Kinokuniya Book Stores of Australia Pty. Ltd. オーストラリア紀伊國屋書店

企業研究

ナンバー1よりオンリー1を目指す

 紀伊國屋書店は日本全国に店舗をチェーン展開する昭和2年創業の有力書店。書籍販売、出版事業のほか、演劇活動にも力を入れ、「紀伊國屋ホール」「紀伊國屋サザンシアター」の2つの劇場経営も行う。また海外市場にも積極的に進出。1969年の米サンフランシスコ店を皮切りに、世界7カ国に8現地法人・25店舗を展開している。その豪州現地法人であるオーストラリア紀伊國屋書店に竹澤直之社長を訪ね、豪州市場での経営戦略について伺った。
写真:ギャラリーズ・ビクトリアに入店する紀伊国屋書店


市場ターゲットを地元にシフト
 紀伊國屋書店の豪州進出は1996年8月。日本人在住者が多いシドニー北部ニュートラル・ベイに150坪という小規模店舗を出店したことに始まる。同社は当時、既に海外主要都市に出店していたが、ニュートラル・ベイ店は在住の日本人が主な対象で、品ぞろえも和書が中心だった。その経営戦略を大きく転換することになったのが2002年7月、シドニー市内中心部にあるショッピング・ビル「ギャラリーズ・ビクトリア」への移転・大型店舗出店だ。

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日本の裏原系やゴスロリ系ファッション誌はオージーに人気、「ViVi」の中国語版、英訳されたマンガは今や日本が世界に誇るポップカルチャー

「顧客ターゲットをそれまでと変えたのです。ローカル市場に目を向けた洋書販売は既にシンガポールをはじめアジア地区で成功していましたので、同じ方法論がここ多文化社会のシドニーでも生かせると考えたわけです」。竹澤氏は当時の経営方針の大転換を振り返る。
 850坪という、書店として南半球最大の敷地面積を誇る同店舗は、和太鼓グループのパフォーマンスなど、ローカル市場に向け日本色を前面に打ち出したセレモニーとともに華々しくオープン、地元で大いに話題を呼んだ。ただし、シドニーの同エリアは「ディモックス(Dymocks)本店」「アンガス&ロバートソン(Angus & Robertson)」「ボーダーズ(Borders)」など、古くからの地場チェーン書店がひしめき合う書店の激戦区。紀伊國屋書店の市内出店はこの激戦区に殴り込みをかける格好となった。
独自色を追求
 全豪にチェーン展開するこれら地場書店の経営は、そのスケール・メリットを生かした戦略が特徴だ。1度に大量に仕入れることで新刊本の卸売価格を引き下げ、値引き販売をするのだ。いくら南半球最大の敷地面積を誇るといえども、仕入れ数で絶対的に劣る同店としては価格競争に巻き込まれたくない。その同店の秘策が“オンリー1を目指す”というものだった。
「地場書店は、サプライヤーから低価格で大量に仕入れた新刊を山のように平積みして販売する、新刊・ベストセラー書中心の販売方法を採っています。これは来店客に大きなインパクトを与えることができます。しかし私どもは新刊・ベストセラー書を確実に仕入れつつも、既刊本の充実に力を入れることで、一般のお客様ならびに企業、大学のお客様のご要望に合ったセレクションを目指すことにしたのです」(竹澤氏)。それぞれの部数は少なくても、新刊本と同じ作家の既刊本やシリーズものの過去の既刊本を充実させ、アイテム数で勝負するという独自色を打ち出した。同店で販売する総書籍数35万冊に対し、アイテム数が22万タイトルもあると聞けばその充実度が分かるが、「紀伊國屋に行けばどんな本でも見つかる」というウリを強調したのだ。
「しかしそれだけではまだ弱い。“オンリー1”になるために何をすべきかをさらに追求しました」。それがニッチな市場で優位に立つこと。チェーン店では扱わないような分野の書籍を充実させたのだ。例えば“アート&デザイン”“イングリッシュ・コミック”など、海外留学生やローカルの中でも若い層向けの書籍だ。
“アート&デザイン”は専門の売り場スペースを設け、デザイン書や芸術書のアイテム数をとにかく増やした。また、アート系学生を対象にデザイン作品を公募し、優秀者には賞金や賞品、作品発表の場を提供する「デジタル・アート・プライズ」を実施。若手芸術家の育成に力を入れるなどし、ニッチな市場においても認知度を高めるための努力を惜しまなかった。
“イングリッシュ・コミック”分野もしかり。ヒーロー物などが多い米国産コミック“アメコミ”と、日本が世界に誇るポップカルチャー“マンガ”の英訳本を充実させた。「この分野はお客様の方が物知り。ニーズに合ったセレクションが重要です。その点、弊店には業界の最前線で活躍するアニメーターがスーパーバイザーとして在籍しています」と、他店には真似ができない品ぞろえに自信を見せる。
 ほかにもさまざな分野で色濃い独自色を打ち出した。村上春樹など世界的な日本作家の英訳書をセレクトした文芸書分野を充実し、ローカル客を対象にした日本書籍もアイテムにこだわった。日本ならではの繊細さが際立つ「手芸」「洋裁」といった専門分野の解説書や、さまざまなジャンルの日本のファッション紙をそろえた結果、驚くことにこれらの書籍・雑誌の日本人以外の購買客は、全体の8割以上に上るようになったという。竹澤氏は、この国の日本語学習熱の高さも“日本ブランド”の売れ行きに繋がっていると分析する。
 
多民族社会に相応しいマルチ戦略
 そして現在、売り上げが増え続けているのが中国語の書籍「中文書」だ。在豪中国系移民の数を考えれば当然だが、今や和書の売り上げを上回る市場に成長。店舗の一角を占める中文書売り場には、「ViVi」」「Cutie」「Mina」といった日本の人気女性ファッション誌の中国語版もそろう。
 タイトル数の充実と並行して進めたニッチ市場の開拓、多民族社会向けの商品構成などが奏功し、同店のオープン以来の売り上げは倍増。06年にシティ・オブ・シドニーからビジネス賞、07年に全国小売店協会からベスト・レクリエーショナル小売業賞と、その飛躍的な業績を称える賞を2年連続で受賞した。
「われわれの価値が認められた1つの結果としてありがたく受け止めています」と竹澤氏。そして、今後の目標は多民族国家ならではの「多言語・多文化」化をさらに推し進めることだと言う。「独語・仏語書籍も既にそろえていますが、ここ最近は台湾からの仕入れだけでなく、中国本土からの仕入れも本格化しています。そういった多言語書籍の展開を支えているのが、さまざまな文化背景を持つ従業員たちです」。豪州人、NZ人、中国人、インドネシア人、ベトナム人、アイルランド人など、バラエティーに富んだスタッフ各々のユニークな発想を経営に生かしていきたいと言う。
「書籍というのは文化の1つ。その書籍を中心に派生するいろいろな文化すべてに関わっていく姿勢が大切です。多文化なスタッフとともに、店に足を運んでくださる多国籍なお客様の目線に合った発想で、紀伊國屋書店ならではの文化を創造できればと考えています」。そう語る竹澤氏の目には、新たな出発点に立つ意気込みが感じられた。


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竹澤直之マネジング・ダイレクター
1996年早稲田大学第一文学部卒。同年、紀伊國屋書店入社。営業部配属後、福岡本店店売部を経て、2000年からバンコク店、04年からシドニー店勤務。08年2月より現職
<竹澤社長に聞く10の質問>
①座右の銘:継続は力なり
②今読んでいる本:フランス文学「失われた時を求めて」
③オーストラリアの好きなところ:街からすぐ近くにきれいな海があるなどの自然の素晴らしさ。困っている人に自然に手を差し伸べるオージーの心の広さ
④外から見た日本の印象:資源がない国ならではの苦労は相当。伝統など日本ならではの良さを生かし切れていない
⑤好きな音楽:ジャズ(マイルス・デイビス、エリック・ドルフィーなど)、プリンス、中島美嘉
⑥尊敬する人:本に興味を抱かせてくれた兄
⑦有名人を夕食に招待するなら誰:笠智衆、大江健三郎、大木こだま
⑧趣味:読書、映画、芝居、水泳
⑨将来の夢:フルマラソン出場
⑩カラオケの十八番:尾崎豊(日本にいたころは…)

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