野生動物を「可愛がる」ことの意味

オージー・ワイルドライフ 診療日記

第35回 野生動物を「可愛がる」ことの意味

オーストラリアで獣医として働き始めてから、犬や猫を始め多くの愛玩動物にも接してきましたが、治療をするに当たって野生動物とペットとの一番の違いは、「可愛がって良いのか」ということだと思います。

例えばコアラの赤ちゃんが病院に居たら、その愛らしさからつい抱きしめたり撫でたりしたくなってしまうものですが、そんな衝動をぐっと堪えて、できるだけ接触を避けなければなりません。治療後は厳しい野生で生きていく動物に「人間に近付くことは安全」と勘違いさせてはいけないのです。

ほとんどの野生動物は人間に対する警戒心が強く、容易に触らせたりはしないはずですが、成熟していない動物、特に巣立ち前の鳥のヒナなどは、人間に対して攻撃的でないばかりか、餌を与えられたらあっという間になついてしまいます。

先日、翼にけがを負ったレインボー・ロリキート(ゴシキセイガイインコ)が保護され連れて来られました。普通なら甲高い鳴き声を上げて噛みついたりするロリキートですが、この鳥は私を怖がる様子もなく、可愛らしい声を出しながらこちらを見上げていました。手を近付けてみると、指に乗ってくるなど人間に慣れている様子でしたが、もしペット用に繁殖されたロリキートなら、その飼育は違法ではありません。保護した人に連絡を取ってみると、その人は何年も前から家の庭で鳥たちに餌付けをしていて、そこに集まる鳥たちは人間を怖がる素振りを見せないとのことでした。

ペットか野生動物か、個体認証のマイクロチップやタグなしで見極めるのは容易ではありません。この鳥はまだ成熟しきっておらず、けがが治ればまた飛べるだろうと判断され、ペットとして探している人がいないことをRSPCA(オーストラリア動物虐待防止王立協会)や保健所に確認した後、他の野生のロリキートと一緒にリハビリ施設に移されました。2週間ほどの飛行訓練後に様子を見てみると、他の鳥に混じってすっかり野生の鳥らしく行動していました。手をかざしてもこちらに近付いてくることも無く、これなら大丈夫だろうということで野生に返されました。

野生動物が身近にいるのは素晴らしいことですが、安易に餌付けなどをして人間に依存させてしまうことは、決して動物たちのためになりません。近寄ったり話しかけたりせず、できるだけ遠くから見守ってあげてください。

◆Currumbin Wildlife Hospitalの施設や治療の様子を無料で見学できるオープン・デーが7月31日(日)に企画されています。詳しくは病院のウェブサイト(www.savingyourwildlife.org.au)をご覧ください。


■床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る