本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第6回 凱旋の英雄

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第6回 凱旋の英雄

Photo: AFP
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リーグ戦とアジア・チャンピオンズ・リーグ(以下、ACL)の過密日程を戦うメルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)。その中心にいるのが、今や欠かすことのできないチームの大黒柱で、日本が誇る英雄・本田圭佑。クラブ・レベルで12年ぶりの母国凱旋となった試合を含む、3月の戦いを振り返る(文中敬称略)。文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

フィナーレへのカウント・ダウン

本田圭佑の雄姿を直接見られる機会のカウント・ダウンが始まった。現時点で確実に予定されている試合数は9試合。これにファイナルを加えると最大12試合の可能性が残る。ホームに限れば、未確定のファイナルでも最低1試合はあるとして、ACL2試合を入れると4試合しか残されていない。

こう書くと「来季はメルボルンに残留しないの」との疑問を抱く向きも少なからずいるだろう。断言できないが、さまざまな状況を鑑みて、本田のビクトリー残留の可能性はほぼないだろう。彼には、東京五輪にオーバーエージ枠での出場するという大目標がある。その目標を実現させる野心的な取り組みにフォーカスする以上、ユニフォーム自体を脱ぐ選択肢はない。ただ、来年、現役を続行して五輪への熱い思いを実現させようと最善を尽くす上で、残念ながらユニフォームの色がビクトリーの濃紺である必要はないのだ。

そもそも、試合数の少ないAリーグでは日程が合わない。今季のAリーグはアジア・カップに合わせての変則日程でリーグ戦の終了が通常より大きく後ろにずれ込み、グランド・ファイナルまで勝ち上がれば5月末まで今シーズンが続く。しかし、変則日程が終わる来季は、例年通り、3月中旬にはシーズンが終わる。そうなると、仮に本田が来季もビクトリー残留となれば、五輪まで4カ月を切っての時期の移籍で環境をがらりと変えるか、最悪、無所属のまま五輪に臨まなければいけないリスクが生じる。

本田の雄姿を目に焼き付けろ

本田の去就に関してのベストなシナリオは、今季Aリーグを全うして欧州に移籍先を求めることだ。ハイ・プロファイルの本田にふさわしい移籍話が欧州から届けば、プレー機会を得ながら五輪代表の招集に備えるという最善の流れができる。真剣に五輪での活躍を目指すなら、世界のサッカー界の若手の選りすぐりを日常的に相手にする必要がある。世界のトップ・レベルに即応するには、そういったクラスの若手が鎬(しのぎ)を削る欧州中堅リーグに自らの身を置くのが一番良い。そのことを、彼ほどのセルフ・プロモーションの達人が知らないわけがない。個人的には盟友・長友佑都、そして香川真司もプレーするトルコ・リーグなど面白いと思うのだが。

できる限り長く、豪州の地で本田を見たいと思う気持ちは分かる。しかし、日本のフットボール界の大立者の更なる活躍を願うのであれば、五輪出場という次の大きなタスクに臨む彼の居場所は豪州ではないと理解して欲しい。だからこそ、今季、豪州の地で本田のプレーを見られる幸せを噛みしめつつ、残りの数少ない機会でその雄姿を目に焼き付けて欲しいと願うのだ。

リーグ制覇は絶望的、ファイナルに望みを

ここからは、本田とビクトリーの直近の戦いぶりである。

前回は、パースとの首位決戦での千両役者の1か月半ぶりの復帰から、その後のメルボルン・ダービーまでリーグ戦3試合勝ち星なしのビクトリーの苦悩を書いた。続く第22節のホームでのニューキャッスル戦でも試練は続いた。けが人や出場停止でメンバーを固定できないビクトリーにとって、この試合から大黒柱の本田が先発復帰できたのは大きい。それでも、昨季の快進撃が嘘のように低迷するニューキャッスル相手に後手に回り、ボールをキープしながらもカウンターでピンチを招き、計22本のシュートを浴びてまさかの0-2で敗戦。これで本田復帰以来、ビクトリーは4戦2分2敗と未勝利のまま、ACLと併行の3月の過密日程に突入した。

ACLの2戦でのエピソードは後述するが、ACLのアウェーでの広島戦(同月12日)後、中3日で臨んだ第23節のブリスベン・ロア戦で、実に7戦ぶりの勝利を得たチームは、国際Aマッチ・デーの関係で日程的にほっと一息を付けた。第23節終了時点で、首位パースと3位に着けるビクトリーの勝ち点差は10。ここからの大逆転には、次の直接対決を含めて4試合全勝がマスト。あとは、パースが1勝3敗以下の成績で自滅することを願う他力本願でしか差は埋まらない。しかも、パース戦の後には目の上のたん瘤(こぶ)とも言うべき、強敵シドニーFCとのアウェーでの対戦も控える。4月に入ると、ビクトリーは、再びACLの過密日程を消化しながら、ACLを戦わない関係で逃げ切りに集中できるパースを追うことになる。正直、レギュラー・シーズン制覇はかなり厳しい状況と言わざるを得ない。

更に、パースとの天王山を控えて、ホームでじっくり調整できるチームとは裏腹に、本田の体は休まらないまま。というのも、ブリスベン戦後に、AFC U-23選手権最終予選を戦うカンボジア代表に合流するためだからだ。そこで待つのは、5日で3試合という過密日程。同じく豪州U-23に選手として合流するDFトーマス・デンの身体的疲労もさることながら、監督兼GMとして3戦共に指揮を執る予定の本田の心も体も休まらない。となると、チームには30日の天王山に本田が万全で臨めるのかとの懸念は当然あるだろうが、ここまで彼のプロフェッショナリズムを身をもって体験してきたクラブ側は、本田本人のやり方を信じるしかない。

予期せぬ「日本人対決」

先述のニューキャッスル戦からわずか中2日で臨んだホームでの大邱(テグ)FCとのACL初戦。ビクトリーの先発メンバーは、本田を含む9人がニューキャッスル戦と同じ顔触れ。思い切った選手の入れ替えができないチームの選手層の薄さがここでも透けて見えてしまう。しかし、明るいニュースがないわけではない。それは、けがで離脱していたキャプテンのカール・バレリが完全復帰に近付きつつあること。彼の不在の間にボランチを務めるラウル・バエナは、連携のバランスなど、どうも心許ない。改めて確認すると、一連のビクトリーの勝てない流れは、バレリをけがで欠き、バエナがボランチに入ってからの出来事。もちろん個人にチーム全体の結果への責任を押し付けるつもりはないが、その事実だけは指摘しておいて害はないはずだ。

この試合、もう1つ印象的だったのが、本田と共にピッチに立ったもう1人の日本人、大邱に今年から所属するMF西翼。正直、知らない選手だったが、専修大学卒業後、ポーランドなど欧州でキャリアを積み、今年から韓国でプレーしている28歳。彼のような裏街道でキャリアを確実に高めてきた選手がアジア最高峰を決めるリーグで、日本の至宝と対等な立場でピッチ上で肌を合わせる。そのことに関しての本田のコメントは拾えないが、西はツイッターで「海外へ渡り苦しい状況でもやっていけた理由の中に彼の言葉や行動などから受けた影響が確実にあった。そんな自分の中でとても大きな存在である本田選手とマッチアップできたことに感謝」との思いを綴(つづ)った。

凱旋の時、来る

そして訪れた、12年ぶりの日本凱旋。クラブ・レベルにおいて本田が日本でその雄姿を披露するのは、名古屋グランパス在籍時までさかのぼる。そんな日本が誇るスーパー・スターの凱旋に注目度も非常に高く、行く先々でフィーバーが起きたと聞く。中には、本田見たさの余りにマナーや最低限のエチケットすら守れない人の姿もかなり見られたようだ。普通の感覚からするとオープン過ぎるくらいの豪州の環境で、それでもきちんと節度を守るファンに見守られて生活を送ってきた本田が、そういう人びとの行為に何を感じたかは想像するしかない。それでも、もし、本田やそのスタッフに不快な思いをさせたのなら、それは非常に残念なことだ。

本田は、短い広島滞在中でも、幼い時に訪れて以来2度目となる原爆資料館を訪問。そこでの経験を、自身のSNSを通じて発信した。このような彼の言動には、今や「社会活動家」としての顔が見え始めている。

肝心な試合はというと、Jリーグの公式戦から大きくメンバーを落とした広島に対して、ほぼベスト・メンバーでぶつかったビクトリーが早々に先制点を許すも、がっぷり組み合う展開。71分には、この試合での注目を一身に浴びていた本田が、スライディングしながら左足で難しいゴールを決める。それでも、終了間際の86分に勝ち越し点を許してしまい痛い敗戦を喫した。

この日、母国のファンにゴールという結果を届けることができた本田。試合後には、AFCの規定(背もたれがない席は使えない)により発生した多くの空席に言及。「日本に来ているのに、スタジアムが満員じゃないのは違和感しかない。AFCのルールを変えた方が良い。(売り出された席は完売も)やはり空いているスペースはもったいない」と苦言を呈した。確かに、よく分からない規約より英雄の凱旋を少しでも多くのファンに見てもらい、地元広島の頑張りにも触れてもらう方が重要だ。そういう問題提起を、アウェー、しかも敗戦の直後にさらりとやってのけることこそ、彼が日本サッカー界の真の唱道者たらしめる所以(ゆえん)だ。

残りおよそ2カ月余りとなった豪州の地での本田圭佑の雄姿。せっかくならば、そのチーム名と同様の大いなる勝利の栄光を獲得して、大団円を迎えて欲しい。まだ、リーグ戦も可能性ゼロではなく、ファイナルの一発勝負でのタイトルもしっかりと狙える。「見ておけば良かった」と後悔する前に、ぜひスタジアムに足を運ぶことを強くお勧めしたい。

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