危険で貧困の国かアメリカ USA再訪の旅 ①

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危険で貧困の国かアメリカ

USA再訪の旅 ①

文=青木公

2001年9月11日のNYテロ以降、初めて米国大陸へ4月中旬に出かけた。米国は、どう変わったか。米国の人々の心の内は…と約10日間の旅で、コロラド州とロサンゼルスの旧友を訪ね歩いた。米国入りした4月13日、ワシントンでは核安保サミットが開かれていた。ノーベル平和賞を受けたオバマ大統領は、一方では2つの戦争を闘っている。戦闘モードの米国から報告する——。

かつて米国訪問時には、空港で機外に出たラウンジで旧友が待っていて笑顔で迎えてくれたものだ。NY同時テロ後は、空港への市民の出入りまで規制され、写真さえ撮れなくなっていた。

異様な空港検査

米国入国時、出国時の旅客検査は、常軌を逸していると感じた。クツを脱ぐ。金属探知機にひっかかりそうな装身具は、取りはずさなければならない。水っ気のある容器は取り上げられる。旅客が自分でバッグを開けようとすると、「手で触れるな」と制止された。国内線への乗り継ぎ時でも、同じような厳しい検査を通らねばならない。

旅の目的地、ロッキー山脈を越えた標高1,600メートルのコロラド州デンバー空港では4月7日、機内トイレでクツに火をつけようとしたアラブ系の男が捕まったばかりだった。空港での旅客チェックが厳しくても、やむをえないのだろう。荷物受け取り場で、旧友に再会でき、ほっとした。

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残雪がある4,200メートルのパイクス・ピーク山頂で。近くの山に地下式のミサイル防空基地がある。(コロラド・スプリング市で)

コロラド州は、白人の中流階級で知識人も多い地域だ。かつて冬季オリンピック大会を住民投票で拒否したような土地柄だ。一方で米国本土のヘソのような内陸部で、核攻撃に備えて地下の防空センターと、弾道ミサイル発射の地下サイロが農場や牧場に点在。ミサイルに核弾頭を装備するロッキーフラットという施設がある。米ソの対立の時代は終わっても、核テロへの警戒は保たれていた。空港の入国審査官もピストルを持っている。

戦闘モードにある米国。1980年代、レーガン大統領のころ、筆者は3年ほど米国に居住した経験と比べると、空港の保安態勢の厳しさを身心に感じた。

日本にいると、北朝鮮の核を心配はしているが、NYテロを体験した米国民は、「核テロ」に敏感なのだろうと察した。

旧知の白人男性にたずねた。経済的に余裕ある退職者だが、「NYテロ前と現在では、どう世の中は変りましたか」という筆者の問いに対して、「かつては、お人よしで、のんびりしていたね。今は、そう無邪気にしてはいられないかな」と答えてくれた。もちろん、いつもピリピリしているわけではない。庭の手入れやBBQのパーティーを家族、友人と楽しむ。日本の退職者に比べても、豊かでゆとりがある。

多様な移民たち

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デンバー近郊で。売り家の看板も見かけた

コロラド州都のデンバー都市圏は、アフリカ系移民は少ない。一方で、韓国、ベトナム、中国系の移民や、その子弟は少なくない。同じ高原地帯だからか、モンゴルやエチオピア系もいる。タクシー運転者にエチオピア人が多いのに驚いた。新しい移民者には、手っとり早い仕事だからだろう。土産物店には、韓国系が多いという。米国社会のふところの深さだろう。

かつての日本人町は、仏教寺院や敬老ホーム、食料品店が一区画に残るだけで、アジア系食品の大スーパーマーケットは、やや郊外の韓国系だった。日本食といえば、米国風になった寿司屋。椅子席200の大レストランで、白人客であふれていた。握り手は、少数の日本人と、白人の大男が大ぶりの寿司を握っていた。飲み物はワインとビール、女性のみの客も少なくない。シドニーのような回転寿司はない。

牧場、牛肉の土地柄だけに、ビーフボウル牛どん発祥の地でもある。試験的に牛どんに市場性があるか、デンバーで試した後、日本の牛丼チェーンに発展した。

多彩な大学の日本祭

ロッキー山脈のふもとの大学町で、日本留学者による日本祭りが催されていた。日本人の留学生が主役かと思っていたが、日本語を学んだ日本に留学した米国人学生が取り仕切っていた。日米交流は、若者、大学生レベルに広がり、外務省や日本人駐在者がおぜん立てする時代は終わっていた。

こういった大学町では、日本のオリンピック選手がトレーニングに励んでいたが、今は日本からの若い学者や教師が教壇に立っていた。日米協会のような肩がこる組織よりは、友人関係のような若い世代が、交流の主役になっているのを知った。

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フリーウェーには「米国がんばれ」の看板が立っていた

こういった新しい日米関係を知った後、帰路の空港で先述したような、異常な検査態勢に出合うと、つい嫌米(けんべい)になってしまう。

日本でもてる嫌米の本

今、日本で読まれている新書版の書籍は、『貧困大国アメリカ』と題した、留学生OGが書いたものだ。NYテロ後、08年のリーマン・ブラザーズ倒産騒ぎによる経済危機が、どのように米国社会と人心を変えたか、という内容だ。全米の失業率は10%に近い。コロラド州は6%台だから、貧困の影は薄かったが、不動産価格は低迷と聞いた。

IT時代、デンバーでも1つの新聞社がつぶれた。街頭の新聞販売機には、JOB情報ものが目についた。豊かさの中にも貧困は潜んでいた。


筆者紹介・青木公(あおき・ひろし)朝日新聞社友。日豪プレス創刊時に朝日新聞シドニー支局長。定年後、東南アジア、中南米、アフリカ大陸などの途上国を毎年、訪問・取材。現在、国際協力機構(JICA)サポーター。著書に『ODA最前線』『中高年、はつらつと海を渡る』『ブラジル大豆攻防史』ほか。海外日系紙に寄稿

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