第65回 シドニー・フィルム・フェスティバル

65回目を迎えた「シドニー・フィルム・フェスティバル」が6月6日に開幕し、世界各地で制作された250本を超す映画が、12日間にわたってシドニー各地で上映される。今年の公式コンペティションでは、映画界の女性差別の解消を訴える最近の動きに呼応して12作品のうち半数が女性監督の作品であるのに加え、審査員に日本人が加わっているのも興味深い(次ページのインタビュー参照)。日本では見ることのできない作品も多いので、ぜひシネマへ!(構成・文=大倉弥生)


INFORMATION
●期間:2018年6月6日(水)~17日(日)
●時間:上映日時の詳細は下記ウェブサイトを参照
●会場:イベント・シネマ・ジョージ・ストリート(Event Cinema George St, 505-525 George St., Sydney)、ステート・シアター(State Theatre, 49 Market St., Sydney)、デンディー・ニュータウン(Dendy Newtown, 261-263 King St., Newtown)、デンディー・オペラ・キーズ(Dendy Opera Quays, 9/2 East Circular Quay, Sydney)、リッツ・シネマ・ランドウィック(The Ritz Cinema Randwick, 45 St Pauls St., Randwick)他、シドニー市内各所
●料金:シングル・チケット大人$19.90、コンセッション$17、10枚セット(FlexiPass10)$159、20枚セット(FlexiPass20)$298、30枚セット(FlexiPass30)$397、予約手数料$2.75~、オープニング・ナイトなど特別イベントは別料金
●チケット購入:オンライン(下記ウェブサイトから)、電話(Tel: 1300-733-733)、チケット売り場(2/10 Hickson Rd., The Rocks)※上映作品の大半が18歳または15歳以上指定

公式ウェブサイト:www.sff.org.au

オープニング作品

THE BREAKER UPPERERS ニュージーランド、コメディー、2018年

“別れさせ屋”てんまつ記

 若いころ、たまたま同じ男に二股を掛けられていたことが分かったジェンとメル。恋愛不信に陥っていた2人は意気投合し、あの手この手でカップルを別れさせるビジネスを始め次々に成功するが、やがて2人の良心と友情が試されることに。ニュージーランドの多文化社会を背景に強烈なキャラクターが登場する爆笑ストーリー。

オープニング・ナイト・ガラ:6月6日(水)7:30PM~ State Theatre
6月8日(金)7:15PM~ The Ritz Cinema Randwick
6月9日(土)2PM~ State Theatre

クロージング作品

HEARTS BEAT LOUD 米、ドラマ、2018年

親父が娘とバンドを組んだら

 ミュージシャンの夢を捨てきれないシングル・ファーザーのフランクは、音楽的才能がある娘サムを説得してバンドを組み、曲をアップロードするとそれが思いがけずヒットする。その気になった彼は、既に医学部進学を決めている堅実な娘にそれを諦めさせようとする。ノリの良い音楽に乗せて描かれる心温まる家族ドラマ。

クロージング・ナイト・ガラ:6月17日(日)7:30PM~ State Theatre
6月17日(日)8:40PM~ Hayden Orpheum Cremorne

コンペティション出品作から4作品をご紹介

JIRGA 豪、ドラマ、2017年

兵士はなぜ再びアフガニスタンへ

 アフガニスタンでの戦闘で一般人を死なせてしまった豪軍の元兵士・マイクは3年後、償いを求めて犠牲者の家族を訪ねる旅に出る。タリバンに命を狙われる危険と背中合わせの中、彼は村の長老議会ジルガに身を委ねることに。彼を待つ出会いとは何か。「テロとの戦い」という大義名分に隠された戦争の真の代価を問いただす作品。

6月8日(金)6:45PM~ State Theatre
6月9日(土)12PM~ State Theatre
6月11日(月)6:15PM The Ritz Cinema Randwick

THE SEEN AND UNSEEN インドネシア他、ドラマ、2017年

バリ的幻想美で描く少女の悲しみ

 インドネシアのバリ島で暮らす少女タントリと少年タントラは10歳の双子。不治の病でタントラを失う恐怖におののくタントリは、いつしか幻想の世界でタントラと戯れるようになる。バリ伝統の踊りを使い、死と向き合う少女の魂を映像美で描く。民族音楽をベースにしたサウンド・デザイナー森永泰弘による音楽も美しい。

6月7日(木)6:30PM~ State Theatre
6月8日(金)4:40PM~ State Theatre
6月16日(土)12PM~ Event Cinema George St

BLACKKKLANSMAN 米、ドラマ、2018年

KKKに潜入した黒人警官が見たものは?

 1970年代後半、コロラド・スプリング市初の黒人警官になったロンは、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の会員募集広告を見て電話を掛ける。面談には同僚の白人警官を送り込んで会員となり、KKKの実態に迫っていく。監督は、人種差別問題に鋭く切り込むことで有名なスパイク・リー。カンヌ映画祭審査員特別賞受賞作。

6月16日(土)6PM~ State Theatre
6月17日(日)12:15PM~ State Theatre

THE HEIRESSES パラグアイ他、ドラマ、2018年

レズビアンが見たパラグアイの格差社会

 チーラとチキータは30年連れ添っている同性カップル。相続した財産で裕福な生活を満喫していたが、チーラが詐欺容疑で捕まったことで2人の関係に転機が訪れる。人生後半になって自活することになったチキータは、新たな自分を発見していく。ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー銀熊賞及び最優秀女優賞受賞作。

6月16日(土)1:30PM~ State Theatre
6月17日(日)10AM~ State Theatre


孤狼の血 THE BLOOD OF WOLVES
日、ドラマ、2018年、R15指定

「警察じゃけ、何をしてもええんじゃ」

 1988年、暴対法成立直前の広島ではヤクザの抗争が激化していた。暴力の渦中へ踏み込んでいくベテラン刑事(役所広司) と新人刑事(松坂桃季) 。血で血を洗う世界を描いた柚月裕子の同名小説が原作。白石和彌監督作品。

6月6日(水) 8PM~ Dendy Newtown
6月17日(日) 8:45PM~ Event Cinema George St

飢えたライオン THE HUNGRY LION
日、ドラマ、2017年

フェイク・ニュースに殺された女子高生

 逮捕された担任教師のわいせつ動画に映っていたとうわさされた高校生ひとみ。うわさはやがてデマとなって拡散し、メディアまで巻き込んでひとみを追い詰める。デマの投稿、被害者叩きなど、ネット世界の加虐性をあぶり出す作品。緒方貴臣監督。

6月9日(土) 6:15PM~ Dendy Newtown
6月16日(土) 8:45PM~ Dendy Opera Quays

未来のミライ MIRAI
日、アニメ、2018年

家族をつなぐ過去・現在・未来

 4歳のクンちゃんに妹ができた。両親にかまってもらえず拗ねているクンちゃんの目の前に現れたのは、未来からやってきた学生服姿の妹ミライ。幼い“お兄ちゃん”の冒険がここから始まる。『サマーウォーズ』の細田守監督作品。

6月16日(土) 8:30PM~ Event Cinema George St
6月17日(日) 4:30PM~ State Theatre

港町 INLAND SEA
日・米、ドキュメンタリー、2018年

人間の営みを見つめた「観察映画」

 瀬戸内海を臨む岡山県の美しい港町、牛窓に暮らす人びとの日常を独自の手法で撮った想田和弘監督のドキュメンタリー。漁師、海、野良猫、祭り、老いてゆく人と町。全編モノクロの映像によってミクロの日常世界がマクロに変わる。

6月11日(月) 12PM~ Dendy Opera Quays
6月16日(土) 10AM~ Dendy Opera Quays

KUSAMA‐INFINITY
米、ドキュメンタリー、2018年

「水玉の女王」草間彌生の軌跡

 水玉模様を使ったアートで世界的に知られる草間彌生。今年89歳の草間は、保守的な日本を脱出して1960年代のニューヨークで前衛的な創作活動の後、70年に帰国してからも更に作品世界を広げていった。彼女の全貌を伝える作品。

6月16日(土) 9:30AM~ State Theatre
6月17日(日) 1:30PM~ Event Cinema George St

RYUICH SAKAMOTO: CODA
米・日、ドキュメンタリー、2017年

「世界のサカモト」に密着取材

 『戦場のメリークリスマス』や『レヴェナント:蘇りし者』の映画音楽などで知られる作曲家・坂本龍一に5年間密着し、彼の音楽づくりと思索を記録した作品。東北の震災から受けた影響や自らのがん闘病についても語っている。

6月10日(日) 6PM~ Event Cinema George St
6月12日(火) 6PM~ Dendy Opera Quays

THE TASTE OF RICE FLOWER
中国、ドラマ、2017年

“留守児童”が映し出す現代中国の姿

 中国雲南省のタイ族の村が舞台。上海に出稼ぎに行っていた母親が数年後帰郷すると、娘はすっかり成長して他人のように冷たく、インターネットで世界とつながった村人の生活は全てが金で支配され激変していた。

6月13日(水) 2:05PM~ State Theatre
6月17日(日) 12PM~ Dendy Opera Quays

24 FRAMES
イラン、実験映画、2017年

写真と映画が一体となった24章

 一昨年亡くなったイラン映画の巨匠アッバス・カロスタミ監督の最後の作品。ストーリーはなく、各章4分、全24章の映像のみで構成されている。映像作家であり芸術写真家でもあった監督の美へのこだわりが凝縮された集大成。

6月9日(土) 1:30PM~ Dendy Opera Quays
6月14日(木) 5:45PM~ Dendy Opera Quays

BACKTRACK BOYS
豪、ドキュメンタリー、2018年

オージー青年たちの更生ストーリー

 NSW州の田舎で、刑務所行き寸前の若者たちに安全な場所と教育を提供しているプログラムを2年越しで記録した作品。登場する3人が犬のジャンプ競技大会に参加し成長していく姿がまぶしい。豪ドキュメンタリー財団賞ノミネート作品。

6月10日(日) 2:15PM~ Event Cinema George St

ASIAN GIRLS
豪、短編ドラマ、2017年

新人監督の才能が光るショート・フィルム

 隣人の日本人女性の悪夢に毎晩苦しむ一人暮らしのチャンをめぐる短編。本作品を含め、「Dendy Awards for Australian Short Films」の最終選考に残ったアニメやミュージカルなど、多様なジャンルの短編全10本を一気に上映。119分。

6月16日(土) 3:45PM~ Event Cinema George St
6月17日(日) 3:15AM~ Event Cinema George St

HARD PAINT
ブラジル、ドラマ、2018年

ソーシャル・メディアの中の孤独

 ブラジル南部の港町ポルト・アレグレ。10代のペドロは、ネオンのボディー・ペイントをしたゲイのダンサーとして自分のチャット・ルームで踊っていたが、ある日ライバルの存在に気付く。ベルリン国際映画祭で最優秀LGBT映画賞を受賞。

6月6日(水) 8:15PM~ Event Cinema George St
6月9日(土) 8:15PM~ Dendy Newtown

MY BRILLIANT CAREER
豪、ドラマ、1979年

40年前の名作がみずみずしく蘇る

 19世紀後半のオーストラリアで、作家を志す娘シビラが因習と衝突しながら自分の道を見つけていく物語。ベテラン女優ジュディ・デイビスのデビュー作。相手役は若きサム・ニール。公開当時数々の賞を受賞した作品のデジタル復元版。

6月13日(水) 6:15PM~ Event Cinema George St


第65回シドニー・フィルム・フェスティバル
公式コンペティション審査員

矢田部吉彦氏インタビュー

第65回シドニー・フィルム・フェスティバルの公式コンペティションに今回、審査員の1人として2007年から東京国際映画祭の作品選定ディレクターを務める矢田部吉彦氏が参加する。世界中から集められた全12本の選りすぐりの出品作の審査に臨む心境や大賞の選定基準、運営側から見る映画祭の楽しみ方など話を伺った。(聞き手=山内亮治)

――東京国際映画祭の作品選定ディレクターから公式コンペティションの審査員、作品を選ぶ側から審査する側になり、どのような心境ですか。

映画祭のコンペティションの作品を選ぶことと大賞を選ぶことは、「作品を選ぶ行為」という意味では似ているかもしれません。ただ、大規模な映画祭で自分自身が公式コンペティションの審査員の1人であることに、とても大きな責任を感じています。気が引き締まるという以上に、緊張します。それでも今は楽しみたいという心境です。

――大賞の選定には、どのような点を重視しますか。

他の4人の審査員とどの作品に大賞を与えるかを協議しなければなりませんが、まずは1本の映画がいかに面白いか、質が高いか、作品を見て感じるフィーリングの部分を素直に受け止めたいと思っています。

公式コンペティションの大賞の選定に当たっては、「時代がうまく描けている」「最も将来性を感じる」など、受賞理由を説明しなければなりません。しかし、最初から観る作品の1つひとつにこうした考えを当てはめるのではなく、普段映画に接する時と同じく、楽しめるか、感動するか、それらを重視し審査に臨みたいと思います。

――それでも全12本から1本の映画に大賞を与える作業は、想像以上に難しいはずです。大賞の授与において、最終的な判断基準など存在するのでしょうか。

大賞を選ぶ際は、幾つかの分かりやすい観点と共に作品を比較すると思います。物語が魅力的か、脚本は面白いか、映像はすばらしいか、また役者の演技など、映画を観る上ではこれらの観点があります。

例えば、映像美に優れた作品と物語性に優れた作品のうちのどちらかから大賞を選ばなければならないとなった時、それら幾つかある観点の中で特に何を重視するかは一概には言えません。東京国際映画祭のコンペティション部門の作品選定でも同様の悩みに直面します。大賞の選定では、総合的に優れている作品よりも何か1点が際立っている作品の方を選ぶ可能性がありますね。

――出品作ついては、事前に情報収集などされましたか。

作品のタイトルと監督をざっと確認した程度で、あまり下調べはしていません。映画祭開幕まで時間は十分に残されていませんし、予習はあまりせずに映画祭を迎えると思います。

事前情報を極力持たずに映画を観るというのが、私のやり方で、審査員だからといってあえていつもと違うことはしないのではないでしょうか。

――映画に対する先入観をなるべく持たないというお考えからでしょうか。

先入観を排するということは、普段映画に接する際に最も意識していることです。今回のシドニー・フィルム・フェスティバルでもこの点は大事にしたいと思います。

また、審査員と言えども映画を楽しみたいと考えています。事前情報を得る中で作品がネタバレしてしまうと観る楽しみがなくなりますから、審査員の行為として良いかは分かりませんが、作品を観終わった後に監督は誰かなどといった情報を調べると思います。

――シドニー・フィルム・フェスティバルは矢田部さんの中でどのような映画祭として位置付けられていますか。

映画祭の運営側として痛感しますが、大規模な映画祭をたった一度開催するだけでも莫大な費用や労力を要し、とても大変です。一度開催するだけでも大変なのに、それを毎年開催し65回目を迎えるというのは、信じられないことです。

こうしたことを踏まえると、映画祭を評価する判断材料として、長く続いているということが挙げられます。歴史は、映画祭そのものの価値を決める大きな指標の1つです。そう考えると65回も続くということ自体が、大きな尊敬に値します。

――映画祭の運営に携わる立場から、シドニー・フィルム・フェスティバルをどのように楽しんでもらいたいかお考えはありますか。

映画祭は、普段商業映画館では上映されない作品を観られるのが大きな存在理由の1つであり、そこに監督などの映画関係者も来場するため、いつもとは違う体験のできる貴重な場です。世界中から集められたいろいろなタイプの作品が観られるため、「映画を通じて世界を知る」ことを大きな喜びとして感じてもらえればと思います。特に、公式コンペティションの作品はさまざまな国の監督が多種多様なテーマで制作している作品がそろっています。より広く世界を知るチャンスだという思いで映画祭を楽しんで欲しいですね。

矢田部吉彦(やたべよしひこ)プロフィル◎1966年、仏・パリ生まれ。小学生時代を欧州、中学から大学までを日本で過ごす。大学卒業後、大手銀行に就職。在職中に留学と駐在でフランスとイギリスに滞在し、その間に年間300本以上の映画を鑑賞。帰国後、退職し海外映画の配給・宣伝やドキュメンタリー映画のプロデュースを手掛ける。その後フランス映画祭に携わるようになり、2002年に東京国際映画祭スタッフに。04年、上映作品の選定を行う作品部を統括。07年からはコンペティション部門の作品選定ディレクターを務める

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