労働党の税制改革

税務会計最前線

KPMG会計事務所 
パートナー 八郷 泉


労働党の税制改革


 2008年8月6日、ウェイン・スワン財務大臣は、アーキテクチャー・ペーパー (Architecture Paper, Architecture of Australia’s tax and transfer system) というタイトルの税制討議目的の報告書を公表した。これは、ラッド労働党新政権の税制の包括的な検討の一環である。KPMGでは、この資料の解説ニュース・レター「Reform in Focus」を発行しているが、以下その一部を紹介する。


(1) 将来税制の検討
 2008年5月、政府は、21世紀における人口、社会、経済および環境問題に対処できるオーストラリアの将来の税制を構築すべく、税制の包括的検討を行うことを発表し、レビュー・パネル(ヘンリー座長)を設置した。
 レビュー・パネルの目的は、税制の調和と簡素化、非効率な租税の削減、累進課税の確保および保障(移転給付)制度との否定的相互作用の指摘にある。
 レビュー・パネルは2009年末までに最終レポートを提出する予定であるが、特定の事項については最終レポートを待たずに適宜提言を行い早期実施もあるとしている。将来税制の検討にあたっては、下記が考慮される。
●給与所得、投資ならびに貯蓄からの所得、および消費に対する課税の適切なバランス、および環境税の位置付け
●下記事項の改善および強化
 - 勤労へのインセンティブの向上、複雑さの軽減および首尾一貫性の維持の見地からの、年金受給者を含む個人および勤労世帯の課税と移転給付の制度
 - 法人課税の役割および体系を含む、貯蓄、資産および投資の課税
 - 消費(物品税を含む)および財産(住宅を含む)に対する課税方法、および主として州が徴収しているその他の種類の課税
 - オーストラリア連邦全体についての適切な税務執行の検討を含む、税制の簡素化
●排出権取引制度 (ETS)および税制との相互関係
●最近の国際的傾向である、基本税率の軽減とその適用の拡大
 しかしながら、この将来税制の検討は、政府の方針によって枠をはめられている。すなわち、60歳以上の年金給付の非課税、野心的な個人所得税率の軽減目標(下記表参照)、消費税(GST) の税率および課税ベースの現状維持である。

(2) アーキテクチャー・ペーパーの要旨

 アーキテクチャー・ペーパーは、税制がさまざまな税目とともにどのように進展してきたかを国際標準とのベンチマークを行いながら、個々の税目について広範な分析を行っている。アーキテクチャー・ペーパーの要旨は以下である。
●オーストラリアの政府および自治体は、少なくとも125の異なる租税を課税している。しかしながら、10の税目が2006/07年度における歳入の90%以上を占めている。これらの税目の多くは、異なるオーストラリアの政府および自治体によって(しかし管轄間の首尾一貫性は欠如している)、基本的に同様の取引を課税している。これらの課税の執行体制は、連邦と州とで類似しているので、それらの体制を簡素化できる見込みがある。
  10の税目とは、歳入の多い順に、個人所得税、法人税、GST、燃料税、給与税、印紙税、地方自治体のレイツ(地方税)、年金基金関連税、タバコ税、土地税である。
● 現在の課税と移転給付制度には、広範な税務優遇措置が列挙されている。税務優遇措置は、(GSTを除いても)300項目にも上り、この内約100項目は過去10年間に加えられている。
●現在の課税と移転給付制度は、適用に当たっての査定の単位が異なっている。税制の下では一般的に個人が賦課の単位であり、一方移転給付制度の下では世帯が単位であることが多い。
●現在の課税と移転給付制度は、富裕層に比較的多くの負担を掛けている。また、制度は若年勤労世代から高齢退職世代への再配分を行っており、人口の高齢化問題にも焦点を当てている。
(3) オーストラリアの税制および移転給付制度の国際比較
 アーキテクチャー・ペーパーは、オーストラリアの税制および移転給付制度の国際比較を行っており、以下はその主要な点である。
●オーストラリアは、OECDの中では低税率の国であるが、東南アジア諸国と比較すると対GDP比率は高い。ブラジル、インド、中国と比較しても高い。これは、歳出の役割が一部異なっているためである。
●税の直間比率については、オーストラリアの直接税比率は64%であり、その内容はいくつかの点で異なっているが、およそOECD諸国と同等である。オーストラリアは(ニュージーランドとともに)社会保障税を有していない。オーストラリアの消費税への依存はOECD平均より低いが、財産への課税はOECD平均より高い。
●オーストラリアの個人所得税の最高税率はOECDの典型であるが、社会保障税を有していないことは、OECD諸国と比較して、資本利得の税負担が高いことを意味している(資本利得課税の方法の相違を考慮した後で)。
●世界的には、退職年金課税は、掛金の拠出時および年金基金の利益には課税せず、年金給付に課税するのが一般的である。これとは対照的に、オーストラリアのアプローチは、掛金の拠出時および年金基金の利益に課税し、年金給付時には課税しない方式である。この方式は包括的所得課税モデルに従っているが、課税率は優遇されている。
●法人税率のOECD平均は26.6%であり、オーストラリアはニュージーランドおよびスペインと並んで低い順で26番目である。
●オーストラリアは2001年に法人税率を36%から30%に引下げたが、その時点のOECD平均は32.5%であり、オーストラリアはデンマーク、アイスランドおよび英国と並んで低い順で9番目であった。
 2001年以降、法人税率のOECD平均は6%も減少している。これは、部分的には、グローバルな資本の流動性および経済的効率性を重視した結果、OECD諸国の中で法人税率を減少させる傾向が生じたことによる。
●オーストラリアの法人税歳入のGDPに占める割合は、OECDの中で4番目に高く、またOECDの平均である3.7%と比較して相当高い。これは、オーストラリアの法人セクターの構成が他のOECD諸国と異なっている、インピュテーション制度、および最近のオーストラリアの法人セクターの業績が好調なことによる。
●オーストラリアの燃料への課税は、他のOECD諸国と比較して低い。
● オーストラリアの税制および移転給付制度は、OECD標準から見て、非常に再分配的である。しかしながら、オーストラリアの社会保障への支出はOECD平均より低い。これは、給付レベルが過去の収入と関連しない、病欠が公よりも雇用者で引当てられている、および多くのOECD諸国と構造的相違があるなどのさまざまな要因の反映である。
<個人所得税率表> 
 以下は、今後3年間のオーストラリア居住者の個人所得税率および課税所得区分である。2013年以降の欄は労働党の掲げる目標。
<続きは、次号予定>
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