【QLD版】教育特集2016/未就学からの日本語教育

未就学児から始めるクイーンズランドでの日本語教育

オーストラリアで子育てをする上で、日本語教育に頭を悩まされた人もいるだろう。本特集では、ブリスベンやゴールドコーストなどの日系コミュニティーで行われている日本語教育について解説。日本語教育とひと口に言っても、そのアプローチ法や方向性のバリエーションは多岐に富んでいるようだ。取材・文:植松久隆

ブリスベンやゴールドコーストを主としたクイーンズランド(QLD)州南東部地域の「日本語教育」を語る時、その言葉の定義をきちんと示す必要がある。字義どおり「日本語を教える」こと全てを含むのであれば、専門的に日本語を教えるローカルの大学や専門学校、または初等・中等教育の公私立学校での教科としての日本語の授業もここに含まれるが、当記事内の「日本語教育」は、日系子女に対する日系コミュニティー内のものに限定される。

選択肢が増えて多様化が進むということは、コミュニティー内で「日本語教育」に対しての理解や関心が高まってきた証。そのような現況は、昔を知る在住歴の長い世代にとっては、まさに隔世の感しきりだ。当地の「日本語教育」は、10年以上前の段階では、ほぼ文部省(現在は文部科学省)から校長が派遣されるクイーンズランド補習授業校に集約されていたと言っても過言ではない。しかし2006年、ブリスベン日系コミュニティーの“エスニック・スクール”との位置付けで開校したブリスベン日本学園を皮切りに、その有り様も大きく変わった。

※ブリスベン(1977年)とゴールドコースト(2005年)でそれぞれ開校されていた補習校が06年に統合された

日本語教育の今

ここから先は、可能な限りの中立的な視点で、変わりゆく「日本語教育」の現況を俯瞰していく。

まずは幼児教育。かつては、小規模でのプレイ・グループなどがあるに過ぎなかったが、最近は、相次ぐ日系の幼児教育施設の開設もあって当地の日本語幼児教育はかなりの盛況を見せる。ブリスベンには、こあら組、スマイルキッズ、ひよこ園、ももぐみ(五十音順)と言った日系の就学前児童を対象とした日本語デイ・ケアが、それぞれの特徴を発揮しつつ活発な活動を行い、多くの保護者の支持を集めている。

元々、日本語話者の比率が高いゴールドコーストでは、カリキュラムの中に日本語教育を含み、日本人スタッフが常駐するサウスポート・チャイルドケア・センターフジ・インターナショナル・キンダーガーテンのようなチャイルド・ケアが実績を上げている。また、すみれ日本語教室が、就学児童/未就学児童のいずれをも対象とした日本語クラスを開講、好評を博している。さらには、後述するブリスベン、ゴールドコーストの“土曜校”にも、幼稚部や現地校のプレップ(5歳児)向けのクラスが開講されるなど、日系の幼児が日本語教育に親しむ環境は、まさに充実の一途。

就学児童向けの日本語教育の主たる舞台は、いわゆる“土曜校”だ。ブリスベンでは、3年前に独立系のブリスベン国際日本語学校(以下・国際学校)が開校して以来、ブリスベン補習校、ブリスベン日本学園との3校体制が続く。これにより、学齢期にある子どもを持つ日系の保護者は三者三様の選択肢が与えられ、選ぶ側の満足度も高まっている。

ゴールドコーストにも、ブリスベン日本学園の設立に触発される形でゴールドコースト日本人会(JSGC)によって、さくら学園が開校した。主に国際結婚家庭で育つ子女が通う。

補習校とそれ以外の学校の違いは?

これら土曜校の日本語教育へのアプローチの違いは明確だ。簡単に分類すると、日本語教育を「継承語」(注:英語のheritage languageの訳語として使われ、親から受け継いだ言葉で、生活する国で使われる「現地語」と対義語の関係にある)と位置付けるかどうかが対立軸。日本語教育を「継承語教育」とするスタンスが、ブリスベン日本学園とさくら学園。

一方、日本語を母語の教育として位置付けるのが、ブリスベン、ゴールドコーストの両補習校と、ブリスベンの国際学校。補習校は、文部科学省の教育指導要領に準拠したカリキュラムが実施される一方で、国際学校は指導要領にはとらわれず、日本の教科書を使いながらも、独自のユニークなメソッドでの授業が進められている。

補習校のゴールドコースト校も運営するJCGCが、2つの異なったコンセプトの「日本語教育」の場を持つことに関し、JSGC副会長・小藤田敦也さんはこう話す。

「勉強についていくのは少し大変でも、日本に帰国しても通用する日本語を身に付けるなら補習校です。一方、子どもに日本語や日本文化に親しんで欲しいというなら『さくら学園』という感じに、きちんと住み分けができています」

日本語イマージョン教育を行う公立校

最後に、日系コミュニティーのためのという条件面からは若干外れるが、日系社会にとって非常に有益な取り組みを行う公立学校を2校取り上げておきたい。ゴールドコースト郊外のロビーナ・ステート・ハイスクールと、ブリスベンの近郊のタラギンディにあるウェラーズヒル・ステートスクールは、豪州全土でも珍しく、それぞれ、中等教育と初等教育での日本語イマージョン教育に熱心に取り組んでいる。イマージョン教育とは、第2言語で通常教科の全てまたは一部を教える教育のこと。公立校ということで、入学には学区(キャッチメント)内の居住が前提となるが、そのイマージョン・プログラムは、条件面さえ整えば日系家庭で育つ生徒にとっては非常に魅力的な選択肢になるに違いない。

選択肢が増え、日本語学習者の学習形態が多様化することは、コミュニティー全体にとっても大きなメリットをもたらす。実際、各学校の関係者も「選択肢が増えることで、さまざまなニーズに応えられるようになり、保護者にも生徒自身にもメリットがある(ブリスベン国際日本語学校校長の中村岳昭さん)」「生徒や保護者に色々なオプションを与えられるメリットは、コミュニティー全体にとって大きい(ブリスベン日本学園・教育アドバイザーの永田由利子さん)」というように、“競合”というよりは“共存”することでコミュニティー内に広い受け皿が整うことをポジティブに捉えている。

ここに上げた各学校/機関のいずれも、「日本語教育」に熱い使命感を持って取り組んでいる。その上で、家庭では自分の子どもの日本語教育に何を望むのか、どう取り組むのかを熟考した上で、個々の子どもに合った環境を選ぶことが大切だ。こうして、コミュニティー全体の日本語教育の成果が上がることは、この多民族共生社会での日系コミュニティーの存在感や影響力の大小に直接的に作用してくる。コミュニティーの未来を担う若い世代が、質の高い「日本語」に親しむ機会を持ち、バイリンガルとして社会で活躍するようになることは、必ず私たちのコミュニティーに有益なものをもたらしてくれるに違いない。

日本語教育を行う学校・教育施設一覧(五十音順)

就学児童対象

■ブリスベン

●クイーンズランド補習授業校・ブリスベン校 Web: jc-b.com/補習授業校
●ブリスベン国際日本語学校 Web: www.nihongo.net.au/bisj
●ブリスベン日本学園 Web: jlcsb.web.fc2.com

■ゴールドコースト

●クイーンズランド補習授業校・ゴールドコースト校 Web: www.jsgc.org.au/qld-japanese-school-gc
●さくら学園 Web: www.jsgc.org.au/sakuragakuen

幼児教育

■ブリスベン

●こあら組 Web: www.facebook.com/BrisbaneJapanesePreschool
●スマイルキッズ Email: bokeri@hotmail.com
●ひよこ園 Web: www.facebook.com/hiyoko.international.kindergarten
●幼児教室ももぐみ Email: momogumi7@yahoo.com.au

■ゴールドコースト

●サウスポート・チャイルドケア・センター Web: www.southportchildcare.com.au
●フジ・インターナショナル・キンダーガーテン Web: www.fujikindergarten.com.au

日本語教室

●すみれ日本語教室(ゴールドコースト) Web: sumirejapanese.wordpress.com

日本語イマージョン教育(公立校)

●ウェラーズヒル・ステート・スクール Web: wellhillss.eq.edu.au
●ロビーナ・ステート・ハイスクール Web: robinashs.eq.edu.au/Curriculum/Subjectsandprograms/Pages/Japanese-immersion.aspx

問い合わせは上記に記載された各校のホームページ、またはメール・アドレスまで

学校生活 の1コマ

写真提供:ゴールドコースト(GC)日本人会、ブリスベン国際日本語学校

クイーンズランド補習授業校の入学式
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クイーンズランド補習授業校の始業式
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運動会で綱引きをする児童(Photo: GC日本人会)
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ブリスベン国際日本語学校で行われた「七夕祭り」の様子
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