AUSメディア・ウォッチ「オーストラリア文化入門」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第17回:「オーストラリア文化入門」

オーストラリアに住み始めたばかりのころ、『ザ・キャッスル』(The Castle、1997)という映画を観た。

メルボルン空港のそばに住むケリガン一家。真上を飛行機が低空飛行するつつましい家をこよなく愛している。ある日、立ち退きを迫られた一家は、マイ・ホームを守るために立ち上がる。

何ということもないあらすじだが、一緒に映画を観ていたオーストラリア人たちは大笑い。当時の私には何がおかしいのかさっぱり分からず、この映画のユーモアが分かるようになったのは数年たってからだ。

オージー・ユーモア

映画や小説は、その国の文化を知る手掛かりになる。その文化の最も深いところにあるのが「笑い」だろう。ユーモアとは非常にローカルなものだからだ。多くのオーストラリア人が、そんなユーモア満載の『ザ・キャッスル』を国民的映画として挙げる。「労働者階級の平凡な市民に焦点を当て、弱者側に立つところがいかにもオーストラリアらしい」と言うのは、映画クラブに所属するトレーシー・ノーブルさん。

立ち退きを迫る当局に労働者階級が立ち向かう設定が、権力を嫌うオーストラリア人の好みに合うのだろう。また、平凡な市民としての自分たちを自虐的に笑うところにも面白さがある。

似通ったユーモアのあるドラマに、『キャス&キム』(Kath & Kim、2002~2007)がある。メルボルン郊外に住む「サバービアン」の母娘を主人公にしたコメディーだ。強いオージー訛りで話し、出かけるのは地元のショッピング・センター。通称「ボーガン」とも呼ばれる俗っぽい中流階級を皮肉った作品だ。

「平凡」を描くオーストラリアの古典

その他のオーストラリア映画にも共通した特徴がある。

結婚にあこがれる変わり者の女性をコミカルに描いた『ミュリエルの結婚』(Muriel’s Wedding、1994)、迷いながら成長する少女を繊細に描写した『15歳のダイアリー』(Somersault、2004)、片田舎で育った兄弟の過去の闇を描いた『ビューティフル・ケイト』(Beautiful Kate、2009)。いずれも平凡な市民のドラマをリアルに描いている。「オーストラリア映画は、豊かで美しい世界を見せるアメリカ映画とは対照的。『ミュリエルの結婚』がアメリカ映画だったら結末は幸せな結婚だったでしょうが、そうはならないところがオーストラリア映画です」とノーブルさんは言う。

このような特徴は文学にも表れている。

オーストラリの代表的作家、ティム・ウィントン氏の最新作『ザ・ボーイ・ビハインド・ザ・カーテン』は彼の自伝的エッセイ集
オーストラリの代表的作家、ティム・ウィントン氏の最新作『ザ・ボーイ・ビハインド・ザ・カーテン』は彼の自伝的エッセイ集

西オーストラリア州在住のティム・ウィントン氏の小説には、地元の自然や生活が色濃く滲み出る。『クラウドストリート』(Cloudstreet、1991)『ダート・ミュージック』(Dirt Music、2001)で描かれる人びとの生き様、『ブレス』(Breath、2008)のサーファーの世界などは、作家が慣れ親しんだ西オーストラリアそのものだ。粗野で素朴な登場人物が織りなすドラマは、現実的で真実味がある。

昨年出版されたばかりのウィントン氏の最新作は、自伝的エッセイ集『ザ・ボーイ・ビハインド・ザ・カーテン』(The Boy Behind the Curtain、2016)。国を代表する作家の原点を垣間見られる1冊だ。

多様化する作品

古典的な作品に加え、社会の変化を反映して多様性のある作品も出てくるようになった。先住民問題への意識が高まる中、「ストールン・ジェネレーション」についての映画『裸足の1500マイル』(Rabbit-Proof Fence、2002)や、先住民コミュニティーの現実を恋愛の中で描いた『サムソンとデライラ』(Samson & Delilah、2009)も登場。

先住民の人びととイギリスからの入植者の衝突を描いた、ケイト・グレンヴィル氏の小説『闇の河』(The Secret River、2005)も話題となった。2015年にはABCテレビでドラマ化もされている。

イタリア系のティーンエージャーが主人公の映画『アリブランディを探して』(Looking for Alibrandi、2000)、ギリシャ系移民のコメディー『ザ・ウォグ・ボーイ』(The Wog Boy、2000)、日本人男性との恋愛を描いた『ジャパニーズ・ストーリー』(Japanese Story、2003)など、人種的な広がりも出てくるようになった。

文学界では、移民作家の活躍も目立つ。ギリシャ系作家のクリストス・チョルカス氏もその1人。郊外に住む人びとの闇をあぶり出して議論を呼んだ小説『スラップ』(The Slap、2008)や、高校生の水泳選手の葛藤(かっとう)を描いた『バラクーダ』(Barracuda、2013)には、オーストラリアに生きる移民としての視点がある。

ディープ・オーストラリアへ

オーストラリアの2月は日本の4月にあたる。新学年が始まる今月から、新しい文化の中で生活を始める人も多いだろう。

ここで挙げた作品は、オーストラリアらしい代表作の一部に過ぎない。他にも多種多様な優れた作品がたくさんある。好みの映画や小説を開拓して、オーストラリア文化のディープな部分をのぞいてみてはどうだろう。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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