【今さら聞けない経済学】なぜ、それほどまでに株が暴落するのか

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第43回:なぜ、それほどまでに株が暴落するのか

はじめに

毎年10月になると、世界中の人たちが新聞やテレビのニュースに最大の関心を持つようになります。それは「ノーベル賞受賞者の発表」があるからです。

今年は、うれしいことに日本からノーベル生理学・医学賞の受賞者が現れました。京都大学の元医学部長も務められた本庶佑(ほんじょたすく)医学博士です。本庶博士が発明されたがんの治療薬・オプジーボは、世界中のがん患者の救世薬になるとも言われています。

また、ノーベル経済学賞は2人のアメリカ人研究者に贈られることが決まりました。エール大学のウィリアム・ノードハウス博士(77歳)と、ニューヨーク大学のポール・ローマー博士(63歳)です。ノードハウス博士は、気候温暖化と経済の循環の関係を理論的に追求し、「炭素税」の導入を提案したことでも有名です。ローマー博士は、「経済が限りなく成長するためには、物理的な財と同じぐらい必要なものとして、人間の知識やアイデアが必要不可欠である」という考えを唱えました。つまり、人的資本の増大が経済成長の鍵である、と説いたのです。ローマー博士の理論を「内生的成長理論」と言い、経済学を勉強するほぼ全ての人が学びます。

しかし、日本の研究者も近い将来、ノーベル経済学賞を受賞するかもしれません。その人物は、アメリカ・プリンストン大学の清滝信宏(きよたきのぶひろ)教授です。清滝教授は大阪出身で、東京大学では日本でノーベル賞に最も近かった宇沢弘文(うざわひろふみ)教授の下で理論経済学を学び、卒業後はハーバード大学でPhDを修得されました。金融危機に端を発した小さな経済の危機も、だんだんと大きな経済危機を発生させる要因となる。従って、どんな小さな金融危機も放っておくべきではない、ということを清滝教授は主張しています。

これまで、日本経済は世界で高い経済水準を誇り、賞賛されてきたにもかかわらず、1969年のノーベル経済学賞創設以来、日本の経済学者はこれまで誰1人受賞してこなかったのですが、もし清滝教授が近い将来に受賞されたら日本人にとってはうれしい限りですね。

「トランプ・ショック」と日本の経済

本稿執筆中(10月11日)にNHKのニュースが、冒頭に東京株式市場で日経平均株価が1,000円近く「暴落した」とセンセーショナルに報じていました。日経平均株価が瞬時に1,000円近く大幅に下落したことは、大変なことです。

まず、ニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が800ドル以上暴落し、それが引き金となり、日本の日経平均株価を始め世界の株式市場で株価が一挙に急落したのです。これを契機にジャーナリズムは、2008年の「リーマン・ショック」の再来か、とはやし立てるかもしれません。

原因は「トランプ・ショック」にあるようです。トランプ大統領がアメリカのトップになってから早や2年になろうとしていますが、その間一貫して「アメリカ・ファースト」政策を掲げ、アメリカ国民、それも自身を支持する人の都合の良い政策ばかりを推し進めてきた結果、こうした世界同時的な不況状態を作り出していると言えそうです。もっとも、トランプ大統領の発言が世界同時株安を起こしたわけではありません。

■IMFによる世界経済の成長率予測

2018年 2019年
世界全体 3.70% 3.70%
日本 1.10% 0.90%
アメリカ 2.90% 2.50%
ユーロ圏 2.00% 1.90%
中国 6.60% 6.20%
ブラジル 1.40% 2.40%
南アフリカ 0.80% 1.40%

※IMF発表、日本経済新聞(2018年10月9日)

そこで、なぜ世界同時株安は発生したかについて見てみましょう。今回の株暴落が発生する1日前の10月9日に、国際通貨基金(IMF)は世界経済の成長予測を発表しました。それによると、世界経済は急速な落ち込み状態にあるという現実が明るみに出ました。その一覧表が右の通りです。

表はとても興味深い数字を示しています。今年の日本の経済成長は何と1.1%で、悲しいことに来年の成長率は0.9%と一層減少するとIMFは予測しているのです。日本の政治のトップは確かに、「アベノミクスで日本の経済成長は回復基調にあります」「心配ご無用」などと勇ましい言葉を言い続けていますが、それもどこまで信じて良いのでしょうか。本コラムでも何度も言及してきましたが、アベノミクスの「成長シナリオ」は以下の構図です。

2%のインフレ→3%、GDPの成長→2019年秋:消費税10%→2020年:600兆円のGDP→PB(プライマリー・バランス)の回復

このシナリオは何だか、「絵に書いた餅」のように見えてきます。13年の春、日本銀行(日銀)は、このシナリオを完成させるためにこれまでにない「非伝統的手段」である、「異次元の金融緩和」の荒治療を施してきました。しかしその効果もなく、更に強いカンフル剤として16年夏に「マイナス金利の導入」という、これまで決して見られなかった金融政策を採用しました。

マイナス金利とは、民間の銀行が日銀にお金を預けると日銀が「預け賃」を取ることです。銀行は人びとが預けたお金を、一般的に企業や商店、人に貸し出します。借り手がいない場合、お金を日銀に預けます。なぜなら、日銀が利子を払ってくれたからです。銀行は人びとから集めたお金を日銀へ預ければ、「儲かる」仕組みができていたのです。そうすると銀行から一向に企業や商店、人にお金が流れないので、経済が活性化しません。そこで、日銀にお金を預けても利子を払わない、むしろ、預かるから利子を支払え、と言い出したのです。それが「マイナス金利」というシステムです。

このようなこれまでにない荒治療な金融政策を施行してもIMFの予測では、19年の成長率は0%台に入ると見られているのです。その状況下で、消費税を8%から10%へ上げた時、「軽減税率」の導入も考えなければならないでしょう。ヨーロッパの国々では消費税を20%から北欧州のように25%にまで上げている国もありますが、人びとが生きていくために大切な「必需品」は税率を低くする、という処置が取られています。当然、日本でも10%に消費税が上がれば、こうした処置が取られるでしょう。そして、「軽減税率を何%にするか」「どのような品目に適用するか」ということが、議論の対象になるでしょう。

FRBの金融政策の影響?

「FRB」という英語をご存知ですか。「Federal Reserve Board」のことで、日本語では「連邦準備理事会」と言われ、「アメリカの中央銀行」を意味します。FRBのトップは非常に力の強い人で、この人の声1つで世界の金融情勢が変わるとも言われています。そのFRBがアメリカの金利を上げる政策を採ることになったのです。FRBの政策金利を2.25%にすると世界に宣言しました。アメリカは言わば「高金利政策」に突入したのです。そこで人びとの間で不安心理が一気に悪化し、株の価格に反映したのでしょう。

例えば、トランプ財政は法人税を大幅に下げ、企業は減税効果で投資できるようにし、同大統領の支持母体となった「ラスト・ベルト」(さび付いた地域)の貧しい人びとへ企業救済事業のために、アメリカに入ってくる無尽蔵の輸入製品に高額の関税を掛けるという、これまでの大統領とは大違いな「保護主義」を取りました。しかし、アメリカも中国を始めとして、安い製品が入ってくれば生活が充実します。同大統領を支持する一部の人のために関税を高くし輸入品がアメリカに入ることを制限しても大多数の人たちの利益になることはあり得ないのです。アメリカの企業も大挙して中国進出し、安価な労働力を用いて生産し安い製品を多くアメリカへ輸出することで利益を上げています。トランプ大統領が中国製品に大幅な輸入関税を掛けることは、自国の企業を苦しめているようなものです。世界経済はグローバル化が進み、自国の企業だけを政策的に保護することはできません。従って、FRBが一気に金利を上げれば、各国に波及し世界経済は「萎縮」します。日本経済も当然、影響を正面から受けるでしょう。一国の経済政策の変更がただちに各国へ波及するのです。

日本の金融界では、マイナス金利の影響で低金利に抑えられ、一部の銀行では銀行自体の存続が危ぶまれ、銀行同士の合併も行われている状態です。日米間で金利の格差が拡大すれば、日本から金利差を求めて資金が移動します。その時、外国為替市場で円を売りドルを買い、アメリカの金融機関に移動させます。つまり「円売り・ドル買い」がなされ、外国為替市場で「円安・ドル高」が発生し、日本に入ってくる石油などの国際商品の売買はドル価格が設定され、輸入製品の価格が一斉に上昇する、ということが起こるでしょう。

さて、現在の世界経済の中にあっては一国たりとも「自国本位」の政策が採りにくいのが事実です。この現実をトランプ大統領は、果たしてよく理解しているのでしょうか。

また、「円安・ドル高」が進めば、日本製品の価格がアメリカでは安くなるので、日本からアメリカへ輸出が増えるのではと思われますが、そこは同大統領の「アメリカ・ファースト」で保護貿易主義に走り、日本からの輸出の拡大もそれほど期待できないでしょう。

今回の大幅な株価下落が、日本経済に対して小さな影響で済むことを願うばかりです。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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