シドニーの新たな楽しみ「クラフト・ジン」の魅力を探る

シドニーの新たな楽しみ

「クラフト・ジン」の魅力を探る

「クラフトのお酒」と聞けばまずビールを思い浮かべるかもしれないが、実は近年、オーストラリアだけでなく世界各地で作り手のこだわりが溢れる「クラフト・ジン」がブームの様相を見せている。一度は口にしたことがあるであろうが、そもそもジンとはどんなお酒なのか、またクラフトとそれ以外のジンの違いとは何なのか、知らない人も多いのではないか。そこで、本特集ではジンの基礎知識の紹介に加え、シドニーにある蒸溜所を取材し、クラフト・ジンの魅力を探ってみた。(取材・文=山内亮治)

ⓒArchie Rose Distilling Co.

ジンの基礎知識

ジンとはどんなお酒?

 ジンとは、大麦、じゃがいも、ライ麦などを原料として造られるベース・スピリッツにボタニカル(ハーブや果物の皮、スパイスなど草根木皮)を加え蒸溜させてできるお酒のこと。酒類では、蒸溜酒(スピリッツ)に分けられ、ウォッカ、ラム、テキーラを含めた「4大スピリッツ」の1つだ。

 他の4大スピリッツと同じく、アルコール度数は40~50度前後。そのままストレートで飲むにはアルコール度数が高すぎるため、主にカクテルに用いられ、バーでは欠かすことができない存在のお酒でもある。

歴史と語源

 ジンの歴史は1660年にまでさかのぼる。オランダのライデン大学医学教授シルヴィウス博士が植民地の熱病対策のためにジュニパー・ベリー(杜松(ねず)の実)を用いて研究、開発した薬用酒「ジュニエーブル」が起源とされている。1689年、英国国王に迎えられたウイリアムⅢ世と共にジュニエーブルはイギリスに渡り、ロンドンで爆発的な人気を得て、名前も「ジン」と略されて呼ばれるようになったと言われている。

 19世紀の初めにイギリスで連続式蒸溜機が誕生したことをきっかけに、現在主流となっている洗練された辛口のジン「ドライ・ジン」が生まれる。それまでに比べ、雑味が少なくライトな風味を持つそのジンは主産地のロンドンの名を冠して「ロンドン・ドライ・ジン」とも呼ばれるようになった。同時期にアメリカに輸出されてからは、現地でカクテルのベースとして脚光を浴び、世界的なスピリッツになるに至った。

ジン造りで欠かすことのできないジュニパー・ベリー
ジン造りで欠かすことのできないジュニパー・ベリー
ジンはカクテルを作る上でなくてはならない存在
ジンはカクテルを作る上でなくてはならない存在

ジンの製造・定義

 ジンは先述の通り、ベースとなるスピリッツにジュニパー・ベリーを含むボタニカルを数種類加えて蒸溜し造られる。この製造工程の中でジュニパー・ベリーを使用することは必須で、逆にそれ以外はどのボタニカルを使用しても良く、製造に自由度が高いこともジンの特徴だ。細かな製造工程の違いで幾つかスタイルは異なるが、定義として以下の2点は共通する。

  1. ①ジュニパー・ベリーの使用
  2. ②最終アルコール度数が37.5度以上

 また、ジュニパー・ベリー以外でジンの製造に使用される代表的なボタニカルには以下の物がある。

  • ●コリアンダー・シード
  • ●アンジェリカ・ルート/シード
  • ●リコリス
  • ●カルダモン・シード
  • ●レモン・ピール
  • ●オレンジ・ピール
  • ●ジンジャー
  • ●シナモン

特徴・味わい

ジン・ベースのカクテルの代表格マティーニ
ジン・ベースのカクテルの代表格マティーニ

 ジンはその製造過程で数種類のボタニカルが使用されることから、特徴はハーブのような複雑かつ華やかな香りだ。また、味わいにも果皮などを連想させる爽やかな苦味や辛味がある。

 「歴史と語源」の中で触れた通り、現在カクテルに使用されるジンとして主流なのはドライ・ジン。ボタニカルの爽やかで華やかな香りがありながらも、他の洋酒よりもドライな味わいなのが特徴だ。爽やかな香りと辛口の味わいのドライ・ジンから作られるカクテルの代表的なものは以下の通りだ。

  • ●マティーニ(材料:ドライ・ベルモット、オリーブ)
  • ●ネグローニ(材料:カンパリ、スイート・ベルモット)
  • ●ホワイト・レディー(材料:ホワイト・キュラソー、レモン・ジュース)
  • ●ギムレット(材料:コーディアル・ライム)

今注目の「クラフト・ジン」

日本のクラフト・ジン「ROKU」
日本のクラフト・ジン「ROKU」

 数あるジンの中でも現在、オーストラリアも含め世界各地で注目を集めているのが「クラフト・ジン」と呼ばれる、少量生産で作り手のオリジナリティー溢れるジンだ。クラフト・ジンとは何か。ブームの背景、大手メーカー製のジンとの違い、特徴などを以下に解説する。

クラフト・ジン・ブームの背景

 クラフト・ジンとは、少量生産で質を重視したオリジナリティー溢れるジンのことを指す。小さな蒸溜所などで生産されることが多く、大手メーカーにより大量生産される物に生産量で太刀打ちできないことから、差別化を図ることを前提に造られるジンだ。

 クラフト・ジンが近年注目されるようになった背景としてあるのが、その生産される種類が増えてきたことだ。要因として、世界各国で蒸溜酒製造の規制緩和が進んだことが挙げられる。ただし、蒸溜酒と言っても、ウイスキーは熟成に時間を要し生産コストが高くなる傾向があり、テキーラはメキシコだけと生産地が限定され、ラムやウォッカは銘柄としてジンほどの個性を出しにくい難点がある。一方で、ジンはベース・スピリッツに加えるボタニカルの種類によってさまざまな個性が生まれ、ウイスキーのような長期の熟成が不要なことから生産コストが低い。そのため、小規模生産者を始め、現在ではウイスキー・メーカーなどもクラフト・ジンを生産するようになった。

大手メーカー製のジンとの違い

代表的な大手メーカー製のジンの1つ「ボンベイ・サファイア」
代表的な大手メーカー製のジンの1つ「ボンベイ・サファイア」

 クラフト・ジンが大手メーカー製のジンと最も異なるのは、製造の中で使用されるボタニカルに従来一般的でなかった物や、産地特有のユニークな物が使用されている点だ。既に説明した通り、ジュニパー・ベリーの使用が必須であることを除き、ボタニカルの使用に特に決まりがないジン造りにおいては、「クラフト」ならではの個性が生まれる。

 例えば、現在日本で生産されているクラフト・ジン「ROKU」(サントリースピリッツ)だと桜花・玉露・山椒・柚子など、「Japanese GIN 和美人」(本坊酒造)では金柑・だいだいといった日本特有のボタニカルが使用されている。

味わいの特徴

 香り・味わいを決めるボタニカルに独自性が出るクラフト・ジンは、味わいも大手メーカー製の物と異なる。大手メーカー製のジンがカクテル用として造られているのに対し、クラフト・ジンではロックやストレートでも楽しめる味わいに造られる傾向が高い。

ジンの蒸溜所を巡る

 オーストラリア全体で160カ所以上あるとされている、ジンを始めとしたスピリッツ(蒸溜酒)の蒸溜所。それらは遠く離れた郊外ばかりではなく、中には街の中心部から比較的近い所にある場合も。今回は、シドニーCBDから約5キロの距離、ローズ・ベリーにある「アーチー・ローズ蒸溜所(Archie Rose Distillery)」を訪問。同蒸溜所で開催されるジンの「ブレンド・クラス」を通し、クラフト・ジンの魅力を更に深堀りしていく。

アーチー・ローズ蒸溜所の外観(ⓒArchie Rose Distilling Co.)
アーチー・ローズ蒸溜所の外観(ⓒArchie Rose Distilling Co.)

シドニー市内近郊の蒸溜所「アーチー・ローズ」

 アーチー・ローズ蒸溜所(以下、アーチー・ローズ)は、2015年3月、ローズ・ベリーの住宅街の中に創設された蒸溜所。ジンだけでなく、ウイスキー、ウォッカと複数の蒸溜酒が1カ所で作られる蒸溜所は、シドニーの中で同蒸溜所が唯一とされている。

 アーチー・ローズの創設者は、シドニー出身のウィル・エドワーズ氏。スピリッツをこよなく愛していた同氏は、シドニーで蒸溜所を作ることを目指し、13年1月にそれまでの仕事を辞め蒸溜所創設のアイデアを求めアメリカ・ニューヨークに渡った。マンハッタン至近のブルックリン及びその近郊で禁酒法時代(1922年~33年)以降に設立された蒸溜所を調べる中、当時シドニーの市内近郊に蒸溜所がないことに着眼する。このアイデアをシドニーに持ち帰った同氏は、約1年半の月日を掛け、仲間と共にシドニー市内近郊にバーも併設したスピリッツの蒸溜所を創設した。

蒸溜所内部の様子(ⓒArchie Rose Distilling Co.)
蒸溜所内部の様子(ⓒArchie Rose Distilling Co.)
ウォッカ(左から1つ目)やライ・ウイスキー(左から4つ目)も同じ蒸溜所内で造られる(ⓒArchie Rose Distilling Co.)
ウォッカ(左から1つ目)やライ・ウイスキー(左から4つ目)も同じ蒸溜所内で造られる(ⓒArchie Rose Distilling Co.)
見学ツアーではスピリッツに使用される原料から詳しく知ることができる
見学ツアーではスピリッツに使用される原料から詳しく知ることができる
ジンで使用される蒸溜機の中の様子も解説
ジンで使用される蒸溜機の中の様子も解説

「体験」ができる蒸溜所

 アーチー・ローズの面白いところは何と言っても、ジンとウイスキーで「ブレンド・クラス」と呼ばれる自分独自のオリジナル・ブレンドのスピリッツを作れるプログラムが用意されていることだ(ジンのブレンド・クラスは次ページで紹介)。シドニーでのウイスキーの蒸溜もアーチー・ローズのみと言われているため、ウイスキーのブレンドを学ぶのも貴重な体験になるだろう。

 また、ブレンド・クラスの他に蒸溜所内見学ツアーも催行されている。見学ツアーでは、スピリッツの蒸溜で使用される原料から、蒸溜過程、ポットスチル(蒸溜機)の中の様子まで詳しく知ることができる。

Archie Rose Distillery
■住所:85 Dunning Ave., Roseber y NSW ■Web: archierose.com.au
Blend Your Own Gin Class
■開催日時:月によって開催回数・時間異なる(ウェブサイト要確認)■参加費:$115

自分独自のクラフト・ジン作り

アーチー・ローズでは、ベース・スピリッツにボタニカルの原液を加え自分だけのクラフト・ジンが作れる「ブレンド・クラス」が毎月開催されている。何のボタニカルをどれだけ加えるかによってジンの味わい・香りはどう変化するか、ブレンド・クラスを通しクラフト・ジンの奥深さが見えてくるはずだ。ブレンド・クラスの様子を以下にリポートしていく。

step1

 ジンのブレンドを行うに当たり、参加者にはそれぞれベース・スピリッツ(200ml)・ビーカーが2セット、スポイト、8種類のボタニカル(ジュニパー・ベリー、アンジェリカ・ルート、ジンジャー、ローズ、リバー・ミントなど)の原液、サンプルのクラフト・ジン、メモ用のシートが用意される。最初に参加者は、8種類のボタニカルそれぞれの香りを確認し、香りの印象など感じたことを手元にあるシートにメモしていく。

ジュニパー・ベリーを始め8種類のボタニカルが用意される
ジュニパー・ベリーを始め8種類のボタニカルが用意される
各ボタニカルの内容が書かれたシート
各ボタニカルの内容が書かれたシート
step1

 ボタニカルの香りをチェックしたら、ベース・スピリッツをビーカーに全て移し替える。移し替えたら、まず必須のボタニカルであるジュニパー・ベリーを加え、その後、自分の好みのボタニカルをスポイトで足していく。ジュニパー・ベリーを加えること以外に特に指示はなく、何のボタニカルを何滴加えるかは参加者それぞれの自由。味わい・香りの変化を知るため、参加者は加えたボタニカルの滴数を正確にメモしていく。

わずかな変化の違いも見逃さないよう真剣そのもの
わずかな変化の違いも見逃さないよう真剣そのもの
ベース・スピリッツとビーカー
ベース・スピリッツとビーカー
step1
トニック・ウォーターと共にブレンド中のジンを確認
トニック・ウォーターと共にブレンド中のジンを確認

 ベース・スピリッツに加えるボタニカルの種類と量を調整し、その都度少量を口に含みながら自分で納得のいく味わい・香りを見つけていく。この時、参加者にはトニック・ウォーターが配られ、自分が納得のいくと思ったその味わいと香りがジン・トニックになった状態ではどのように変わるかをチェックする。カクテルの状態で自分の納得の味わい・香りになっているか、ここから更に楽しみながらの試行錯誤が始まる。

step1

 納得のいくブレンドができたところで、空のベース・スピリッツの瓶に自分のオリジナル・クラフト・ジンを移し替えれば完成。瓶のラベルは空白のため、加えたボタニカルの種類・量を書き込めるようになっている。ベース・スピリッツはもう1本残っているため、ここまでと同じ要領で新しい1本をもう一度作ることができる。次はどうするか、周りの参加者同士で話し合うなどしながら新しいクラフト・ジン作りを楽しんでいく。

納得のブレンドができたら瓶に移し替える
納得のブレンドができたら瓶に移し替える
自分だけのオリジナル・ブレンドが完成
自分だけのオリジナル・ブレンドが完成
お薦めジン・バー3選 in Sydney

シドニーにある数あるジンを扱うバーの中で、厳選の3店を紹介。それぞれに店のこだわりや特徴などがあるため、気になる所へまずは足を運んでみて欲しい。そして、自分好みのカクテルやクラフト・ジンの銘柄を見つけ、ジンの世界を広げてみてはいかがだろうか。

ジン・レーン

ⓒGin Lane
ⓒGin Lane

 セントラル駅から徒歩5分ほど、チッペンデールに昨年9月にオープンしたジン・バー。同店は、特に新作カクテル作りに力を入れていることでよく知られている。3週間ごとにジンを使った新作カクテルが20種類ほど作られ、その中で特に人気が高かった物はメニュー・リストに掲載されるなど、常に顧客のニーズをつかんだジンのカクテル作りがされている。そのような常にメニューがアップデートされる営業スタイルが地元で評判を呼び、週末の一晩で40 0杯のカクテルの売り上げを記録したこともある人気店となっている。

Gin Lane
■住所:16 Kensington St., Chippendale ■Tel: (02)9281-0855 ■Web: ginlanesydney.com.au ■営業時間:月・火4PM~10:30PM、水4PM~11PM、木4PM~11:30PM、金・土2PM~12PM、日休

モヤズ・ジュニパー・ラウンジ

ⓒMoya’s Juniper Lounge
ⓒMoya’s Juniper Lounge

 レッドファーン駅近くにある、ジンの原料「ジュニパー・ベリー(杜松の実)」の名が冠されたバー。同店では、160種類ものジンが取りそろえられており、その生産地もオーストラリア国内だけにとどまらず、ニュージーランド、イギリス、ドイツ、アメリカ、アジアと多種多様。メニュー・リストには26種類のカクテルが並ぶが、新作作りは行わず、それぞれのカクテルを基本に忠実な作り方で提供することを心掛けているという。また、同店では週に2日(火曜日8PM~11PM、日曜日6PM~9PM)無料のジャズ・ライブも開催されている。

Moya’s Juniper Lounge
■住所:101 Regent St., Redfern ■Web: www.moyasgin.com ■営業時間:火~土4PM~深夜、日4PM~10PM、月休

スティラリー・バー・アンド・ダイニング

ⓒStillery Bar and Dining, InterContinental Sydney Double Bay
ⓒStillery Bar and Dining, InterContinental Sydney Double Bay

 ダブル・ベイのインターコンチネンタル・シドニー内の、洗練された雰囲気の高級感溢れるバー。昨年、オーストラリア・ホテル協会による「ベスト・ホテル・バー」、NSW州の「ベスト・バー・オブ・ザ・イヤー」をダブル受賞するなど、サービスが高く評価されている。同店の特徴は、バーテンダーが客のその日の気分や好きなボタニカルの種類などを聞き、カクテルをオーダーメイドしてくれること。ジン・トニックといった定番も、カモミールの茶葉やミント、ラズベリーやレモンといったフルーツで好みの味に変えてくれる。

Stillery Bar and Dining
■住所:InterContinental Sydney Double Bay (33 Cross St., Double Bay) ■Tel: (02)8388-8388 ■Web: www.icsydneydoublebay.com/dine-and-drink/stillery-bar-dining ■Email: stillery.doublebay@ihg.com ■営業時間:毎日10AM~深夜

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