2014年12月 ニュース/総合


11月17日、キャンベラで豪中FTAの合意文書に署名する中国の習近平国家主席(中央左)とトニー・アボット首相(中央右)。左は中国の高虎城商務相、右はアンドリュー・ロブ連邦貿易・投資相

豪中FTA、交渉妥結−アボット・習会談

牛肉、石炭など関税撤廃−中国頼みの経済に懸念も

豪州と中国との自由貿易協定(FTA)が、交渉開始から9年を経てようやく妥結した。トニー・アボット首相と中国の習近平国家主席が11月17日、キャンベラで行った豪中首脳会談で基本合意した。最大の貿易相手国である中国との貿易協定を経済活性化と投資の呼び水にしたいアボット政権と、環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗する中国指導部の思惑が一致した格好だが、豪州経済の対中依存がさらに強まるとの懸念も浮上している。

協定発効後、中国は輸出が急増している豪州産牛肉のほか乳製品やワインなどの農産物、石炭や銅、アルミなどの鉱物資源に対する中国の関税を即時または段階的にゼロにする。連邦政府によると、対中輸出の95%の関税が撤廃され、豪州側の経済効果は協定発効後の数年間だけでも180億ドルに達する見通しだという。

豪州側にとって特に恩恵が大きいと見られるのは農産物の自由化。来年初めに発効する日豪経済連携協定(EPA)と比較してより踏み込んだ内容となっている。除外された砂糖などの業界団体は反発しているものの、関税が段階的に撤廃されることになった畜産や酪農などの生産者団体は、一様に合意を歓迎する声明を発表した。

アボット首相は17日、ニュージーランドが2008年に対中FTAを締結して以来、5億ドル以下だった中国向けの乳製品輸出額が30億ドル以上に拡大したことを例に挙げて「オーストラリアの農業にとってより良い状況になる。6年前のニュージーランドと同じ土俵に立った」と述べた。

バーナビー・ジョイス連邦農業相も同日、「ニュージーランドは乳製品(の対中輸出)で経済を再生させ、財政を改善させた」と指摘した。その上で、鉄鉱石や石炭など鉱物資源の価格が下落している中で、FTA効果で農産物の対中輸出が伸びれば、経済成長と税収増による財政を下支えするとの認識を示した。

一方、豪州は中国企業の投資規制を緩和する。豪州の外資審議委員会(FIRB)の審査が必要となる中国企業の投資額の下限を現行の2億4,800万ドルから10億8,700万ドルに引き上げる。ただ、中国政府が所有する企業の投資案件についてはこれまで通りFIRBの審査を継続する。また、医療や観光などの分野でも中国企業の進出を解禁する。

 

日本を抜き最大の輸出先に


出典:外務貿易省

豪州にとって中国は最大の輸出先・貿易相手国だ。2013年(通年)の対中商品輸出額は946億5,500万ドル(前年比29.7%増)と全体の36.1%を占め、以前1位だった日本(475億100万ドル)の約2倍に達した。品目別では、全体の半分以上を占める鉄鉱石(526億5,300万ドル)、石炭(90億8,200万ドル)などの鉱物資源が圧倒的に多いが、13年の牛肉輸出額が722万ドルと前年比で4.8倍に急増するなど食糧資源の輸出も拡大している。

中国からの商品輸入額も471億5,000万ドル(6.1%増、全体の19.1%)と1位。中国人の訪問者数が70万9,000人(13年)と2位、留学生数が11万9,000人と1位になるなど、モノだけではなく観光業や教育産業などサービスでも中国の重要性が高まっている。

経済面での結びつきを背景に、豪州の前労働党政権(07〜3年)は安保協力を含む中国との関係を強化した。しかし、05年にスタートしていた豪中FTA交渉は長期化した。市場アクセスの拡大を目指す豪州側と、投資規制の緩和を求める中国側の主張が折り合わなかったとされる。

13年に発足したアボット首相の保守連合(自由党、国民党)政権は、日米との安保の枠組みを強化するなど労働党の「親中政権」とは立ち位置を変えた。その一方で、経済面では2国間貿易交渉を重視する立場から、合計で全体の輸出額の半分以上を占める中国、日本、韓国の東アジア3国との自由貿易協定を14年中に締結すると表明、交渉を加速させてきた。

 

輸出先の多様化に課題

豪州では2000年代前半から主に鉄鉱石の対中輸出が爆発的に増え、中国への資源輸出が経済成長を支えた。中国も成長を維持するためには鉄鉱石や石炭など豪州の金属・エネルギー資源の安定供給は必要。13億人の胃袋を満たすには豪州の豊富な食糧資源も欠かせない。中国が交渉に参加していない米国主導のTPPへの対抗軸を構築したいとの思惑もあるとされる。

交渉の妥結はそうした両首脳の利害が一致した格好だが、政治体制が異なる中国との協定締結を警戒する声は与党内からも出ていた。自由党のビル・ヘファーマン連邦上院議員は11月中旬に公共放送ABCが行ったインタビューで「為替を自由化していない国との貿易協定はありえない」として、政府が為替レートを操作する中国との貿易自由化はリスクが高いと指摘した。経済界の一部からも、投資の自由化は豪州に進出する中国企業を優遇するだけで、規制に阻まれた中国に進出する豪州企業の利益にはならないとの批判も出ていた。

FTA締結で中国依存がさらに高まれば、豪州経済にとってのリスクが増す可能性もある。既に中国経済の減速を背景に鉄鉱石や石炭の商品価格が下落したことで、豪州の資源産業は打撃を受けている。鉄鉱石だけではなく、羊毛など中国向け輸出に過度に依存している商品は少なくない。今後はFTA締結を目指すインドなどほかの新興国市場を開拓し、1国依存を減らす必要がありそうだ。



11月15日、ブリスベンで開かれたG20首脳会議で安倍晋三首相(右)と握手を交わすトニー・アボット首相(Photo: Ray Cash/G20 Australia)

アボット外交成果強調も支持率上がらず

ブリスベンG20首脳会議閉幕

11月15・16日にブリスベンで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20)が閉幕。世界経済の成長促進とデフレ抑制、参加国全体の国内総生産(GDP)を2018年までに2%引き上げる「ブリスベン行動計画」などを盛り込んだ首脳宣言を採択した。

ホスト国・豪州のリーダーとして会議の議長を務めたトニー・アボット首相は「雇用や経済成長で成果を上げた」と強調した。首相はこの後、キャンベラに中国の習近平国家主席とインドのモディ首相を迎え、北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議から続いた一連の外交日程を終えた。

アボット氏にしてみれば外交舞台での活躍を支持率の浮揚につなげたいところだが、支持率は精彩を欠いている。民間調査機関ニューズポールがG20首脳会議開催中を含む14〜16日に実施した世論調査(18日付の全国紙「オーストラリアン」掲載)によると、実際の得票結果に近い「2大政党別支持率」は与党保守連合(自由党、国民党)が45%(1ポイント下落)、最大野党労働党が55%(1ポイント上昇)だった。

各党別支持率は保守連合36%(2ポイント下落)、労働党39%(3ポイント上昇)などとなった。党首別の支持率に相当する「どちらが首相にふさわしいか」の設問では、43%(5ポイント上昇)のショーテン労働党党首が37%(2ポイント下落)のアボット首相を上回った。

アボット首相はG20を無事終えた後、17日には豪中FTA交渉の妥結を発表した。公約の日・中・韓との自由貿易協定締結を実現したが、そうした外交面での実績が評価につながっていない。

G20はリーマン・ショック後、国際的な金融の枠組みを強化するためにG8に加えて主な新興国や「ミドル・パワー」の先進国オーストラリアなども参加して発足した。しかし、参加国が多すぎて意見の集約が難しいとの声もあり、ブリスベンの首脳宣言でも目新しいサプライズはなかった。日程が近いAPEC首脳会議とともに各国首脳の政治ショーと化した感が否めない。世論調査の結果からは、そうした有権者の冷めた意識も読め取れそうだ。



WA州ピルバラ地区クリスマス・クリーク鉱区にある鉄鉱石採掘現場。鉄鉱石価格はピーク時の約半分まで落ち込んでいる(Photo: Fortescue Metals Group)

黒田バズーカ第2弾も、豪株価に重し

鉄鉱石価格低迷で先行きに不透明感

豪州の株価がこのところ足踏みを続けている。黒田・日銀による電撃的な追加緩和を受けた日本の株高とは対照的だ。追加緩和決定前日の10月30日と比較したこれまでの騰落率(11月25日時点)は日経平均株価が1割以上の上昇となった一方、豪株価指数は小幅の下落となった。

米連邦制度理事会が量的緩和の終了を決めた絶妙のタイミングで放たれた「黒田バズーカ第2弾」。日銀が10月31日、電撃的に追加緩和を決定したことを受けて日経平均株価は急騰、11月25日の終値は1万7,407円62銭と追加緩和決定の前日と比較して11.2%の上昇を記録した。欧州の金融緩和への期待や世界経済の先行きへの懸念後退もあって、ニューヨーク株式市場のダウ平均も連日最高値圏で推移するなど株高は世界に波及した格好だ。

しかし、25日のオーストラリア証券取引所(ASX)の代表的な株価指数「オールオーディナリーズ」は5,320.86と同じ期間に2.5%下落した。同「S&P/ASX200」も5,334.79と2.6%下落。好調な日米の株価との落差が際立っている。

豪株価がさえない要因の1つとしては、有力な輸出商品である鉄鉱石などの資源価格の下落を背景に、資源株が低調なことがある。11月25日のASXの資源株指数「S&P/ASX200リゾーシズ」の終値は3,646.21と同じ期間に3.9%下落した。同指数は10月初めと比較すると6.46%の下落、年初比では12.9%の下落と株価全体と比較しても大幅に落ち込んでいる。

なお、いわゆる「アベノミクス相場」が始まった2012年11月からこれまでの騰落率を見ても、日経平均と豪株価の上げ幅のかい離は際立っている。過去2年間の日経平均の上昇率は80%を超え、ダウ平均も40%近く上昇しているが、オールオーディナリーズの上昇率は約20%にとどまる。

もっとも、現在の日経平均は、1989年12月29日に記録した市場最高値(終値)3万8,915円87銭の4割強の水準まで回復したにすぎない。単純に比較できないが、当時のオールオーディナリーズは1,600前後で推移していた。足元では資源価格の下落でもたついていて先行きは不透明だが、長期的なトレンドで見れば、豪株価は経済成長とともに持続的に上昇してきたことがうかがえる。

 

鉄鉱石価格下落で税収大幅減へ

世界的な供給過剰と中国の需要縮小を背景に、鉄鉱石の指標価格は11月20日、1トン当たり70米ドルと過去5年間の最安値を記録した。エコノミストは資源企業からの税収が減ることで連邦政府の財政に影響を与える可能性があると警告している。21日付の公共放送ABC(電子版)が伝えた。

HSBCオーストラリアのチーフ・エコノミストを務めるブロックスハム氏は同放送に対し「鉄鉱石価格が下がれば下がるほど、(企業の)収益の伸びにブレーキがかかって税収を押し下げる圧力になり、政府財政を黒字化することが難しくなる」と指摘した。連邦財務省の試算によると、資源価格の下落による政府の減収幅は今年度20億ドル、来年度40億ドルの水準に達する見通しだという。アナリストの多くは今後1年間は鉄鉱石価格が1トン当たり80米ドルを上回ることはないと見ている。

資源価格の下落を背景に、資源業界では投資の縮小や人員削減の動きが広がっている。資源大手BHPビリトンは24日、今年の投資額をさらに40億ドル削減する方針を表明した。QLD州とNSW州の炭鉱では追加の人員削減も検討するとしている。


衆院解散、豪州の反応は?

日本の安倍晋三首相が11月18日に衆院解散と消費増税を延期する方針を発表したことについて、公共放送ABCテレビのマシュー・カーニー北アジア特派員は19日、解散の狙いは「(安保改革や改憲など)議論の多い政策課題を推進するため、さらに4年間の時間を手に入れる」ことにあるとの有識者の見方を紹介した。また、同特派員は消費再増税の延期について、今年4月の一度目の増税で景気が落ち込んでいることから「消費再増税の前に経済を成長させるためのより多くの時間」が必要になったと指摘した。

日本政治に詳しいニューサウスウェールズ大学(UNSW)キャンベラ校のオーレリア・ジョージ・マルガン教授は25日、東アジア研究者が寄稿するウェブサイト「イースト・アジア・フォーラム」に寄稿した記事の中で、解散は「政治的利益のための冷徹な計算に基づいている」と論じた。その上で、12月21日の総選挙は「実質的な政策課題をめぐる争点よりも、むしろ政治的なご都合主義を表したものだ」と批評した。

同教授は安倍首相の狙いについて、安保改革や改憲を含む困難な政策課題に取り組むため在任期間を合計6年間に延長すること、道半ばにあるアベノミクスを成功させた上で消費増税を含む財政再建に道筋を付けること、党内求心力の低下に火を付けかねない支持率下落に歯止めをかけること、「政治と金」をめぐる閣僚のスキャンダルの払拭、消費増税の延期を得票につなげること、の6点を挙げた。

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