2015年12月 ニュース/総合

11月14日夜、フランス国旗の3色の光でライトアップされたシドニー・オペラ・ハウス(Photo:編集部)
11月14日夜、フランス国旗の3色の光でライトアップされたシドニー・オペラ・ハウス(Photo:編集部)

シリア上空で空中給油を受けるオーストラリア空軍の戦闘攻撃機「F/A-18Aホーネット」。同空軍の2機のF/A-18Aと空中給油機、早期警戒管制機の合計4機は9月14日、シリアでの空爆に初めて参加し、自称イスラム国(IS)の武装兵員輸送車を破壊して基地に帰還した。以来、シリア領内での空爆作戦を継続している(Photo: Australian Defence Force)

シリア上空で空中給油を受けるオーストラリア空軍の戦闘攻撃機「F/A-18Aホーネット」。同空軍の2機のF/A-18Aと空中給油機、早期警戒管制機の合計4機は9月14日、シリアでの空爆に初めて参加し、自称イスラム国(IS)の武装兵員輸送車を破壊して基地に帰還した。以来、シリア領内での空爆作戦を継続している(Photo: Australian Defence Force)

パリ同時多発テロ、豪州にも衝撃

ターンブル首相、団結呼びかけ

130人以上の死者と多数の負傷者を出した11月13日のパリ同時多発テロ事件を受け、米国やフランスなどとともに自称イスラム国(IS)への空爆に参加しているオーストラリアにも衝撃が広がっている。マルコム・ターンブル首相は14日、訪問先の独ベルリンから国民向けの映像メッセージを発表し、「自由を支持するフランスとすべての国と団結して、テロとの戦いに取り組む」と強調した。

事件後、首都キャンベラの連邦議会議事堂やシドニー・オペラ・ハウスなど国内の主な建物は、仏国旗の赤・白・青の光で照らされた。シドニー・ハーバー・ブリッジの最上部にも仏国旗を掲揚。シドニー市内中心部のマーティン・プレイスには献花台が設けられ、多数のフランス人居住者や地元市民が花を手向けた。同市内の主な教会でも追悼のミサが開かれた。

一連の事件のうち最多の89人の犠牲者を出した米ロック・グループのコンサート会場では、TAS州出身のオーストラリア人女性、エマ・パーキンソンさん(19)が銃撃を受けて負傷した。

オーストラリアは昨年10月、戦闘攻撃機などを中東に派遣し、有志連合によるイラク国内の対IS空爆作戦に参加した。今年9月には、空爆の対象をシリア領内にも広げた。ISはオーストラリアに対してもイスラム過激思想の同調者にテロ攻撃を呼びかけており、連邦政府は昨年8月、4段階のテロ警戒レベルを上から2番目の「高」に引き上げて警戒している。

一方、国内では、同調者によるテロ事件が相次いでおり、いずれも首謀者は警察に射殺されている(表参照)。この他、いくつかの事件が治安当局に事前に察知され未遂に終わっている。連邦政府はテロ防止法を改正し、要注意人物の通信を傍受するなどして対策を強化している。

「ソフト・ターゲット」への組織的攻撃に警戒

パリのテロ事件は、フランスと同じくISへの空爆に参加しているオーストラリアにとっても「対岸の火事」では済まされない。昨年以来オーストラリア国内で相次いでいるテロ事件は、いずれもイスラム過激思想に感化された「ローンウルフ」(単独犯または少数犯)による単発的な犯行だった。しかし、今後はシリアなどで実戦訓練を受けて帰国したプロのテロリストが、パリと同様の組織的な大規模テロを起こす可能性はゼロとは言えない。

パリの事件では、警備が手薄な小規模なレストランなどの「ソフト・ターゲット」も標的になった。治安当局の諜報活動によって攻撃を未然に防ぐ以外に、こうした施設をテロから完全に守ることは実質的に難しい。在住者はオーストラリアがテロ勢力と戦闘状態にあることを忘れず、いざという時には自分の安全は自分で守るという危機管理意識が求められそうだ。

海外在住邦人に注意喚起

日本の外務省は16日、パリのテロ事件を受けて、海外に渡航または滞在している邦人に向けた「海外安全情報」を発表した。同情報は「誘拐、脅迫、テロなどの不測の事態に巻き込まれることのないよう、外務省が発出する海外安全情報及び報道などにより、最新の治安情勢などの関連情報の入手に努めるとともに、日頃から危機管理意識を持つよう努めてください」と注意を喚起している。

その上で、「特にテロの標的となりやすい場所(政府・軍・警察関係施設、欧米関連施設、公共交通機関、観光施設、デパートや市場など不特定多数が集まる場所など)を訪れる際には、周囲の状況に注意を払い、不審な人物や状況を察知したら速やかにその場を離れるなど、安全確保に十分注意を払ってください」としている。

また、外務省は、万が一の事態に備え、◇家族や友人、職場などに渡航先での連絡先を伝えておくこと、◇3カ月以上滞在する人は必ず在留届を提出すること、◇3カ月未満の旅行や出張の際にも、在外公館などから緊急時の情報提供が受けられる「たびレジ」に登録すること−−を呼びかけている。

■外務省海外安全情報(広域情報)Web: www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo.asp?infocode=2015C336

各地で反イスラム集会、メルボルン郊外で6人逮捕

パリのテロ事件を受けて、反イスラムを掲げる市民団体が22日、オーストラリア国内各地で集会を開いた。メルボルン西部メルトンでは、保守系団体「リクレーム・オーストラリア」(オーストラリアを取り戻せ)がデモを行い、これに対抗する左派グループ「ノー・ルーム・フォー・レイシズム」(人種差別に余地はない)と衝突。VIC州警察は6人を逮捕した。国営放送ABC(電子版)が伝えた。

メルボルン西部メルトンでは、保守系団体と左派グループが衝突した(Photo: AFP)
メルボルン西部メルトンでは、保守系団体と左派グループが衝突した(Photo: AFP)

メルトン市役所前には、リクレーム・オーストラリアを支持する市民約500人がオーストラリア国旗を掲げて集まり、イスラム教徒の移民受け入れ反対や地元で計画されているモスク(イスラム教の礼拝堂)の建設中止などを訴えた。一方、ノー・ルーム・フォー・レイシズム側の参加者も数百人に達し、「イスラム教徒は歓迎する。人種差別は歓迎しない」などと連呼して気勢を上げた。

警察はバリケードを設置して衝突の回避を試みたが、双方の勢力が一部で小競り合いとなり、鎮圧に催涙スプレーを使用した。この際に抵抗した6人のデモ参加者の身柄を拘束した。

シドニー市内中心部のマーティン・プレイスでも、リクレーム・オーストラリアの支持者が反イスラムのプラカードを掲げて集会を開いた。同団体の創設者はスピーチで「国産テロの脅威に対して立ち上がった。連邦警察が現在、400人の要注意人物を監視しているというのに、パリのような事件がオーストラリアで起こらないとなぜ言えるのか」などと述べた。

これに対して、社会主義団体や労組、環境保護派、先住民団体、イスラム団体なども集まり、人種差別反対を訴えた。NSW州警察の警官隊は双方のグループを約100メートル引き離したため大きな混乱はなかった。ただ、反人種差別のグループの一部が通りを行進して警官隊と衝突する一幕もあった。

イスラム過激思想の影響を受けた最近のテロ事件

日付 犯行現場 概要
2014年9月23日 VIC州エンデバー・ヒルズ(メルボルン郊外) 18歳の少年が警官2人をナイフで襲撃し、重傷を負わせた。容疑者は射殺された
2014年12月15日 シドニー市内中心部「リンツ・カフェ」 ライフル銃を持った男が人質を取って立てこもり、銃撃戦で人質2人が死亡。容疑者は射殺された
2015年10月2日 シドニー西郊パラマタのNSW州警察本部 15歳の少年が警察職員を射殺。容疑者は射殺された

南シナ海の安全保障をめぐり米国との連携を表明したマリース・ペイン国防相
南シナ海の安全保障をめぐり米国との連携を表明したマリース・ペイン国防相

南シナ海安保、米国と連携-豪国防相

米海軍のイージス駆逐艦が10月27日、中国が領有権を主張する南シナ海の人工島から12カイリ以内に入ったことについて、マリース・ペイン国防相は声明で「平和と安全の維持はオーストラリアにとって正当な国益であり、国際法と南シナ海での自由な貿易、(船舶の)航行、(航空機の)飛行を尊重する。海洋安全保障を巡って米国と地域のパートナーとともに引き続き緊密に連携していく」と言明した。

南シナ海でオーストラリアの同盟国である米国と中国の緊張が高まる一方で、オーストラリア海軍はフリゲート艦2隻を軍事交流の目的で中国広東省湛江市に派遣し、10月31日から11月2日まで、中国人民解放軍海軍との間で実弾発射を含む共同演習を実施した。

オーストラリア海軍は2日に発表した声明で「(海軍の共同演習は)古くからある外交様式であり、オーストラリア海軍と中国人民解放軍海軍の協力と相互理解の基礎となるものだ」と指摘した。2隻の中国訪問は、フィリピン、シンガポール、日本、韓国、ベトナム、マレーシア、インドネシアへの北・東南アジア訪問と演習の一環だという。

オーストラリアとしては米国から南シナ海への艦船派遣要請も想定される中で、以前から計画されていた中国海軍との共同演習を予定通り行うことで、外交バランスの均衡を図った形と言えそうだ。


民間部門の賃金の伸び、史上最低の水準

景気の足踏みを背景に、オーストラリアの賃金の伸びが鈍化している。オーストラリア統計局(ABS)が11月18日発表した今年6〜9月期の賃金指数(WPI)は、全産業の平均(季節調整済み)で前期比0.6%、前年同期比2.3%のそれぞれ上昇にとどまった。

部門別の伸び率は、民間が前期比0.5%、前年同期比2.1%となり、年率では1998年に統計を取り始めて以来、最低の水準を記録した。政府部門も前期比0.7%、前年同期比2.7%と低水準だった。

産業別の伸び率(季節調整前)は、「宿泊・外食サービス業」が前期比1.6%と最も高かった一方、「金融・保険サービス業」が同0.2%と最低だった。


国土の1.3%と牛19万頭、中国に渡さない
モリソン財務相、豪最大の放牧業者の売却で

スコット・モリソン連邦財務相は11月19日、オーストラリア国内最大規模の放牧業者「S・キッドマン&Co」の海外企業への売却について「国益に合致しない」と述べ、拒否する考えを表明した。同社はオーストラリアの国土の1.3%、全農地の2.6%に相当する広大な放牧地を所有している。この中には、国防上重要な土地も含まれている。国営放送ABCが伝えた。

同社は1899年創業の国内最大級の肉牛生産者。WA州、北部準州、SA州、NSW州、QLD州の5州で、北海道(8万4,300平方キロ)より広い合計10万1,000平方キロの土地を所有し、18万5,000頭の肉牛を放牧している。

同社が生産した牛肉は、日本や米国、東南アジアなどに輸出されている。現在も創業家のキッドマン一族が所有しているが、このところ売却の憶測が浮上している。中国系の2社が3,500万ドル以上の価格で獲得を目指し、ほかにも内外の合計8企業が食指を伸ばしていると報じられている。

連邦政府が同社の海外企業への売却を認めないのは、面積が広大であるばかりではなく、国防機密上の観点も大きい。同社が保有する放牧地のうち最大で、新潟県2つ分に相当する2万3,700平方キロの「アナ・クリーク」(SA州中〜北部)は、総面積の約半分が豪国防軍の演習場「ウーメラ試験場」(12万2,000平方キロ)の立ち入り禁止地域に含まれる。

ウーメラをめぐっては、ウェイン・スワン財務相(当時)が2009年、豪資源大手オズミネラルが近隣に保有する銅・金鉱山の中国企業への売却を阻止したことがある。オズミネラルはその後、ほかの資産をすべて中国企業に売却し、ウーメラに近い鉱山のみを運営する会社として存続している。

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