第42回 新たな高額投資家ビザ

教えて! オーストラリアの企業法務

第42回 新たな高額投資家ビザ

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト エリザベス・タイスハースト(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q オーストラリアにおいては、2012年11月から高額投資家ビザ(Significant Investors Visa)という新たなビザが入手可能となったと聞いていますが、新たな当該ビザが創設された目的とその概要について教えてください。

A オーストラリア政府の推進する「ビジネス改革および投資プログラム」(Business Innovation and Investment Program)の一環として、2012年11月に「Significant Investors Visa」(以下「高額投資家ビザ」という)と呼ばれる新たなビザが利用可能となりました。 

高額投資家ビザは、優れた実業家や投資家を誘致し、オーストラリアの経済発展およびイノベーションを目指すための方策の1つとして採用されたものです。当該高額投資家ビザは、オーストラリア市場に投資機会を求める富裕層の個人が取得可能なものであり、特に、十分な資力を有していながらオーストラリアのビザ要件を満たすことができないような者にとっては非常に魅力的なものであるといえます。

当該高額投資家ビザを有している者およびその家族はオーストラリア国内において就業することができ、また4年間にわたり「Provisional Significant Investors Visa」(以下「暫定高額投資家ビザ」という)を有していた者は永住権の申請もできることとなります。

本ビザの導入により、近時周辺アジア各国において蓄積されてきた富がオーストラリア国内に流入し、オーストラリア経済のさらなる発展に寄与することが期待されています。

1. 高額投資家ビザの取得要件

本ビザの取得に際しては、ポイント・テストや年齢制限、英語能力などの要件は特に課されません。ただし、ビザ取得者としては、4年間にわたって最低5,000,000豪ドルを、「Complying Investments」(以下「適合投資」という。)と呼ばれる政府指定の一定の投資に対して拠出しなければなりません。

当該投資はビザ取得前に実行される必要があり、また投資が維持されない場合にはビザは取り消されることになります。

ビザ保有者は、暫定高額投資家ビザを有している間は、年間で最低40日間オーストラリア国内で生活する必要があり、また一定の健康や適性要件を満たす必要があります。

2. 高額投資家ビザの取得プロセス

高額投資家ビザを申請するに先立ち、個人はオーストラリアの州や地域の政府からノミネートを受ける必要があり、その後、ビザ申請に関する招請を受けることとなります。

ノミネートを行う州や地域は、申請者に対し、ノミネーションの条件として一定の義務を課す可能性があります。例えばNSW州においては、申請者に対して、上記5,000,000豪ドルのうちの最低30%を「Waratah Bond」と称されるNSW州債に対して投資することを要求しています、

また、申請者はノミネートされる州や地域において居住することが期待されています。

3. 適合投資(Complying Investments)とは何か

 適合投資には以下に対する投資が含まれます。

①連邦、州または地域政府の発行する債券
② ASIC( Australian Securities and Investment Commission)により規制されるオーストラリア国内向けの投資運用ファンド
③オーストラリアの非公開会社に対する直接投資

なお、上記投資運用ファンドの投資先は、以下の類型のものを含め、特定のオーストラリア資産に対するもののみに限られます。

a. インフラ事業
b. 預金取扱金融機関(Australian Authorised Deposit Taking Institutions)で保有される現金
c. 連邦、州または地域発行の債券
d. オーストラリア市場に上場される株式や債権
e. 金融機関発行の債券または定期預金
f. 不動産
g. 農業

また、不動産などの資産に対する直接投資は適合投資には該当しません。

ビザ保有者は自らの資金の投資先が、適合投資に準拠した内容となるよう確保する義務を負います。また、いったん実施した投資の内容を変更することは、それが適合投資間における資金移動であり、かつ30日以内に回収した投資額と同額を再投資する限りにおいて、許容されます。

4. 投資額の価値の増減

当初出資の後において投資の資産価値が変動し、結果として投資額が合計5,000,000豪ドルを下回ったとしても、高額投資家ビザが取り消されることはなく、また、当該投資を回収しない限りにおいて、当該不足分に対応した追加出資を求められることもありません。

他方で、投資の資産価値が変動し、結果として投資額が合計5,000,000豪ドルを上回ったとしても、当該超過分の価値について投資を引き出すことはできません。

5. ビザの延長および永住権

暫定高額投資家ビザ保有者は、州や地域の政府から再度ノミネートされ、そのほかのビザ要件(従前のビザ有効期間中の全期間において適合投資を行っていたことなど)を満たす場合には、ビザ期間を延長することが可能です。この場合、2年間、最大2回までの延長が可能であり、最長期間は当初期間と合わせて8年間となります。

暫定高額投資家ビザを最低4年間保有した者は、永住高額投資家ビザを申請することが可能です。当該永住ビザを取得するためには、州や地域の政府から再度ノミネートされる必要があります。

永住高額投資家ビザが付与された場合、ビザ保有者は当初投資を継続することは要請されませんが、オーストラリア国内においてビジネスまたは投資活動を継続することについての「realistic commitment」を持つ必要があるとされています。

6. 結語

高額投資家ビザは、近時周辺アジア各国において急速に蓄積されてきた富を、オーストラリア経済に流入させるための重要なパイプラインとなることが期待されています。

特にインフラ事業、不動産、農業などに対する投資を行うオーストラリアのファンド・マネジャーにとっては、本高額投資家ビザの導入が、非常に大きなビジネス・チャンスに繋がる可能性もあります。

また、本ビザの導入は、いわゆる投資移住を検討している個人富裕層の争奪戦をオーストラリアが戦っていく上でも非常に有効なツールとなり得るものであり、オーストラリア経済の一層の発展に寄与するものとなることが期待されています。

 



※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
エリザベス・タイスハースト Email: Elizabeth.ticehurst@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com  

 

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