『Ghost in the Shell』でハリウッド進出!俳優・泉原豊さんインタビュー

「Ghost In The Shell」でハリウッド本格進出
俳優・泉原豊

3月30日に全豪公開の話題作『Ghost In the Shell』。日本発のカルト的人気を誇る漫画/アニメ「攻殻機動隊」の実写版として、世界中で大きな注目を集める同作。その制作には、日本人俳優・スタッフが多く携わっているが、主演のスカーレット・ヨハンソンの脇を固める重要な役で起用された豪州在住の日本人俳優・泉原豊は、長くゴールドコーストに暮らす。大作映画の公開を前に多忙を極める泉原に話を聞いた。
取材・文・写真:植松久隆 (Taka Uematsu) 写真提供:Paramount Pictures


待ち合わせの場所で、日焼けした180センチを大きく超す長身がひと際目立つ。「久しぶり」と差し出された手を握り返すと、気さくな笑顔と圧倒的な存在感。今回のインタビューの数日後、話題作の世界公開に先駆けて行われた東京・新宿でのワールド・プレミア(3月16日)の準備のため日本へと飛ぶ―─そんな多忙な折、俳優・泉原豊は時間を割いてくれた。

『Ghost In the Shell』の公開と同時に「ハリウッド俳優」としての名声を名実共に得ることになる泉原に気負いはない。46歳になり映画界でのキャリアは既に20年以上。積み上げてきた自信が、身の回りの環境や注目度の劇的な変化を楽しむ余裕として表れている。

失礼を承知で聞いてみる。今回の大作出演は、俳優・泉原豊にとって「ブレイク」なのか。その答えは気持ち良いくらいに小気味良く響いた。

「いや、そうは思わない。こうなるのをずっと思い描いてやってきたし、これまでの努力や頑張りが必然的にこの機会を引き寄せたと信じている」

そう語る横顔には、主に海外でキャリアを積み上げてきた「俳優」の矜持がはっきり見て取れた。

ハリウッド映画には既に数本出演、豪州ベースで活動する日本人俳優を先頭集団で引っ張ってきた泉原。そんな彼でも、今回は大作のメイン・キャストということもあり、撮影中から待遇など今までとは目に見える違いを感じてきた。何せ、同作に出演する日本人としてはビートたけしや福島リラと並ぶ扱いで、ハリウッドで一番稼ぐ今をときめく大女優スカーレット・ヨハンソンの脇を固めるのだ。しかも、日本を始め世界中でカルト的人気を誇る原作漫画/アニメの実写化作品での母国日本に逆上陸となるのだから、彼の俳優魂が揺さぶられないはずはない。

「この映画の前にハリウッド映画に出演するという『ビジョン』は達成していたが、今回で『こんな映画に出たい。こんな俳優と共演したい』との長年の願いもかなった。スカーレットや、たけしさんと共演できたことは得難い経験だし、『公安9課』の素晴らしい仲間にも恵まれた」

話は主演のヨハンソンにも及んだ。

「スカーレットはやはり違う。本当のスター。華奢だけど、その存在感はもう桁違い。優しさ、カリスマ、集中力、スター性、そしてアクションもできてとなると、この作品の主役を張れるのは彼女しかいない」

ハリウッド実写化の過程で、主役を白人である彼女が務めることに対して、未だ続く一部からの根強い批判を一笑に付す。

彼自身が演じる「サイトー」という役柄。『攻殻機動隊』に詳しい知人によれば、ファンの間でも非常に人気のある存在感の大きいキャラクターだという。泉原本人は、その役を「無口。だからこそアクションが映えて沈黙が絵になる。自分としては、何気ない表情とか振る舞いでインパクトを残せる役柄を望んでいたのでまさに理想的な役」と語る。

泉原が演じるはコアなファンにも人気の「サイトー」だ
泉原が演じるはコアなファンにも人気の「サイトー」だ

アニメや漫画の実写化では、熱狂的な原作ファンによるキャラクター・イメージの再現度への厳しいチェックを避けては通れない。演じる側として、ファンの評判などは気にならないのだろうか。

「サイトーは、同じ寡黙なスナイパーということもあって、ゴルゴ13に近いイメージを持つ人がいる。でも、僕はこの映画がスタイリッシュなので、無骨なだけでなく少しスタイリッシュ感のあるキャラを意図し、佇まいなんかを、ちょっとカッコよく、少し気障(きざ)なくらいに意識して演じた」と語る。

更には「原作が漫画やアニメだから、既に確立したキャラがあり、ファンがいる。そこにマッチさせながらも、オリジナル性を出す。『このサイトーありだよね、何か原作とは少し違うけど、これはこれで、カッコいいよね』って言ってもらえる強烈なインパクトを残せればそれでいい」と自らの演技に自信があるだけに、あとは観る側に判断を委ねる。

日本人として、ハリウッドを目指し映画界で生き続けて四半世紀。これまでの経験を踏まえた比較論として面白いことを聞かせてくれた。

「少佐」役を演じる主演のスカーレット・ヨハンソン
「少佐」役を演じる主演のスカーレット・ヨハンソン

「映画には、静かな演技を追ってくる作品と分かりやすく見せなければならない作品がある。日本の映画は、基本的にお客さんもじっくり観てくれる。でも、ハリウッド映画は、そうはいかない。動きが無いと彼らは盛り上がらない。日本では『ちょっと、あざといよ』とか『やり過ぎじゃない』となることも、ハリウッドでは『それありじゃん』ってなることもある。ハリウッドの“ペインティング”と日本映画の“墨絵”の違いというか、ハリウッドでは自分のはっきりとした色を入れなきゃいけない」

そんな泉原の憧れの俳優は、故・松田優作。その伝説的名優の遺作『ブラックレイン』(1989年)が、ハリウッド俳優・泉原豊の原点。その強烈な世界観に触れたことで、京都で育った青年の人生は大きく変わった。

「あの映画のあのトーン、自分たちが知っているのとは違う大阪……こんなのありなんだって。衝撃だった。こういう作品に出てみたい」との激しい思いに突き動かされた19歳の泉原は海を渡る。とにかく、英語に触れなければと思い立って渡った先が豪州だった。そこから徒手空拳で積み上げてきたキャリアが、ハリウッド本格進出にまで至ったのだ。

俳優を志してからは、当然「ハリウッド映画に出てスターになりたい」と考えた。しかし、次第にその考えに変化が出てくる。

「もちろん、成功したかった。でも、虚栄心もあったし、バイトしなきゃとか、このままやっていて大丈夫かな、自分は主役を張れないんじゃないかなといった葛藤やネガティブなことばかり考える時期もあった」と話す彼の大きな転機となったのは、世界有数の演技コーチとして名高いイヴァナ・チャバック女史との出会いだった。

「イヴァナの演技論のメソッドでは、役柄の最終目標を決めて脚本をアナライズして演じるのが本当の役者。それまでの僕は脚本を見て、セリフを覚えて、それを言うだけ、感情だけ出せばいいというようなその場その場の演技。だけど、脚本に『泣く』って指示があれば、とにかく訳もなく泣こうとするのは本当の役者じゃないと気付いた」

彼女の演技論に心酔した泉原は、その卓越した理論を日本人俳優にも知ってもらいたいと、その演技指南書の訳書を出版する知人と共同して、ハリウッドを目指す俳優向けのワークショップを主宰。自らの経験と最先端の演技論を惜しみなく後進の俳優たちに伝授し始めた。その自らの壮大なビジョンを語る時、泉原の熱量は聞く側を魅了する。

「日本の映画人に、もっと海外で活躍して欲しい。その“熱量”を産み出す場を創りたい。今回、僕が大きなチャンスを得たことで、周りも『次は自分の番だ』って思ってる(笑)。そうやって、若い人を煽っていくようなアジテーター的な役回りをやりたい」

後進と共に日本映画界全体がハリウッドを目指すムーブメントを起こそうと活動する中で、自らに今回のビッグ・チャンスが訪れた。

「この作品が南半球(NZ)で撮影されるのは聞いていた。『あなたにも何かの役はあるわよ』って知り合いのキャスティング・マネージャーにも言われてたし、自分でもそう思ってた。サイトー役をゲットした時は、いつかはこういう役に辿り着くと信じてきたから、『あ、来たな』って冷静に受け止める自分がいた」

今後も、現状に満足することなく新たな分野を切り拓く覚悟だという。

「時代劇をやりたい。所作とか殺陣に表れる日本の心をきちんと学びたい。ハリウッドで生きる日本人にとって、そこはとても重要なこと。そういうものを自分に取り込んでハリウッドでもっと暴れたい。これまでのキャリアを考えれば、少しチャレンジングかもしれないが、ラブ・ストーリーのようなヒューマン・ドラマ、コメディーといった分野にも進出して、エンターテイナーとして画面を通じて何かを伝えていければうれしい」

泉原には、今回の晴れ姿を特に見てもらいたい存在が2人いる。まずは長年、ゴールドコーストで夫婦2人で苦楽を共にしてきた糟糠の妻・昭子さん。プレミアのレッド・カーペットを歩いた直後に報告を入れた時、「コマネチしちゃったのね」と笑ってたしなめてくれる最大の理解者だ。

もう1人は、幼少時に両親が離婚して以来、生き別れとなっている1歳違いの弟。

「僕が有名になれば、どこかで見つけてくれるはず。このことが、自分が俳優業で成功したいと思ってきた理由の1つだから」

日本では、4月7日の公開に向けてさまざまなプロモーションが始まり、「俳優・泉原豊」の顔と名前も多くのシーンで露出する。映画というエンターテインメントの力が、いつか実弟との再会へと導いてくれると信じて、泉原は待ち続ける。

ハリウッド本格進出を果たした泉原の視界は、今、長年暮らすゴールドコーストの突き抜ける青空のように良好に違いない。一点の曇りもない「俳優道」を突き進む泉原豊から、これからも目が離せない。

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