2010回顧と展望

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2010回顧と展望

豪州外交



オーストラリア連邦

外務大臣
スティーブン・スミス

日豪プレスの読者の皆様、2009年は日本とオーストラリアの関係を力強くサポートしていただきましてありがとうございます。そして、2010年の皆様のご多幸をお祈りしております。

オーストラリアと日本は、ともに民主主義的価値観を共有し、戦略的な利益を分かち合い、両国にとって非常に重要な経済的な絆に裏打ちされた、永続的なパートナーシップを構築しております。

2009年、日本には政権交代がありました。8月の総選挙以来、私は新しい日本のリーダーシップとの間に強固な友好関係が築かれてきているのを嬉しく思っております。

オーストラリアと日本は、日豪安保共同宣言の下で協力を深めており、日豪外務・防衛閣僚会議「2プラス2」という次のステージへの期待が高まっております。2010年、オーストラリアは日本と密接に、アジア太平洋経済協力(APEC)の主催者の役割を果たしていく所存です。

2009年、オーストラリアは日本とそのほかの国々とともに、G20が経済協力の卓越した国際フォーラムとして確立する支援をして参りました。G20における世界経済の意思決定の際には、アジア太平洋地域の国々の声がより明確に響き渡ることでしょう。

私たち両国はまた、気候変動対策や核軍備の縮小など、重要な地球規模の問題に、より密接に取り組んでいます。

オーストラリアと日本が共同議長国となった核不拡散・核軍縮に関する国際委員会共同議会を通して、私たち両国は核不拡散・核軍縮を進めていくために、お互いに固く協力し合っております。

オーストラリアは、鳩山首相が気候変動に取り組むために献身を約束されていることをたいへん嬉しく受け取っております。

オーストラリアは、排出削減を義務付ける国際的な法律を制定し、推し進めていくことに全力を傾けております。私たちは温室効果ガス排出量の削減に一翼を担って行く所存です。

オーストラリアと日本は温かく友好的な人と人との繋がりを享受しております。2009年にはたいへん多くの交換留学生がお互いの国を行き来し、オーストラリアの若者の間では、日本語や日本文化への関心が高まっております。

また、日本の学者1人とオーストラリアの学者7人が、豪州首相エンデバー奨学金「オーストラリア・アジア賞」という栄えある賞を受賞しました。2010年、彼らはそれぞれ、オーストラリアと日本についての調査や研究を開始する予定です。

2009年6月、オーストラリアは、新潟県越後妻有地方に、“オーストラリア・ハウス”を創設するのにひと役買いました。オーストラリア・ハウスは、私たち両国の幅広い友好関係の一例であり、オーストラリアの現代美術を日本で展示し、両国のコミュニティー間の、秀でた草の根的な協力を深める、素晴らしい機会を提供しています。

オーストラリアは2009年初頭には、悲劇的なVIC州の森林火災に見舞われましたが、この国の人々は、日本政府や都道府県の各自治体、個々の日本の皆様、企業、学校、スポーツ団体、その他の組織の皆様が、犠牲者に向けて、思いやりと寛容さを示してくださったことに、深く感動しました。

お悔やみのメッセージだけではなく、日本が提供してくださった技術援助や寛大な義捐金、現物支給の寄付などを、オーストラリア政府とVIC州政府、そしてオーストラリアの各コミュニティーは、温かく頂戴しました。

今年、オーストラリアと日本、2国間の友好関係が、より強まり、繁栄し続けていくことを、私は確信しております。


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移住政策



オーストラリア連邦 連邦移住・市民権大臣
クリス・エバンス

日豪プレスの読者の皆様に心からの新年のお祝いをさせていただきます。

豪州の文化の多様性は、さまざまな国や宗教、文化を背景とする人々が、ともに調和し、分かち合い、一丸となって豪州に献身している成果です。豪州の日系コミュニティーは豊かな文化を分かち合いながら、ビジネスや教育、芸術などさまざまな分野で多大な貢献をされており、それは豪州をより活き活きとダイナミックで調和のとれた、多文化の国にする一助となっています。

06年の国勢調査によると、3万789人の日本生まれの人が在豪しており、5年前の調査と比べて20.8%増加しています。中でもNSW州が1万1,160人と最も多く、QLD州の8,590人、VIC州の5,780人、WA州の3,030人がそれに続いています。

豪州の日系コミュニティーは、日本との友好関係や貿易、財政や外交関係に重要な役割を果たしています。日本と豪州は、99の姉妹都市と414の姉妹校の関係を享受しており、これは日系コミュニティーの皆様のご尽力の賜物です。

ワーキング・ホリデー制度によって、若者たちがお互いの文化を体験する機会を得、両国間に1人ひとりの強い絆が築かれてきています。さらに09年には3,000人の豪州の学生・生徒たちが姉妹校の交換留学生制度で訪日し、片や日本は豪州に11番目に多くの留学生を送り込んでいます。09年7月現在、9,000人以上の日本人留学生が、豪州の大学で学んでいます。

日本は3番目に多くの観光客が来豪している国です。08/09年度、40万3,000人の日本の皆様が旅行や仕事で来豪されています。世界的な不況下ではありますが、豪州は観光業界や商業促進プログラムを通して、日本の皆様にとってオープンかつ歓迎的であるよう努めています。

こうした人々の行き来による絆は、日本人の豪州への移住を促進し、過去3年間で約2,380人の日本国民が豪州での永住を選びました。中でも技能移住プログラムの下で来豪された日本の皆様は、会計士、エンジニア、IT関係者や医療関係者など、非常にニーズの高い分野で、高い評価を持つプロとして働かれています。

景気後退に対応して、政府は09/10年度の技能移住プログラムによる永住者の受け口を10万8,100減らす予定です。

未だに技術者不足が叫ばれるヘルス・ケアやエンジニアリングなどの分野で雇用主が技能ある人にアクセスできるようにする一方で、09/10年度の移住者の受け口の縮小は、今の経済状況を反映しているものです。

2010年以降、豪州人口の高齢化により、就職人口よりも退職人口の方が多くなるでしょう。技能移住者の皆様が、労働人口の減少や高齢化を補っていくとみられます。さらに毎年7万人以上のオーストラリア人が、職を得るために海外に出ています。技能移住者は不可欠な存在として、多くの職場で地元労働者を支えています。ラッド政権は、移民の受け入れが豪州に最も利益をもたらすべく、移民枠の長期計画を検討しています。

前年の日本の中曽根外務大臣の来豪や、豪州のスワン財務大臣とアルバニーズ運輸・インフラ・地域開発・地方自治体大臣の訪日などに後押しされ、私たち両国は、友好、貿易、観光、文化の親しい絆を形成し続けています。

こうした訪問が、2国間の、より親密かつ実益的な関係を築いています。例えば09年10月、クリーン貿易大臣と日本の直嶋正行経済産業大臣は、初の日豪貿易経済の大臣会合を開き、貿易と経済政策について話し合いました。

日系オーストラリア人の皆様は既に、その居住の地に、計り知れない貢献をされています。そして、これからも豪州の多文化性をより豊かに形作られて行かれることでしょう。

日豪プレスの読者の皆様に、安全で幸福な新年をお祈り致しますとともに、2010年、豪州と日本の協力が深まり続けることを楽しみにしております。


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エネルギー・観光



オーストラリア連邦 連邦資源・エネルギー・観光大臣
マーティン・ファーガソン

今年もこの場を借りまして、日豪プレス読者の皆様に、安全で繁栄した新年のお祝いをさせていただけますことをたいへん光栄に思います。

最近、豪州と日本の揺るぎない関係を改めて痛感する出来事がありました。昨年10月、私は連邦資源・エネルギー大臣として、北西大陸棚資源開発事業が豪州経済と日本のエネルギー安全保障にとって非常に重要なものとなったことを祝うことができたのです。

20年前、日本は豪州の液化天然ガス(LNG)の最初の輸出国でした。以降、豪州のガスが日本の産業と家庭のエネルギー源となってきました。事実1989年以降、2000以上の豪州産ガスの貨物がオーストラリアの港から日本に輸出されています。

20年経ってもなお、日本は豪州の液化天然ガス貿易最大のパートナーであり、このパートナーシップは今後さらに深まっていくことでしょう。

石油大手シェブロン社は今後25年間、巨大なゴーゴン事業から日本の消費者へ、700億ドルに相当する、豪州産LNG約270万トンを輸出すると発表しました。この驚くべき数字は、両国相互がそれぞれの繁栄にとっていかに重要であるかを示した一端に過ぎません。

豪州と日本の実業家たちの間で今、“炭素の回収と貯蔵”が熱く語られています。ゴーゴン事業は、化石燃料による炭素を大気中から減らすために、極めて重要なテクノロジーのパイオニアです。

特に喜ばしいのは、豪州政府主導の、知識の共有と協力の拠点である、世界炭素回収・貯蔵技術研究所(GCCSI)に、日本が実に強い関心を払っていることです。両国はともに取り組むことによって、炭素の回収と貯蔵に、商業的な成功の可能性を与え続けています。

同時に、豪州と日本は、“クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ”の一環として、16のプロジェクトに共同で取り組んでいます。私たちのゴールは、私たち両国と近隣諸国の、地球にやさしい繁栄なのです。

ウラン開発は、炭素排出を抑え、地球のエネルギーを保全するための、もう1つの私たちの責務です。豪州は日本の輸入ウランの約4分の1を供給しており、SA州とWA州で取り組まれているウラン事業への、日本からの投資を私は歓迎します。

40年もの間ずっと日本はオーストラリアにとって、石炭、アルミニウム、そしてLNGの最大の輸出国であり続けています。この猛烈なペースの貿易は偶然起こったものではありません。両国が、消費者の満足という責務を共有しているからこそ成し遂げられているものです。

昨年、私がこの場で書かせていただきましたように、日本は豪州にとって、アジアの中で最も親密で継続的なパートナーです。この関係は変わりようがありません。両国のパートナーシップは長期において強靱に保たれ、相互の尊重と価値観の共有に裏打ちされたものです。両国のこの関係は長い歴史に基づいています。

豪州は08/09年度、日本からの来豪者を40万人以上歓迎しました。日本の皆様が来豪されるのは最近はさまざまな理由からですが、日本は未だに、オーストラリア観光市場の最も大切な国の1つです。

豪州は多くの日本の方々にとって魅力的な目的地であり続けており、豪州政府観光局は、日本の観光産業とともに、楽しいアトラクションと旅の体験を推進すべく非常に活動的に取り組んでいます。

観光大臣として、私は日本の観光客の皆様にとって、豪州がより魅力的になるように全力で努力していく所存です。

2010年は、世界経済が不確かな時代での幕開けとなりましたが、オーストラリアと日本がさらなる貿易、投資、発明、そして文化交流の機会を獲得し、両国がそれらのより素晴らしい機会を作り出すことを、ここで私は皆様にお約束致します。

皆様にとりまして、幸せな新年でありますようにお祈り致します。


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連邦政局



ナオキ・マツモト・コンサルタンシー
松本直樹

2009年は、ラッド労働党政権にとり「悲喜こもごも」の年であった。まず「喜び」の方だが、いの一番に挙げられるのは、新労使政策の「08年公正労働法」の大部分が7月1日から施行されたことであろう。周知の通り、07年の前回連邦選挙における保守連合の敗因の1つは、保守政府が施行した労使政策「ワークチョイス」に対する国民の反発であった。公正労働法はワークチョイスの代替政策であり、同法が無事施行されたことの意味は大きい。

また世界金融恐慌の発生、それに伴い実体経済にも影響が出始めていた中、政府が経済運営で一定の評価を得たことも指摘できる。確かに、財政出動内の現金給付策が果たしてどれだけの効果を上げたかについては議論もあるし、またインフラ整備策については、費用対効果の分析がおざなりにされ、そのため相当な資源の浪費になるとの批判の声も聞こえる。だが度重なる政府の景気刺激策なしに、豪州がほかの先進国が羨むほどの景気回復基調を達成できたとは考え難い。これまで労働党は、経済政策分野の評価では常に保守政党の後塵を拝してきただけに、同分野で政府の評価が高まったことの意味も大きい。

他方、「悲しみ」の方だが、何と言っても政府が労使法案と並んで、最重要法案の双璧と位置付けてきた温室効果ガス排出権取引制度法案が、8月と12月の2度にわたり上院で否決されたことが痛い。同法案は、10月下旬から与野党間の修正交渉に附されたが、頼みの綱であった自由党のターンブル党首は、さまざまな思惑から政府との交渉には極めて前向きであったし、また最終的に政府が野党側に大きく譲歩したため、11月下旬の時点でも、上院で可決されると見る向きが多かった。ところが、同法案を巡って野党内は大分裂。それに加えて、ターンブルのナイーブな指導ぶりに対する積年の不満や、低空飛行を続ける世論調査結果などから、野党自由党は一挙に党首交代という事態に陥っている。そして右派のアボットが新党首となったことを契機に、自由党内の雰囲気も変わり、その煽りを食って政府法案は否決されることとなったのである。

こうして迎える2010年だが、年内にはほぼ間違いなく選挙が実施されるものと予想される。実施時期だが、政府が通常の選挙形態、すなわち上院の半数改選選挙と下院の解散選挙を同時に実施した場合、最も早い選挙日は8月7日となる。ただ次期選挙の形態が、連邦結成以来でわずかに6回だけと、歴史的にも稀な両院解散選挙となる可能性もある。

豪州では選挙制度の影響もあり、下院を制する与党が、上院では過半数に満たない両院のネジレ現象が頻繁に発生するが、この両院解散選挙とは、政府が是が非でも成立させたい重要法案が上院で否決された場合などに、当該法案を要件法案にして(注:これをトリガー法案と称する)、政府が採用する特殊な選挙形態である。もちろん、政府が勝利することを前提にした上だが、政府にとり同選挙を選択するメリットとは、当該法案が最終的には選挙後の両院議員総会に諮られることだ。仮に両院のネジレが継続しても、両院議員総会であれば与党が過半数を占めると予想されるので、当該法案の成立が期待できる。

言うまでもなく、トリガー法案となるのは政府の取引制度導入法案である。政府がこれまでの主張通りに、温暖化対策に取引き制度は必要不可欠と固く信じるのであれば、同選挙に訴えるほかに選択肢はないように思われる。ちなみに両院解散選挙の最終実施可能日は10月16日である。

ただ取引制度問題が主要選挙争点となれば、与党の楽勝は保証されたようなものと考えるのは早計である。というのも、制度導入によってもたらされるコスト負担の詳細が理解されるにつれ、国民の間で懸念の声も強まりつつあるし、また次期選挙でアボット新野党は、同制度は重税を課すものとのスローガンを採用しつつ、徹底的なスケアー・キャンペーンを実施する見込みであるからだ。これが一定の効果を挙げる可能性も無視できない。


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金融



三菱東京UFJ銀行
オセアニア総支配人兼シドニー支店長
対馬康平

100年に1度と言われたグローバル金融危機(GFC / Global Financial Crisis)は、これまでの常識を覆し世界を大混乱の渦の中に巻き込んだが、「その後」の世界も「行き過ぎた悲観論」が急速に影を潜めたことや、世界経済回復期待感先行による世界の主要株価、資源価格などの急回復などを背景に、大方の人々が想像していた姿とは全く異なる動きを示した。

豪ドルは2009年初に0.69台(対円63円台)にてスタート。2008年下半期に急速に深刻化したグローバル金融危機の後遺症が燻る中、3月には0.6249、対円55.57と年初来最安値をつけた(なお今回金融危機時における最安値は2008年10月の0.6007(対円55.11)である)。

しかし、その後は中国をはじめとするアジア諸国の景気回復の足取りが早まる中、世界景気の早期回復期待から原油価格や金価格など、資源価格が急回復したほか、世界の主要株価も大幅に上昇した。

これを受け豪ドルも上昇を続け、11月には対米ドルで0.9407、対円85.32の戻り高値をつけた。もっとも豪ドル相場は過去9カ月以上にわたり、目立った調整局面もないままほぼ一本調子で上昇してきたこともあり、最近は高値警戒感などから値の荒い展開となっている。

さて、豪州の金融経済環境であるが、今回のグローバル金融危機下では豪政府および中銀(RBA/ Reserve Bank of Australia)による積極的な財政・金融政策が奏功し、ほかの主要国が軒並みリセッションに陥る中、豪のみリセッション入りを免れた。さらに昨年第2四半期も小幅ながら2期連続でプラス成長を示すなど、先進諸国の中における豪経済の相対的な強さが際立つ展開となっている。また、高値圏で堅調推移が続く資源価格や世界の主要株式市場動向も豪ドル相場を下支えしている。

さて、豪中銀(RBA)は昨年10月にほかの先進諸国に先駆け政策金利の引き上げを開始した。その後も連続して追加利上げに踏み切り3.75%とした。さらに今後も段階的に政策金利を引き上げることが見込まれており、2010年末ごろまでに豪政策金利は4.5%〜5%程度まで上昇するとの見方が一般的となっている。

こうした状況下、豪ドルは米豪金利差拡大観測、米豪景況格差等から2008年7月につけた変動相場制移行後の最高値である0.98台半ばを試す展開もあり得よう。

一方、過去9カ月以上にわたり「期待感先行」で上昇を続けてきた豪ドル相場であるが、世界景気の回復はまだまだ脆弱であることを勘案すれば、(豪ドルが)一時的にパリティ(1AUD=1USD)近辺まで上伸する可能性は否定しないものの、当該水準が一定期間維持されるほど持続的に買い進まれる可能性は、さほど高くないと思われる。

ところで世界中を金融危機に陥れたサブプライム問題の震源地である米国経済はいまだ低迷を続けている。バーナンキ米FRB議長ほか米当局筋が繰り返し言及しているように、近い将来に米金利が急上昇する可能性は低く、米ドル(米経済)に対する信認も地に落ちたままである。しかし、米経済もいずれは底打ち反転すると思われる。

上昇し続ける米失業率が今後小康状態に入り、反落し始める時点で市場は米金利の反転を織り込み始めると思われる。そのタイミングを現時点で特定するのは困難であるものの、2010年中にその動きが本格化すれば「米ドルの巻き戻し」という大きなうねりが発生する可能性がある。そうなれば豪ドル相場もいずれは軟化し、最終的には0.80〜0.90あたりに収斂していくのではないかと思われる。

なお豪ドルの対円相場は、ドル円相場が引き続き円高基調を辿っていることもあり、全般的に上値の重い展開を予想する。


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経済



時事通信シドニー特派員
小平直樹

2009年の豪州経済にとっての最大のニュースは、不可避とみられていた景気後退入りを免れたことだろう。世界的な金融危機の影響で日米欧の主要先進国が軒並み大幅なマイナス成長に落ち込む中、豪州は中国などアジアの成長を追い風に18年度連続の経済成長を達成、景気拡大はさらに続くと予想されている。

一般的にマイナス成長が2四半期続くと景気後退と判断される。豪州の08年10〜12月期はマイナス成長だった。オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)のスティーブンス総裁も、4月時点では「現在得られるすべての情報から判断すれば、豪経済も景気後退にあるとの結論になるだろう」と述べるほどだった。

しかし、「91年以来の景気後退入り確認か」との見方がささやかれてた6月3日発表の09年1〜3月期の成長率は予想外のプラスとなり、景気後退入りは回避した。その後、景気が回復基調をたどったのは周知の通りだ。RBAは10月には利上げに踏み切り、危機対応として大幅に引き下げた政策金利を戻し始めた。

政府は、09年度(09年7月〜10年6月)中間経済・財政見通しで、5月の予算案発表時点ではマイナス0.5%としていた同年度の成長見通しをプラスの1.5%に上方修正した。世界的な金融危機の影響を受けた08年度も1%の成長を確保したとし、さらに10年度は2.75%への成長加速を見込む。

なぜ、ほかの主要先進国の経済が大幅な落ち込みとなる中で豪州は景気後退入りを回避できたか。ラッド政権による給付金支給の大盤振る舞いやRBAの機先を制した大幅利下げといった財政、金融両面での対策が奏功したというのは事実だろう。しかし、豪州ならではの理由も指摘されている。

その1つは、世界が金融危機に見舞われた当時、豪州は資源ブームに沸き、財政が黒字で、金利も高かったことだ。このため大胆な財政出動と大幅な利下げが可能だった。また、国内の銀行は世界から資金を調達する側で、サブプライム関連証券に投資して大損を出すということがなかったという要因も大きい。世界的に打撃が大きかった製造業の比重が小さいことも幸いした。企業は逆風下でも、できるだけ雇用維持に努めた。

中国などのアジア経済との結び付きも豪州には恩恵をもたらした。中国が景気対策として打ち出した巨額のインフラ投資が鉄鉱石などの需要を生み出し、豪州の資源輸出を支えた。RBA幹部が「アジアの成長について中期的に楽観できるなら、豪経済の中期的な見通しにも楽観的になれる」と指摘するほどにまで、豪州経済とのリンクが強まっている。

豪中間では、資源大手リオ・ティントの豪州人幹部拘束事件や、世界ウイグル会議議長の訪豪をめぐる中国の圧力など、政治的な摩擦もあった。しかし、景気後退の回避は、結果的に中国の経済的な重要性を再確認することにもなった。ローウィー国際政策研究所の世論調査によると、豪州にとって経済面で最も重要な国を「中国」とした回答は63%に上った。ちなみに「日本」は6%だった。

資源ブームの再来が取り沙汰され始めている。アジアの経済成長が再び強まる中で、鋼材やエネルギーの消費はさらに拡大すると見込まれており、地理的にも近い豪州には、資源・エネルギーの供給源としての期待が高まっている。WA州北西沖で建設が始まった430億ドルの天然ガス開発事業「ゴーゴン」以外にも、開発計画は目白押しだ。

拡大する人口も今後の豪経済の成長を支えるだろう。政府は、移民の増加や出生率の上昇を背景に、豪州の人口が2049年までに65%増加し、3,500万人超に達するとの見通しを示している。人口が拡大すれば、住宅、サービスなどの需要も増える。中国経済が転ばない限り、豪州経済の先行きに楽観的になれる理由には事欠かないようだ。


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日豪ビジネス



日本貿易振興機構(ジェトロ)シドニー所長
児山信之

米国のサブプライム・ローン問題に端を発した世界的な金融危機は2009年、米国、欧州をはじめとする先進国経済の低迷と貿易の縮小を通じて、実体経済に大きな影響を与えた。とりわけ米国への輸出依存度が高く、高付加価値品を多く含む電気機器や自動車等の輸送用機器の輸出比率が高い日本、アジア各国の経済に大きなダメージをもたらした。

日本の貿易統計では、毎月の輸出総額(通関ベース)は08年10月以降、09年に入ってからも連続して前年同月比で減少。減少幅は、月次統計が比較可能な80年以来、過去最大の減少率(49.4%減)を記録した09年2月をピークに、中国、アジア諸国向けの輸出が牽引役となり、世界経済の持ち直しを反映して縮小傾向にある。輸出の落ち込みに加え、企業業績悪化に伴う設備投資や個人消費等内需の減少で、09年1月〜3月期の実質GDP成長率は前期比年率11.9%減と「戦後最大」の減少率を記録した。

一方、豪州はほかの先進国と比べて、①輸出に占める工業製品などの割合が2割と低く、資源、農産品などの一次産品の割合が7割と高いこと、②輸出仕向け地も資源需要の堅調な中国、アジアの割合が高い輸出構造であったこと、③積極的な財政・金融政策を打ち出したことなどから、統計上のリセッションを回避し、先進国の中で唯一09年の実質GDP成長率がプラスになった。

09年の日豪経済関係は、貿易面では世界的な輸出減少の影響が顕在化し、09年上半期の日本の対豪輸出額(通関ベース)は対前年比49.4%減の4,795億円。対豪輸入額(同)は対前年比21.3%減の1兆6,565億円(日本通関統計)。08年の豪州の対日輸入の43%が乗用自動車と貨物自動車であったことから、今回の金融危機に起因した景気減速の影響を受けたものと推察される。

投資面では、09年上半期の日本の対豪直接投資は対前年同期比10.1%減(米ドル・ベース)ではあるが、従来の資源分野に加えて、日本製紙による豪州最大の印刷用紙メーカー、オーストラリアン・ペーパーの買収、アサヒビールの豪飲料大手シュウェップス買収、キリンHDによるライオン・ネイサンの完全子会社化、積水ハウス、住友林業による豪州での住宅事業への参入など、日本の内需型産業による対豪投資が活発化した。日本国内市場が少子高齢化などで縮小するなか、海外展開で収益源を増やすのが狙い。豪州では「日本企業の投資ブーム再来か」と有力全国紙でも報道された。

また、豪州国内のインフラ、環境ビジネスへの投資も目立った。伊藤忠商事によるVIC州の世界最大規模の海水淡水化PPP事業への出資、JFEエンジニアリングのQLD州での雨水を浄化し飲料水として供給するシステムの実証プロジェクトなどが事例。

豪州政府は金融危機に対応する総額524億ドルにのぼる緊急経済対策とともに、09年5月には220億ドルの「国家インフラ建設プラン」を含む09/10年度連邦予算を承認して、インフラ整備を緊急的かつ重点的に実施している。また、豪州各州政府もインフラ整備を優先施策としており、今後3年間で約1,500億ドルのインフラ支出が見込まれる。日本企業には、豪州でのインフラ・ビジネスは今後の大きな商談機会と言えよう。

一方で豪州側は、日本が東アジアで提唱している「アジア総合開発計画」の中の広域インフラ整備に大きな関心を寄せている。「アジアにおける日豪協力」が10年のキーワードになることも考えられる。

豪州政府は、景気の回復基調を受けて09年11月に09/10年度、10/11年度の経済見通しを前年比▲0.5%から+1.5%に、+2.25%から+2.75%にそれぞれ上方修正した。10年に世界経済が本格的に回復基調に向かうと、資源国としての豪州経済の力強さを見せつけられる年になるかもしれない。

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