オーストラリア経済の動き(2008年10月~2008年11月)

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2008年10月~2008年11月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

 

やはりバブルであった

1987年12月の最後の株式取引日である大納会で、東証の日経平均株価指数は、史上最高値の3万8,915円を記録した。

当時の市場関係者、企業経営者の多くは、「この株価水準は、日本経済の強さを反映したものであり、インフレ価格ではなく、来年度には5万円台は確実であり、6万円台も可能である」とする強気な見方をしていた。しかし現実には、バブルは破裂し、翌年1988年度末までには約4割下落した。

1割程度の下落であれば、調整局面ともいえるが、4割も落ちれば、これは以前の価格がバブル価格であったと言わざるを得ないであろう。同じことがオーストラリアの株価にも言えよう。

昨年11月に株価指数は史上最高値である6,852を記録した後、一時的に3,800を切る水準にまで下げた。実に45%の落ち込みである。昨年11月の時点でも、まだまだ上がるという専門家が多かった。豪州株式市場も完全にバブルであった。

不動産価格や株価は、短期的には大きく上昇しても、長期的には需要と釣り合うはずである。需要は基本的には所得に比例する。そうだとすると、不動産価格や株価は、長期的にはGDP(国内総生産)の増加率を大きく上回って上がることはない。

オーストラリア経済の場合、実質GDPの長期的成長率は3%程度であるから、正常な価格上昇率は、最大でも6ないし7%程度となる。つまり10年間で2倍であり、このペースを大きく上回るような上昇率は、バブル傾向にあると疑うべきであろう。バブルはいつかは弾けるのである。

 

公定歩合の引き下げ

豪州連邦準備銀行(連銀)は、11月4日開催(11月の理事会はメルボルンカップと同じ日に開催される)された理事会で公定歩合(キャッシュ・レート)を0.75%ポイント引き下げて5.25%とし、翌日から発動する金融政策の変更を発表した。前回に続いて市場の予想を上回る引き上げ率であった。

2008年には、5回目となる今回の金融政策発動の結果、5月時点での7.25%から半年で2%ポイントも下げるという、これまでにない短期間での引き下げとなった。それだけ事態は深刻であると、連銀理事会は認識しているのであろう。

米国に端を発した金融危機は、世界中に拡大し、新興国の実体経済にまで影響が及び始め、国際商品市況の下落が豪州経済に大きな影を落とし始めている、というのが連銀の判断である。これまでの利下げによる投資への刺激、豪ドルの下落による輸出増加傾向や新たな財政政策による景気刺激策を考慮しても、景気の浮揚には不十分であり、さらに金融面からの後押しが必要と考えたのが、公定歩合引き上げの根拠とされた。

消費者物価指数(CPI)の上昇率が5%を超え、豪ドルが暴落している現在、本来であれば金利を引き上げて需要を抑え、ドルを支えるのが通常であるが、それを超える異常事態のために金利を引き下げた、とした。したがって、景気の回復もこれまでの見通しより遅れる、という厳しい見方をしている。世界の金融不安が、豪州の実体経済にまで影響するようになっている事態を、今後も注意深く見る必要がある、と結んでいる。

資源ブームの恩恵もあって、世界の経済先進国の中では比較的に高い成長率を持続していた豪州経済も、予断を許さない状況を迎えている。

 

誰が決定権を持っているのか

日本では、以前は経済政策の決定権は、事実上、旧大蔵省それも主計局に集中していた。予算編成権による財政政策はもとより、本来は日銀が持つ金融政策も、陰で決定権を握り、経済政策の総合調整役である旧経済企画庁も事実上、傘下に置いていた。

現在では日銀法の改正により、日銀の独立性が強化され、金融庁の発足で金融政策の実行役が分離され、経済政策の総合調整役も内閣府の一部門として強化された。現在の財務省は、以前ほどの強大な政策決定力はなくなっている。しかし、担当大臣が短期間で交代する日本の政治制度では、情報を独占する官僚組織が現実の決定権を握っているという事態には、大きな変化は見られない。

オーストラリアではどうであろうか。同じような議院内閣制度が採用されているが、大臣の在職年数が長く、政策決定の主導権は、政治家である各省大臣が持っているとみられていた。しかし、今回の金融機関での預金保護制度の決定過程を見る限りでは、日本と同様に、官僚、しかも、特定の人物が本当の決定権をもっているのではないかという、疑念を抱かせる出来事が発生した。

世界を震撼させた金融不安を目の当たりにしたラッド政権は、正式な預金保護制度がないために、10月12日、銀行や住宅貯蓄組合、信用組合の預金については、3年間全額連邦政府が保証するとの声明を発表した。

経済政策に実績や経験の乏しいラッド連邦首相は、長く影の内閣財務相を務めていて経済政策には実績のあるスワン連邦財務相が海外出張中で、ケン・ヘンリー財務省事務次官のアドバイスに従ったのであろう。しかし、この最初の声明は、金融市場に大きな変動をもたらした。

資金が、100%保護される銀行などの預金になだれのように流れ込んだのである。保護の対象とならない投資信託などでは、解約が続出し、大手投資信託会社の中には、流動性に余裕がなくなり、解約による引き出しに応じない事態となった。その後、連邦政府は、預金保護は無制限ではなく、100万ドルまでとし、それを超える分には預金保険料を適用するとの方針に転換している。

この転換の背景には、連銀側からのアドバイスがあったようである。ラッド連邦首相としては、政府声明が市場での資金の流れまでも大きく変えてしまうことまでは、想定外のことだったのかもしれない。

この政策決定に主導的な役割を果たしたとされるケン・ヘンリー財務省事務次官(50歳)は、ニュージーランドでの大学講師の経験を経て、1984年に豪州財務省に入り、2001年にトップの座に就いた。もともと租税経済学が専門で、ポール・キーティング元財務相(当時。のちに連邦首相)のアドバイザーとして頭角を現し、1996年に政権が交代しても、主流の道を歩き続けた。

2000年のGST導入で主導的な役割を演じて、間もなく事務次官に就任した。その後、7年間以上も次官の職を保持している。日本の各省事務次官がほとんど1年で任期を終え、退官するのとは対照的である。

財務省事務次官は、同時に、あて職(ex-officio)として連銀理事も兼職しており、財政政策と金融政策の両方に関与できる、唯一の立場にあるといえる。職務上大きな権限を持つ上に、政権交代にもかかわらず、長期間その職位にいるのであるから、事実上、ヘンリー次官が最終的な経済政策の決定権を持っているといっても過言ではないであろう。稀少動物の保護運動に尽力したこともあって、最高位の国家叙勲も受けている同氏が、あまり国民に知られていない面で大きな力を持っていることを明らかにした、今回の決定であった。

 

相次ぐ経営破たん

サブプライム問題が顕在化する前から、いくつかの企業の経営危機が伝えられていた。その多くはバブル化した経済の中で過剰な投資をしたり、過大な債務を背負った結果、元利払いの負担が大きくなり、経営危機が表面化したものである。表に表れているもの以外にも多くの予備軍ともいうべきものがあり、今後、豪州経済の雇用にも大きな影響を与えるものと懸念される。

投資企業Allco Financeは、数多くの関連企業を抱え、空運や海運の事業などにも出資している投資会社であるが、今年3月から経営破綻状態となり、経営陣を一新して、資産の切り売りや債務の縮小により、何とか事業の継続を図ってきた。しかし、11月4日には完全に行き詰まり、破産管財人が任命され、事実上、終止符が打たれた。今後は、清算が行われるが、株主への配当はないと見られている。過剰な投資と世界経済の環境変化が破綻の要因と考えられる。

オーストラリア最大の保育園事業企業であるABC Learning社の経営破綻は、社会的影響が大きかった。小さな保育園から出発し、全国最大のチェーン網を展開した同社は、その余勢を買って、米国に進出したのがつまずきの原因となり、資金繰りがつかないことで経営破綻となった。11月6日に破産管財人が任命された。

保育園事業を継続することの必要性から、連邦政府は当面、2,200万ドルを出すこととしたが、その余命効果も12月末で終わりとなるので、それまでに、引き受ける企業などを見つけることが必要となる。

管財人の調査では、40%の保育園が赤字経営となっており、もともと乱脈的な経営が行われていた疑いがある。1万6,000人のスタッフと12万人の保育園児を抱える同社の経営破綻は、保育園事業をすべて民間企業に任せておいていいのかという、国の保育行政に関する問題を突きつけている。

そのほかの大きな経済ニュースとしては、鉄鉱石の問題と失業率の問題を指摘しておきたい。

資源ブームの主人公の1人であった鉄鉱石も、表舞台から降りそうである。中国をはじめとする需要の高まりにより、ここ数年は倍々ゲームでの価格上昇が続いていた鉄鉱石価格も、需要の減退に伴い、スポット取引価格が今年7月から40%も下落している。この傾向が続く限り、大手需要家である鉄鋼メーカーとの来年度の価格交渉では、同じような引き下げが求められることになろう。世界の3大鉄鉱石生産者であるブラジルのVale 社、リオティント社とBHPビリトン社も減産を余儀なくされることになろう。さしもの資源ブームも大きな転換期を迎えている。

オーストラリアの経済的動向は、まずNSW州に最初に現れる傾向がある。10月の失業率は、同州で5.2%となり、唯一上昇した州となった。全国的には、これまでの30年間で最も低い水準である4.3%のままであった。世界の金融危機の影響は、まず、金融関連に表れており、同事業が集中する同州に失業が集中している。実体経済の悪化に伴い、失業率上昇傾向は、全国的に見られるようになろう。

そのほかの経済ニュースとして、メディア事業にも大きな基盤を持っていたパッカー家の3代目であるジェームズ・パッカー氏が完全にこの分野から撤退し、ギャンブル事業に専念することとなったことや、世界的な不況の中でルパート・マードック氏の率いるニューズ社も減益を余儀なくされ、経営的にも曲がり角を迎えていること、などが大きな話題となった。

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