ターンブル改造内閣の発足

政局展望

ターンブル改造内閣の発足

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

2月13日、保守連合のターンブル首相が改造の内容を公表している。18日にはキャンベラのコスグローブ連邦総督公邸で認証式が執り行われ、ターンブル改造保守連合政権が正式に発足した。

改造の背景とタイミング

今回の改造は、第1に、自由党のブリッグス投資・環境整備大臣が、セクハラ絡みのスキャンダルのために閣僚を辞任し、第2に、スリッパー元下院議長関連のスキャンダルで、閣僚を停職中であった自由党のブラフ特別国務相兼国防調達・科学相が、自ら正式に閣僚を辞任、第3に、自由党のロバート人的サービス相兼退役軍人相が、中国ビジネス絡みのスキャンダルのため閣僚を辞任、第4に、自由貿易交渉で大活躍した自由党のロブ貿易・投資相が、今期いっぱいで政界から引退することを表明、そして第5に、国民党党首のトラス副首相兼インフラ・地方開発相が、今期いっぱいで政界から引退することを表明、という一連の出来事によって実施されたものである。最後の要因だが、豪州の政治家としてはかなり高齢のトラスが、今期内に政界から引退することは確実視されていたものの、実はトラスは3月中旬以降の引退公表を望んでいたとされる。その理由は、強力な歳出閣僚委員会のメンバーとして、5月に公表される次期連邦予算案の編成作業、策定過程にできるだけ長く関わり、国民党の要望をかなりの程度予算案に盛り込ませたかったためであった。トラスとしては、それを見届けた上で、あるいは、それを国民党への最後の置き土産にして、勇退したかったのである。

閣僚の更迭や辞任が続き、女性や若手登用で一新したターンブル改造内閣。写真は、昨年9月21日、連邦総督邸の内閣認証式に出席したマルコム・ターンブル首相(左)
閣僚の更迭や辞任が続き、女性や若手登用で一新したターンブル改造内閣。写真は、昨年9月21日、連邦総督邸の内閣認証式に出席したマルコム・ターンブル首相(左)

ところが、政府閣僚のスキャンダル、閣僚ポストの空席状況、そして税制改革問題での政府の「腰砕け」に対する批判といった、直面する政府の苦境を「リセット」するためにも、また何と言っても、年内には次期連邦選挙が実施されることから、ターンブル政府としても可及的速やかな改造が必須であった。そして改造のためには、トラスが早急に自身の去就を明らかにすることが不可欠であり、実際に2月2日に連邦議会が再開されて以降は、トラスが早期に引退声明を行うことへの与党内の「期待感」も高まりつつあった。そこで、トラスも当初の予定を早めて公表した次第である。なお、国民党の新党首にはジョイス農業・水資源相が(兼国民党副党首)、「異議無し」で選出され、一方、副党首には、接戦の末に女性のナッシュ地方保健相が選出されている。女性が国民党の副党首となるのはナッシュが初めてである。

改造の内容

13年9月にスタートしたアボット第1次保守連合政権の閣僚総数は、法律による総数制限枠である30人で、そのうち、閣内閣僚の数は、野党時代の影の閣内閣僚数よりも1減少して19となり、また閣外閣僚の数は、影の閣外閣僚数よりも1減少して11人であった。ちなみに「内閣」あるいは「閣議」といった場合は、通常は閣内閣僚で構成され、閣内閣僚が常時出席する会議を指し、閣外閣僚は必要に応じて会議に出席するという形をとる。全閣僚30人が参集する会議は、通常は年にわずかしか開催されない。

一方、閣僚への登竜門とされ、幹部政治家と見なされる、あるいは広義の「フロント・ベンチャー」に含まれる政務次官の人事だが、法律で最大12人との制限があることから、野党時代に存在した15人の影の政務次官は3人削減され、合計では12人であった。昨年9月のターンブル第1次組閣では、閣内閣僚の数が2人増えて21人となった一方で、法律による閣僚数の制限枠の存在から、閣外閣僚の数は2人減少して9人となった。政務次官の数も法律枠いっぱいの12人であった。ただし、ターンブルはやや紛らわしいことに、政務次官という名称を補佐大臣(Assistant Ministers)という名称に変更している。今回のターンブルの改造では、閣僚総数は最大数の30人であるものの、閣内数の数が1増加して22人となり、逆に閣外相の数は1減少して8人となった。政務次官数は最大数の12人であるが、今回は計4人が初めて政務次官入りを果たしている。

具体的な改造内容は、(1)トラス国民党党首兼副首相が閣僚を辞任し、トラスの後任の国民党党首、すなわち副首相に、現行の所掌を保持した上でジョイス農業・水資源相が就任、(2)トラスの所掌のインフラ・運輸を、国民党の国防担当補佐相であったチェスターが担当(注:閣外相を経ずにいきなり閣内相に大抜擢された)、(3)ロブ貿易・投資相が閣僚を辞任し、後任の閣内の貿易・投資相には自由党の閣外相のチョーボ国際開発・太平洋地域相が就任、(4)チョーボの後任の国際開発・太平洋地域相に、自由党の多文化問題補佐相であったフィエラバンティーウェルズが就任(注:初入閣)、(5)国民党新副党首に就任したことに伴い、国民党の閣外相であったナッシュ地方保健相が、閣内の地方開発・地方通信・地方保健相に就任、(6)閣内のコーマン予算相の所掌に特別国務が追加に、(7)ブラフおよびロバートの一部所掌を受け継ぐ閣外の退役軍人・国防調達相に、自由党陣笠議員のティーアンが(注:初入閣)、(8)閣外の北部担当相に国民党陣笠議員のカナバンが就任(注:初入閣)、(9)ロバートの一部所掌であった閣外の人的サービスを、自由党の首相補佐相であったツッジが担当、そして(10)閣外相から更迭された国民党のハーツカー職業訓練・技能相の後任に、自由党のライアン官房長官補佐相が就任、などとなっている。

改造の特徴

13年9月に誕生した第1次アボット保守連合政権の組閣は、(1)安定性・持続性の優先、(2)世代交代の希薄さと信賞必罰人事の希薄さ、(3)適正な政党バランス、(4)上院議員の厚遇、(5)女性議員の軽視、(6)州等別閣僚バランスの軽視(自由党)、(7)穏健派の厚遇(自由党)、などを特徴とするものであった。アボット政権は14年12月に第1次の改造を断行をしたが、その内容は軽微なものであり、したがって改造後も上記の特徴はほぼ維持されていた。

一方、昨年9月に発足したターンブル第1次保守連合政権の組閣内容は、①かなり大規模な改造、②実力主義人事と世代交代、③ほぼ適正な政党バランス、④両院議員のバランス重視、⑤女性議員の登用、⑥州等別閣僚バランスの軽視(自由党)、⑦穏健派の厚遇(自由党)、などを特徴とするものであった。それから5カ月弱を経て実施された今回の改造にも、上記の7特徴の多くが看取される。

例えば、⑤の女性議員の登用について見てみよう。13年の連邦選挙で下野した直後、しばらく野党労働党の暫定リーダーを務めていたボーウェンは(注:元財務大臣。現在は影の財務相)、アボット第1次政権の組閣内容が公表された直後に、アボット政権の女性閣内閣僚の数は、アフガニスタン政権の女性閣僚数よりも少ないと、ユーモアたっぷりに新政権を揶揄していた。実際に同政権の閣内19閣僚の内、女性はビショップ外相だけで(兼自由党副党首)、これに対してイスラム社会のアフガンでは、閣僚の内の3人が女性となっていた。確かに、閣内入りが確実視されていたミラベラ影の産業相が、13年下院選挙の最大級の番狂わせで落選したことから、女性の閣内閣僚数が予定よりも1減少したし、また女性の閣外閣僚数は、国民党のナッシュ、自由党のレイ、ペイン、そしてキャッシュの合計4人と、野党保守連合時代の影の閣外女性閣僚数と同数ではあった。ただ、度重なるラッドとギラードとの権力闘争で、実力派の男性議員が払底気味であったとは言え、13年7月に公表されたラッドの第2次組閣では(注:ラッドは同年6月に首相に返り咲いている)、閣僚30人の内の女性閣僚数は、閣内に6人、閣外に5人と、合計では実に11人にも上っていた。さらに言えば、ギラード政権の執拗なアボットに対するスミアー・キャンペーンが功を奏し、一部の国民の間では、強硬保守のアボットは「アナクロ」で、女性蔑視、男性優位主義者、といったパーセプションが醸成されていたため、アボット第1次政権の組閣内容が、一層メディアや世論の批判を惹起したのである。なお、アボット政権の14年12月の第1次改造でも、レイ1人が閣内に加わっただけで、依然として女性閣内相の数はわずか2人であった。一方、レイが抜けた結果、改造後の女性閣外相の数は3人となっていた。

これに対して、昨年9月の第1次ターンブル政権でも女性の閣僚占有率は20%と、アボット政権時代の17%と大きな差は無いものの、重要な閣内相だけの占有率で見てみると、第1次アボット政権の組閣時にはわずか5.3%、アボット第1次改造時でも10.5%であったのが、第1次ターンブル組閣では一挙に23.8%にまで急上昇している。しかも今回のターンブルの改造では、合計30人の閣僚中、男性は23人で女性は7人、男性の占有率は76.7%で、女性は23.3%、重要な閣内相では男性占有率が72.7%、女性の方は27.3%にも達している。以上からも、今次改造の特徴の1つが、ターンブル第1次組閣と同様に、女性の積極的登用であるのは明らかである。附言すれば、ナッシュが国民党の副党首に選出されたことから、4大政党、すなわち、自由党、国民党、労働党、そしてグリーンズの4党全ての副党首が女性となった。

他方で、今回の改造では、かつてのターンブル組閣の特徴に反する特徴が看取される。それは、③のほぼ適正な政党バランス、すなわち、連立している自由党と国民党との閣僚配分バランスに関するもので、具体的には、ターンブル第1次組閣ではやや国民党に寛大であったものの、ほぼ適正であった両党のバランスが、今回の改造では国民党にかなり偏重したものとなっている点だ。国民党にはNSWとQLDに2人ずつ、またVICとNTには1人ずつと、計6人の上院議員がいるが、国民党の割当て閣僚数を決める場合に重要となるのは、国民党の下院での獲得議席数、より正確には、主として保守連合の下院議員全体における、国民党下院議員の占有率である。13年9月の選挙以降、下院の政党勢力分布、並びに保守連合議員の勢力バランスにも変化は無く、定数150の下院で保守連合は90議席、野党労働党は55、そしてグリーンズの1を含む「その他」が5となっている。また保守連合90の内訳は、自由党下院議員数が75人で、国民党は15人となっている。ハワード保守連合政権では、ハワードが良好な連立関係の維持を優先したために、組閣や改造で国民党は必要以上に厚遇されてきたが、アボット第1次政権の組閣の場合、国民党の連邦下院議員占有率が16.7%に対して、同党の閣僚占有率も全体では同率の16.7%と、アボット政権の政党閣僚バランスは極めて適正なものとなっていた。

一方、昨年9月の第1次ターンブル政権の組閣だが、閣内の閣僚数が19から21へと上昇し、また増加した2閣内閣僚は自由党議員によって占められたことから、閣内における国民党の占有率は低下している。他方で、閣外閣僚総数は2減少したものの、国民党は2ポストを保持したことから、閣外では逆に占有率は上昇している。全体では16.7%と全く変化は無い。ただ、より細かく分析した場合、ターンブルの第1次組閣は、やはり国民党にはプラスであった。

その理由は、農業従事者にとって死活的に重要な、したがって国民党にとっても極めて重要な水資源の所掌が、自由党のハント環境相の所掌から、国民党のジョイス農業相の所掌へと異動したからだ。これは自由党穏健派のターンブルが、右派で、しかもアボット寄りの議員が多い国民党におもねるための人事であった。また占有率うんぬんといっても、実のところ絶対議員数の少ない国民党では、やはり自由党よりも人材が払底しており、自由党であれば決して閣僚とはなれないような二流の国民党政治家が、これまで閣僚ポストを与えられてきたことも事実である。

要するに、ターンブルの第1次組閣も、数字の上ではほぼ適正な両党バランスとは言え、実情は国民党に対して甘いものであった。ところが今回の改造では、その傾向がますます強まっている。すなわち今回の改造では、選挙が実施されて国民党の議員占有率が上昇したわけではないにも関わらず、重要な閣内閣僚ポストの国民党への割当て数が、これまでの3から4へと増加しているのだ。これは、穏健派でスマートな都会型政治家のターンブルが、右派で「土の香りのする」国民党との関係、そして典型的な国民党政治家であるジョイス党首との関係をいかに重視しているか、というよりも、関係に不安を抱いているかの証左とも言えよう。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る