陶芸と料理

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の拾七:陶芸と料理

オークランドを離れる前に、シドニーで出会った音楽家のケビンとカツ子夫妻から紹介してもらっていた、ミュージシャンであり陶芸家でもあるピーター・ナッ キの工房を訪れ、一晩泊めてもらいました。北オークランドの山村にあり、人里離れた大きな敷地にある一軒家で、母屋の近くには彼の手作りの工房がありました。そこには楽焼に使われるウッド・ファイヤーの窯があり、その近くには焼かれるのを待っている素焼きの器がところ狭しと並べられていました。人の気配がほとんどない場所で、豊かな自然に囲まれ、作品に向き合う作家の気持ちを想像すると、どのような作品が仕上がるのかとワクワクした気持ちになりました。

ニュージーランドの粘土と釉薬を使ったピーターの作品はとても自由なものでした。工房で、彼の作品を見せてもらいながら、いろいろ話を聞かせてもらいました。彼の奥さんが日本人だったこともあってか、日本の焼き物にも興味を持っていました。話は日本の窯場、ろくろの技術、釉薬の使い方などにも及び、どのように日本の影響を受けているかを話してくれました。日本から遠く離れた場所で日本の焼き物の話ができるとは思ってもみなかったので、とてもうれしく思いました。

焼き物には、子どものころから日本料理を通して興味がありました。実家の店には、冠婚葬祭用、四季折々の器、いろいろな陶器や漆器があり、目的ごとに棚に収められていました。特に大事にされていたものは、季節感を感じられる風呂敷などに丁寧に包まれ保管されていました。当時、戦後の東京の家庭で使っていた器は限られていましたので、店で使っていた器を見るのは楽しいものでした。もてなしや料理によってさまざまな形や色の器が選ばれ、料理人によって料理が盛られると、その美しさはさ更に引き立ちます。子ども心に器を見ると、そこに盛られる料理を想像して、わくわくした気持ちになったことを今でも覚えています。器とは私にとっては、料理への想像力が掻き立てられるものであり、原動力となるものです。

いつか時間ができたらこれからのライフワークとして、釉薬のレシピを駆使して、自分なりの絵付けの作品を作ってみたいと思っています。

夕食までに時間が空いたので、私は1人で裏の山林の中を散策しました。しばらく歩くと、沼地の中に大きな水たまりを見つけ、その中で黒くて細長いものが動いていることに気が付きました。瞬間、蛇かもしれないと思いながら頭の方から見ていくと、あごにエラのようなものを見つけ、肌をみるとぬめりがありまた。何と蛇ではなく、ウナギが悠然と水たまりの中を這っていたのです。

2~3キロほど離れたところには湖の入り江があったのですが、ウナギがどのようにしてこの丘の中腹の小さな水たまりにたどり着いたのか疑問に思いました。ウナギは水のある所を探知し、移動する習性があると聞いたことがあったので、そのことを立証してくれたかのようでした。

ちょうど夕食前ということもあり、ウナギの扱いには自信があったので、その夜の夕食にしようと思い、首もとを捕まえ、近くに落ちていた袋に入れて家へ持ち帰りました。それを見たピーターは私が蛇を持ち帰ったと思い、大騒ぎしました。日本のウナギと比べると、色は似ていますが、フィンが長く、大きすぎず、太さも調理にちょうど良かったです。まず、まな板の代わりになる板を用意し、ウナギを抑えながらその上にのせました。釘でこめかみに目打ちをし、東京スタイルで背開きにし、内臓を取り省き、骨を外し、フィレにしてから、串に刺し、蒸してから、タレを塗りながらバーベキューで焼きました。タレは、ウナギの骨と頭、醤油、シェリー・ワイン、砂糖を煮詰めて作りました。ほんのひと口ずつでしたが、ウナギのかば焼きをみんなで味わいました。「不気味なものだったけれども、おいしい」と変に感心されました。さすがに、うなぎの肝吸いは作りませんでした。

素人の方は、ウナギを素手で捕まえたり、調理することはお勧めできませんので、くれぐれもマネしないように。ウナギのあごは強く、噛みつかれたら大変なことになります。


出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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