いよいよ佳境、WSWと小野伸二が狙う参入初年度Vの偉業

サッカーAリーグ、ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ

いよいよ佳境
WSWと小野伸二が狙う、参入初年度Vの偉業

 小野伸二所属のウエスタン・シドニー・ワンダラーズが変わらず好調を持続。第22節終了時点で首位に勝ち点1差の2位と、シーズン優勝をしっかりと射程にとらえている。残り5試合となった佳境のAリーグ、優勝争いの行方やライバルの動向など、お馴染みのスポーツ・ライター、植松久隆が分析する。 取材・文:植松久隆(スポーツ・ライター/本紙特約記者)

止まらぬ快進撃、暫定首位

7連勝。小野伸二所属のウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(以下、WSW)の快進撃が止まらない。第22節のパース戦、ぬかるむピッチに苦しみながらも、WSWがアーロン・ムーイのゴールを守り抜き、勝利した瞬間は、Aリーグの順位表の一番高いところにWSWの名が輝いた瞬間でもあった。結果的には、遅れて試合を終えたセントラルコースト・マリナーズ(以下、CCM)に抜き返されて、首位の座は“90分天下”の暫定的なものに終わったのだが、首位にわずか勝ち点1差の2位という絶好のポジションは譲らない。

参入初年度から暫定首位にまで登りつめ、残り5試合で十分に逆転可能な位置で優勝争い(※筆者注)を繰り広げる、こんな展開を開幕前に誰が予想していただろうか。少なくとも、筆者はしていなかった。開幕直後の記事で「小野がすぐにフィットしたとしても、ファイナル圏内(6位)入りが現実的な目標」とかそのようなことを書いた己の不明を、「おみそれしました」と改めて恥じ入るばかりだ。

 

では、何が、WSWをこの快進撃へと導いたのか。いろいろな要因はあるが、その最大のものは、トニー・ポポヴィッチ監督のコーチとしての高い資質だと考える。選手層の厚さは、優勝を争うライバルに劣る。しかし、ポポヴィッチ監督は、それを逆手に取り、限られた駒をうまくやり繰りして、核となるポジションの選手を多少の波があっても、疲労が溜まらない限りは信頼して使い続けた。そうすることで、チームの連携の精度が上がり、チームワークが高められるに至った。さらに、チームの規模が決して大きくないことで、いわゆるレギュラーと控えの間に意識の隔絶がないことも大きい。小野の言葉を借りるなら「誰が出ても同じことをやる」という高いレベルでの意識の共有が、何とも雄弁な“7連勝で首位浮上”という結果を物語っている。

選手の意識を、そこまで高められたのは、ひとえにポポヴィッチのモチベーターとしての資質。決して能弁と言えるタイプではないが、選手を納得させて結果へと導く力は、コーチ経験の少なさを補って余りある指導者としての高い適性の表れだ。

難敵CCM、侮れないメルボルンV

メルボルンVを大逆転でVに導き、自身のリーグ3連覇を目指すアンジ・ポスタコグルー監督(筆者撮影)


Aリーグきっての知将として知られるCCMのグラアム・アーノルド監督(筆者撮影)

今年のAリーグの優勝争いは、首位のCCM、それに勝ち点1差に肉薄するWSW、さらには、ともに首位を勝ち点9差で追うアデレード・ユナイテッド(以下、アデレード)とメルボルン・ビクトリー(以下、メルボルンV)の4チームに絞られた。

5試合という残り試合数を考えた時、勝ち点8の差は非常に大きい。シーズン中の突然の監督交代などに揺れたアデレードは、最近の試合内容も芳しくなく、この差を埋められる余力はないように見受けられる。一方、メルボルンVは、ブリスベン・ロアをリーグ2連覇に導いた名将アンジ・ポスタコグルーに率いられ、チームの総合力からも軽視はできない。残り試合の相手にも比較的恵まれていることなどもあり、次節(3月2日)に直接対決を残すCCM、WSWの2強の様子を見ながら、徐々に差を縮めてくる可能性は十分に残る。

言うまでもなく、WSWの優勝争いの最大のライバルは、Aリーグ随一の安定勢力で現在(第22節終了時)首位を走るCCM。元豪州代表監督でもあるグラアム・アーノルドに率いられるCCMは、2010/11年シーズンのアーノルド監督の就任後、2位、優勝と毎年優勝争いに絡んでおり、今年もWSWに肉薄されるまでは快調に首位を走っていた。メルボルンVやシドニーFCなど、いわゆるビッグ・クラブと比べてかなり小さい規模の、マーキー・プレーヤー(サラリーキャップの枠外の特別契約選手。デル・ピエロ、小野などが含まれる)もいないクラブが、なぜ、常に安定的な成績を得られるのかというと、その答えはクラブの一体感とぶれない方針にある。その恵まれた環境は在籍した誰もを虜にするし、クラブとして育成に力を入れ、若手の有望株を次々と輩出しては海外移籍させ、次の有望株にチャンスを与えプロモートするというパターンを確立、チームを強化してきた。

今年のCCMは、司令塔の若いトム・ロジッチがスコットランドに移籍後、後任の適任者がいないと見るや、4-4-2の中盤の編成を、司令塔を置くダイアモンド型からダブル・ボランチのシステムにスパッと変更する柔軟性を見せた。アーノルド監督の考えがチーム全体に浸透したCCMの試合巧者としての底力は、リーグ最多の総得点(45点・22節終了時点)、最少の失点数(18点・同前)と、はっきり数字に顕在化している。

優勝のカギを、シドニーFCが握る?

小野自身も久々の優勝争いに昂るものがあるにちがいない(Photo: Richard Luan)

実は、この優勝争いの行方の大きなカギを握っているチームは、ここまで登場したチームのいずれでもない。それは、WSW、CCM、そしてメルボルンVの3チームのいずれとも直接対決を残すシドニーFCだ。監督交代で息を吹き返し、代表経験者の補強、サッカルーズの主将ルーカス・ニールの入団、デル・ピエロの契約更新などの明るいニュースで、低迷にあえいだシーズン前半から立ち直りを見せつつある。今シーズンの優勝の可能性が潰えた今、優勝争いのキャスティング・ボートを握ることで存在感を発揮して、優勝争いの影の演出者となる可能性は高い。

ここで、WSWの残り5試合のスケジュールを確認しておきたい。次節がアウェーでのCCMとの天王山。その後、ウェリントン(ホーム)、メルボルンH(アウェィ)と続いて、第26節にホームでのシドニー・ダービーを控える。WSWのサポーターにしてみれば、不ふぐたいてん倶戴天のライバルであるシドニーFCをダービーマッチで倒して優勝する(王手を掛ける)─そんな流れになれば、それに勝る喜びはないであろう。

 

今回は、WSWの優勝争いに関連することを全般的に書き進めたが、最後はやはり小野伸二で締めたい。次節の天王山を控えての決意を語る小野は、「普段通りに変わらず、常に相手に勝つという気持ちでいれば自然と勝つことができると思う。その気持ちを忘れないようにしたい」と頼もしい。プロ・サッカー選手として、数々の修羅場をくぐってきた小野にしてみれば、今置かれた状況でも必要以上の気負いはないだろう。他方、キャリアでも久々の優勝争いに昂たかぶるものはあるはすだが、必要以上のプレッシャーを感じずとも、このチームなら結果が付いてくるというような確信めいたものを小野は持っているのではないだろうか。

 


今や、Aリーグ1と言っても過言ではない一体感を見せるWSWサポーター(Photo: Richard Luan)

WSWという新興クラブは、小野伸二がもたらした有象無象のアドバンテージを得て、前例のない“偉業”の達成をしっかりと射程にとらえた。そんな中で小野は、“WSWと小野伸二の幸福な関係”の第1幕が最高のフィナーレを迎えられるように、全身全霊を振り絞ってピッチ上を駆け回る─優勝を決める勝利を告げるホイッスルを聞く、その瞬間まで。そして、両手を突き上げ喜びを噛みしめて、力を出し切った後はピッチに大の字になってホッと1つ息を吐くのだろう。そんな小野の姿が見られる日は遠くない。(文中敬称略)


※筆者注:Aリーグは、通年のシーズン優勝「プレミアシップ」と、シーズンの6位以内のチームで争われるファイナルの「チャンピオンシップ」の2つのタイトルを争う。アジアのクラブNo.1を決めるACLの出場権はシーズン優勝を果たしたチームに付与される。本文中での「優勝争い」は特別に触れない限りはシーズン優勝争いを意味する。

 日豪プレスではウェブ版でも随時、記事をアップしております。トップページのウェブ特集「小野伸二、活躍の軌跡」よりぜひご覧ください!
■Nichigo Pressウェブ版
Web: nichigopress.jp
 ■順位表(2月27日現在) 試合数 ポイント
1  セントラル・コースト・マリナーズ 22 13 6 3 43 18 25 45
2  ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 22 14 2 6 31 18 13 44
3  アデレード・ユナイテッド 22 11 3 8 34 32 2 36
4  メルボルン・ビクトリー 22 11 3 8 36 38 -2 36
5  メルボルン・ハート 22 8 3 11 29 30 -1 27
6  ニューキャッスル・ジェッツ 22 7 6 9 26 33 -7 27
7  シドニーFC 22 8 3 11 35 44 -9 27
8  ブリスベン・ロア 22 7 4 11 26 26 0 25
9  パース・グローリー 22 6 4 12 20 24 -4 22
10  ウェリントン・フェニックス 22 5 6 11 24 41 -17 21
■WSW今後の試合日程

23節  3月 2日(土)7:45PM   VS セントラル・コースト・マリナーズ  (アウェイ)
24節  3月10日(日)5PM   VS ニューキャッスル・ジェッツ  (ホーム)
25節  3月16日(土)5:30PM   VS メルボルン・ビクトリー  (アウェイ)
26節  3月23日(土)7:45PM   VS パース・グローリー  (ホーム)
27節  3月29日(金)5:30PM   VS パース・グローリー  (アウェイ)
■ゴール・ランキング(2月27日現在)

1  ダニエル・マクブリーン(セントラル・コースト・マリナーズ) 15
2  べサート・バリシャ(ブリスベン・ロア) 12
2  ジェレミー・ブロッキー(ウェリントン・フェニックス) 12
2  マルコ・ロハス(メルボルン・ビクトリー) 12
3  アレッサンドロ・デル・ピエーロ(シドニーFC) 11
4  エミール・へスキー(ニューキャッスル・ジェッツ) 9
4  ライアン・グリフィス(ニューキャッスル・ジェッツ) 9
【TOPICS】
ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ観戦ツアー開催

現地旅行会社が日本からの各種旅行会社のツアー参加者、およびシドニー在住の日本人を対象に、23日のホーム戦を観戦する小野伸二選手応援ツアーを開催した。試合後、ツアー参加者は小野選手と交流し、写真を撮ったり、特製グッズにサインしてもらうなど、満足した様子で会場をあとにした。今後さまざまな旅行会社がこのようなツアーの開催を考えているそうだ。興味のある人はチームに問い合わせてみてはいかがだろう。

■問い合わせ
ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(ジャパニーズ・コーディネーター:馬場恵)

Tel: 0451-973-840 Email: wsejapan@gmail.com

 恒松健二さん、啓子さんご夫妻「今回、シドニーとエアーズロックを観光するツアーに日本から来たんですが、旅行社さんのご案内で小野選手の応援ツアーがあることを知りました。小野選手のことはよく知っていたし、それで来てみたんです。日本のスタジアムと違ってトラックがないから近いんですよ。ものすごく臨場感がある。そしてこちらの方の応援がものすごく熱狂的。選手と一体となって観戦しているようで、本当に最高でした! 」(Photo: Richard Luan)

 黒木龍太さん「もともと静岡の出身で、清水エスパルスの時の小野選手とは仕事のからみで面識があったんです。シドニーには実はまだ来たばかりで今回観戦は初めてだったんですけど、ピッチに来てみたらすごく距離が近くて、ファンの一体感がものすごかったです。一緒に応援していて本当に楽しかったです。とにかく臨場感がすごかった! またぜひ来たいです」(Photo: Richard Luan)

レギュラー・シーズン後はいよいよファイナル!
 Aリーグのレギュラー・シーズンは3月末で終わりを迎えるが、その後レギュラー・シーズン上位6チームによるファイナル・シリーズが開催される。ファイナル・シリーズでは、まずレギュラー・シーズン3位と6位、および4位と5位による「セミファイナル進出決定戦」が行われる。それぞれの勝者のうち、レギュラー・シーズンの順位の低い方がレギュラー・シーズン1位のチームと、高い方がレギュラー・シーズン2位のチームと「セミ・ファイナル」を戦い、それぞれ勝ったチームが「グランド・ファイナル」進出となる。レギュラー・シーズン後はぜひファイナル・シリーズにも注目したい。

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