座談会①バイリンガルに育てるには

子どもの将来を考える バイリンガル教育のススメ

子どもをバイリンガルに育てるには?

オーストラリアで子育てをしている日本人にとって気になるのはやはり子どもへの日本語教育ではないだろうか。特に片親が日本語を話せない家庭では、会話が英語主体になってしまい子どもに日本語を覚えさせることを諦めてしまったという例も耳にする。しかし、せっかくであれば将来のためにも子どもをバイリンガルとして育てたいところ。そこで本紙では継承日本語を軸に、シドニーで暮らす日系の子どもたちに日本語教育を行っているフォレスト日本語学校の先生2人を招き、座談会を敢行。バイリンガル教育において重要なエッセンスなどさまざまな話を聞いた。(取材:馬場一哉)

伊藤美咲(いとうみさき)
日本で幼児体育と教育学を専攻し、幼児を対象に体育指導を経験後、渡豪。現在、Early Childhood Educatorとして保育園に勤務。日本語補習校フォレスト日本語学校でイヤー1クラスを担任。生徒を引きつけるはつらつとした魅力的な授業で、元気なイヤー1生たちをまとめている

ベンチューラ知子(ともこ)
幼稚園教諭として日本で4 年間勤務。また、保育士として日本とオーストラリアで約3年働いた後、現在、2人の娘の子育ての傍ら、日本語補習校フォレスト日本語学校で4歳児クラスの担任教諭として勤務。優しく、丁寧、気配り上手な先生として子どもからはもちろん、保護者からの信頼も厚い

――バイリンガル教育とひと言で言っても目指す到達レベルはさまざまだと思います。日本語、英語どちらもネイティブ・レベルというのがやはり皆さんが目指すところなのでしょうか。

伊藤美咲(以下、美咲):クラスの中で同じことをやっていても吸収するスピードは子どもによって大きく変わります。両方の言語をナチュラルに話せる子どももいれば、どこかのタイミングで1つに絞った方が良い子もいます。そういう面では子どもによる部分が大きいのですが、ご家庭の方針やご両親の思いが子どもにきちんと伝わっているかどうかということによっても能力の伸びは大きく変わる気がします。

ベンチューラ知子(以下、知子):子どもによるというのは子育てでも感じていて、うちは同じ家庭内でも、上の子と下の子で全く違いました。上の子は英語が強く、私がいくら日本語を話しても英語の返事しか返ってきませんでした。「りんご」と言っても「Apple」としか返ってこない。そんな中、日本に2カ月ほど滞在したのですが、不思議なことに帰国1カ月後から急に日本語がブワーっと溢れ出てきました。それ以来、英語と日本語が半分半分になったのです。逆に下の子の場合は、日本語がずっと強かったのですが、プレ・スクールに行った途端、全部英語になりました。今は日本語で話し掛けてもほとんど英語しか返ってこない状況です。

美咲:私はクラスで知子先生のお子さん2人を受け持っているのですが、クラスではよくしゃべります。お母さんとは英語の方が良いというような年頃なのかもしれませんね。

――話す言語を親にプッシュされる、あるいは期待されることで、逆に背を向けてしまっている面があるのかもしれないですね。

知子:そうなんです。プッシュすることで日本語を嫌いになられてしまうと困りますよね。そこで大事なのは、例えば日本に1年に2回帰ると決めて、そのうち1回は6週間ステイして現地の学校に入れるなど日本語環境を作ることだと思います。現在我が家では日本人の子どもをホームステイで受け入れているのですが、その子とは普通に日本語で話しています。

――自然に話せる環境で、楽しいなと思えるように方向付けをすることが大事なわけですね。

知子:そう思います。ただ、ご両親の熱心な姿勢はやはり必要でそこは頑張る必要があると思います。私の知り合いの話ですが、子どもの頃、お母さんから日本語の読み書きを強制されていて本当に嫌でよくけんかをしていたそうなんです。でも大人になって普通に日本語を話せていることから、今ではお母さんには本当に感謝していると話しています。

美咲:やっぱり好きという気持ちは大事ですよね。小学校に上がって英語についていけなくならないように日本語を減らした結果、英語の方が強くなる子もたくさんいますが、大きくなってから日本が好きだからと勉強し始めるケースもたくさんあります。そのためには、自分のアイデンティティーを感じさせるように、日本に行って祖父母に会わせるといったような機会をたくさん作ってあげるのが良いと思います。読みなさい、書きなさいと言うだけではなくて。

知子:バイリンガルを育てるには、やはり、親のそういった協力なしでは無理ですよね。学校に行かされているだけの感じの子もいますし、日本を好きにならないとなかなか日本語力も伸びていかない。

知子:先日、言語セラピーの先生のセミナーに行かせて頂いたのですが、その先生は子どもは元々必ずバイリンガル、トライリンガルになれる脳を持っているとおっしゃっていました。たとえ障がいを持って生まれた子でも自閉症の子でもそれは変わらないと。ポイントはその言語にどれだけ触れたかという絶対量で、そのためにはやはりその言語に触れる環境をどれだけ持つかということになるのだと思います。

セミリンガルという落とし穴

――バイリンガル教育の落とし穴として、2カ国語を話すことはできても、言語による思考の深さが年齢相応のレベルに達しておらず、どちらの言語も浅い運用しかできない「セミリンガル」というものがあると聞きます。

知子:私の知り合いに、日本人のお母さんとヨーロッパ出身のお父さんの元に生まれてオーストラリアで育った女性がいるのですが、彼女はずいぶん悩んだそうです。家庭では日本語、外では英語なのですが、英語を話している時に笑われてしまった経験があって、以来、英語に苦手意識を持ってしまいました。英語を話すこと自体はできても、文章になると必ずチェックしてもらわないとだめ。日本語は敬語も使いこなせますし、漢字も書けるのですが、彼女いわく日本語も100パーセントではない。どちらも中途半端だと思っているようです。私からすればどちらも十分だと思うのですが、本人にはきちんとできているという感覚がない。

美咲:話していて違和感がないのであれば読み書きかもしれないですね。英語の学校に行っても、同学年の子たちのレベルには付いていけず、日本語の学校に行っても同じ状況になってしまう。そうなると自分が本当に思っていることを伝えられる言語が存在しないということになり、その場合、子どもの将来に強く影響してしまいます。

知子:今は結婚されて日本に住んで満足しているようですが、日本の教育を経験したことがないので子どもができた時に少し不安だと言っています。

「子どもがつまずいた時に、教師と保護者がしっかり気付いてあげる必要がある」と話す美咲さん
「子どもがつまずいた時に、教師と保護者がしっかり気付いてあげる必要がある」と話す美咲さん

美咲:やはり自分が思っていることを表現できるベースとなる言語を持つことが、子どもにとってすごく大事だと思います。幼児期って重要な時期ではあるのですが、その時に2カ国語を話せないからといってバイリンガルになれないわけじゃない。日本語でも英語でもベースをしっかり作って、その後から他の言語に取り組むというのも手です。第1言語、第2言語というように優先順位を決めてあげることも大事だといいます。両方難なくこなす子ももちろんいますが、どこかでつまずく子も出てくる。その時に教師と保護者がしっかり気付いてあげなければならないですね。


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