新・豪リークス/豪州危険生物ファイル毒グモ編

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第17回「豪州危険生物ファイル毒グモ編」

大自然が広がるオーストラリアには、誤って遭遇すると“危険な生物”が多く存在するが、今回は毒グモを取り上げる。今や日本列島各地でその生息が確認されている「セアカコケグモ」は有名だが、それよりもはるかに強い毒を持つ“世界最強”の毒グモがオーストラリアにいた……。

◇「セアカゴケグモ」が日本列島を席巻

「県内で初めて確認されました!国外では死亡例もある特定外来生物の毒グモが、今日午前9時ごろ富山市内にある自動車店の作業場で見つかりました……」

今年2月14日、日本国内の夕方のテレビ・ニュースで、オーストラリア原産のセアカゴケグモが富山県で初めて発見されたと、男性キャスターが真剣な顔つきで伝えた。

オーストラリアでは「レッド・バック」(Red Back)と呼ばれるセアカゴケグモは、1995年に大阪で初めて確認されてから、日本全国で発見例が相次ぎ、今回富山県内で見つかったことで、青森県、秋田県、長野県を除く44都道府県で、セアカゴケグモの生息が確認されたことになった。

背中の赤い模様が特徴のセアカコケグモ(提供:Australian Reptile Park)
背中の赤い模様が特徴のセアカコケグモ(提供:Australian Reptile Park)

このセアカゴケグモ、体長は毒を持つメスが約1センチ前後と小さく、丸く黒色の体の背面の中央部分から腹面にかけて赤い帯状の模様があるのが特徴だ。オスはメスの半分ほどの大きさで、体の色は薄めの黒か褐色、赤い模様も腹部のみで、交尾後メスに食べられてしまうことが多いため、通常あまり目にすることはない。

突かれると脚を丸めて死んだふりをするなど比較的性質はおとなしいが、毒性は強く、もし人間がかまれると、激痛と共に皮膚が腫れ上がり、呼吸障害を引き起こすこともあるという。かなりまれなケースだが、場合によっては死に至ることもある。

民家に現れたセアカコケグモ
民家に現れたセアカコケグモ(写真:クレイトン川崎舎裕子)

セアカゴケグモは、オーストラリア全土に広く生息していて、実際に“遭遇”するのは、庭石の下や排水溝の側面などの物陰だ。しかし、実際は日当たりが良く乾燥している場所を好み、樹木や草むらの中ではなく、ほとんどが人工的な場所で見られることが多い。屋外に放置された履物の中に潜んでいることもあるので、注意が必要だ。

本紙のコラムなども執筆している首都キャンベラ在住のライター、クレイトン川崎舎裕子さんの自宅の中庭にもよくこのセアカゴケグモが“出没”するという。先日も干していた洗濯物の近くで発見し「また出たか!」と思わず持っていた携帯電話で写真を撮り、ツイッターにアップした裕子さん、「見かけても決して手で触ったりしてはダメですよ」と念を押している。

◇深刻な抗毒血清不足も!世界最強の毒グモ「シドニージョウゴグモ」

まだ日本に“上陸”したとの情報は無いが、セアカゴケグモよりも毒性がはるかに強く“世界で最も危険な毒グモ”と呼ばれているのが、「シドニージョウゴグモ」(Sydney Funnel-web spider)だ。体長は4センチ前後で黒く長い脚を伸ばすと10センチ近くにもなる。セアカゴケグモとは異なり、シドニー周辺などオーストラリア南東部に生息し、通常は森や林の倒木の下、岩の下などをすみかとしているが、大雨の後や猛暑により大発生した後は、緑地に近い民家に潜り込むことがある。オス、メス共に持つ強酸性の毒は致死性があり、人がかまれると口から泡を吹き、神経が麻まひ痺して痙攣(けいれん)が起き、放置したため死亡するケースも多い。シドニージョウゴグモのオスは、メスより若干小さめだが、人の爪を貫通するほどの威力を持つ鋭い牙を持っている。シドニーから北へ約50キロの場所にあるオーストラリア爬虫(はちゅう)類園(Australian Reptile Park)で、このクモを撮影したことがあるが、その全身は黒光りしていて、顔つきはまさに怪獣映画などに登場する“巨大化したタランチュラ”そのものだった。時にはジャンプすることもあるというこのシドニージョウゴグモ。爬虫類園のスタッフが棒で突くと、鋭い牙をむき出し前脚を大きく広げ、こちらに向かい、ものすごい形相で威嚇してきた。これが夢にでも出てきたら本当にうなされそうだ。

かまれると場合によっては数時間で死に至る世界最強の毒グモ「シドニージョウゴグモ」(筆者撮影)
かまれると場合によっては数時間で死に至る世界最強の毒グモ「シドニージョウゴグモ」(筆者撮影)

これもまた今年2月の話だが、シドニー北部の自宅で物置小屋を片付けていた10歳のマシュー・ミッチェル君が、履いていた靴の中にいたオスのシドニージョウゴグモに指をかまれ、近くの病院に緊急搬送された。マシュー君は全身が痙攣していたため、抗クモ毒の血清12瓶が投与され、幸いにも大事には至らなかったが、この12瓶という血清の量は、これまでに人体に使用された中で最も多かったという。

実はこの抗毒血清、先述したオーストラリア爬虫類園で飼育されている個体から抽出して生成、保管されているが、17年前に園内の建物で大きな火災が起き、保管されていた血清の多くが焼失したことがあった。これにより深刻な抗毒血清不足に陥ったと、地元メディアが大きく報道したことがある。「シドニージョウゴグモにかまれて死亡した例は1981年以来発生していないが、この夏シドニー周辺を襲った熱波で個体が大発生し、被害を受けた人への抗毒血清投与が増加した。もし万が一かまれて放置すれば1時間以内に死に至る可能性もある」と、オーストラリア爬虫類園のティム・フォークナー氏は警鐘を鳴らす。

◇毒グモから身を守るには?

オーストラリアにはこの他にもマウス・スパイダーやホワイト・テイル・スパイダーなど人体に害を及ぼす毒グモがいる。では、このような毒グモにかまれないためにはどうすべきか?オーストラリア爬虫類園では、以下のようにアドバイスしている。

① 衣服や靴やタオルを床などに放置しない。
② 靴などを履く前に必ず中を確認する。
③ 夜に裸足で外を出歩かない。
④ プールやバケツの水の中で溺れているようなクモでも絶対に手で触らない。
⑤ 庭仕事などをする時は、必ず手袋を着用する。

また、運悪く毒グモにかまれてしまったら、以下のような応急処置を勧めている。

① 毒グモにかまれたら、まず安静にして急に動かない。

② シドニージョウゴグモの場合、かまれた箇所を圧縮包帯(シャツなどで代用可)で固定する。指をかまれた場合は、腕全体を包帯で覆うようにしっかり巻く(足も同様)。副え木(無ければ雑誌などでも可)をして腕や足が動かないようにする。

③ セアカゴケグモにかまれたら患部の固定はしないで、アイス・パックなどで冷やし、速やかに病院に行き、抗毒血清を投与してもらう。

④ 毒グモにかまれたと思ったら落ち着いて行動し、救急車を呼ぶなど速やかに専門家のアドバイスを受ける。

一方、州政府や爬虫類園では現在、前述したように抗毒血清不足が心配されていることから、住民にシドニージョウゴグモの捕獲の協力を呼びかけている。捕獲の方法については爬虫類園のウェブサイト(Web: www.reptilepark.com.au)に動画付きで詳しく解説されているが、幼いころから学校や親から毒グモについての教育を受けている一般のオーストラリア人とは違い、野生のクモに慣れていない日本人は、毒グモにはむやみに近づかず、正しく駆除した方が良さそうだ。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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