AUSメディア・ウォッチ「家が買えない」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第20回:家が買えない

家の値段が高すぎる。

内覧に行っては「この家にこの値段か」と愕然(がくぜん)とし、オークションで何度も欲しい家を逃した人も多いだろう。

過熱する住宅市場についてはこれまでも取り上げられてきたが、最近メディアでよく耳にするのは「ハウジング・アフォーダビリティー(housing affordability)」という言葉。住宅が「アフォーダブル(買えるような値段)」ではなくなった今、住宅価格の高騰は遠い世界の経済問題ではなく、生活に関わる身近な問題となった。

買えないミレニアル世代

家が買えないのは特に若い世代だ。

X世代とミレニアル世代のちょうど境にいる私は、10歳年上の人と話す時と10歳年下の人と話す時とで、話の内容とその感覚があまりに違うことに驚かされる。X世代は中心部に近い所にある持ち家の増改築や投資物件の話で盛り上がり、ミレニアル世代はいったいいつどこに小さなアパートが買えるのかと不安を隠せない。

現在40~50代のX世代とその上のベビー・ブーマー世代は、不動産ブームにうまく乗った世代。安く買った家が大幅に値上がりし、ネガティブ・ギアリングなどの投資家を優遇する政策の恩恵を受けて投資物件も複数持っていたりする。現在20~30代のミレニアル世代はブームと共に成長し、社会人になって家を買おうと思った時にはとても手が届かない値段になってしまった。

この世代間ギャップが、昨年10月に「アボカド論争」を巻き起こした。ある著名な評論家が「若い人はカフェで22ドルもするようなアボカドが載った朝食を食べているから家が買えないんだ」と書いたことから、ミレニアル世代が大反発。家は今や22ドルのアボカド・トーストを節約したところで買えるような値段ではなくなったからだ。

広がる危機感

高額なウォーターフロントのアパート。しかしアパートの過剰供給を心配する声も聞かれる
高額なウォーターフロントのアパート。しかしアパートの過剰供給を心配する声も聞かれる

家が手も届かないような値段になると、人は無理のある住宅ローンを組むようになる。

その結果、オーストラリアの家計負債額は膨らみ続けている。先月発表された家計の可処分所得に対する負債比率は、最高記録をまた更新する189パーセントとなった(オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙、電子版:2017年4月5日)。

オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)のフィリップ・ロウ総裁も先月、「賃金の伸び悩みによって、借金の返済が困難になっている世帯がある」ことを指摘。「利子を支払った後の収入にほとんど余裕が無いようなローンが多すぎる」と警鐘を鳴らした(オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙、電子版:同年4月4日)。

多額の借金は、記録的に低い金利によって支えられている。しかし、この超低金利も長くは続かないだろう。

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、昨年12月に続いて3月にも利上げを行った。「世界の金利が上昇基調にある中、豪中銀も金利政策を正常化し始める準備をしなければならない」とオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙(電子版:同年3月16日)は社説で主張。「正常化」とは異常に低い金利を引き上げるということ。利上げは時間とタイミングの問題だ。

民間銀行は既に動き出している。中銀が金利を据え置いているにもかかわらず、3月には大手銀行が相次いで投資ローンとインタレスト・オンリー・ローン(利子のみの返済が可能なローン)の金利を引き上げた。

更に、民間銀行を規制するオーストラリア健全性規制庁(APRA)も3月31日、インタレスト・オンリー・ローンの割合を制限する規制強化策を打ち出した。追って先月3日にはオーストラリア証券投資委員会(ASIC)も、インタレスト・オンリー・ローンについて監視を強める措置を発表した。

注目される9日発表の予算案

民間銀行や関連機関が自主的にブレーキをかけ始めたことは、金融機関が過熱する住宅市場に危機感を持ち始めたことを物語っている。

投資物件を握っているベビー・ブーマー世代や富裕層に支持者が多い自由党政権は、これまでこれといった対策を取ってこなかった。しかし、そんな自由党でさえ動き出しそうな気配がある。

スコット・モリソン財務相は3月、5月9日に発表される国の来年度予算案では「ハウジング・アフォーダビリティーにも焦点を当てる」と述べ、何らかの対策を打ち出すことを示唆した(オーストラリアン紙、電子版:同年3月5日)。

シドニー・モーニング・ヘラルド紙(同年3月18、19日)は社説の中で、「政府が、連邦レベルそして州レベルで、もっと早い段階で手を打つべきだったことは明らかだ」とした上で、「5月の予算案は、ハウジング・アフォーダビリティーの問題にとって重要な軸となる」と述べている。

危うい状態の住宅市場を崩壊させないよう細心の注意を払いながら、ミレニアル世代が家を買えるような市場を取り戻す。そんなことが可能なのかは分からないが、至難の技になることは間違いない。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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