ターンブル保守連合政権の中規模改造

ターンブル保守連合政権の中規模改造

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

2017年12月19日、自由党のターンブル首相が記者会見を開き、第2次ターンブル保守連合政権の第2次内閣改造の内容を公表している。20日にはキャンベラの連邦総督公邸で認証式が執り行われ、同日より正式に改造内閣がスタートした。

改造のタイミングと動機

政権党は次期選挙を戦う前に、政府が実力主義で選ばれた精鋭で構成されているとのイメージ、あるいはフレッシュなイメージを有権者に売り込むため、内閣の改造を実施することが一般的である。この動機に基づく改造は、2大政党共に次期選挙の予想時期のほぼ1年ほど前に実施されることが多い。その理由は、選挙からあまりにかけ離れた時期では、改造による「フレッシュ効果」も選挙までに薄れてしまい、逆に選挙に近過ぎた場合には、新しい所掌を担当した閣僚が、選挙直前に担当分野の知識不足を露呈することで、政府がダメージを受けるといった危険性があるからだ。

一方、次期連邦選挙は通常の形態となる。すなわち、下院の解散と上院半数改選の同時選挙となる公算が高く、その場合、選挙実施日は最も早くて今年の8月4日、最も遅くて2019年の5月下旬となる。以上の点から、今回の改造もタイミング的には納得のいくものである。

なおアボット保守連合政権が誕生したのは13年9月で、ターンブル保守連合政権の誕生は15年の9月であったが、15年9月のターンブル第1次組閣、そして17年7月選挙後のターンブル第2次組閣の他に、ターンブルは16年2月及び17年1月に、それぞれ小規模な改造を実施している。ただ両改造共に、その動機は主として、スキャンダルによって更迭された閣僚の穴を埋めるという、後ろ向きで事務的なものであった。これに対して今回の改造は、上述したタイミングの点からも、またスキャンダル等で更迭された閣僚が不在な点からも、更に中規模という改造の規模から見ても、典型的な次期選挙対策改造と見なし得るものであった。

ただ、ターンブルによる今回の改造の動機として同じく重要であったのは、夏季休暇を前にして、これまでの悪しき状況を「リセット」し、今年の2月初旬から再開される議会で好スタートを切りたい、とのターンブルの強い思いであった。その背景には、各種世論調査での一貫した低評価に喘ぎ、また保守連合内の求心力の弱さに苦しんできたターンブルにも、昨年の末近くになってようやく順風が吹き始めたとの事情がある。とりわけ12月16日に実施された、NSW州ベネロング連邦下院選挙区補欠選挙での勝利は、ターンブルの指導者としての権威を高め、同時に保守連合内の士気、ムードを高めるものであった。

ターンブルとしては、人事権という首相の持つ強力な権限を行使して、せっかく高まった自身の権威を固定化し、年明け早々から野党労働党に攻勢をかけるためにも、中規模の改造を実施することが必要であったのだ。

改造の内容

自由党のマルコム・ターンブル連邦首相

自由党のマルコム・ターンブル連邦首相

閣僚の構成や数だが、閣僚は閣内閣僚と閣外閣僚に二分され、法律によって総数は最大30人に制限されている。ちなみに、「内閣」あるいは「閣議」といった場合は通常、閣内閣僚で構成され、閣内閣僚が常時出席する会議を指し、閣外閣僚は必要に応じて会議に出席するという形をとる。全閣僚が参集する会議は、年にわずかしか開催されない。

16年の7月2日には連邦選挙が実施され、何とか辛勝したターンブル政権は、同月18日に第2次政権の組閣人事を公表したが、閣僚総数は30人のままであった。ただ閣内閣僚数は1増加して23人となり、その分閣外閣僚数は1減少してわずか7人となった。23人という閣内閣僚数は、実に1975年以降で最大の規模で、また96年3月に誕生したハワード保守政権に比べ25%も大きなものであった。

一方、17年1月に実施された小規模改造では閣内閣僚数は1減少したものの、閣外相や補佐相、あるいは陣笠議員からの昇格はなく、結局、閣内相の数は22人となり、閣外相の数は逆に1増加して8人となった。ところが今回実施された中規模改造では、ターンブル第2次政権の組閣と同様に、再度閣内閣僚数23人、閣外閣僚数7人へと戻っている。

そもそも閣内相制度を導入したのは、閣議での議論、政策/意思決定過程を効率的なものにするためであった。その観点からすると、閣内相数は最大でも20人程度とすべきであろう。

重要な閣内閣僚の改造内容としては、①ブランディス法務大臣が政界から引退し、駐英国豪州大使に就任、②ブランディスの後任の法務相にポーター社会サービス相、③ポーターの後任の社会サービス相に閣外相であったティーハンが(注:閣内相に昇格)、④癌で闘病中のシノディノス産業・イノベーション・科学担当相が閣僚を辞任(注:上院議員は継続)、⑤雇用の所掌を保持した上で、キャッシュがシノディノスの所掌を継承(注:雇用・イノベーション担当相)、⑥チェスター・インフラ・運輸相が陣笠議員に、⑦チェスターの後任には国民党党首兼副首相のジョイス農業・水資源相が、⑧ジョイスの後任には陣笠議員のリトルプライドが(注:いきなり閣内相に)、⑨ナッシュ国民党副党首兼地方開発・地方公共団体兼特別地域・地方通信相が上院議員を辞職、⑩ナッシュの後任の副党首兼地方保健・スポーツ・地方通信相に陣笠議員のマッケンジー(注:閣内相に昇格)、⑪ナッシュの後任の地方開発・地方公共団体兼特別地域相に陣笠議員のマクベイ(注:閣内相に昇格)、⑫閣外相であったキーナンが閣内の人的サービス・デジタル革命相に、そして⑬コーマン予算相に特別国務の所掌が追加され、またコーマンはブランディスの後任の保守連合上院リーダーに就任(注:閣外のライアン特別国務相は上院議長に就任)、等となっている。

以上のように、今回の改造は予想を上回る中規模改造であり、これはターンブルの党内の権威が高まったことを示唆するものであった。

改造の特徴

今回の中規模改造の特徴や意味合いとしては、まず第1に、自由党穏健派のターンブルによる党内右派の重視、懐柔が挙げられる。今次改造では、通常通り何人かの「勝者」が発生したが、最大の勝者と見なし得るのは移民・国境保全担当相から新設の内務相に異動したダットンであった。この内務省構想は既に昨年の7月に公表されたもので、しかも公表の時点で、ダットンが担当相に就任することは決定済みであった。

内務省構想とは、テロ対策等を念頭に置いた、治安/情報関連連邦政府機関の再編策で、主要骨子は、独立した法定機関ではあるものの、法務省が所管する国内治安担当の豪州安保・諜報庁(ASIO)や豪州連邦警察(AFP)等の機関を、移民や市民権、国境保全、通関を所管する移民・国境保全省に移管して、英国のそれをモデルとした「内務省」を新設し、ダットンに担当させるというものであった。

加えて今回の改造では、キャッシュも雇用分野ばかりか産業分野までを担当する等、「スーパー閣僚」となり、またコーマン予算相も特別国務の所掌を追加されたばかりか、保守連合の上院リーダーにも抜擢され、そして社会サービス相のポーターはより「格の高い」法務相へと異動し、更に閣外相であったキーナンが閣内相に昇格したが、ダットンはもちろんのこと、キャッシュ、コーマン、ポーター、キーナンの4人も全員が自由党の右派である。

今次改造の第2の特徴は、WA州並びにQLD州の重視である。イデオロギーに基づく「派閥政治」を特徴とする労働党では、閣僚人事を決める際には、当然のことながら派閥バランスが最重視される。一方、労働党は閣僚の出身州別バランスなどについては、これまで相当に無頓着であったと言える。これに対して自由党の場合には、労働党とは異なり、議員が「所属する」派閥は存在しない(注:右派や穏健派といった分類は、あくまで議員の思想傾向を分類したものに過ぎない)。他方で、労働党に比べて州組織の独立性が高いことから、自由党では組閣や改造の際に閣僚の州別バランスには大きな配慮が払われる。

具体的には、自由党下院議員全体に占める各州の自由党議員の割合に配慮しつつ、各州の閣僚数を決めるのが普通である。なお各州の上院定数は同数の12ずつで、また各州の自由党上院議員の数にはあまり差はないので、上院の状況についてはほぼ無視されることが一般的である。

さて上述したように、今回の改造ではダットンに加え、キャッシュ、コーマン、ポーター、キーナンの4人も明瞭な「勝者」となったが、ダットン以外の4人全てがWA州の政治家である。しかもWA州の自由党閣内閣僚には、外相で自由党副党首のビショップもいることから、WA州には計5人もの閣内閣僚が存在していることとなる。ちなみにビショップだけは自由党の穏健派に分類できる。

WA州重視の背景には、かつては保守の牙城とされてきたWA州も、主として財・サービス税(GST)分配額への不満から、連邦政府に不満を抱いており(注:ターンブル保守政府の責任というわけではないが)、次期連邦選挙でターンブル政府への抗議票の発生が懸念されているとの事情がある。

一方、今次改造にはQLD州重視の姿勢も看取される。まず、今次改造での最大の「勝者」とも言えるダットンはQLD州出身であるし、また改造では国民党の1年生議員の2人、すなわちリトルプライドとマクベイという、一昨年7月の選挙で初めて連邦政界入りし、しかも陣笠議員に過ぎなかった2人が、閣外閣僚どころか政務次官も経ずに、いきなり閣内閣僚に大抜擢されたからだ。これは後述するように、保守連合に負のインパクトを与える恐れのあるものだが、ただ今次改造におけるQLD州重視の姿勢は否定できない。その背景には、次期連邦選挙においてはQLD州での戦績が重要であることや、同州が極右政党ワンネーション党の本場であること、そして同州の自由国民党が、QLD州選出保守連合議員の閣僚数が少ないとして不満を抱いてきたこと、等の事情がある。

改造の問題点

今次改造の第3の特徴、かつ最も重要な特徴は、国民党閣僚人事の稚拙さである。具体的には、ほぼ「無名」かつ「能力が未知」のQLD州選出陣笠議員2人を、いきなり閣内相に抜擢した一方で、閣内閣僚で、しかも国民党閣僚の中では高パフォーマンスを発揮してきたVIC州選出のチェスターを、一挙に陣笠議員にまで更迭したことであった。

かつての日本の自民党のように、閣僚となるための必須要件が当選回数の多さというのとは異なり、確かに豪州では新人議員でも閣僚に抜擢されるケースがあり、一方でベテラン議員でも陣笠議員のままで引退を迎える政治家も多い。ただよほどの大物でない限り、通常は閣外閣僚、少なくとも政務次官を経て閣内閣僚となるのが一般的で、1年生陣笠議員がいきなり閣内相となるのは、実力主義の豪州でも稀である。

以上のような、ジョイス国民党党首による「驚愕」人事の理由は、上述したQLD州の重視にあった(注:通常国民党は、閣僚の州バランス等は無視することが多いのだが)。すなわち背景には、現在の自由党と国民党との連立協定によれば、国民党には5つの閣内閣僚ポストが保証されているのだが、つい最近、副党首であったナッシュ上院議員が二重国籍問題で議員を辞職し、その後の党内選挙でVIC州選出のマッケンジー上院議員が副党首に就任したとの事情がある。その結果、陣笠議員に過ぎなかったマッケンジーは、自動的に閣内相に昇格することになったのだが、問題はVIC州選出の国民党議員はわずかで、マッケンジーの昇格に加えてチェスターまで閣内相に留任すれば、QLD州自由国民党の不満、怒りが一層高まることであった。

そこで、チェスターの解任となったわけだが、これにチェスターが憤慨したのは当然として、この人事は国民党内、更に保守連合内の求心力を再度低下させ、せっかく高まったかに見えた政府のモーメンタムを弱めることとなったのである。

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