AUSメディア・ウォッチ「移民国家の二重国籍問題」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第24回:移民国家の二重国籍問題

日本国籍を持ちながらオーストラリアに長く住む人なら、オーストラリア国籍の取得を考えたことがあるだろう。日本は重国籍を認めていないため、外国籍を取得すれば日本国籍は放棄しなければならない。または、子どもが日豪の二重国籍を持っているという人も多いだろう。

そんな身近な二重国籍の問題をめぐって、ここのところ日豪両国が揺れていた。

日本では、7月末に民進党代表を辞任した蓮舫氏の二重国籍問題が話題になっていた。オーストラリアでは、7月に二重国籍問題で緑の党の上院議員2人が立て続けに辞職したことをきっかけに、疑いのある議員が続出。問題は副首相や大臣にまで及び、メディアをにぎわせた。

続出する二重国籍疑惑

日本とオーストラリアで似たような問題が起こっているようだが、大きな違いは、日本は二重国籍を認めていないがオーストラリアは認めているということ。

ではなぜ、オーストラリアで問題になっているのか。それは憲法第44条で、二重国籍を持つ者は連邦議会の議員に選出される資格がないとされているからだ。

辞職したウォーターズ氏は、ツイッターのプロフィルをユーモアを交えて「うっかり間違ってカナダ人」に変更
辞職したウォーターズ氏は、ツイッターのプロフィルをユーモアを交えて「うっかり間違ってカナダ人」に変更

一連の国籍騒動の先頭を切ったのは、ニュージーランド生まれのスコット・ラドラム元上院議員。10代でオーストラリアに帰化した際に消滅したと思っていたニュージーランド国籍が残っていた。

これに続いたのが、カナダ生まれのラリッサ・ウォーターズ氏。出生日の1週間後に国籍に関する法が改正され、正式に放棄しない限りカナダ国籍が残ることを認識していなかったという。

二重国籍の疑いがあるとして閣僚を辞任したマット・カナバン前資源・北部担当相に至っては、母親が、成人した本人の承諾なしにイタリア国籍の申請をしていたという。

その後も、インド生まれでウェールズ人の父親を持つマルコム・ロバーツ氏のイギリス国籍疑惑が浮上。更にジャスティーン・キー氏が、イギリス国籍の放棄を確認したのが選挙後だったことを明らかにした。

そして8月14日には、ニュージーランド生まれの父親を持つバーナビー・ジョイス副首相が、ニュージーランドとの二重国籍だったことが発覚した。

一度開かれたパンドラの箱はとどまるところを知らない勢いだ。

憲法第44条は時代遅れなのか

ここまで問題が相次いだ理由は移民国家にある。2016年の国勢調査によると、オーストラリア人の26パーセントが海外生まれ、半分近い49パーセントが自身または少なくとも片方の親が海外生まれだ。辞職した2人を除いた224人の連邦議会議員の中でも、23人が海外生まれだという。「憲法は19世紀後半当時の考え方と理解の産物であることを忘れてはいけない」と言うのはオーストラリア国立大学社会文学部のジョン・ワナ教授だ(オーストラリアン紙、17年7月29、30日)。

ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部のガブリエル・アップルビー准教授も、今の社会は憲法制定時よりもずっと多文化になったことを指摘。「その変化を考えると、憲法の制約がまだ妥当なのかどうかは、話し合われて当然の議論です」(ブルームバーグ、同年7月26日)

シドニー・モーニング・ヘラルド紙(電子版:同年7月26日)のピーター・マーティン氏もまた「靴下の引き出しの中で、使われずに忘れ去られている外国パスポートの数を考えたら、(44条は)理に合わない」と書いている。

一方で、「時代遅れ」の44条であっても変えるべきではないというのはnews.com.au(同年7月19日)のマルコム・ファー氏。「オーストラリア議会の議員が他国の選挙で投票できるのであれば、それは明らかな衝突になる。(中略)世界はまだ国民国家が中心であり、(議員は国籍を)選ばなければならない」と主張する。

移民国家の国益

メディアではさまざまな意見が飛び交ったが、多くの識者に共通しているのは、時代にそぐわない憲法でもそれを改正するのは難しいとの見方だ。

改正は憲法改正を問う国民投票によってのみ可能だが、「それ自体が困難を極めることだ」と、マードック大学法学部のロレイン・フィンレー氏はザ・カンバセーション(同年7月19日)に書いている。

フィンレー氏は、改正にのしかかる課題をこう指摘する。「第44条の根底にある原則は今でも重要です。議会の健全性と議員の(国に対する)忠誠が極めて大切であることに疑いはありません。(中略)44条の改正を考える時には、オーストラリア国民の参加を最大限にすることと、国益を守ることのバランスが鍵になります。今回の出来事を鑑みると、今がまさにその議論の時です」

移民国家の国益はどう守られるべきなのか。

オーストラリアに住む日本人にとっても無関係とは言えない二重国籍をめぐる議論。ジョイス氏らのケースは今、高等裁判所の判断が待たれている(8月14日時点)。パンドラの箱から飛び出したものはどこへ向かうのか。その議論を見守っていきたい。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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