【第2回】ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦 – 激動の1カ月

ブリスベンから現地レポート

ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦

Photo: 安河内佳祐
Photo: 安河内佳祐

第2回:激動の1カ月。「夢の世界」での未知の領域

月刊紙の宿命である「締切」の都合で、先月号の連載初回では、五郎丸歩(クイーンズランド・レッズ/30)のスーパーラグビー(SR)デビューを紙面でお伝えすることは叶わなかった。先月27日に無事にSRデビューを果たしてからの五郎丸の1カ月は、百戦練磨の彼をしても経験のないような激動の月日だったに違いない。その浮き沈みを、彼の会見や囲み取材での生の声を拾いながら振り返っていく。取材・文=植松久隆(本紙特約記者)

■2月27日(土)SR開幕戦対ワラタス戦/シドニー(●10-30)前半26分より出場、1PG1G 5得点

2月27日、アウェーのシドニーの地で、自身が試合後に「夢の世界」と語ったSRの舞台での大きな一歩を踏みしめた五郎丸歩。早稲田大学、実業団/トップ・リーグのヤマハ発動機、そして日本代表と常に国内のラグビーの表舞台を歩み続けてきた彼にとって、SRデビューのその瞬間こそ、初めての「海外挑戦」の本格的スタートとなった。

日本代表キャップ数57、そして日本代表歴代最高得点者でもある五郎丸は、言うまでもなく、テスト・マッチでの経験豊富な日本のエースだが、自らが「世界最高峰の舞台。スピード、パワーの全てが違う」と評するSRでは、彼はルーキーでありチャレンジャーだ。日本での出発前会見で「ポジションを保障されていないレッズでのチャレンジは、今後のラグビー人生でも大事。その中で失敗をたくさんしたい」「ジャージを着られないで帰ってくるかもしれない」と言うほどの強い覚悟を披歴して臨んだのが、SRの“夢の世界”。

その大きな舞台で、前半26分からの途中出場とはいえ、初戦でデビュー。しかも、試合には敗れたものの、自らは名刺代わりのPG成功を含む5得点という結果にさすがに安堵したはずだ。その夜の自身のツイッターでの「また新たな旅が始まった。今は、とにかくラグビーが楽しい。忘れかけてた感覚がかえってきた」という非常に印象的なつぶやきに、その気持ちは良く表れていた。

■3月5日(土)第2節対フォース戦/ブリスベン(●6-22)先発出場、2PG 6得点

壇上でトークショーに臨んだ五郎丸。「ほっとした」と言うようにリラックスした表情が伺える(photo: 安河内佳祐)
壇上でトークショーに臨んだ五郎丸。「ほっとした」と言うようにリラックスした表情が伺える(photo: 安河内佳祐)

長蛇の列を作ったファンにも、笑顔を絶やさず2時間近くファン・サービスを行った(photo: 安河内佳祐)

長蛇の列を作ったファンにも、笑顔を絶やさず2時間近くファン・サービスを行った(photo: 安河内佳祐)

19日、リザーブ・スタートの試合前でも入念なキックの確認は怠ることはない(photo: Nino Lo Giudice)

19日、リザーブ・スタートの試合前でも入念なキックの確認は怠ることはない(photo: Nino Lo Giudice)

今季初戦をアウェーで落としたレッズCTBヘンリー・タエフの故障を受けてのバックスの再編成で、ホーム開幕となるフォース戦(5日・ブリスベン)での五郎丸の先発デビューが決まった。同じフルバックのポジションを争うカーマイケル・ハントがタエフの穴を埋めセンターに上がったことで、背番号「15」が五郎丸に用意された。

リチャード・グレアム監督(当時)は、五郎丸の先発起用に関して「バックラインの安定性を考えた。タエフのケガがあっても、さほど難しいコンバートの決断ではなかった。ハントがセンターに移っても、彼のポジションを隙間なく埋める選手(五郎丸)がいる」と自信を持って、五郎丸を先発FBとして送り出した。

しかし、SRはそんなに簡単ではなかった。試合後に五郎丸自身が「全くだめ。チームの力になれてない。前に進むしかない。世界最高峰のリーグは険しい道だが乗り越えていくしか道はない」とつぶやいたように、この試合は、五郎丸にもチームにとっても悔しい結果に終わった。昨季最下位のフォースに何もできずに、6-22と完敗。五郎丸は、2本のPGでチーム全得点を上げる一定の貢献は見せたものの、他に2本のPGを外しての成功率50パーセントでは本人もファンも納得がいかない。試合後の会見でも「与えられた仕事を100パーセントできずに残念。キックで結果を残さないと、チームの力にはなれない」と反省が口をついた。

■3月12日(土)第3節対レベルズ戦/メルボルン(●23-25)リザーブ。出場無し

開幕2連敗。上がらぬパフォーマンス、相次ぐレギュラー陣のケガ、外部にもチームの不協和音が聞こえてくるなど最悪のチーム状態のレッズ。フォース戦の全く内容の無い戦いぶりに、開幕わずか2試合で監督交代のなたが降って下された。3月7日、リチャード・グレアム監督解任。当面は、マット・オコナーとニック・スタイルズ両コーチが暫定共同監督として指揮を執ることに決まった。

この監督交代は、五郎丸のチームでの立ち位置にも少なからず影響を与えることになった。何とかネガティブな流れを絶ちたい共同監督の指揮下の初戦のレベルズ戦(12日・メルボルン)に臨む先発メンバーには、五郎丸の名前は無かった。ライバルのハントがFBに戻り、五郎丸は23番を付けてのリザーブ・スタート。この選考に関して、共同監督のマット・オコナーは、「英語によるコミュニケーション面の不安」を五郎丸のスタメン落ちの理由の1つとして挙げた。それが、針小棒大となり日本に伝わり「英語力が原因でスタメン落ち」のような文脈で語られることになった。その日のコーチの発言を要約すれば「総合的判断で、ハントがFBとしてベター・チョイス。五郎丸のコミュニケーション面の不安は理由の1つであって、全てではない」というもの。さらには、キャプテンのロブ・シモンズも「(英語でのコミュニケーションの不安は)試合中はポジションが離れてるのもあるから個人的には何もないし、他からも何も聞いてない。試合中は確かに大変だが、もしそういうことが起きても、きちんと対応できるようベストを尽くす」と証言しているように、コミュニケーション面の不安だけが致命的な課題となっている事実は無い。そのことだけはきちんと伝えておきたい。

レベルズ戦では、監督交代の“劇薬”を服したレッズが過去2戦とは見違えるような動きを見せるが、善戦むなしく23-25と2点差に泣いた。五郎丸は、試合終了間際にビブスを脱ぎ、出場に備えてピッチサイドで戦況を見つめたものの、結局、出番が訪れないままにノーサイド。SR3戦目で初めての出場無しに終わった。チームはこれで3連敗となるが、“劇薬”の効果はてきめんで、次に希望を見いだせるポジティブな敗戦となった。

■3月19日(土)第4節対ブルーズ戦/ブリスベン(△25-25)リザーブ。出場無し

第4節、再びホームに戻ってのブルーズ戦(19日・ブリスベン)。ここでも、共同監督の2人は、前節、勝利まであと一歩に迫る善戦を見せたフィフティーンをそのまま先発させることを選択。それを受けて、五郎丸の2戦連続のリザーブ・スタートが決まった。

この試合でレッズは、前節から更なる良化を見せた。一時は10点差を付けるなど、初勝利目前と思われたレッズだったが、まさに好事魔多し。残り6分で10点差を追いつかれる痛恨のドロー。またしても、今季初勝利があとほんのわずかなところで指先をすり抜けてしまう、まさかの展開となった。

この日の五郎丸は、試合後半に出場に備える動きをピッチサイドで見せたが、結局、出場叶わず、2戦連続出場無しとなった。試合後の五郎丸はノー・コメント。オコナー・コーチは「出場した選手が良くやっていた。ジェイク(・マッキンタイヤ)もキックを良く蹴れてたし、ゲームの流れも悪くなかったので、交代の機会が最後まで訪れなかった」と五郎丸を起用しなかった理由について語った。

来豪、SRデビュー、スタメン出場、監督交代、リザーブで2試合連続出場機会無し――。こういった浮き沈みは、キャリアが豊富な五郎丸でもいまだかつて経験のない、いわば“未知の領域”。五郎丸は、17日のメディアの囲み取材で、SRでの自らの現状を問われて「まだまだ足りないことはたくさんある。自分はチャレンジャーなので、1日でも早くチームの力になれるようにどんどんレベル・アップしていきたい」とキッパリと答えた。

筆者は、この受け答えを見ていて確信した。自らの日本での成功や名声を一顧だにせず、自らを“挑戦者”と位置づけて、新天地で挑戦を続ける五郎丸が、このままで終わるわけがない。激動の1カ月を経て、さらに精神的にも揉まれてタフになった五郎丸は、決して夢の世界を前へ前へと進む“歩み”を止めることはない。次号は、もっとポジティブな内容をお届けできる――。そんな確信と共に、当稿を終わりへと導きたい。

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