AUSメディア・ウォッチ「クリスマスの贈り物」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第27回:クリスマスの贈り物

クリスマス商戦に向けて10月から飾り付けがされているキャンベラのショッピング・センター
クリスマス商戦に向けて10月から飾り付けがされているキャンベラのショッピング・センター

今年もクリスマス・シーズンがやってきた。ショッピング・センターには10月から装飾が施され、店内には早々とクリスマス・コーナーが設けられた。

12月ともなると、人びとは殺気立ってショッピング・センターを駆け回る。「クリスマス・ショッピング」だ。

オーストラリアでクリスマスを過ごすようになって驚いたのは、プレゼントの量。子どもや親へのプレゼントはもちろんのこと、甥っ子・姪っ子、親しい親戚、親しい友人、職場でのクリスクリングル(プレゼント交換)のための物まで、ものすごい数を用意することになる。

クリスマス消費の無駄

オーストラリア証券投資委員会(ASIC)によると、クリスマス・プレゼントに使う金額は1人当たり平均505ドル(南オーストラリア州)から646ドル(西オーストラリア州)だという。クレジット・カードまたは借金による購入は40パーセント。クリスマス休暇後のクレジット・カード請求額は、カード当たり平均1,666ドルになるという。

借金してまで買うプレゼントだが、どれだけ喜ばれ、大切にされているのだろう。

子どもたちがもらったプレゼントの山を見て、一体どうしようかと思った経験のある人もいるだろう。収納場所は限られているし、子どもも全てのおもちゃで遊ぶわけではない。その結果、子ども部屋には遊ばれないおもちゃや、放置されたぬいぐるみが溢れることになる。

大人も同じだ。クローゼットの中には、クリスマスにもらってから一度も使っていないキッチン・ガジェットや、自分の趣味に合わないインテリア雑貨が眠ってはいないだろうか。

米イエール大学の経済学者(1993年当時)ジョエル・ウォルドフォーゲル氏は、クリスマスに贈り物をし合うことで、プレゼントの「物」としての価値は10パーセントから3分の1程度下がるという研究を発表している。必要のない物、欲しくない物までもらうからだ。オーストラリア人がクリスマス・プレゼントに消費する額は76億ドルとの推計があるが、それに基づくと7億6,000万ドルから25億ドルが無駄になることになる(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、電子版:15年12月25日)。

このような無駄は、大量生産・販売に関わる企業を潤すだけだ。そして、それは消費社会の助長につながる。

大量消費社会の限界

最近では、行き過ぎた消費社会の反動のような動きも見られる。

日本では「断捨離」という言葉がよく使われるようになった。近藤麻理恵氏の著書『人生がときめく片付けの魔法』は、オーストラリアの書店にも翻訳本が並ぶ。若い世代を中心に「ミニマリズム」が注目を集めるようになり、「物」をできる限り排除する生き方が提唱されている。

「『多ければ多いほど良い』という考え方は現代社会にまだ残っている。だから経済システムもそれを実現するためのものになっている。生活の質と消費される『物』が、持続的な相関関係にある時はそれで良い。しかし、その相関関係は弱まってきている」と、スインバン工科大学のアンソニー・ジェームズ氏は書いている(ザ・カンバセーション、17年1月4日)。

高度経済成長期には、ある程度「物」に満たされる部分があったかもしれない。しかし、資本主義が行き着くところまで行き着いた今、社会はある種の飽和状態に達している。

話は飛ぶようだが、法政大学教授で経済学者の水野和夫氏が指摘する「資本主義の終焉」とも無関係ではないように思う。

水野氏は、資本を投資しても利潤の出ない現在のような低金利時代は、資本主義の最終局面だと主張。今後見据えていくべきなのは、経済成長のない「ゼロ成長社会」だという。そんな社会を水野氏はこう説明する。「資本の蓄積と増殖のための『強欲』な資本主義を手放すことによって、人びとの豊かさを取り戻すプロセスでもあります」(水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』集英社新書、2014年)

新しい形の贈り物

本当の「豊かさ」とは何だろう。「物」が溢れるショッピング・センターでクリスマス・ショッピングに翻弄されながら、そんな疑問がふとよぎる。

「豊かな生活」は収入と持ち物を増やすことで得られるわけではない、とジェームズ氏は言う。

「何も買うなということではありません。消費を悪いもの扱いして避けるということでもありません。消費を効率的に利用し、生きる上で最も大切なものを最大化するようにしたらどうだろうと問うことなのです」

「充実した時間、健康、借金の少ない状態、ストレスの少ない状態、豊かな地球。そんな贈り物に目を向けても良い。恵まれない人びとに何かを贈る余裕を持っても良い」と提案するジェームズ氏。

「過剰な消費が私たち自身や経済にとって良いことであるという、時代遅れの考え方に振り回される必要はないのです」

このクリスマス、慌てふためいてマイヤーやターゲットを駆けずり回る前に、少し立ち止まって考える余裕を持ちたい。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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