【QLD】QLD州商業建築大賞受賞日本人建築家・ロウレン博美さんインタビュー


シドニー在住の日本人建築家、ロウレン博美さんが手掛けたゴールドコーストの「KDVスポーツ」内の建築物が、今年6月にQLD州商業建築大賞を受賞した。今、オーストラリアで最も活躍する日本人の1人である博美さんに、授賞式の様子や建築物設計に込めた思い、そしてこれまでの建築家としての歩みについて話を聞いた。 (取材・文=ランス陽子)

1993年からシドニーで活躍する日本人建築家のロウレン博美さん。現在、博美さんの旧姓である「白石」を英語で呼びやすくした「シロ」、そして何もない所から始める、白紙の状態から創り出すという意味が込められた建築事務所「シロ・アーキテクツ」を率いる人物だ。

今年の6月、博美さんがデザインしたゴールドコーストの「KDVスポーツ」内の建築物が、オーストラリア建築協会のQLD州商業建築大賞(Australian Institute of Architects 2017 Queensland State Commercial Architecture Award)を受賞した。それまで約20年間オーストラリアの大手建築事務所に所属していた博美さんが「シロ・アーキテクツ」として独立し、最初にデザインした仕事での受賞だった。

QLD州商業建築大賞を受賞したKDVスポーツ施設(Photo: Richard Glover)
QLD州商業建築大賞を受賞したKDVスポーツ施設(Photo: Richard Glover)

「授賞式は、ブリスベンのコンベンション・センターで行われました。ノミネートされたとはいえ、当日は受賞するとは全く思わずに会場で飲食を楽しんでいました。小さな賞から発表されていき『なかなか名前を呼んでもらえないな』と思っているうちに数時間が過ぎ、一番最後の大賞の発表で名前を呼ばれた時にはつい飲みすぎてしまっていたほど。本当に驚きました」と笑顔で話す博美さん。受賞した建築物は、昨年10月にゴールドコーストのカラーラにオープンした「KDVスポーツ」施設だ。ジムや温水プールなどはもちろん、2階建てのゴルフの打ちっぱなしやテニス・コート、そして元五輪選手などのコーチ陣をそろえ、ゴルフやテニスのプロを目指すジュニア育成に力を入れたスポーツ・クラブとしても注目を集めている。

カラーラのネラング・ブロードビーチ・ロードとチゾム・ロードの角にあるKDVスポーツ(Photo: Richard Glover)
カラーラのネラング・ブロードビーチ・ロードとチゾム・ロードの角にあるKDVスポーツ(Photo: Richard Glover)
開放的なKDVスポーツ施設の内部(Photo: Richard Glover)
開放的なKDVスポーツ施設の内部(Photo: Richard Glover)

この建物は、初めは別の建築家による全く違うデザインが予定されていたが、最初のプランでは建築家や業者の選択がスムーズにいかず、最終的に博美さんに白羽の矢が当たったという。「この建設予定地に立ってみたら、山や丘が見えて、なぜそれを建物で隠してしまうのだろうと思いました。建物がモノを言うのではなく、建物が周囲に溶け込んで、中にいる人びとが浮いているような建築にしたいと思ったんです」

日々、移り変わる天候、太陽の動きによって時間ごとに姿を変えていく空や光、そんな美しい周囲の姿を存分に取り込むため、天井には鏡が使用されている。また、ガラス窓は大きく、屋根は薄く、柱は細い。「スチールでできた細い柱は、木々をイメージしています」と博美さんは語る。

大阪で生まれ、建築家に

博美さんは「お笑い芸人の中川家のようなべたべたな漫才が大好き」という、大阪生まれ。思春期には本田宗一郎が好きだったことがきっかけで女性だけでデザインされた車があることを知り、車のデザインを志したが、大学受験では第2志望だった建築学科へと進学する。

大学在学中に男性社会の建築業界を目の当たりにした博美さんは、服飾デザインにも興味が湧き、アルバイトで稼いだお金で夜間に専門学校、モード学園にも通った。

「モード学園では卒業時にグランプリを受賞したのですが、大学の試験と重なって授賞式に参加できなかったんです。そうしたら、賞をくださったある有名な先生が大変お怒りになってしまって……。その先生を怒らせてしまった以上、その後ファッション業界でやっていくのは厳しい状況になってしまいました。また、大学は親に授業料を出してもらっていたので、卒業して就職し、一級建築士の資格を取るまではきちんとやっていこうと決めました」

卒業後、バブル期を迎えていた日本の建築業界では、深夜まで仕事をし、更に朝まで飲むという生活が当たり前だったという。

「月に180時間残業していました。でも、すごく楽しい時代でした」

ハリー・サイドラー氏との出会い

だが、そんな時代も長くは続かなかった。在籍していた会社の経営が危うくなり、何か新しい人生の歩み方を考えていた時にたまたま叔父がいたキャンベラを訪れた。

「叔父に現地の建築事務所を数件教えてもらい、連絡を取ってみました。ほとんど誰も返事をくれなかったのですが、ハリー・サイドラーというオーストラリアを代表する建築家が会ってくださることになったんです。会いに行くと、私が持っていたバックパックがいっぱいになるほどたくさんの本をくれて、『ぜひいつか、うちへ働きにいらっしゃい』と言ってくれました。実は、ハリーの元には世界中から多くの建築家の卵が会いに来ていて、どの若者にもそうやって優しく言葉をかけていたようなのですが、私はすっかり本気にしてしまったんです(笑)。でも、日本を離れてこちらへ来た時に『誰だったっけ?』なんて言われてしまいました」

まだ経験が少ないからと1度は就職を断られるものの、博美さんは諦めず、オーストラリアで大学院に通いながら「ハリー・サイドラー・アンド・アソシエイツ(HSA)」でインターンとして働き出すことになった。その後正社員となり、19年間同事務所で大きな事業に関わり続けることになる。

「最初の頃は『オーストラリアの人は何てレイジーなんだろう』と思いました。モーニング・ティー、昼食、アフタヌーン・ティーまでしっかり休憩時間を取り、しかも夕方5時過ぎには帰宅してしまうのですから。でも、やがて分かったのです。私は日本でも仕事が早い方だとは思っていましたが、この会社には『負けた』と思った人が2人もいました。彼らは有能で仕事熱心だからこそ、就業時間内にきっちりとすばらしい仕事を仕上げることができていたのです」

有名事務所で培った経験を生かし独立へ

そしてハリー・サイドラー氏の死後数年が経ち、会社はその後も順調に大きな商業施設の建築を続けていたが、博美さんは紆余曲折を経て現在のシロ・アーキテクツを興し独立した。

各ユニット600万ドルというゴールドコーストのビーチに面した建設予定のマンションは、人魚の尾をイメージ。天井は海を映し出す
各ユニット600万ドルというゴールドコーストのビーチに面した建設予定のマンションは、人魚の尾をイメージ。天井は海を映し出す

「最初は何もない所から始めたので、友人の経営するMBMOという会社の机を借りて仕事をしていました。あの頃に助けてくれた友人とMBMOには、今でもとても感謝しています」

そして設立からたった数年で、シロ・アーキテクツは今回のように大きな賞を授与されるまでに成長した。「現在は、ゴールドコーストのビーチに建設予定のマンションや、KDVスポーツが新たに建設する宿泊施設に携わっています」と博美さんは今取り組んでいるプロジェクトについて語る。

今回受賞したKDVスポーツの建物は、レストランやカフェもあり一般の人でも気軽に建物内に入ることができる。ぜひ実際に建物の中を歩いて、博美さんの建築を体感してみよう。

Shiro Architects
■住所:308/35 Buckingham St., Surry Hills, NSW
■Tel: (0403)899-200
www.shiroarchitects.com

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