【今さら聞けない経済学】経済学を引っ張ってきた基礎理論

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第30回:経済学を引っ張ってきた基礎理論

経済学とは、「経国済民」の学問だと言われています。つまり、国の台所をちゃんと裕福にし、更に民に食べていける方法を見つけ出す学問であることを意味しているのです。そのことは、今も昔も変わりません。

国民の生活を安定させ、向上させるために財政政策や金融政策、貿易政策といったさまざまな政策を立案し、実行させるのが経済学の目的です。

しかし、これらの政策を立案し、実行に移していくためには、当然その基礎となる「理論」が必要となります。そこで今回は、経済学を築いてきた基礎理論に焦点を当てて述べてみたいと思います。

近代経済学の基礎理論

8月号では、近代経済学の基礎理論を築いてきた人びとの考えを見てきました。そして、近代経済学の「事始め」は、「限界」という言葉から始まったことにも触れました。日常よく口にする「もう限界だ」という言葉や、たらふくビールを飲んだ後で「限界状態」に陥るといったことなどです。これがまさに近代経済学を知る「初めの一歩」となります。

そこで今回は、もう少し掘り下げてこの「限界」という考えと、近代経済学の成り立ちについて図を用いて考えてみましょう。

経済理論では、「財とサービス」の生産増大が最大の目的であるとし、それを「投入・産出」という関係で説明します。また、お金(資本)を用いて土地を買い工場を建てて、労働者を雇い、財を生産します。この一連の流れを「生産活動」と呼びます。この生産活動を営む上で必要不可欠なものを「生産要素」と言い、「資本・労働・土地」の3つを「生産の3要素」と呼びます。

しかし、よくよく考えてみると、幾らお金があり、多くの労働者がいても、「技術」がなければ良い物はできません。そこで現在の経済学では、生産要素を以下のようにみなすようになりました。

生産の3要素+技術=生産要素

つまり、技術水準の向上は、生産物の増大に欠かせない大切な条件であるということです。資本と技術は、容易に国境を越えて飛び交います。また、労働が今では国境を越えるようになりました。そこでこれらの要素を「移動性の高い生産要素」とも言います。

ただし生産要素の中でも、土地だけは絶対に移動しません。かつては武力で他国の土地を分捕り、自国の土地として活用し、生産増大を図ったこともありました。こういった政策を「領土拡張政策」とか、「帝国主義」と呼びます。しかし、現在の世界では、「ほんのまれ」にしかこのような状態は表れません。

武力で他国の領土を分捕り、自国の領土として生産の拡大を図るような政策はいつの世においても許されることではありません。このような状態が完全になくなった時、始めてこの地球上に「真の平和」が訪れると言えるでしょう。

限界生産力と限界生産力逓減の法則

さて、多量の生産要素を用いて生産量を増大させることはいつの時代でも大切ですし、その増大を図ることを研究することが経済学の目的であると言えます。ただし、ここが難しいところなのですが、生産要素を増大させれば、その国の、その地域の生産量もそれにつれて増大すると言えばそうではありません。そこで経済学の理論武装が必要になってくるのです。

では、労働の投入と生産量の関係を見てみましょう。例えば、労働者を用い、ある所で井戸を掘る仕事をするとします。穴を掘る範囲は限られており、そこで1人を投入したとすると、とても効率が良くたくさん掘れます。そこへ更に追加して、労働者を増やすとするとどうなるでしょう。恐らくその場合もきちんと掘れます。

しかし、このようにどんどん投入者を増やしていくと、いくら掘る人を増やしてもそれ以上掘る速度は上がらないということが分かります。掘る人を増やしても、増やした人が邪魔になるだけで、穴の深さは拡大せず、その人の限界生産力は徐々に低下していきます。これを経済学では「限界生産力逓減の法則」と言います。限りなく生産手段(この場合は労働者)を増やしても生産量は増大しないというこの法則は、下の図によって表わされます。

図1と2は、非常によく知られた図です。大学へ入り「経済学」の講義を履修すると、学生たちはまずこの図を用いて、経済学という学問の大切さを学びます。「あーあ、なんて小難しい」という学生たちがたくさん現れますが、この考えをしっかりと頭に入れた学生たちは一様に経済学に興味を示し、そして経済学という学問に真剣に取り組むようになります。恐らく読者の中には同じような経験をされた方もいらっしゃることでしょう。

限界生産力逓減の法則

限界生産力逓減の法則の意味

1人目の労働者がもたらす生産量である「限界生産物」はとても大きいですが、労働者を2人、3人と増やしていくと、限界生産物は低下していきます。投入労働者を増やすと、生産の大きさは減少していきます。そこで図1のような放物線「生産曲線」を描くことができます。更に限界生産物の大きさを図で示したのが、図2で「限界生産物曲線」として描かれます。

もし限界生産力逓減の法則が成り立たなければ経済はどうなるでしょうか。労働者を投入すると、生産物も増大することになれば、生産企業は一様に限りなく労働者を投入するでしょう。すると生産量は限りなく増大し、そこには「失業問題」とか「不況」など発生する余地はありませんが、図2のように労働者の投入量に従って生産量も低下していくのです。

ここでは話を簡単にするために労働者を1人、2人としていますが、現実には労働者を100人とか200人といった「単位」別に考えても良いのです。すると、よりこの理論が現実味を帯びてきます。

追加的な一単位がもたらす利益を「限界収益」と言いますが、これらを分析するに当たっての武器は数学の「微分」という考えです。これが経済学=数学という考えが人びとの間で定着しているゆえんです。ほんのわずかに変化したことを微分と言います。

繰り返しになりますが、この限界生産力逓減の法則は経済学を学ぶに当たって、大切な「法則」です。経済学にはさまざまな法則があります。もう何度も学んだ「需給の法則」も経済学が成り立つために欠かせません。

さて、今回は経済学の事始めの理論について学びました。いかがでしたでしょうか。これらの理論はミクロ経済学と言われており、経済学の基本的な知識です。今回も読んでくださりありがとうございました。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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