【新連載】本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第1回 存在の証明

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第1回 存在の証明

Photo: AFP
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日本が誇るスーパー・スター、元日本代表MF本田圭佑(32)が、自らのゴールという結果と共に10月20日、Aリーグ・デビューを果たした。わずか1試合で、メルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)の押しも押されぬ中心選手としての立場を確立した本田。豪州サッカーを長年追ってきたエキスパート、本紙特約記者・植松久隆が9月号の特別寄稿に続き本田のAリーグ開幕戦を振り返る(文中敬称略)。文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

“持ってる”男の本領発揮

10月20日、本田圭佑がついにダウン・アンダーの地でそのベールを脱いだ。

Aリーグ・デビュー戦では、先発出場して90分プレー。まさに千両役者の本領発揮で大きなインパクトを残した。そんな大事な試合で鮮烈な名刺代わりのヘディング・ゴールをたたき込むのだから、やはり“持っている”男は違う。本田のここぞという時の勝負強さは、日本の過去の名選手などを見ても比類なき才能とは知ってはいたが、新天地でもリーグ初戦からやってのけるのだから驚きだ。

“ケイスケ・ホンダ”のデビューには、自身の長いキャリアでも「記憶にない」と語るダービー・マッチという盛り上がり必至の絶好の舞台装置が用意された。当然ながら、このメルボルン・ダービーの大舞台で結果を出すことによるインパクトの大きさを、本田ほどのセルフ・ブランディングの達人が理解していないはずがない。ただ、そこで実際に目に見える結果を引き寄せられるかどうかは別問題。それこそ、実力を超越した運といった次元の話になってくるのだが、本田は、そういった能力を間違いなく“持っている”ことをゴールという結果で示した。

この日のビクトリーは、中盤がダイヤモンド型の4-4-2のシステムを採用した。戦術的な理由からキャプテンの元オーストラリア代表MFカール・バレリがスタメンから外れたことで、4万人を超す観衆の注目を一身に浴びて入場してきた本田の左腕には、キャプテン・マークが巻かれていた。マーキー・プレーヤー(筆者注:チーム全体の年棒総額が制限されている中で、その年棒の制限を受けずに獲得できる選手のこと)としての大きな期待と責任を背負って臨む大事な初戦に、ゲーム・キャプテンの大役が更に追加された格好だ。常人であれば尻込みしそうなプレッシャーをもポジティブなエネルギーに転化できる、それが真のプロフェッショナルたる本田圭佑の真骨頂だ。

本田のゴールという目に見えた結果が出たのは大きな収穫だったが、審判の不可解なVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定に泣き、メルボルン・シティーの売り出し中のMFライリー・マクギーに一瞬のスキを突かれたことで、ビクトリーは1-2と大事な開幕戦を落とした。本田自身も、チームの勝利が第一義で臨んでいただけに、試合後には「(デビュー戦で)得点できたうれしさよりも、勝てなかった残念さの方が正直大きい」と素直な思いを吐露(とろ)した。

90分を通して見せた質の違い

しかし、周りの評価は違った。確かに開幕戦は落としたが、それ以上にマーキー・プレーヤーの本田が初戦から結果を出して90分にわたり質の違いを見せ続けたことを評価した。試合後の会見では、疑惑の判定への恨み言をつらつらと述べていたケビン・マスカット監督でさえも、本田のことを質問されると「Outstanding(別格)」の言葉を連発して手放しで称賛。試合後の報道も、ビクトリーの攻守の要として90分を戦い抜いたゲーム・キャプテンへの好意的な評価が並んだ。勝利という実りは得られずとも、マーキー・プレーヤーである自らの価値を示すには十分の存在感を発揮できたことで、本田はまずは無難にシーズンのスタートを切ったと言って差し支えあるまい。

元々、彼我のレベルの差から、本田がAリーグで十分にやっていけると言い続けてきたが、右サイドのMFとしてプレーしたこの日の本田のパフォーマンスは期待に違わぬものだった。派手な得点シーンにばかり目が行きがちだが、この日の本田は終始、身振りや声で周囲のチームメイトにポジショニングの指示を与え続けていた。CK・FK共にキッカーを任されていることに加え、常に攻撃の最良手を考えて展開する力が抜きん出ていることもあって、この日の試合の両チームを通じて、ゴールに直接的に向かっていくボールを一番供給していたのも、間違いなく本田だった。

連携面を磨いて、更なる進化を

もちろん、ポジティブ1色ではない。チームメイトとの連携面での向上は課題として残った。自分が出したい時に他の選手が連動しない、また、逆にもらいたい時にボールが出てこないといったようなシーンが何度となくピッチ上で見られた。そういったところは、試合を追うごとにコンビネーションが磨かれて目に見えて向上していくものなので、正直、さほどの心配はしていないのだが。

ポジションに関しては、今後の用兵次第でシステムが変わってくることで流動的にはなるだろうが、今回の中盤構成での右MFが最適解とは思わない。昨年までのチームの4-3-3(4-2-3-1)がベースとなってくるのであれば、ダブル・ボランチをバレリと並んで務めて、これまでのキャリアでの主戦場であったトップ下からもう1つ下がった所に落ち着くのではないか。そこから、試合の全体を俯瞰(ふかん)しつつ、前線を動かしていくような新たなプレー・スタイルを今後、見られるのではないかと期待して待ちたい。

「3億の男」の存在証明

改めて、今の本田の立場を整理しておこう。

チーム全体のサラリー・キャップ総額を超すほどの年棒(推定2.6億円)を受け取るマーキー・プレーヤーである本田は、自らの直接的な活躍、貢献をして勝利を呼び込まなければいけないという宿命を背負わされている存在だ。そこにきて、開幕戦でのキャプテン不在時のゲーム・キャプテンという立場が加わった。

そんな自らに求められる役回りを、開幕戦の前々日の会見時に「結果にコミットして、チームのリーダーとしてピッチ内外でのあらゆるマネジメントをしつつ、チームがうまく結果を出すために監督のサポートをきっちりすること」と表現した。この発言からは、チームのリーダーシップ・グループに入って、チームに積極的に関わっていこうという強い覚悟が透けてくる。

リーグ開幕前のオフィシャル・ローンチ・イベントでも大きな注目を集めた本田。今後、リーグ全体の顔としても確かな結果が求められる(Photo: Moto)
リーグ開幕前のオフィシャル・ローンチ・イベントでも大きな注目を集めた本田。今後、リーグ全体の顔としても確かな結果が求められる(Photo: Moto)

また、本田には他のAリーグ選手にはない幾つかの別の顔がある。

まずは、チームに留まらず、Aリーグ全体の顔としての役割。本田の活躍を通じて、世界、特にアジアの注目をより集めていきたいと考えるAリーグは、現時点でまだ実現していない日本へのAリーグ中継や、日系の新たな大口スポンサーの獲得など実利的な「本田効果」を獲得するために、本田にこれからも多くの露出を求めることになるだろう。

更には、本田は過去に例のない「カンボジア代表の実質的な監督」との“兼業”をリーグやクラブから許されている稀有(けう)な存在だ。優先順位は、当然ながらビクトリーでの選手業ではあるが、当然、監督業にも注力をする。この兼業には、まだまだ懐疑的な声が大きいのも事実。もし、本業で誰もが「マーキーとしてふさわしい」と判断できるような活躍を見せられなかったとすれば、この兼業に対して批判の矛先が向くことも充分に考えられる。

有言実行で優勝を狙う

二兎を追うことで、最も獲るべき一兎を得られないような事態が起こるのは本末転倒。ファンの熱い期待に応えられなければ、その思いは失望となり、やがて批判へと変容していくのが、フットボール界の常だ。そのことも本田は十分に理解しているからこそ、開幕戦直前の記者会見でのメディア対応時、多くのファンがリアル・タイムのネット中継で見守る中で「得点とは違う形になるかもしれないけど、結果で示していきたい」と得点という形以外で勝利にコミットして「優勝を狙う」とはっきり公言した。これは明確な目標を示すことで、「有言実行」できるようなマインドセットを意図しているに違いない。

繰り返す。本田がその実力をもってすればAリーグで活躍することは難しくはない。曲がりなりにも、在豪歴15年。その期間、ずっと豪州フットボールを追ってきた身としてそれは断言できる。ただ、本田のケースでは活躍の密度というか、その質がかなり求められるのもまた事実なのだが、そこも心配していない。本田が体調万全で試合に臨み続ければ「ケイスケ・ホンダの存在の証明」たる何人も納得できるような結果は、確実に積み上がっていくはずだ。

1年後、どんな「ダウン・アンダー戦記」が完成するのかと思うとワクワクさせられる。この高揚感は「小野伸二のいた2年」以来、感じていなかったものだ。早く次が観たい――。そんな気持ちでフットボールを毎週観られる喜びを、本田圭佑は久しぶりに思い起こさせてくれた。ありがたい話だ。

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