AUSメディア・ウォッチ「2017年、世界のリーダーがいなくなる?」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第16回:「2017年、世界のリーダーがいなくなる?」

政治の世界を見ていると、学校の教室を思い出すことがある。

クラスのまとめ役だった学級委員長のオバマ君が転校し、ガキ大将のトランプ君が転入してきた。いつもリーダー格の子にくっついていたターンブル君と安倍君は、そんな新入生とどう付き合うべきか戸惑う。

特に安倍君の状況は複雑だ。同じ班の子とあまり仲が良くないからだ。習君は足を伸ばしてきて「ここは僕の陣地だ」と言うし、キム君はナーフ・ガンで撃ってくる。これまではオバマ君が守ってくれたが、トランプ君はどこまで守ってくれるか分からない。

自分のことで手一杯のトランプ君が騒いでいる間に、習君は勢力拡大の機会を狙っている。そんな様子を教室の隅から見ている謎の少年プーチン君も何だか気になる。

こんなクラスの中でターンブル君は頭を悩ましている。トランプ君と良い関係を築きつつ、存在感を増す習君とも上手くやる方法はないだろうか。

学級委員長を失った教室

今月20日にトランプ新政権が誕生する。

戦後70年間、超大国である米国が学級委員長のような役割を果たすことで、世界はある程度の安定と平和を保ってきた。

政治学者でユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏は、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏の登場で、そんな「パックス・アメリカーナ(米国の覇権による平和)」が終焉を迎えると言う。

論文『歴史の終わり』で知られる政治学者のフランシス・フクヤマ氏も、戦後の世界秩序が変わることを指摘している。

「50年代から築かれてきた主流リベラルの秩序が、怒りと勢いを持つ民主的多数派に攻撃されるという、ポピュリスト・ナショナリズム新時代に突入したようだ」(フィナンシャル・タイムズ、電子版:2016年11月11日)

学級委員長がいなくなった教室は秩序を失い、バランスを崩してしまう。クラスの一員であるオーストラリアにとっても他人事ではない。

対米同盟への不安と中国の台頭

トランプ氏の当選を受け、日本でまず危惧(きぐ)されたのは日米安全保障条約だった。オーストラリアでもまた、対米同盟の行方が注目されている。

オーストラリアは、米国およびニュージーランドとANZUS条約を締結している(現在では事実上米豪間のみ)。日本と同様、米国との同盟関係は外交と防衛の要なのだ。

しかし、今後の同盟関係を不安視する声は多い。

それを早々に示したのが、影の外務大臣であるペニー・ウォン氏だ。フェアファックス・メディアに寄稿し、今後は「全く異なる世界、全く異なる米国の可能性と向き合うことになる」との見方を示した(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、電子版:同年11月15日)。

ウォン氏は「与野党共に対米同盟を支持し続けていく」としながらも、今後は「アジアでのより良いロードマップが必要だ」と述べ、不安定要素を抱える米国からアジアへ軸足を動かす必要性を示唆した。

対米関係を重要視する傾向にあるオーストラリアン紙でさえ、「ドナルド・トランプの選出は、豪米関係にとってここ数十年間で最も深刻な試練の引き金となり、しかるべき結果をもたらす」とするポール・ケリー氏の記事を掲載している(電子版:同年11月30日)。

試練となり得る食い違いは既に出てきている。トランプ氏は自由貿易には批判的、また対中関係では台湾総統と異例の接触をしてその関係をこじらせている。

フェアファックス・メディアの取材でターンブル首相は、このようなトランプ氏の外交方針には従わないとの見解を明らかにした(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、同年12月10、11日)。米国に追従しない独自の外交路線を示したことになる。

米国との折り合いが難しくなる一方、オーストラリアは米国の衰退で台頭する中国とも向き合うことになる。そんな中、「中国との経済的利益と、米国との戦略的利益の間のバランスを取る」という難しい舵取りをより一層強いられることになる、とケリー氏は言う。

不確実性の中で

各国の思惑がうごめく中、世界は新たな秩序を模索する
各国の思惑がうごめく中、世界は新たな秩序を模索する

元々「予測不可能」なことで知られるトランプ氏。外交を知り尽くしている外務貿易省前次官のピーター・ヴァーギーズ氏でさえ、トランプ大統領の誕生でオーストラリアは「未知の水域」に向かうと言う(ABC、電子版:同年11月21日)。

報道によると、今月は安倍首相の訪豪も予定されている(12月時点)。トランプ氏のアジア太平洋地域における外交に不確定要素が多い中、南シナ海の問題などについて今後の対応が話し合われるという(オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙、電子版:同年12月8日)。

豪米関係や日豪関係にも影響を及ぼすトランプ政権。動きが読めないだけに、当選以来、憶測だけが飛び交ってきた。新政権が発足する今月、私たちはようやくその動きを見ることになる。

ガキ大将が学級委員長に取って代わる教室で、今後どのようなパワー・ゲームが繰り広げられるのか。2017年、各国の動きから目が離せない。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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