日豪サッカー新時代(QLD)第95回「充実」

第95回 充実
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

来豪5 季目で、最も充実したシーズンを送る藤本。その表情には自信が漲る(Photo by BEAK Photographics)
来豪5 季目で、最も充実したシーズンを送る藤本。その表情には自信が漲る(Photo by BEAK Photographics)

QLD州サッカー界では、今、まさに大変革のシーズンが戦われている。州1部のNPLQの下にクイーンズランド・プレミア・リーグ(QPL・州2部)が作られ、これまで事実上の州2部だったブリスベン・プレミア・リーグ(BPL・州3部相当)は、それらの傘下に組み込まれた。更に、NPLQとQPLのレギュレーションが統一され、外国人枠や選手獲得のポイント制などが導入され、日本人選手を含めた多くの選手がこれらのリーグの間で激しく動いた。

そんな変革の中でも、同じクラブで立場を維持し続ける外国人選手は少数派。QPLには参入せずBPL残留を決めた名門クラブ、アルバニー・クリークで今季5季目のシーズンを戦う藤本安之(29)は、その数少ない中の1人だ。「とにかくサッカーに集中できている」と語る29歳は、来豪後、自己最高とも言えるシーズンを送る。ここまで12試合全てに先発フル出場。左サイド・バックで2ゴール1アシストという数字以上の貢献で、首位に勝ち点差3で2位に付けるチームにおいて存在感を発揮している。

そんな藤本だが、昨季まではセミプロ選手の宿命、サッカーと仕事のバランスの中でもがいていた。縁あって任された仕事で結果を追う余り、現役選手として一番ケアしなければならないコンディション面がおろそかになっていた。結果、古傷がシーズン中に再発、手術を要するまでに悪化する。術後、急いでリハビリして何とか復帰も、満足な動きができないままシーズンを終えた。そのシーズン明け「もう一度、サッカーをメインにやり直さねば」と決意。身を粉にして働いた職場との別離を決めた。時間に余裕ができたことで、今一度、自分の体とじっくり向き合えるようになった。「ぶっちゃけ収入は激減です(笑)。でも、心身共にキレは今までで一番」と充実のシーズンを過ごす表情は明るい。

今までは、どこか飄々(ひょうひょう)としたところがあったが、今季は「必ずタイトルを獲る」と貪欲。かつて、セレッソ大阪ユースで柿谷曜一郎、現日本代表の山口蛍と切磋琢磨した男は、彼らの現在の活躍を見て「頑張れよと思う反面、正直、悔しさもある」と同じ現役としての反骨心も忘れない。地元・岸和田に暮らす、女手一つで育てあげてくれた愛する母に豪州でのキャリアで初めてのタイトルを捧げたい。そんな思いを形にするため、今日もピッチを駆け抜ける。頑張れ、ヤス。努力は必ず報われる。


【うえまつのひとり言】
日豪共にロシアW杯に臨む23人が決まった。19歳の新鋭ダニエル・アルザーニを起用、次代を見据え若手にも目を配った人選の豪州。かたや、経験重視の人選で、新戦力の抜擢もなかった日本。もうここまでくれば、その人選が奏功したか否かは、大会の結果でしか測れまい。

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