氷柱で表現した日本食の奥深さ

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の拾壱:氷柱で表現した日本食の奥深さ

マリーからの連絡でシドニーでレストランの物件の交渉が具体的に進められてることが確認できたので、あとは事の成り行きを見極め、実現に向かって順調に進むことを願い、シドニーに戻りました。

当時は、ビジネスを立ち上げるためなど理由から、6カ月間、滞在許可が与えられるマルティプル・ビザというのがあり、私もそのビザを持っていました。その後、マリーとのレストランがオープンすれば、ビジネス・ビザに変える予定でいました。

シドニーに戻って、「スキヤキ・ハウス」に顔を出すと、お客の1人でイースト・シドニー・テクニカル・カレッジ(現ナショナル・アート・スクールがある場所)でアジアのコースのシェフ・ティーチャーをしていた人物から、一度、授業をしてみないかと声を掛けられました。

当時、イースト・シドニー・テクニカル・カレッジには、アートのコースなどと同じく、コマーシャル・クッカリーのコースがありました。しかし現在はアート・スクールとして独立し、シティーではウルティモ校などにコースが移りました。住んでいた場所からも近く、料理をどんな所で教えているのか興味もありましたし、日本食文化を広めたいという気持ちを持っていたので、降って湧いたような話に飛びつきました。

私が教えることに興味を持ったきっかけは、ロンドンのギル・フォードでコマーシャル・クッカリーで西洋料理一般を学んだ際、インストラクターの授業の進め方に目を引かれたことにあります。私が日本料理を学んだ頃の日本の調理師学校の教授法は、料理のみならず、一般的にも講義中心の受身的なものだったのに対して、ロンドンではインストラクターがジョークを飛ばしながら、大げさなジェスチャーで生徒を授業へと引き込みながら授業を進めていました。こんな教え方もありなんだと、カルチャー・ショックを受けました。

日本の教授法は、堅苦しく、もっと楽しく学べるはずなのに……という疑問もありました。向学心と好奇心を個々の中から引き出し、かき立てていく、こんな方法もありなんだ……と、日本料理を海外で教える際の可能性を見い出せた気がしました。私はロンドンでの教授法を元に、私が学んできた受身的な方法をうまくコンバインすれば、海外で、あるいは日本でも、料理をもっと能動的に楽しく学ぶことができるのではないかと思いました。

まず打ち合わせを兼ねてカレッジのコマーシャル・クッカリーを下見させてもらいました。日本人の料理人がカレッジで日本食文化を教えるということ自体が初めてということで、打ち合わせには、TAFEのアドミニストレーションの代表、校長、アジアン・コースのチーフ・シェフなどが集まりました。TAFE側からは、日本食文化の歴史と和食の基本、一汁三菜のバランスの取れた献立の立て方などを話して欲しいというリクエストがあり、私からは、何か学生たち、先生たちにも印象的な作品を別に紹介したいと申し出ました。

調理室は、イギリスと比べると規模が小さかったですが、コマーシャル・キッチンがあり、よく似た設備が整えられていました。アジアン・コースは中華料理が主流で、日本料理に使えるものは少なかったように記憶しています。

また、季節が夏ということあり、デモをプランするに当たり、子どものころ、夏祭りで見た氷柱が思い浮かびました。その氷柱の中には花が入っていてとても色彩が美しく涼し気で、いつもウットリして眺めていました。料理における氷細工/氷彫刻は、戦後、見事な開花を見せていました。日本の氷細工の巨匠の1人、秋山徳蔵氏の貢献で、日本にそれまでにあった氷細工の芸術性は高まり、日本料理にも大きな影響を与え得ました。

日本の氷細工用の氷を挟むハサミ、のこぎり、ノミなどを日本から持参していたので、早速紹介できることをうれしく思いましたが、準備が大変でした。まずは氷の調達です。当時は電話帳を調べたり、人に尋ねたりして、やっとのことでリッコムのアイスクリーム屋さんが氷のブロックを作っているのが分かり、約120×80×30センチの氷を注文して、配達してもらいました。そして学校の冷凍室に2時間ほどこもり、灯篭を作り上げました。

その中にロウソクの火を灯し、その横にタイの姿作りの台ものを添えました。教室を暗くした中に、更にライトを当てると幻想的な雰囲気が醸し出され、学生やスタッフなどにも一層日本料理のインパクトを与えることができました。このように日本料理の持つ多様性を示せたことは、今でも日本料理が注目される要因になっていると信じたいです。


出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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