AUSメディア・ウォッチ「どうなる、同性婚の合法化?」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第15回:どうなる、同性婚の合法化?

コメディー・ドラマ『プリーズ・ライク・ミー(Please Like Me)』が放送中だ。2013年にABCテレビで始まったシリーズの4作目になる。

主人公ジョッシュを中心に、同居人のトム、彼氏のアーノルド、元彼女のクレア、離婚した両親に、父親の新しい妻などが織りなすコメディー・ドラマ。自分の道を模索する若者、友情、恋愛など、どの時代のどこの国にでもありそうな内容だ。主人公が同性愛者であることだけが、30年前のドラマにはなかったことだ。

「オーストラリア社会は、確実に変わってきている」と言うのは、同性のパートナーと2人の子どもたちとNSW州モリモックに住むベンジャミン・ハッチャーさん。

「特に若い世代は(同性愛に)オープンになってきており、それが社会に受け入れられるようにもなってきました」

消えたプレビサイト案

『プリーズ・ライク・ミー』は、主人公が同性愛者であること以外はいつの時代にもありそうな友情や恋愛を描いたドラマだ(Photo: ABC)
『プリーズ・ライク・ミー』は、主人公が同性愛者であること以外はいつの時代にもありそうな友情や恋愛を描いたドラマだ(Photo: ABC)

社会の意識が変わってきているオーストラリアではここ数年、同性婚の合法化をめぐる議論が活発だ。

議論を巡っては、先月7日に大きな動きがあった。同性婚合法化の是非を国民に問うプレビサイト(plebiscite)案が、上院で否決されたのだ。

プレビサイトとは憲法改正を伴わない国民投票のことをいう。昨年8月にトニー・アボット前首相が提案し、今年9月にマルコム・ターンブル首相が来年2月の実施を表明。ところが、14カ月にも及んだその実施を巡る議論は、法案が上院で否決されたことで幕を閉じた。

なぜ実施に至らなかったのか。その主な理由は、1億7,000万ドルもの税金を使ってプレビサイトを行う必要がないということにある。議会内の投票(free vote)で決めれば良い話なのだ。またプレビサイトをすると、政治キャンペーンなどで同性愛者が誹謗中傷を受けやすいという懸念もあった。そんな声も反映され、労働党や緑の党が反対に回った。

プレビサイトの可能性がなくなった今、今後の焦点は再び議会内での投票に移っていくだろう、と「結婚の平等」の実現を目指すアレックス・グリーンウィッチNSW州議会議員は述べている(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、電子版:16年11月7日)。

ハッチャーさんも同性婚の合法化は「議会で決めること」だと言う。「この問題は、基本的な人権、平等の権利にかかわることですから」

遅れをとるオーストラリア

未だ同性婚の合法化が実現していないオーストラリアは、「世界の中ですっかり恥ずかしい立場になってしまった」とハッチャーさんは言う。

同性婚は、多くの欧州諸国、カナダ、ニュージーランドなどで既に法的に認められている。そんな中、他の西洋諸国から遅れをとるオーストラリアが目立つ。

同性婚反対派のアボット前首相は、「同性婚カップルの結婚を許せば、家族の崩壊を招くことになる」などと発言している。しかし、ハッチャーさんは同性婚に反対するのは差別でしかなく、合法化によって「実際、何の障害が生じるのか分からない」と言う。

「9歳の双子の息子たちは、なぜ私たちが結婚できないのか理解できません。なぜ私たちが差別されているのか分からないのです」

社会が変わってきたとはいえ、まだ政治やメディアを通して差別的なコメントが聞かれるというハッチャーさん。

「小さいことかもしれません。でも、とても傷つくのです。特にセクシュアリティーに悩むティーンエージャーたちにとっては、大きな傷になりがちです。こんなことは、本当は不必要なことなのです」

変わる社会と政治議論のずれ

そんな若者たちにとって、『プリーズ・ライク・ミー』のようなテレビ・ドラマがあるのは良いことだとハッチャーさんは言う。

「カミング・アウトしようとする若者は孤立した状態にあります。だから彼らにとって、(テレビなど)主流なところで同性愛者の存在があるのは大事なことなのです」

テレビ・ドラマにも反映されているオーストラリア社会の変化。そんな変わる社会と、同性婚の合法化を実現できないでいる政治の間に「ずれ」があるのは明らかだ。

ハッチャーさんは最近、23年間連れ添ったパートナーと婚約をしたという。「ニュージーランドやアメリカへ行って結婚をすることもできます。でもオーストラリアでその結婚が認められるわけではありません。それは私たちにとって意味がないことです。だからこの国で同性婚が合法化されるまで結婚を待つつもりです」

先行き不透明な同性婚合法化の議論。ハッチャーさんたちが結婚できる日が早く訪れることを願わずにはいられない。

『プリーズ・ライク・ミー(Please Like Me)』シリーズ4は水曜夜9時半にABCテレビで放送中。過去のエピソードはオンライン(Web: iview.abc.net.au/programs/please-like-me)で視聴可能。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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