フェア・ワーク法とモダン・アワード


労働・雇用法弁護士 勝田順子の
職場にまつわる法律の話

第15回 フェア・ワーク法 と モダン・アワード

労働条件の最低水準を定めるものとして、フェア・ワーク法(Fair Work Act 2009)やモダン・アワードがありますが、この2つを曖昧に理解されていることが多いようです。

フェア・ワーク法は労使関係を規律する総合的な連邦法で、NESといわれるほぼ全ての労働者に適用される労働条件の最低水準を定め、セーフティー・ネットを提供することの他に、使用者責任や組合の活動、労使関係をめぐる紛争の裁判手続きに関する規定なども含まれます。

このように、フェア・ワーク法が政府主導で労使関係を総合的に規律しているのに対し、モダン・アワードは組合主導で労働者側が権利を求める運動が労使裁定という形になった背景があり、各業界や職種の固有の事項を考慮した最低労働条件の詳細を定めた規定になります。組合が強い業界ほど、アワードのカバーする条項が多岐にわたる傾向があります。

アワードは毎年7月に更新され、かつ4年に1度フェア・ワーク委員会(Fair Work Commission)にて審査(レビュー)されますので、その内容を都度確認する必要があります。アワードが改訂される場合は、雇用契約書や社内規定もこれに応じて都度変更していく必要があるため、注意が必要です。

1.適用されるアワード

現在122ものアワードが既定されています。この中から適用を受けるアワードを特定する作業は必ずしも単純ではありません。該当する業界や職務内容から判断して、適用を受けるアワードがあるか、アワードの適用条項に照らし合わせて判断します。

アワードの適用を受けない人もいます。

• 一定の所得水準(High income threshold)を超える高額所得者。現在のHigh income thresholdは、13万8,900ドル(年金積立金や変動する賞与や手当を含まない年間給与)で、金額は毎年改訂されます。

• 業界ベースでも職務ベースでも適用を受けるアワードがない場合。専門職に多い。

• 雇用主がフェア・ワーク委員会の承認の下、個別にEnterprise Agreementを定めている場合。

管理職など特定の職位以上であればアワードの適用を受けないというわけではありません。あくまで、業界や職務内容、所得水準に照らし合わせて適用の有無が決まりますので注意が必要です。

2.一般的な規定事項

各アワードの規定には、下記のような事項が含まれます。

• 職務レベルごとの最低労働賃金の設定

• 残業代、土日祝日出勤手当の支払い

• 残業を含む労働時間やシフトの組み方、休憩時間、代休に関する規定

• 各種休暇の取得に関する規定(有給取得の義務や買取、前借)

• 各種手当て(食事手当、道具手当など)

• 出張に関する規定(移動時間の取り扱いや私用車への手当など)

アワードは業界や職種によって異なるというのは前述の通りですが、その内容も業界や職種によりさまざまです。

例えば労働者に与える休憩時間の項目で、労働者が5時間以上就業した場合に、30分以上1時間以内の休憩を与える、という記載だけのアワードもあれば、4時間までは1時間に10分、5時間以上は1時間に10分の小休憩に加え30分の休憩を与えるといった具合に、細かく規定しているアワードもあります。更に、これらの時間が無給または、有給扱いになるのか、どこからの時間が有給になるかなど、アワードの中で詳細に既定されています。

このように細かな規定もありますが、重要なのは、アワードが定めるのは最低労働条件という“水準”であり、この水準を満たした上でどのように実際の運用を行うかは雇用主に委ねられていることです。アワード全ての項目を網羅した雇用契約書を作らなくてはならないと気負う必要はありません。

例えば、多くのアワードには「残業時間には1.5倍の時給が支払われる」と規定されていますが、残業時間の管理システムや残業をすることへの承認プロセスには規定は及んでいません。そこで、アワードの水準を念頭に置きながら、ダラダラ残業を防ぐような就業規則を導入したり、年収で既にある程度の残業時間を支払っているような雇用契約書にすることで、無駄な残業代の発生を防ぎ支出をコントロールすることができます。また、ルールが明確であることは従業員に対しても平等であり、後に争いを避けることにもつながるでしょう。

まずは、現行122のアワードのリストから適用の有無またその内容を確認し、現行の社内既定や雇用契約書のレビューをされるのも良いでしょう。

雇用主が最低労働水準を理解した上で、その労働水準を満たしつつ、個々の職場にあった効率の良い運営をするには、どのような就業規則を設ければ良いかという視点でレビューされるのも望ましいです。



PROFILE

2004年に来豪。シドニー法科大学院卒(Graduate Diplomain International Law)。09年にNSW州弁護士登録。専門分野は労働・雇用法。Katsuda Synergy Lawyers(カツダ・シナジー・ロイヤーズ/www.katsuda.com.au)の代表弁護士。McCabes Lawyers(www.mccabes.com.au)をはじめとする複数の弁護士事務所と協働体制をとり、幅広い分野において専門性の高いリーガル・アドバイスを提供している。連絡先: contact@katsuda.com.au

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