財・サービス税(GST)の分配問題

財・サービス税(GST)の分配問題

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

7月5日、モリソン連邦財務大臣が、財・サービス税(GST)の各州等への分配問題に関し分析した、生産性委員会(PC)(注:連邦財務省傘下のシンクタンク的機関。経済合理主義者の牙城とされる)の調査・分析報告書を公表すると共に、GST分配額算定方式についての政府の新政策を公表している。新政策は、いわゆる「水平的財政均衡」の原則は保持した上で、現行算定方式に内在する分配額の「不公平さ」や、「外的要因による変動性」を除去することを目的としたもので、しかも算定方式の変更に際しては、全国8政府/地域の全てが(注:全国6州とACT、NT政府)、「勝ち組」となるように配慮するというものである。

財・サービス税(GST)収入の分配

20年近く前の2000年7月1日に、当時のハワード保守連合政権によって施行されたGSTは、実に11年7カ月にも及んだ同政権の実績の中でも最大級のものである。これまで効率的な成長税として高い評価を受けてきたGSTだが、GST制度に手を加えること、とりわけGSTの増税論議は、長期にわたってタブー視されてきた。その最大の理由は、GSTは連邦税であるものの、例えばGST税率の上昇や課税範囲の拡大には、6州及びNTとACTの全ての政府が同意し、かつ連邦議会が承認することが必要であるなど、制度変更が極めて困難であるからだ。そのため、GST制度の改革問題が政治の表舞台で真剣に取り上げられたことはなかったのである。

新たなGST分配額算定方式について公表したスコット・モリソン連邦財務大臣
新たなGST分配額算定方式について公表したスコット・モリソン連邦財務大臣

確かに、最近になってようやくアボットやターンブルが増税問題を示唆、あるいは取り上げてはいる。ところが改革の動きは早々と頓挫したし、また近い将来にGST増税策が真剣に検討される公算も低いと言わざるを得ない。ただし、連邦・州等首脳会議(COAG)において(注:全国的な取り組みが必要とされる問題に対処するための首脳会議。出席者は連邦、各州等政府の長、そして地方政府の代表)、これまでにも盛んに論議されてきたGST関連のイシューがある。それが、モリソン財務相が新政策を公表した、GSTの州等政府に対する分配、交付問題である。それどころか分配問題は、最近ではCOAGの「常連アジェンダ」となっており、その背景には、とりわけ自由党のバーネット前WA州首相が(注:前回WA州選挙で敗北)、同問題を執拗に議題化、政治問題化してきたとの事情がある。

さて上述したように、GSTは連邦によって徴収される連邦税だが、膨大な税収の全額が自動的に州等政府へと交付され、それに伴って、連邦から州等政府への「使途指定なし交付金」は廃止された。ただし、連邦の直接的なコントロール下にある「使途指定交付金」は依然として存続しており、またGSTにしても、連邦は各州等への分配額決定に強く関与している。

各政府への分配額に関しては、独立機関である連邦交付金委員会(CGC)が独特の算定/査定方式に基づき決定し、それを連邦政府に勧告する。同委員会が採用している分配額決定の基本原則は、「水平的財政均衡」(Horizontal Fiscal Equalization)の原則と呼称されており、これは他州等と比較して重税感を強めることなしに、各州等政府が住民にほぼ同水準の公共サービスを供与できるようにGSTを分配するというものである(注:ただし州等政府が、はたして受領したGST分配額を標準的サービスの達成に使っているかどうか、チェックするメカニズムは存在しない)。

この原則に依拠すると、強力な州が、あるいは過去に財務体質の強かった州が、より弱小の他州等を支援、補助することとなり、強力な州のGST徴収額比率が、同州へのGST分配額比率を大きく上回るという事態となる。そのため、伝統的にNSW州やVIC州といった大州、あるいは景気の良い州は、自州への分配額を増大させるため、これまでとは異なる分配額算定式、あるいは算定式に新たな要因を加味するよう提言してきたという経緯がある。

ちなみに頻繁に提案されてきたのは、GSTの分配方式を「人口割り」、すなわち、住民1人当たりの額を同じにするとの方式に変更するというものである。ところが新分配額算定方式の採用とは、必然的に弱小州の政府、具体的にはSA州やTAS州、そしてNTへのGST分配額が著しく減額されることを意味する。そのため、弱小政府は変更に強く抵抗、反対してきたのである。ただ現行の分配制度が、「強力州の成功に対して罰則を与える」ような分配、逆に「弱小州の怠慢に対し褒美を与える」ような分配であることは否めない。

現行分配制度下での「想定外」の問題点

分配額算定方式に関しては、以前より問題点が指摘されてきたとはいえ、同イシューが最近になって大きく注目されるようになったのは、00年のGST制度導入時には想定されていなかった現象が発生したためであった。それは、州経済が資源・エネルギー部門に大きく依存するWA州が、中国経済の急発展による空前の資源・エネルギー・ブームのお陰で、「全国で最も財政能力の高い」政府に躍り出たことであった。

「水平的財政均衡」原則とは、最も財政能力の高い州政府を「手本」、あるいは「ベンチマーク」とし、その他の州等政府が何とか「ベンチマーク」に近づくよう、GSTを分配することによって達成される。そしてGST導入時に想定され、実際にその後「ベンチマーク」となった州とは、多種多様な経済部門を抱え、従って比較的安定した経済、大規模な経済を持つNSW州やVIC州であった。ところが、想定外であったWA州経済の台頭によって、主として2つの問題が生じることとなった。

具体的には、不公平さと不安定さという2つの問題が惹起(じゃっき)されたことである。まず資源・エネルギー大州であるWA州では、空前の資源・エネルギー・ブームによって、とりわけ鉄鉱石のロイヤリティー収入が莫大な額となったが、一方で、「水平的財政均衡」原則に基づきGSTの分配額の方は大きく減少し、せっかくのロイヤルティーの増収も、事実上、主として他州等の政府を潤すだけの結果となった。また、その後鉄鉱石の価格が急落したにもかかわらず、依然としてWA州はGST分配額で不利な立場に置かれている。

確かに、WA州が直面しているのは、単なる分配の「タイム・ラグ」の問題に過ぎないとも言える。しかも、つい最近まで高経済成長を謳歌してきたWA州も、かつては他州によって支援されてきたという過去があるし、ごく最近のWA州財政の悪化状況にしても、資源ブームの継続を当然視したあげく、支出を節操もなく増加させた、バーネット率いるWA州保守政府の失策に過ぎないとの見方もあろう。またWA州政府が、必要な規制緩和や民営化を怠ってきたことも事実である。

しかしながら、WA州経済に重要な鉄鉱石の価格は大きく下落し、WA州政府には可及的速やかに資金を確保することが要請されてきたし、また支出の増加にしても、資源・エネルギー・ブームを支えるため、あるいは増大する州人口に対処する上で不可欠な、各種インフラ整備のためのもので、しかも、そもそもWA州では整備コストが割高との事情もあった。

更に言えば、WA州は資源ブームに伴うロイヤルティー収入の増大によって、GST分配額が削られてきたわけだが、例えば、NSW州やVIC州の莫大な賭博税収入はGST分配額の削減要因として扱われていないなど、資源ロイヤルティーに偏重した分配額の算定方法にも批判が寄せられてきたのである。またロイヤルティー問題に関し附言すれば、現在VIC州のアンドリューズ労働党政権は、ガス資源の探査や生産制限を実施しているが、こういった環境優先路線、それに伴う潜在的ロイヤルティー収入の未発生に対して、GST分配上のペナルティーが課せられるわけでもない。

以上の点からも明らかなように、「水平的財政均衡」原則に基づく分配額算定方式は、極めて詳細、緻密なものではあるものの、実態を反映していない、あるいは合理性、妥当性、公平性を欠くものと批判されており、経済合理主義者を中心にWA州に同情する向きも多い。確かに、かつては還元率が8割ほどを下回る、すなわち、GST交付額がGST徴収額の8割ほどを下回るケースなど存在しなかった中で、WA州の還元率が14年度で4割弱、15年度は3割弱にまで低下したことは、常識的に考えても甚(はなは)だ理不尽で不公平なものと言えよう。また周知の通り、資源・エネルギー産業では、「ブーム&バースト」のサイクルが常態化している。そのため、比較的不安定な資源・エネルギー部門に州経済が大きく依存するWA州が、GST分配額算定に際し「ベンチマーク」となれば、WA州にとり不公平であるばかりか、他の州等への分配額算定も不安定なものとならざるを得ない。

新分配制度とその懸念点

そこで、ターンブル政府が今回採用したのが、主としてWA州への分配額を保証するため、まず「財政的に最強力な州」という、資源・エネルギー部門の活況ともなれば、WA州が該当する可能性のある現行の「ベンチマーク」設定基準を改めて、今後「ベンチマーク」となるのは、特定部門の要因、外的要因によって経済が左右されにくい、NSW州もしくはVIC州のどちらかのみに限定するというものであった(注:分配額算定の時点で財政的により強力な方)。

一方、政府は、ゆくゆくはGSTの分配額/徴収額比率に最低で75%の「フロアー」を設ける計画である。ただし現行の分配状況に鑑み、「フロアー」の設定とは、取りも直さずこれまでの「パイの切り分け分」が縮小する政府が発生することを意味する。そこで政府は、「全政府がベター・オフ」とのスローガンを掲げつつ、切り分ける前の「パイ」自体を拡大するため、連邦の一般財源からGST歳入プールに追加補償資金を投入するとしている。補償額は、向こう10カ年度では90億豪ドルとされる。

ところでターンブルは、16年8月にWA州で開催されたWA州自由党党大会に出席し、WA州保守政権が希求してきたGSTの分配額方式の見直しを、真剣に検討することを約束したが、その際に75%の「フロアー」設定案を披歴したという経緯がある。

なお、今回のターンブル政府の改革策の施行については、政府は連邦議会で法制化する必要も、各州等政府からの認証を取り付ける必要があるわけでもない。GSTの増税といった、GSTの税収に関する改革とは異なり、徴収したGSTをいかに分配するかに関しては、連邦政府が裁量権を保持しているからだ。ただモリソン財務相は、制度改革を固定化、安定化させるためにも、各州等政府からの合意を取り付けたい考えであり、9月に開催される連邦・州等財務大臣会議において、同問題を取り上げる予定である。

最後に附言すれば、今回のGST改革策は、過去20年近くに及ぶGST制度の歴史の中でも最大級の改革であり、また「全政府が勝ち組」の政策でもあり、更にターンブル政府には大きな「政治的得点」となるものだが、一方で、懸念事項も存在する。保守政府は「全政府がベター・オフ」となることを保証するため、GST歳入プールに連邦が恒常的に補償資金を投入し、継続的にGST「パイ」を追加拡大させていくわけだが、まずその財源は保証されているのか、という点が挙げられる。モリソン財務相は間もなく達成され、その後も持続する財政黒字分から捻出するとしているが、一方、この財政黒字予測は、かなり楽観的な経済成長予測に依存しているという事実に留意する必要があろう。

より深刻な点として、今回の分配額算定方式の変更策は、財政能力の「ベンチマーク」にWA州がなることを否定した故に、GST分配額の変動を回避して、安定化を促すものではあるものの、「水平的財政均衡」原則の根本的変更はもちろんのこと、原則の緩和すら意味するものではないことだ。換言すれば、SA州やTAS州、NTといった弱小州等が、強力州、成功州に財政的に強く依存するとの「甘えの構図」に変化はない。確かに、「平等」を極めて重視する豪州の国民気質に鑑(かんが)み、現実には弱小州等を支援せざるを得ないし、逆に冷淡な姿勢を採れば、政府は選挙で甚大なダメージを受けかねない。ただ今回の改革後も、弱小州等には財政能力を改善、向上させるためのインセンティブが不足しているとの状況、すなわち、必要な行財政改革を断行するインセンティブが不足している状況に、何ら変わりはない点を忘れるべきではあるまい。

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