【シアター通信】オーストラリア・バレエ団 2020年の演目

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団 2020年の演目

取材・文=岸夕夏

2020年はオーストラリア・バレエ団と長年のファンにとって特別な年になるだろう。なぜなら、20年間バレエ団を率いてきたデヴィッド・マカリスター芸術監督が今年退任するからだ。彼は王子様タイプのダンサーではなかったが現役時代から人気が高く、それは芸術監督となった現在まで続いている。20年前にマカリスター監督が手掛けた最初の創作バレエは『白鳥の湖』。オーストラリアを代表する振付家、グレアム・マーフィーが振り付けた『白鳥の湖』は、故ダイアナ妃とイギリス王室の悲劇を彷彿させる大胆な発想で、日本を含めた世界各地の公演で絶賛された。オスカー・ワイルドの童話『幸福の王子』を基にした、マーフィーの新作物語バレエ『幸福の王子』がブリスベン公演で世界初演の幕開けを飾る。そう、マカリスター時代はマーフィーで始まり、マーフィーで幕を閉じるのだ。その他の物語バレエの新作としては、『アレルキナーダ』とロシアの文豪トルストイの小説を基にした『アンナ・カレーニナ』。『田園の出来事』は、オーストラリア初演公演となる。コンテンポラリー作品では、英国ロイヤル・バレエ常任振付家、鬼才ウェイン・マクレガーの作品が2作、オーストラリア・バレエ団の常任振付師3人の作品が組み込まれた。1つひとつの演目を見ていこう。

◆お問い合わせ
オーストラリア・バレエ団 カスタマー・エクスペリエンス・チーム 1300-369-741(月~金、9AM~6PM)
WEB:australianballet.com.au

◆チケット料金
シングル・チケット:大人$48より、30才以下$46より、18歳以下$38より
上述のチケット料金は、オーストラリア・バレエ団のウエブサイトから最安値を表示したもの。年間席の購入も含めて、公演場所によっても料金が異なるため、詳細はオーストラリア・バレエ団のウエブサイトで必ず確認すること。また7月、8月に手ごろな料金設定で行われるオーストラリア・バレエ学校と共同の地方巡業公演もある。

◆初めてのバレエ鑑賞を楽しむヒント◆

  1. ドレスアップ

    劇場は非日常的な空間だ。思いっきりドレスアップをしておしゃれも楽しもう。仕事帰りであれば、アクセサリーやスカーフを加えたり、ネクタイを変えるだけでも華やぐ。劇場内はエアコンが効いているので、薄いドレスを着用している場合は、ショールを持っていくと役に立つ。

  2. 間近で見る

    席が舞台から遠い場合は、オペラ・グラスや小さな双眼鏡があると便利だ。ダンサーの衣装や舞台美術には、とても細かい手作業で装飾が施されている。オペラ・グラスがあれば、美術の細部やダンサーの表情や息づかいなどもはっきりと見ることができる。

  3. 物語のないコンテンポラリー・ダンスって難解なの?

    男性ダンサーの高いジャンプなどは、空中で止まっているように見える。何も考えずに、人間業とは思えないダンサーの動きを自然体で見てみよう。

  4. 事前にあらすじを読む

    劇場でも配られるが、事前に読んでおいたほうが物語の展開がより分かりやすい。

『幸福の王子(THE HAPPY PRINCE)』

Brett Chynoweth, Callum Linnane and Serena Graham © Justin Ridler
Brett Chynoweth, Callum Linnane and Serena Graham © Justin Ridler

「町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました」から始まるオスカー・ワイルドの童話には、ユーモアと美しく詩的な叙情性の中に、社会に対する痛烈な皮肉と悲哀が横たわっている。童話はこんな筋である。

「宝石が施され金箔が覆われた美しい幸福の王子の像は町の人びとの自慢。けれどもその像は人間の心を持ち、町の貧しい人びとや、それから不幸な人びとをも嘆き悲しんでいた。そこで渡り鳥のツバメに頼んで、自分の体から宝石と金箔をはがして悲しみの中にある人びとに届けてもらうことにした王子はみすぼらしい姿になり、南に渡る時を逃したツバメもまた死を迎えることに。もう美しくもなく、役たたずの王子像は町の人びとにとって不必要なもの。王子の像は溶解炉に放り込まれるが、鉛の心臓だけは熔けない。それを見た天使は、ゴミ箱に捨てられた王子の心臓と死んだツバメを天国に運んだ」

グレアム・マーフィーの作品には愛と死が通底し、さまざまな欲望が絡み合いながら、喜びと悲しみや希望の中で懸命に生きようとする人びとを独自の視点で描いている。彼の代表作の1つ『くるみ割り人形』は、戦争のためオーストラリアに残ることを余儀なくされた、ロシア人バレリーナの舞踊に捧げた生涯を描いた傑作だ。

カラフルでおとぎの国から飛び出したような衣装や小道具を用い、ワイルドの寓意(ぐうい)に満ちた子ども向けの短編小説はどのように観客に語りかけられるのだろうか。新作バレエ『幸福の王子』のために、クリストファー・ゴードンが新たに作曲した音楽への期待も高まる。

振付:グレアム・マーフィー(Graeme Murphy)
音楽:クリストファー・ゴードン(Christopher Gordon)

◆公演スケジュール
ブリスベン:2月25日~29日 クイーンズランド・パフォーミング・アーツ・センター
メルボルン:8月28日~9月5日 アーツ・センター・メルボルン
シドニー:11月27日~12月16日 シドニー・オペラ・ハウス

『ボルト(VOLT)』―コンテンポラリー・ダンス 3作品

Imogan Chapman © Justin Ridler
Imogan Chapman © Justin Ridler

世界中の著名なバレエ団では、コンテンポラリー・ダンスと呼ばれる現代舞踊がレパートリーに含まれるが、オーストラリア・バレエ団も例外ではない。

2006年、コンテンポラリー・ダンスの振付家であるウェイン・マクレガーが英国ロイヤル・バレエの常任振付家に就任したことは、世界中のバレエファンや関係者の間で大きなニュースになった。それはまさに電撃的な出来事。マカリスター芸術監督はそれ故にこの演目をボルトと名付けたと語る。

同年に英国ロイヤル・バレエが世界初演した『クローマ』は、翌年新作ダンス部門でローレンス・オリヴィエ賞を受賞。四肢が自由に可動する身体の輝きは、観た者を熱狂させた。

マクレガーはイギリスのロック・バンド、レディオヘッドやケミカル・ブラザーズ、映画『ハリー・ポッター』のシリーズにも振り付けを提供している。マクレガーのもう1つの作品『DYAD 1929』の音楽にも注目だ。その楽曲に使われたスティーブ・ライヒの『ダブル・セクステット』は、音楽部門のピューリッツァー賞を受賞した。

18年に日本の金継ぎをモチーフにした、アリス・トップの作品『オーラム』は劇場を感動の渦で満たし、多くの観客が涙したという。そして昨年、トップはオーストラリア・バレエ団の常任振付家になった。世界の主要なバレエ団で女性が常任振付家になるのは極めて珍しい。トップの新作『ロゴス(LOGOS)』では心の中の恐れやプレッシャーに対する自己の鎧が描かれている。

『クローマ(CHROMA)』振付:ウェイン・マクレガー(Wayne McGregor)
『ロゴス(LOGOS)』振付:アリス・トップ(Alice Topp)
『DYAD 1929』振付:ウェイン・マクレガー(Wayne McGregor)

◆公演スケジュール
メルボルン:3月13日~24日 アーツ・センター・メルボルン
シドニー:4月3日~22日 シドニー・オペラ・ハウス

『アンナ・カレーニナ(ANNA KARENZNA)』

Robyn Hendricks, Kevin Jackson and Nathan Brook © Justin Ridler
Robyn Hendricks, Kevin Jackson and Nathan Brook © Justin Ridler

19世紀ロシア文学を代表する文豪トルストイの代表作の1つ『アンナ・カレーニナ』を忠実に舞台化したのが、新作の物語バレエ『アンナ・カレーニナ』。今作はアメリカのジョフリー・バレエ団との共同制作だ。大規模なスケールの新演目はコスト面で、他のバレエ団と共同で創作することも多い。

名門ボリショイ・バレエで最高位のダンサーだったユーリ・ポソホフが振り付けた『アンナ・カレーニナ』は、ハリウッド映画並みの衣装と舞台装置を用いたドラマ性の高い作品。不倫という当時絶対に許されない掟を破ったアンナは不幸な結末を迎えざるを得ない。

Robyn Hendricks © Justin Ridler
Robyn Hendricks © Justin Ridler

バレエは言葉のない、身体言語だけの表現芸術だ。今作では、ダンサーたちは踊りの技術だけでなく高い演技力も要求され、視線や所作、手の表情、後ろ姿でも感情の機微を語らなくてはならないだろう。

新たに委嘱されたイリヤ・デムツキーが作曲した音楽はチャイコフスキーのような壮大さで、メゾソプラノ歌手がステージで歌う。苦悩とエクスタシーで流転するアンナの人生を描いた今作を、オーストラリア・バレエ団は今年の目玉演目と呼んでいる。

振付: ユーリー・ポソホフ(Yuri Possokhov)
音楽: イリヤ・デムツキ―(Ilya Demutsky)

◆公演スケジュール
シドニー:4月30日~5月18日 シドニー・オペラ・ハウス
メルボルン:6月5日~13日 アーツ・センター・メルボルン
アデレード:7月4日~10日 アデレード・フェスティバル・センター

『モルト(MOLTO)』3つのダンスの三者三様の彩り

Amber Scott © Justin Ridler
Amber Scott © Justin Ridler
Ako Kondo © Justin Ridler
Ako Kondo © Justin Ridler

3人の振付家による異なる風合いの3作品は、ドラマ、笑い、圧倒的な身体性が大きなコントラストを見せる一夜を届けてくれるだろう。

英国ロイヤル・バレエの振付家であったフレデリック・アシュトンの名作『田園の出来事』は、ロシアの文豪ツルゲーネフの戯曲をバレエ仕立てにしたもの。内に倦怠を抱える人妻ナターリアとその夫、ナターリア夫妻と同居する若き女書生ヴェーラ、息子の若き家庭教師の4人が主要人物となって人間模様を繰り広げる。音楽はショパンのピアノ曲を使用。

オーストラリア・バレエ団の常任振付家、ティム・ハーバーの『蕩尽(とうじん)と栄誉(SQUANDER AND GLORY)』は、シャープで張り詰めた動きがマイケル・ゴードンの『Weather One』の音楽の中で躍動する。巨大な反射鏡を使った舞台セットは斬新で、観客を驚かす仕掛けとなっている。

容姿端麗、息を呑むようなアートフォームを体現するダンサーたちが、変顔を見せたり、ユーモアたっぷりにコミカルなマイムで繰り広げる作品は、通常のバレエとは異なる至福の時を観客に与える。オーストラリア・バレエ団の常任振付家スティーブン・ベインズの『モルト・ヴィヴァーチェ』は私たちを思いっきり笑わせてくれるに違いない。

『田園の出来事(A MONTH IN THE COUNTRY)』振付:フレデリック・アシュトン(Frederick Ashton)
『蕩尽と栄誉(SQUANDER AND GLORY)』振付:ティム・ハーバー(Tim Harbour)
『モルト・ヴィヴァーチェ(MOLTO VIVACE)』振付:スティーブン・ベインズ(Stephen Baynes)

◆公演スケジュール
メルボルン:6月19日~27日 アーツ・センター・メルボルン
シドニー:11月6日~21日 シドニー・オペラ・ハウス

『アレルキナーダ(HARLEQUINADE)』(メルボルン公演のみ)

Brett Chenoweth © Justin Ridler
Brett Chenoweth © Justin Ridler

バレエを見たことがない人も『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』、チャイコフスキーといった名前はどこかで耳にしたことがあるだろう。今から130年程前に、三大バレエと呼ばれるこれらの作品の振り付けをしたのがマリウス・プティパだ。そのプティパとロシア人作曲家チャイコフスキーは最強のコンビで、バレエ界に金字塔を打ち立て、100年以上経った現在でも燦然(さんざん)と輝いている。

Benedicte Bemet © Justin Ridler
Benedicte Bemet © Justin Ridler

そのプティパが1900年に振り付けた『アレルキナーダ』は、1917年のロシア革命で舞台から消えてしまったのだが、ボリショイ・バレエの前芸術監督であったアレクセイ・ラトマンスキーが、慎重なリサーチをして再振り付けをし、作品に新たな命を吹き込んだ。今作『アレルキナーダ』は世界有数のバレエ団、アメリカン・バレエ・シアターとの共同制作である。

娘を年上の金持ちに嫁がせたい父親に対し、反抗する娘と彼女の恋人。恋人たちを助ける人たちによって困難を乗り越えていくというストーリーが展開される。

帝政ロシアの劇場に時を移したかのような、鮮やかな色彩パレットの衣装と舞台装置。天才とも称されるラトマンスキーの魅せる振り付けが、コメディータッチの舞台で極上の輝きを見せる。

再振付:アレクセイ・ラトマンスキー/マリウス・プティパ原振付(Alexei Ratmansky)
音楽:リカルド・ドリーゴ(Riccardo Drigo)

◆公演スケジュール
メルボルン:9月11日~23日 アーツ・センター・メルボルン

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