【新年恒例企画】回顧と展望2015

新年恒例企画

回顧と展望 2015

政治・経済・ビジネスの専門家が2014年を振り返るとともに、2015年の行方を見通す。

連邦政局

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー

松本直樹

プロフィル◎慶応義塾大学商学部卒業後、会社勤務を経て、1987年オーストラリア国立大学国際関係学科修士課程修了。同大学豪日研究センター博士課程中退。92年5月から95年7月まで、在豪日本国大使館専門調査員(豪州内政を担当)。95年8月から97年1月まで、オーストラリア防衛大学国防研究センター客員研究員。96年8月より政治コンサルタント業務を開始。専門領域は豪州政治、日豪関係、安全保障問題など。

アボット政府の前途は引き続き多難

2014年はアボット保守連合政府、とりわけアボット首相にとって、「欲求不満」の年であった。というのも、13年9月の連邦選挙で勝利を収めて以降の1年数カ月の間に、政府がそれなりの実績を挙げてきたにもかかわわらず、政府ならびにアボットへの評価はほぼ一貫して低迷しているからだ。

例えば、労働党前政権時代に大いに注目を浴びた密入国ボート・ピープルは、早くも保守政権の誕生直後にはストップしたし、アボットの最重要選挙公約であった炭素税はもちろんのこと、鉱物資源利用税も廃棄され、また保守連合の地球温暖化対策である「直接行動」の施行法案も成立した。

「(広義の)ネジレ現象」の存在、他方で、もともと過激なグリーンズはともかくとして、大政党の労働党までが、ひたすら「ネガティブ/反対一辺倒」路線を採用していることに鑑み、アボット政府の上記の成果は、充分に評価に値するものと言えよう。さらに、アボット政権の誕生直後に宣言された時点では、あまりに野心的過ぎると見られていた、豪州の3大アジア重要経済・貿易パートナー、すなわち韓国、日本、そして中国との2国間自由貿易協定(FTA)交渉の早期妥結も、既に現実のものとなった。

一方、野党労働党や同党党首のショーテンへの(絶対的)評価が高いわけでは決してない。ところが、世論調査におけるアボットや与党への評価が低迷しているのである。その最大の理由は、やはり多くの節減策を盛り込んだ、アボット政府の初年度連邦予算案に対する国民の反撥であろう。そして、予算案に対する反撥の背景には、政府の「売り込み」能力の低さもあって、多くの国民が「今次予算案は社会的弱者いじめの不公平なもの」との思いを抱いているとの事情がある。しかも、アボットが選挙の前日に、各種分野での予算カットを否定していただけに、「アボットは嘘つき」とのパーセプションも醸成されているのだ。

もともと大衆の人気に乏しかった、アボット率いる野党時代の保守連合が、各種世論調査で一貫してギラード労働党政府に大幅なリードを維持し、しかも13年の選挙で勝利を収めたのも、アボットがギラードの炭素税問題での選挙公約違反を徹底的に攻撃し、ギラード政府のクレディビリティーを回復不能なまでに貶めたことのおかげであった。モラル的な高所に立って、ギラードは嘘つきと執拗に批判してきたアボットだけに、自身の公約違反のダメージも当然大きくなるし、大きくなってしかるべきと言えよう。

さて、こうして迎える15年だが、アボット政府の前途は引き続き多難と言える。その理由は、まず昨年公表の予算案に盛り込まれた重要政策の施行法案が未だに成立していないし、また今年の5月に公表される来年度予算案も相当に厳しいものとなる見込みであるからだ。しかも、重要な上院の情勢は、これまで影響力を発揮してきたパーマー連合党の分裂などもあって、混迷の度を一層深めており、政府が引き続き困難な対応を迫られることは必至である。ただし、野党労働党の方も今後は安穏とはしていられない。アボット政府への評価が低迷しているとはいえ、「ネガティブ一辺倒」の野党の姿勢は、目先の政治的得点を上げることだけに汲々としているだけで、ビジョンがない、ひいては政権担当能力がないと見られているし、また、ショーテンにカリスマ性、個人的魅力があるわけでもないからだ。

次期連邦選挙は通常通りの形態、すなわち下院の解散と上院の半数改選の同時選挙となる公算が高く、そうであれば、実施時期は16年の8月以降となるが、ただ今年の後半には、そろそろ労働党の政権担当能力に関する国民の精査も始まる。そのためショーテンも、安易な「小さな標的戦略」(注:自身の手の内、政策内容は極力公表せずに、ひたすら相手の欠陥、政策を追及、攻撃するとの戦略)を継続することは早晩不可能となる。換言すれば、労働党としても、政府の政策に反対するだけでは不充分で、今後は国民に魅力のある代替政策を提示し、そして財政再建の「ロード・マップ」を提示することが不可欠となるのだ。ところが、これは野党にとって決して容易なことではない。というのも、アボット政府の政策に悉く反対してきたことによって、野党の政策の選択肢が著しく制限されることになったばかりか、より深刻な点として、野党はラッド/ギラード労働党政権時代の不人気な政策を数多く保持することを余儀なくされているからだ。

日豪ビジネス

日本貿易振興機構(ジェトロ) シドニー事務所所長

平野修一

プロフィル
◎2014年6月から現職。直前はジェトロ本部(東京)で海外調査部調査企画課長として同部を取りまとめ。豪州勤務は2度目で2001〜2006年3月までメルボルンで調査業務などに従事。海外勤務は今回で3カ所目。愛知県名古屋市出身。

2015年、 新たなビジネス・チャンスに期待

新春のお慶びを申し上げます。

2014年は4月のアボット首相の訪日、7月の安倍総理の訪豪といった首脳レベルによるシャトル外交や日豪経済連携協定の署名などにより両国関係のモメンタムはこれまでにないほどに高まり、両国関係を新たな段階に移行する期は熟しました。そして、2015年は新たな両国関係を環境整備段階から実行段階に移行する年になることが期待されます。

折しも2015年は兼松株式会社の創業者である兼松房治郎氏がシドニーに「豪州貿易兼松房治郎商店」の支店を開設、日本企業が初めて豪州に進出してから125周年にあたります。現在、豪州には本邦企業の支店や現地法人の本店、支店を含めて687の拠点が存在(2013年10月現在:外務省)しています。長い歴史の中で取り扱う製品も変化しており、当初は羊毛や小麦といった農産品から現在では石炭や鉄鉱石、天然ガスといった資源エネルギーに変化しています。

足元の豪州経済は低金利政策による効果が消費部門に表れていると言われていますが、過熱気味であった住宅ブームはやや落ち着きつつあります。また、雇用情勢も求人広告件数は増加傾向にあるものの、失業率は10年来の高水準まで悪化し、賃金の伸びも緩やかなものとなるなど、経済指標によってはその推移にばらつきがみられます。これまで経済をけん引してきた鉱業部門については資源価格の下落を生産量の増加によって相殺する動きが見られますが、さらなる価格の下落は資源関連企業の利益を圧迫するなど、鉱業部門が下支えし、底堅く推移する経済に暗い影を落としつつあります。

こういった状況下、現政権は選挙公約であった「炭素税」などの資源関連税を廃止し、日本、韓国、中国とのEPA / FTAを妥結、日本、韓国とは2015年早々にも発効すると言われるなど、今後のビジネス活性化に向けた環境は整いつつあります。

今後、注目される分野として①農業、②インフラ、③北部開発の3点が挙げられます。まず、農業は世界でも大きなシェアを有する小麦、大麦、牛肉をはじめとする農産品が今後の市場拡大が見込まれる中国やASEAN地域への輸出増が期待されます。また、インフラは政府が導入した「資産リサイクル・イニシアティブ」により、州政府の資産売却が促され、得た収入などは新たなインフラ再投資に向けられるため、インフラ資産の民営化や新たなインフラ需要が期待されます。最後の北部開発については、北部地域は国内の農産品の11%、畜産の57%を産出し、輸出の55%が北部の港から積み出されるなど国内では重要な位置を占めます。加えて、アジアとの地理的接近性から、インフラ開発、水供給の改善などによる地域開発が計画され、今後、食糧やエネルギー、教育や高齢者介護といったサービスのトレード・ハブとしての機能が期待されることから、潜在的なビジネスチャンスが存在しています。また、建設段階にあった液化天然ガス(LNG)設備が生産段階に移ることも経済を支える要素となるでしょう。

さて、日本から見る豪州はエネルギーや食料安全保障におけるパートナー、多くの日本人が訪れる観光地として認識されていますが、消費市場として見た場合2,300万人の人口は小さい市場として捉えられてきました。しかし、人口の約60%が富裕者層であること、多民族国家であることを考えれば、高い消費ボリュームと多様性を兼ね備えた市場と認識することができます。一方、豪州から見る日本は経済が長期にわたって低迷し、物価は高く、閉鎖的な市場を持つ国として認識されているようですが、アベノミクスによる経済成長回帰政策や規制緩和によって大きく姿を変えようとしています。

このように両国間の認識には溝があり、これまであまり修正されずにいました。15年に新たな両国関係が実行段階に移行するには双方がこうした認識の溝を埋めることが課題と言えます。

長い歴史のある日豪関係は、今こそ互いをより正しく理解したうえで日々進化し続けていく関係に深化させることが大切であると考えます。

豪州経済

時事通信社シドニー特派員

新井佳文

プロフィル
◎1969年生まれ。早稲田大学政経学部卒、94年時事通信社入社。福島支局、シリコンバレー特派員などを経て13年9月からシドニー特派員。

「不況知らず」豪経済に失速リスク

不況に苦しむ先進各国を尻目に、オーストラリア経済は過去20年以上にわたり「不況知らず」で、好景気を謳歌(おうか)してきた。しかし、原動力となった資源投資ブームが終焉する中、ブームの副作用として染み付いた高コスト体質が経済活動を圧迫。失速リスクに直面している。

 

自動車メーカー消滅へ

高コストの重圧は、トヨタ自動車の豪州生産撤退からもうかがえる。トヨタは2014年2月、豪工場での生産を17年末までに中止すると表明。「衝撃的なニュースだ」(アボット首相)と反響を呼んだ。米フォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)も生産撤退を表明している。残るトヨタも撤退を決め、豪州から自動車メーカーが消滅することが確定的になった。トヨタの豊田章男社長は「厳しい市場環境や豪ドル高のほか、豪自動車産業全体において生産規模縮小が見込まれることなどを踏まえ、厳しい決断をせざるを得なかった」と撤退理由を説明した。決定的だったのが、生産コストの高さや従業員を厚遇する硬直的な労働制度だったようだ。

豪州は資源国で、以前は「物価が安い」と言われていた。ところが1990年代からの資源ブームに伴い、物価や賃金が着実に上昇。米政府の2012年統計によると、豪製造業従業員の賃金は1時間当たり48豪ドル(約5,800円)で、日米に比べ3割以上高くなった。

 

年収4,000万円の溶接工も

高コスト体質は、それを生み出した資源業界自身も苦しめている。露天掘り鉱山のトラック運転手の年収は10万豪ドル(約1,000万円)以上。人材が少ない溶接工が年収40万豪ドル(約4,000万円)で雇われたとの話もある。それなら、外国人のトラック運転手や溶接工をもっと低賃金で雇えばよさそうなものだ。しかし、強力な産業別組合が外国人雇用に猛反発するため、それもままならない。

資源ブームが終息する中、中国での需要低迷を受けた商品相場急落が豪資源業界に追い打ちをかけた。最大の輸出品である鉄鉱石は14年に入り4割も価格が低下。資源各社は、人員削減を含めコスト低下に躍起になっている。

 

緊縮財政が余波

アボット保守連合(自由党、国民党)政権が14年5月に発表した緊縮型予算も、国民の消費意欲減退に拍車を掛けた。年金受給開始を現行の65歳から70歳に引き上げることや大学授業料の大幅値上げなど、国民生活に負担を強いる増税案が多かったからだ。13年9月の総選挙で労働党に圧勝して発足したアボット政権だったが、緊縮予算は不評を買い、支持率は大きく低下した。

 

日中韓と「FTAハットトリック」

15年の景気浮揚に向け、特効薬の一つとして期待がかかるのが日中韓との貿易協定の発効だ。

アボット首相は14年9月の政権発足後、「日中韓との自由貿易協定(FTA)を1年以内に妥結する」と宣言。いずれも数年越しで難航してきたが、日豪経済連携協定(EPA)をはじめ、日中韓それぞれとの貿易協定を14年中に相次ぎ妥結した。豪メディアからは「ハットトリックを達成した」と評価の声が上がった。オーストラリアにとり、日中韓向けの輸出額は全体の半分強を占める。発効後、関税引き下げで牛肉など農産物輸出が拡大するだけでなく、病院や小売りチェーンなどサービス業の拡大にも期待がかかる。

主力の資源分野では、7カ所で進む液化天然ガス(LNG)の大規模開発プロジェクトが15年以降、順次完成し生産が始まる。「豪州は18年までにカタールを抜き、世界最大のLNG輸出国になる」(英金融大手HSBC)見通しだ。7つの計画には、国際石油開発帝石(INPEX)が主導する日の丸プロジェクト「イクシス」も含まれる。

日本企業の進出動向も気になるところだ。14年はカジュアル衣料品店「ユニクロ」や定食レストラン「やよい軒」などが豪州進出を果たした。コスト高は裏返せば、購買力の高さを意味する。商機をみて、15年も小売り業界を中心に日本勢の進出が相次ぎそうだ。

為替

三菱東京UFJ銀行 オセアニア総支配人兼シドニー支店長

桝谷亨

プロフィル◎1987年4月東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。米州投資銀行部(ニューヨーク)、ストラクチャード・ファイナンス部、国際企画部情報戦略室などを経て、2014年7月より現職。豪州在住は2度目(前回はシドニー、メルボルンに5年在)。早稲田大学商学部、シカゴ大学経営大学院(MBA)卒業。

豪ドルは下落基調も、安値圏では下げ渋る可能性

2014年の為替市場、主要通貨における年間最強通貨は米ドル、次いで豪ドル、そして円とユーロが最弱通貨となりそうだ。為替レートの変動は、2カ国間の「金利差」や「金融政策の方向性」に大きく左右されると言われているが、まさにこれらを反映した結果となろう。米国では長らく続いた量的緩和がいよいよ終了、順調な経済回復とともに金融政策の正常化が視野に入ってきた。一方、欧州はいまだ景気回復の兆しは見えず、日本とともに一段の金融緩和を打ち出し、米国との格差が顕著となっている。ドル円は2007年以来の121円台へ上昇、インフレ期待が高まる中、日経平均も一時1万8,000円台を回復した。

当地豪州では、経済成長率が2012年半ば以降長期トレンドを下回っている中、2014年は政策金利が過去最低水準の2.5%に据え置かれた。バブルとも言われる活況な住宅市場や豪ドル安の恩恵を受ける一方で、鉄鉱石や石炭といった資源価格の大幅な下落が経済成長の足かせとなっている。以下、2014年の豪ドル相場を簡単に振り返りつつ、2015年の相場動向を予想してみたい。

2014年初、豪ドルは0.89ドル近辺で寄り付いた。2013年12月以降の米量的緩和縮小を背景とした米ドル高に、豪ドルはすぐに2010年以来の安値となる0.86ドル台半ばまで下落した。しかし、1月に発表された2013年第4四半期インフレ率が大幅に上昇したことで、豪中銀は金融政策のスタンスを緩和的なものから中立的なものに変更。市場では豪州での早期利上げ論が優勢となる中、豪ドルも4月に0.94ドル台半ばまで上昇した。その後は、着実な米金融政策正常化への歩みと低迷する資源価格、一方で2014年豪1四半期GDPが3.5%に上昇するなど、好調な豪経済指標に挟まれ、豪ドルはしばらく膠着状態が続いた。この均衡が崩れたのは9月、米国が量的緩和政策の10月いっぱいでの終了を予告、同時に将来の金利見通しを引き上げたことだった。11月にかけては世界的な商品価格の下落も重なり、豪ドルは12月に入り2010年以来となる0.82台ドル前半まで下落した。

豪ドル円は年初93円台で寄り付き、豪ドル主導の下落に2月安値となる88円台を示現するも、その後は同様に95円前後で膠着状態となった。10月末、日銀の予想外の金融緩和に円が急落、これに伴い豪ドル円は一時2013年5月以来の100円越えとなった。

さて2015年の豪ドル相場だが、「緩やかな下落」を予想するも「なかなか下げきらない」、といった流れをイメージしている。相場を牽引する主要因は米国の金融政策で、2015年中に利上げが起こる可能性は高い。何よりも世界一の経済規模である米国の金融政策正常化自体に意味があり、今まで豪州に集中していた資産の一部が米国へ移動しやすくなることを考えれば、大きな流れは米ドル高・豪ドル安となるだろう。一方、豪州国内景気についてもあまり強気になれない。既に資源分野のビジネスはピークを過ぎ、非資源分野での成長拡大に注目が集まるが、現状では住宅関連以外の内需に目立った動きは見えてこないからだ。失業率の上昇が今後も継続すると見られている中、経済の回復は2015年後半以降に、そして足もと落ち着いたインフレ率を背景に、豪州利上げ開始もそれ以降と考えたい。さらに、中国経済成長が今後緩やかになるとの予想、資源価格の低迷等による交易条件の悪化を考慮すると、豪ドルが以前のようなパリティー(米ドルと等価)に戻すことは想定しにくいだろう。

では、なぜ「なかなか下げきらない」と考えるか。豪ドル相場はここ2年で20%超の下げを記録している。米国の金融政策正常化を理由とした第一段階の相場調整も、一旦終了局面に近づいているのではないか。また大幅な円安・ユーロ安が進む中、やはり相対的に金利の高い豪ドルは引き続き買い需要が見込まれ、対米ドルでも安値圏では徐々に下げ足が鈍るだろう。よって、ある程度のオーバーシュートを考慮する必要はあるが、0.77ドルから0.80ドル近辺が豪ドルの当面の安値と考えたい。なお、対円では、豪州の金利水準、格付けの優位性は変わらず全体的には豪ドル高の推移が継続すると予想する(データは2014年12月10日時点)。

会計・税務

EY ジャパン・ビジネス・サービス アジア太平洋地域統括/パートナー

菊井隆正

プロフィル◎豪州国内で約20人の日本人スタッフを抱える世界4大会計事務所の1つEYのアジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。今年で在豪20年余り。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

税制改革など税制面で目が離せない年に

2014年を振り返ると、税制や会計面で日系企業に影響を与える動きがいくつかあった。まず政府の政策的変更による動きでは前年に労働党から政権を奪回した保守連合政権による「鉱物資源利用税」および「炭素価格付け制度(炭素税)」の廃止が挙げられる。また、地球温暖化対策の代替策として「直接行動案」を今年11月後半に議会を通過させ法制化した。炭素税では温室効果ガスの排出企業に排出量に応じて課金するのに対して、「直接行動案」では2つの政策が柱となっている。1つ目は「排出削減基金(ERF)」の創設により最も安価な排出方策を提案した企業に同基金から資金を提供するというしシステム。またもう1つの柱であるセーフガード措置は、ある一定の排出量を超えた企業にペナルティを課すシステムとなっている。政府は来年初めから、同制度の要件を満たした排出削減プロジェクトの支援を開始し、一方、セーフガード措置の導入は2016年7月1日を予定しており、詳細については今後産業界と相談を行った上で来年発表が予想される。

税務面では、さらに過少資本税制が改正され2014年7月1日以降開始年度より、利息の損金算入限度となる許容債務額が今までの3:1の債務:資本レシオよりも低い1.5:1で計算されることになる。よって納税者の多くが新しい許容債務額に対応する目的で資金調達を見直している中、適切な対応策を講じることにより、豪州投資の税効果性を高める好機会であるという見方もできる。

また近年グーグルやアップルなどの多国籍企業による租税回避へのフォーカスが高まってきており、「課税ベースの侵食および利益移転」(BEPS)問題が社会的に注目されるようになった。オーストラリア税務当局においても、BEPSの監視を強化しており、日系企業の場合、海外関係会社との取引について、移転価格の文書化、および資金調達に関する税務上の取扱いの確認は来年も引続き重要な分野になる。来年は選挙公約でもあった「包括的税制改正白書」の発表が予定されており、例えば、州政府への連邦政府の援助が今後削減されることへの対応策の1つとして課税ミックスの見直しも検討されることが予想される。

一方、会計上では国際会計基準審議会と米国会計基準審議会によって10年以上の歳月をかけて共同で開発された収益認識基準、IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」が、今年の5月末に公表され、収益認識に関する現行の規定はすべて置き換えられる(オーストラリア会計基準委員会もIFRS15号と同一内容のAASB15号をまもなく公表予定)。AASB15号は2017年1月1日以後開始する事業年度から適用されるが、早期適用も認められる予定である。企業によっては、収益認識に大きな変更が生じる可能性があるため、その影響について十分な検討が必要だろう。

投資動向はどうか。2014年の豪州におけるM&A市場を振り返ると、これまで市場を牽引していた資源セクターにおいて案件数・金額は大きく減少したものの、ほかのセクターにおける案件は堅調だった。資源セクターは豪州における大きな投資対象ではあるが、M&A市場の関心は食料、インフラ、不動産、医療・バイオなどの他セクターへと移ってきている。豪州はアジアに近いという地理的な理由からアジアの食料庫としての期待も高まっており、今後も外国企業による豪州の農作物関連資産への投資は増加していくものと考えられる。また、今年もインフラセクターで大型案件が数多くあった。豪州では元来、道路や鉄道等の新規インフラ開発はPPP(Public Private Partnership)という民間の資金を活用する手法が主流であったが、税収減による財政難に苦しむ連邦・州政府は大規模な公的資産の売却を加速させた。2015年以降もNSW州の送電網、ビクトリアのメルボルン港、クイーンズランド州の港湾施設、電力関連施設(発電所、送電網、電力会社)の売却が予想されるが、その価格は過熱気味なところがあり、豪州における不動産価格と併せて2015年以降の大きなリスク要因の1つとなる可能性がある。

飲料食品業界

アサヒ・ホールディングス・オーストラリア グループCEO 取締役社長

勝木敦志

プロフィル◎シュウェップス・オーストラリアなど一連の買収で傘下に入れた酒類・飲料5社を束ねるオセアニア地域統括会社の代表。ニッカウヰスキー入社後、親会社のアサヒ・ビール、アサヒ・グループ・ホールディングスに転じ、2011年より現職。

跛行が目立つ豪州飲料食品業界

2014年を振り返って豪州飲料食品業界を表現するとすれば「足取りが覚束ない」、この状況は2015年も継続するだろう。

読者の皆様には釈迦に説法だが、資源ブームの終焉や中国経済退潮の影響はあれど、豪州経済の足元は堅調と思っている。直近のマクロ経済関連数値では、GDP成長率は年3%近辺、CPI上昇率も3%と中央銀行想定レンジ内であり、中期的にこの傾向は続くと予想できる。業界関連の政府統計値を見ても、全国小売売上高は10月次の年間移動平均で食品が5.4%、外食が10.4%、全小売で5.5%の成長と、近年の中でも高レベルにある。続々と進む各国とのEPA、FTAに加えTPPもあってアジア中心に海外市場開放の恩恵も期待できる。多くの観点から、業界の先行きは順風満帆に見える。では豪州飲料食品製造業の経営実態はどうか。

これが、大変な状況なのだ。飲料最大手のCCAは1〜6月の上半期決算で15%強の営業減益で大規模な人員削減に着手、製パン最大手のGoodman Fielderは収益低迷が続きこのほど身売り、世界的大手に買収されたビール大手のCUBも伸び悩み、乳製品業界の業績もまだら模様となっているようだ。ここに興味深い分析がある。大手会計事務所KPMGによってまとめられた業界団体AFCGの“Competitiveness & Sustainable Growth”と題する報告書によれば、次のことが見て取れる。

「小売業界の売上高は、08年から13年の5年間で年平均3.3%成長」、これに比し「飲料食品製造業サンプル企業合計の売上高(Gross Sales)は10年から13年の3年間で年平均マイナス1.2%の割合で縮小、営業利益は年平均マイナス11.3%で縮小、3年間で利益は3割減った。Net Sales(純売上高)は年平均2.8%で縮小しているのに対し、Trade Spend(流通業者に対する値引き)は年平均4.0%で拡大」など、飲料食品小売の7割近くを占めると言われる2大量販店が、特売対象になりやすい飲料食品の値下げ競争を繰り広げつつ業績を伸ばす中、そのしわ寄せが製造業に来ているのではないか、という構図が見て取れる。

では、製造業自身が抱える問題点はないのか。これがあきれるほど山積している。

 

・ 工場労務費が世界一、物流費は日本の2倍、電力料金は継続的に上昇して日本の1.5倍に達している
・ このところの石油を含めたコモディティ価格の下落はあれど、対米ドルの豪ドル安で相殺。高消費国である砂糖の価格が歴史的高値圏

こうしたことで、製造原価が日本を上回り世界最高水準に位置している。このため、業界全体での設備などに対する投資意欲が削がれ、非常に低レベルの投資しか業界には生じていない。

では消費者はハッピーか、小売の価格競争を製造業が支えていれば消費者には悪影響がないのではないか。1つの答えとして、上記の結果、読者も恐らく体験している通り、開発や製造技術に対するイノベーションが起こらず、消費者がこの分野での魅力的な新商品になかなか出会えない、ということを挙げておこう。

今後はどうなのか。乳製品業界を中心に、豪中FTA締結により対中輸出の拡大に期待感が高まるなど、明るい材料も見えるものの、上述の高コスト体質が足かせとなることは注意しなければならない。季節ビジネスである飲料食品業界にそぐわない平日の朝9時〜夕方5時労働が前提の労働関係法令や、連邦と州・地方で重複する各種規制などを柔軟にしないと豪州の対外競争力は高まらない、といった声もある。

対応として、飲料業界で進む容器内製化や直販化などによるバリュー・チェーンの自社内垂直統合、乳製品などの業界内再編、海外からの投資呼び込みによる設備刷新や販路開拓、などにより活路を見出し、活発な新商品開発によって新たな需要を創出し業績を拡大させて好循環へと転換する、という取り組みに、短期の利益ではなく中長期を見据えて本格的に踏み出した者以外、開放された世界市場では、近未来淘汰されて行くだろう。

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