AUSメディア・ウォッチ「景気後退知らずの経済のウラ」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第23回:景気後退知らずの経済のウラ

日本の若い世代は好景気を知らずに育ったが、それと逆なのがオーストラリアの若者。今の20代は不景気を知らずに育った。

オーストラリアは6月、26年間「景気後退」をしていない国としてオランダの世界最長記録に並んだ。景気後退とは、2四半期連続でマイナス成長した場合を言う。6月7日に発表された2017年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3パーセント増となり、103四半期連続で景気後退を回避したことになった。

しかし、世界記録を誇るその経済は本当に屈強なのだろうか。

広がる格差の陰に

経済指標を見なくても明らかなのは、何百万ドルもする住宅が売れている一方で、ホームレスの数が増えていること。

カウンシル・ツー・ホームレス・パーソンズによると、2015/16年にホームレスのためのサービスを利用した人は全国で28万人。その数は5年間で50パーセントも増えた。

同カウンシルのレイニー・ハリス氏は、住宅市場の高騰で低所得者層の住宅が不足していることが原因だと言う。

「ホームレスは、病んだ市場の目に見える症状です」

6月27日に発表された16年国勢調査の結果を分析し、「これまで社会的平等がトレードマークだった国で、経済的不平等が広がっている」と見ているのはエイジ紙の元経済ジャーナリスト、ティム・コルバッチ氏だ。

所得が週3,000ドル以上の世帯が全体の15パーセントなのに対し、所得が週800ドル以下の世帯は25パーセント。住宅所有率は、25歳から34歳の若い層で1981年の61パーセントから16年の45パーセントに低下した(インサイド・ストーリー、17年7月5日)。

持つ者と持たざる者の格差が広がる中、持たざる者の不安は高まる。ABCの『7.30レポート』(同年6月7日)は、景気後退無しの最長記録達成を伝える放送の中で、住宅価格の上昇、伸び悩む賃金、雇用への不安を漏らす街の声をレポートした。

ウエストパック銀行のシニア・エコノミスト、マシュー・ハサン氏は番組でこう述べている。

「何年間も(景気)拡大が続いていれば楽観的になるはずですが、実際にはセンチメントが多少落ち込んでいます。家計は悲観的で、消費者の間には慎重な空気が流れています」

7月4日に政策金利の据え置きを決定したオーストラリア準備銀行(RBA)のフィリップ・ロウ総裁も「実質賃金の伸び悩みと多額の家計負債を反映して消費の伸びが抑えられている」ことを指摘している。

1987・1997・2007

アメリカのサブプライム住宅ローンに端を発したリーマン・ショックは記憶に新しい。2007年に始まったその世界金融危機から6月で10年になった。

リーマン・ショックの10年前、1997年にはアジア金融危機があり、更に10年前の1987年には「ブラック・マンデー」と呼ばれる株価大暴落があった。景気には波があり、サイクルがある。

スコープ経済調査によると、オーストラリアが2年以内に景気後退する可能性は「小さいがゼロではない」という。懸念要因としては、不動産価格の急激な下落と中国経済の減速が挙げられている(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、同年7月1、2日)。

海外の見方は更に厳しい。米エコノミストのデイビッド・レビー氏は、「オーストラリアは景気後退と金融危機が最も差し迫っている国の1つ」だと言う。金融危機真っただ中の08年にアメリカのGDPに対する家計負債の割合が98パーセントであったのに対し、現在オーストラリアのGDPに対する家計負債の割合はそれを大きく上回る123パーセントだ(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、同年6月17、18日)。

世界中を揺るがしたリーマン・ショックも見事に乗り切り、26年間景気後退を免れてきたオーストラリア。もし、また危機が訪れたら今度は乗り切れるだろうか。

不透明な先行き

今の低金利のままでは、何か起こった時の利下げの余地は少ない
今の低金利のままでは、何か起こった時の利下げの余地は少ない

問題は低金利だ。景気が悪化した時の金融政策といえば、政策金利を下げてお金を市場に流すこと。リーマン・ショック以来、各国は低金利状態にあったが、世界経済が比較的安定している今、利上げ圧力は高まっている。

「次に危機が起こった時に使う弾薬をロッカーに置いておくために、(各国)中銀は金利を通常のレベルに引き上げたがっている」と言うのはオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙(電子版:同年6月29日)のフィリップ・ベイカー氏。

アメリカに続き、7月にはカナダも利上げを決めたが、オーストラリアは家計負債、賃金、消費への懸念から踏み切れないでいる。危機が起こった場合、金利を下げられる余地は少ない。

ハサン氏はABCの番組の中でこう述べている。

「鉱山ブームと不動産ブームの後は、これまでのような安易な道のりというわけにはいきません。2017年以降、成長のバトンが何に手渡されるかは不透明です」

26年間、比較的に順風満帆だったオーストラリア経済。不安要因がくすぶる中、今後の動きから目が離せない。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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