊き出しをしており、人が集まっていました。当時も若くして家出をした人たちがキングス・クロスに集まることが多かったのですが、今のキングス・クロスとは少し違っていて、のどかさがあったような気がします。

このフェスティブ・シーズン、よく立ち寄ったのがパブです。ロックスのオーストラリアで最も古いパブの1つで、ナショナル・トラストにもなっているヒーロー・オブ・ウォータールー・ホテルにはよく足を運びました。面識のないオーストラリア人とも、オーストラリア・ビールを飲みながらオーストラリア式のソーシャル・ライフを大いに楽しんだ記憶があります。

1972年12月26日のシドニー・ホバート・レースには、日本からの参加もあり、サンバードⅡ、それに草月流の勅使河原宏さん率いるクルーによるヴァーゴⅡが参加されたのを覚えています。ますます、日本が海外へ向けて進出する走りとなっていました。


出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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