シドニーFC対メルボルン・ビクトリー観戦ルポ「本田圭佑、大一番で見せた姿」

本田圭佑、大一番で見せた姿 Photo: Moto
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2018年11月25日、サッカー・Aリーグ第5節シドニーFC対メルボルン・ビクトリー(以下、メルボルンV)がシドニー南西にあるジュビリー・スタジアムで行われた。オーストラリアを代表する2クラブによる「ナショナル・ダービー」であり、Aリーグにおける本田圭佑のシドニー初上陸となった同試合は、試合前にチケットが完売するなど大きな注目を集めた。Aリーグ前半戦の1つのハイライトとも言えるその試合と本田圭佑の活躍を、現地観戦ルポで振り返る(本文中敬称略)。(取材・文=山内亮治)

本田圭佑がシドニーにやって来る――。現地在住の日本人にとっては期待感であり、ホームで迎え撃つシドニーFCのファンにとっては開幕から好調を維持する相手エースへの警戒心か。きっとこうした気持ちが入り交じっていたのだろう、2018年11月25日の午後5時にキック・オフされた「シドニーFC対メルボルンV」の1戦で、スタジアムは試合前から夏日を思わせる天候と併せ熱気に包まれていた。

スタジアムのボルテージを上げた要素は本田の存在だけではなかった。今季、Aリーグ第4節終了時点での両チームの勝ち点と順位は、シドニーFCが2勝2分の勝ち点8で2位、メルボルンVが2勝2敗の勝ち点6で5位。このゲームでの勝利は、前者にとっては昨季Aリーグ王者に輝いたライバルをリーグ戦序盤で引き離す、後者にとっては立場を逆転させる、またとないチャンスを意味していた。

また、特にシドニーFCにとっては、この1戦に懸ける思いを更に強くする要素が他にもあったはずだ。昨季のAリーグ・グランド・ファイナル(リーグ王者を決めるプレー・オフ)準決勝。メルボルンVをホームに迎えたシドニーFCは、延長戦の末に敗れ、頂点までたどり着くことができなかった。Aリーグ2018/19シーズンのメルボルンVとの初戦はつまり、直近で喫した痛い敗戦の絶好のリベンジの舞台でもある。1万9,801人を飲み込んだスタジアムのスタンドは、アウェー用に確保された一角を除き、自軍の選手たちを強力に後押しせんとばかりにホーム・ユニフォームのスカイ・ブルーに染まった。

鮮やかなスカイ・ブルーに染まったスタンド。メルボルンVにとっては完全アウェーの雰囲気が作り出された(Photo: ⓒNaoto Ijichi)
鮮やかなスカイ・ブルーに染まったスタンド。メルボルンVにとっては完全アウェーの雰囲気が作り出された
Photo: ⓒNaoto Ijichi
試合には多くの日本人も多く駆け付け、スタンドからは日の丸が振られた(Photo: Kazuya Baba)
試合には多くの日本人も多く駆け付け、スタンドからは日の丸が振られた
Photo: Kazuya Baba
試合後の会見で本田の貢献をたたえたケビン・マスカット監督(Photo: ⓒNaoto Ijichi)
試合後の会見で本田の貢献をたたえたケビン・マスカット監督
Photo: ⓒNaoto Ijichi
本田圭佑をひと目見ようと、日本人を中心にメルボルンVのチーム・バスの前には多くのファンが待ち構えていた(Photo: Kazuya Baba)
本田圭佑をひと目見ようと、日本人を中心にメルボルンVのチーム・バスの前には多くのファンが待ち構えていた
Photo: Kazuya Baba

劇的なPK決勝弾

上位対決の注目の1戦において、注目したのは「本田がどの位置でプレーするか」だった。前節のセントラル・コースト・マリナーズ戦では、4-3-2-1のシステムのFWに近い「2」の一角でプレーし、4-1とシーズン開幕以降の最多得点での勝利に貢献。これはけが人が出たことによる急造システムだったものの、その「ハマった」流れをシドニーFC戦でもケビン・マスカット監督は持ち込むかと考えたが違った。本田は、中盤をダイヤモンド型にした4-4-2システムの右MFで先発した。

4-3-2-1システムでの試合を観た限りでは、本田をより攻撃に専念させられるメリットがあった一方、チームとして守備面でのビジョンを共有できていないという印象で、連動が今一つ。監督として、試合のスタートからそのシステムを使うことは大一番だとさすがに負えないリスクだったに違いない。

試合は前半、開始2分にメルボルンVのFWコスタ・バルバローセスが強烈なミドル・シュートで見せ場を作る。そこからしばらくは膠着(こうちゃく)状態が続いたが、23分に試合が動いた。敵陣左サイドからメルボルンVのMFジェームス・トロイージがペナルティー・エリアに向かって全速力で走るバルバローセスにパス。それをコントロールすることなく自身の右にいたFWオラ・トイボネンにスルーすると、フリーの状態だったトイボネンが左足で冷静に流し込んでメルボルンVが先制した。しかし、32分にシドニーFCのMFパウロ・レトレがペナルティー・エリアに走り込んできたところを倒され、PKを獲得。FWアダム・ル・フォンドレがゴール左に蹴ったPKはGKローレンス・トーマスに一度はセーブされたが、こぼれ球を押し込み試合を振り出しに戻す。前半は1-1のまま終了した。

後半、開始早々にシドニーFCがゴールまであと1歩と迫る場面があったが、それ以外では両チームとも長い時間にわたって決め手を欠いた。すると、23分にメルボルンVのマスカット監督が大きく動く。MFリー・ブロクサムをFWトイボネンに代えて投入、システムを4-3-2-1に変更した。そうして本田が相手ゴールにより近い位置でプレーしてからのことだった。24分にブロクサムからの浮き球のパスに本田がペナルティー・エリア内で反応したところを倒され、PKを獲得。試合の行方を大きく左右する場面で、ペナルティー・スポットにボールを置いたのは本田。ゆっくりとした助走から冷静にGKの動きを見極め、ボールをグラウンダーでゴール左隅へと沈めた。このゴールが決勝点となり、メルボルンVは敵地で大きな勝ち点3を手にした。

本田圭佑に抱いた仮説

試合を決めるPKの場面ではさすがの勝負強さを見せた(Photo: Moto)
試合を決めるPKの場面ではさすがの勝負強さを見せた(Photo: Moto)

大一番の試合の、しかもここぞという場面で主役としての活躍を見せた本田。PKを決めた場面できっと多くの人がこう思ったことだろう。“持っている男”――。

確かに試合結果と活躍ぶりからすると間違いないのだが、試合全体を見た限りでは本田にはもっと別の顔があったように思う。「演出家」としての顔、である。ポジションをよりゴールに近い位置に変えた時間帯を除き、右MFでのプレーにおいて攻撃の場面ではピッチのほぼ中央に陣取る。そこから軽やかなステップと共に味方選手の位置を見つつ細かなポジション修正を繰り返し続け、ボールを持つと少ないタッチで次の展開へとつなげる。こうして試合を組み立て続けていた。試合結果から言えば、ある意味で本田は本人のイメージ通りにゲームをコントロールしていたのかもしれない。

新シーズンが開幕して5試合目。シドニーFC戦の結果も受けて、本田に託す役割は決まったか。試合後の記者会見でマスカット監督に「本田をFWに近い位置でプレーさせることはチームにとっての最適解か」と質問すると、次の答えが返って来た。

「本田のチームへの貢献度は試合を通し非常に高いものだった。そのため、試合をコントロールすることを重視し、FW近くでプレーさせることはリードを奪うために残しておいた選択肢だった。何よりも彼のチームへの貢献に満足している」

ロー・スコアのゲームを手堅くものにしたチーム戦術と本田への手応え、そしてその後のシーズンで本田に期待するものを感じ取れた。

本田は得点力に類まれな勝負強さも持ち合わせた選手であることは間違いないが、オーストラリアというステージではシドニーFC戦のような“演出する自分”を新たに楽しんでいるのではないか。そんな疑問をぶつけようと会見後もスタジアムからチーム・バスまでの通路で本人を待った。現れたところで駆け寄りレコーダーを向け質問しようというところで声を被せてきた。

「お疲れ様でした」

取れ高はこのひと言。バスに乗り込む本田を見つめつつ、上記の仮説は研究し続けるしかないと悟った。

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