「スーパー・サタデー」補欠選挙と自由党リーダーシップ問題

「スーパー・サタデー」補欠選挙と自由党リーダーシップ問題

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

7月28日(土)、大いに注目された「スーパー・サタデー」補欠選挙、すなわち、全国で計5つの連邦下院選挙区での同時補欠選挙が実施されている。結果は現状維持に終わったが、同補選を直接の契機にして、自由党内のリーダーシップ問題が再燃し、ターンブル首相は絶体絶命の危機に陥っている。

補欠選挙の概要とその理由

豪州も日本と同じく2院制で、日本の衆議院に相当する連邦下院は150人、一方、参議院に相当する連邦上院は76人の議員から構成されている。合計226人の連邦議員は、それぞれ下院本選挙、あるいは上院の半数改選選挙か全数改選選挙(注:いわゆる両院解散選挙のケース)を通じて選出されるが、下院でも上院でも、任期の途中にしばしば空席が生じる場合がある。

空席が生じるのは主として2つのケースで、まず、1つめは何らかの事情で、現職議員が自発的に議員を辞職する場合である。その理由としては、深刻な病気、家族関係といった問題で政治家生活に嫌気が差したため、あるいは何らかのスキャンダルを起こし、倫理面から議員辞職の圧力に晒されていたなど、さまざまなものが挙げられる。ただいずれにせよ、最終的に議員が辞職を選択し、その結果として空席が発生するというケースである。

自由党内のリーダーシップ問題が再燃し、窮地に立つマルコム・ターンブル首相
自由党内のリーダーシップ問題が再燃し、窮地に立つマルコム・ターンブル首相

連邦国家の豪州がスタートしたのは1901年であったが、その後120年ほどの議会の歴史の中で、空席の発生と言えば、そのほとんどが議員の選択によるものであった。ところが、前回連邦選挙、すなわち2016年7月2日に実施された両院解散選挙以降、別のケースによる空席の発生が数多く観測されるようになった。それは、豪州最高裁判所内に設置される選挙結果訴訟裁判所によって(注:最高裁判事全7人で構成)、豪州連邦憲法の条文に抵触すると判断された結果、議員資格が無効となり、議員が辞職を余儀なくされるというケースである。

その中でも目立つのが、二重国籍者や多重国籍者には議員資格がないことがうたわれた憲法第44条第1項、すなわち「外国に忠誠を尽くし、服従し、もしくは加担すると認められる者、外国の臣民もしくは市民である者、または外国の臣民もしくは市民の権利もしくは特権を有する者」が議員となることを禁じた規定に抵触したケースであった。

実際に前回選挙以降、同ケースで辞職を余儀なくされた議員は2桁にも上っているが、今回の5つの補選も、その内の4つがこれに該当する。なお、5つの下院選挙区とは、①WA州パース、②WA州フリーマントル、③SA州マヨ、④QLD州ロングマン、そして⑤TAS州ブラドンの各選挙区である。この内の①②④⑤は、2016年7月の前回連邦選挙以降、野党労働党が保持していた選挙区で、一方、③は「中道同盟」(注:旧称「ニック・ゼノフォン・チーム」)が保持していた選挙区である。また①は家族問題で議員が自主的に辞職した選挙区、そして残りの②③④⑤は、二重国籍問題によって議員が辞職を余儀なくされた選挙区となっている。

補欠選挙の結果

1901年の連邦結成から「スーパー補選」以前に、連邦下院補欠選挙は合計で152回実施されてきたが、歴史的に見て、補選は与党が劣勢となる選挙である。これまでの補選統計によると、第1次選好票の得票率では平均して5.5%の反与党スウィングが発生しており(注:前回本選挙における得票率の5.5%が与党から流出)、一方、「2大政党選好率」ベースでは、平均して3.8%の反与党スウィングが発生している。

例えば辞職議員が与党議員であった場合、補選では与党の後任候補は、たとえ当選したとしても、相当な票を喪失するのだ。いわんや辞職議員が野党議員であった場合、補選で与党が議席を奪回することはほぼ不可能で、実際にそれが起こったのは補選の歴史の中でも1回だけ、しかも98年も前のことである。

与党が劣勢となる理由だが、何よりも補欠選挙では政府への抗議票が発生する、しかも与党支持層からも抗議票が発生することが指摘できる。支持政党が政権党であった場合にも、支持層には常に政府への何らかの不満や要求があり、それを政府に伝えたい、表現したいと考えている。一方、通常政権党は、下院では一定の余裕を持って過半数を確保しているものの、ただ本選挙においては、与党に不満のメッセージを発信しようと、抗議票のつもりで野党に投票すると、場合によっては肝心の政権までが交代するという事態になりかねない。

ところが、通常は1選挙区だけで実施される補選では、選挙帰趨(きすう)が政権交代にまでつながる可能性はなく、与党支持層としては、そういった懸念をすることなしに、いわば「安心して」抗議票を投ずることが可能なのだ。

さて、今回の「スーパー・サタデー」補選だが、SA州のマヨ選挙区を除く4選挙区は、上述したように、野党労働党が保持していた選挙区である。したがって、歴史的には労働党が優勢であって然るべき選挙であった。この意味することは、少なくとも4選挙区では、野党労働党が「再勝利して当然」の選挙であり、一方、与党の保守連合にとっては、「1選挙区でも勝てば儲けもの」的な選挙ということに他ならない。

換言すれば、野党が是が非でも議席を死守しなければならない今回の「スーパー・サタデー」補欠選挙は、野党労働党、ひいてはリーダーのショーテンに極めて強い圧力をかけてきたのだ。しかも、5月下旬に「スーパー・サタデー」補選を7月28日に実施することが決定されて以降、実は重要選挙区で与党が勝利すると予想する向きも多かった。その全般的背景、理由としては、おそらく以下の3つが挙げられる。

まず第1に、当時与党保守連合には順風が吹いており、また重要なターンブルへの評価も上向いていたこと、第2に、地元有権者には甚だ迷惑で、しかも莫大な公費を消費する補選を実施するのも、労働党議員の怠慢によって発生した、二重国籍問題にあるとの事情(注:ただ実際には、逆に辞職した議員達への同情が多かったとの指摘もある)、そして第3に、補選キャンペーンが、実に8週間程にもわたる長期キャンペーンであったことも(注:通常の選挙キャンペーンは5週間程)、与党には有利と見られてきたのである。

ただ5選挙区とは言っても、与党自由党は敗北が確実として、上記①のパース及び②のフリーマントル選挙区の補選については、候補者すら擁立しておらず、したがって両選挙区に関しては、当初から労働党が議席を保持することは確実であった。また③のマヨについては、選挙日の数週間前の時点で、中道同盟の再勝利がほぼ確実視されていた。しかしながら、残りの④ロングマンと⑤のブラドン選挙区では、与党が歴史的勝利を果たすことも予想されたのである。

とりわけ与党が期待したのは、マージン/安全度がわずかに0.8%という、超激戦区のロングマンでの勝利であった。その背景には、ロングマンがある意味で、次期連邦選挙を占う「リトマス試験紙」的な重要選挙区との事情があった。次期選挙で勝利するためには、与野党共にQLD州で善戦する必要があり、そして同州で善戦するためには、かなりの「ロングマン型」の選挙区で勝利する必要があるからだ。

ところがふたを開けてみれば、補選前と同じ状況、すなわち4選挙区では労働党が勝利し、1選挙区で中道同盟が勝利という結果に終わっている。しかも、ブラドンでは与党が善戦したものの、肝心のロングマンでは与党の惨敗に終わっている。ちなみにロングマンにおける与党の第1次選好票得票率は、16年選挙時の39%から、今次補選では実に29.6%にまで激減している。

今次補欠選挙の意味合い

上述したように、同補選の結果、すなわち与党の敗北は、歴史的、統計的に見て決して異例なものではない。しかしながら問題は、例によってターンブルが、与党勝利の「期待感」を安易に高めたことであった。例えば自信過剰のターンブルは、選挙キャンペーンの期間中に、「今回の補選は、自分とショーテンのリーダーシップの優劣が判断される選挙である」、云々と豪語していた。

確かに、補欠選挙のキャンペーン中には、与党へのモーメンタムが高まっていたし、他方で、「負けられない」ショーテン野党党首は甚大な圧力に晒されていた。しかも各種世論調査の結果なども、QLD州のロングマンもしくはブラドンで、与党が歴史的勝利を収める可能性を示唆するものではあった。ところが実際には、「期待に反して」、次期選挙を占う上で重要なロングマンで敗北したわけである。そのため、敗北が決して特別のものではなかったにもかかわらず、補選の結果はターンブル与党の不甲斐なさと捉えられ、与党はかなりのダメージを蒙(こうむ)ることとなったのである。

言うまでもなく、ロングマン補選で保守連合が完敗したことは、与党内の士気を低下させるもので、最近になってようやく高まったかに見えた、ターンブル政府へのモーメンタムを貶(おとし)めるものでもあった。しかも、今次補選で明らかとなったことは、同州では依然としてターンブルへの評価が低いこと、次期連邦選挙でも保守連合票のワンネーション党への流出が予想されること、そして同州自由国民党の選挙キャンペーン能力のお粗末さ、などであった。

いずれにせよ、「スーパー・サタデー補選」の直前までは、ショーテンが強い圧力に晒されてきたわけだが、補選後には、逆にターンブルの方が苦境に陥ることとなったのである。

自由党リーダーシップ問題への発展

以上のように、「スーパー補欠選挙」での敗北を契機に、ターンブル政府、ひいてはターンブルのリーダーシップに再度深刻な疑問符が付いた中、8月13日には冬季休会が明け、連邦議会が再開されている。そして再開議会での最重要案件が、10日(金)に開催された連邦・州等エネルギー閣僚会議で、継続討議が了承された、地球温暖化/エネルギー(電力)問題、具体的には、連邦政府の「全国エネルギー保証」(NEG)政策であった。

予定通り14日には、保守連合連邦両院議員総会においてNEG政策の採択の是非が討議されたが、討議時間は数時間に及び、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が展開されたものの、予想通りNEG政策は、議員総会のマジョリティーによって無事採択されている。ところが「スーパー補選」での敗北、そして13日に公表された、ニューズポール世論調査におけるターンブルの個人評価の下落もあってか、アボット前首相を中心とする、保守連合内の反NEG陣営の強い抵抗はその後も続くこととなった。結局、ターンブルは党内右派、抵抗勢力を懐柔するために、NEG政策の重大な変更を余儀なくされた。

しかも同問題は、保守連合の政策路線をめぐる闘争にとどまらず、驚くべき勢い、ペースで自由党のリーダーシップ挑戦問題にまで発展している。すなわち、ターンブル後継候補の最右翼に位置し、自由党内右派の重鎮であるダットン内務大臣が(注:「政界こぼれ話」を参照)、ターンブルに党首挑戦する可能性、あるいはダットンに挑戦を促す党内の活発な動きが噂されたのだ。

ダットン本人は19日の時点では、ターンブルを支持すること、政府のNEG政策を支持することを改めて明言していたものの、党首挑戦の動きは不可避とみたターンブルは、「先制攻撃」に訴えている。具体的には、21日の午前9時から開催された自由党両院議員総会の冒頭に、自ら党首ポストを空席にしたのである。このターンブルの「挑戦」を受けたダットンは、即座に党首選挙への出馬を表明している。選挙の投票結果は、48票対35票でターンブルの勝利に終わり、敗北したダットンは、直後に閣僚を辞任して陣笠議員となった。

ただし、自由党リーダーシップ問題は一件落着には程遠い。それどころかターンブルは、依然として2015年9月に首相に就任して以降、最大の危機に直面していると言える。というのも、今回の党首選挙の結果が、大方の予想よりも僅差であったことから、ターンブルの党内支持基盤は脆弱なままであるからだ。そのためごく近い将来に、おそらくダットンによる、第2回目の党首挑戦が実行されるのは不可避と見る向きが多い。しかも、今後「閣内統一」に縛られないダットンは、公然とした党首選挙活動を展開するものと予想される。

与党保守連合内は一挙に混迷の度を深め、ショーテン率いる野党労働党は、その僥倖(ぎょうこう)にほくそ笑んでいる状況である。

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